nuka_boshi
2025-03-19 15:12:07
31229文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その3【シリアス死ネタ】

お助けNPCポジションである滝夜叉丸の名前回。実は前回のとまとめて1話分の予定でしたが前回のが長くなったので分割しました。とはいえ本当は滝夜叉丸の真の見せ場はもっと後の方なんだけどね。

利吉さんのバックグラウンドに関しては次回で明かされる予定です。

余談ですが本当は前回の利吉さん曇らせはもうちょっと手加減する予定でした。が、利吉さんが作者の中での絶対やってはいけない行動をスリーアウトくらいかましたので仕方なく泣く泣く曇らせました。
私は主人公の発言と行動にはどんなものであれ責任を持たせると決めているので、それが主人公視点仕方ないものだろうと書き手として良い意味でも悪い意味でも報いを与えると決めているので。

ちなみに今回のネタバレ。今回もやっぱり利吉さんが曇ります。あとついでに滝夜叉丸も曇ってます。



 深夜になるのを待ち、私は慎重に自室の窓を開ける。勝手知ったる、などとはまだまだ言えずとも、二度目ともなるとしくじるかもしれないという不安は無かった。――当然だ。私にとって恐るべきは高所でも無ければ親を名乗る見知らぬ他人でも狂った世界でも無い。……最も恐るべきは、あるべき世界への帰還の道筋が、永遠に閉ざされてしまう事なのだから。――出来て当然。帰るためには手段は選ばない。昨夜滝夜叉丸相手に覚悟を語った事で、その思いは一層強くなっていた。……人を殺す必要なく帰れるという事実もまた、私の負担を軽くしているのだろう。
 そう思えば、或いは次に恐るべきことは滝夜叉丸と連絡が取れなくなる事かもしれない。元の世界への手がかりがなくなれば、そして同じ記憶を共有する者が居なくなれば、私は……もしかしたら、この狂った世界に耐えられないかもしれないのだから。
 考え事をしていたせいか、飛び移った木がガサリと無様ブザマに音を立てる。それは、先ほどまで聞こえていた夏風に揺れる木の葉の微かな音と同じように小さな音であってくれればよかったものを、私にとっては凄まじい轟音ごうおんとなり心臓を突き破ろうとする。
――――ッ!」
 ――油断した油断した油断した! 私は暴れ狂う羞恥しゅうちと恐怖に、脳を揺さぶられる。
 ――落ち着け。大丈夫だ。身を硬くして精神を集中し、五感を研ぎ澄ませる。心の中で九字の呪文を唱え印を切り、荒れ狂う感情を無理矢理に押さえ閉じ込める。
 この轟音ごうおんで世界に変化がないか、私のしている行動が見破られてやしないかを慎重に慎重に探る。ドクドクという心臓の跳ねる音が聴き耳を立てる私の邪魔をするが、それを必死に脳から排除。遠くて足音が聞こえるが、それはこちらから遠く、私に気付くようなものではない。……あまりにも派手に音を立てる鼓動こどうに、私はうるさいと怒鳴りつけてやりたい衝動に駆られるが、必死に耐える。
 ……大丈夫だ、誰も何も気付いていない。汗ばんだ額を拭い、私は昨日と同じ要領で庭へとそっと降り立つ。
 ……昨日と同じ。隠していた靴を用意し、素早く履き替える。傾きかけた月は、街の明かりにかき消されるほどに弱い光を放っていた。私はただ、不安を振り切るように夜の街を駆け出す。……私が知る、月明かりと星影のない、闇だけが満ちた夜の世界。忍者の生きるあの世界が、どうしようもなく恋しかった。

――ごめんよ、遅くなって」
 荒れた呼吸を隠し私は滝夜叉丸に苦笑して見せる。滝夜叉丸は公園のベンチで、今日もただ一人、空を見上げていた。――空を、というよりは星を見ていたのかもしれない。彼は期待の星という言葉をよく口にするから。なんとなくそんな予感がした。
……いえ、大丈夫です」
 今来たところだと言わない所を見ると、滝夜叉丸はどうやらもっと早い時間からここに居たらしい。昨日の一件といい、親の目をどうやって欺いているのだろうか、と私は少し気になった。
……私はともかくとして、君はこんな時間に抜け出して大丈夫なのかい?」
「平気です。今なら三木ヱ門やタカ丸先輩も寝ているでしょうから、咎める者はおりません」
「そうじゃなくて――家族は誤魔化せているのかい? 君は一応まだこの世界では子供だろう?」
 私がそう尋ねると、滝夜叉丸はなんでもないことのように笑って言った。
「ああ、その事ですか。心配要りません。この世界の私の家族関係は、とっくに破綻していますから」
 破綻、という言葉を聞いてギョッとするが、滝夜叉丸はなんでもない事のように笑った。
……私がこの世界で記憶を取り戻したのは四歳の頃だという話は昨夜しましたね? ……友人達を含めた多くの者は、幸いにも私の記憶を幼児の戯言ざれごととして、個性として微笑ましく受け止めてくれました。ですが、私の母だけは違った。――自分の知らない所で、おかしな人間が私に何かを吹き込んでいるのだと思い込み、躍起やっきになってしまった。勿論、そのような人間がいるはずもありません。居もしない人間を探し、あらゆる全てを疑い、どうにか私を隔離するべきだと半狂乱になり、部屋に閉じ込め、遂には心を病んでしまった。――私の息子はごく普通の平凡な子だ、誰が私の息子を変えてしまったのか、私の息子を返して、と。……挙げ句の果てに一家心中未遂ですよ」
 滝夜叉丸は淡々と語るが、それはあまりにも重い過去だった。
「そんな事情もあって、父は入退院を繰り返す母を優先し、私には殆ど無関心です。寧ろ、私が家に居ない方が母が安定するので助かるとすら思っている節があります。――私は、私が室町の世の記憶を忘れたくないと我を通してしまった。私の罪が、一つの家庭を壊してしまった。……ですから、友人たちに気付かれさえしなければ問題ありません」
「罪、だって? ――そんなわけがないだろう! あの世界の事を、己の生きたかけがえのない世界のことを覚えていたいのは、帰りたいと願うのは当然の事の筈だ! それとも何か? 君は、室町の世であのまま死ぬ運命を受け入れ、全てを夢と忘れるべきだったとでも言いたいのか?」
……利吉さんには残酷でしょうが、私にはそう思えます。前世の記憶も、元の世に帰る権利も、本来ならば人に与えられるものではないのです。神の世がそう定めているのであれば、それ相応の理由があるはず。――人は、与えられたたったひとつの世界を懸命に生き、その世界をないがしろにするべきではないということなのでしょう。――たとえその最期が満足のいかないものであったとしても、たとえかつての世界がどれほど美しくとも、――――人は己に与えられた世界を歓迎すべきものです」
「やめてくれ。君は自虐に酔って心地良いかもしれないが、私には不快なだけだ。この偽りの世界に屈したくない、もっと素晴らしい人生の為に戦う。それの何が罪だと言うんだ。……人は幸せになる為に努力するべきもので、その努力の果てに勝ち取った世界を失わないようにしたいと願うのは当然の事だよ。君だって、そう思うから室町の記憶を手放すまいと戦っているんじゃないのか?」
 必死の言葉に対し返ってきたのは、どこまでも凪いだ眼差しだった。
……私とて、室町の世の記憶は尊く手放し難いものだと思っています。ですが、それは所詮私のエゴでしかないのです。己が悦に入る為に、自己満足を貫く為に、ただその為に他者を傷付けその人生を踏みにじる行為が、正当化される道理はどこにもない。――私は期待の星としてその記憶と共に生きると決めた日に、この罪を背負うと決めました。だから――貴方が何と言おうとも、この罪を正当化することはできません。私自身がそれを許さない」
 湿気を含んだ一陣の風が、私たちの頬を撫でる。じっとりと、嫌な汗が流れるのを私は肌で感じていた。――どうかしている。私は、私達は同じ世界の記憶を持つ、同志ではないのか。何故、こうも認識に隔たりがあるのか。
――話を戻しましょう。利吉さん、カケラは見つかりましたか?」
 ハッと息を呑み、私は拳を握りしめた。――そうだ、こんなものはただの感傷だ。滝夜叉丸は元の世界へ帰れないから、こうして自虐と感傷にひたっているだけで、私が気にするべきことはもっと別にある。私は誰が何と言おうとも、何を犠牲にしようとも、絶対に元の世界へ帰らなければならないのだから。
…………見つからない。山田利吉の部屋や家の中をあらためたが、それらしきものは見つからなかった。――山田伝子、乱太郎、しんべヱ。近しい三人にも触れてみたがサッパリだ。正直、手詰まりという他ないよ」
……そう、ですか。――私の方でお力になれれば良いのですが、生憎と私はこの世界の利吉さんと面識がありません。一方的に知っているだけですから、正直心当たりが……
 ――嘘だ、と直感が告げる。かげる瞳と戸惑いの中に一瞬、何かを隠そうとする後ろめたさが見えた気がしたからだ。……気のせいかもしれない。弱った心が疑心を産んだだけなのかもしれない。しかし私は問わずにはいられなかった。私の帰還を助けると宣言した滝夜叉丸を信じる為にも、それが錯覚だとはっきりさせたかった。
……滝夜叉丸。本当に、心当たりがないのかい?」
「ありません」
 いやにはっきりした答えだった。それは返答というよりはむしろ、拒絶に近い雰囲気を含んでいるようだった。……よく知らない、知りたくもない、話題にもしたくない。そういう含みがはっきりと込められている。無理矢理にこの話題に終止符を打とうとしている。そう言った意志を確かに感じた。
 しばらくの間、私は絶句する。すると滝夜叉丸は、強張っていた表情を少しだけ緩め、静かに告げた。
……申し訳ありません。私の話は参考にならないと思ったので。……その、私にとってのカケラは、『人』でしたから」
「え? あ、あぁ……なるほどね。もう既にハズレだと分かっているから、という話か」
「はい、……お力になれずすみません」
 滝夜叉丸は礼儀正しく頭を下げる。しかし私には、それが本当に真実なのか、それともこちらに何かを隠しているのか判別が出来なかった。
 じっとりとした空気と訪れた気まずい沈黙が、私の身体と心をじわりと蝕んでいく。
 ――ふと意地の悪い思いつきが脳裏を過ぎった。これを告げるのを躊躇う良心と、先ほどの意趣返しに言ってやりたい加虐心が私の中で一瞬せめぎ合った。……そう、意趣返し。かつての世を知る、私にとって唯一の味方である筈なのに、よりによってかつての世界の記憶を持つ事を罪とまで言い、そして室町の世でそのまま死ぬべきだったと彼は言った。たった一人の理解者に、すがるべきもののない狂った世界でこちらは突然突き放されたのだ。……彼にも事情があり、自嘲したくなる気持ちもわかる。大人の対応として許すべきだ。……けれど。ほんの少し、悪趣味な冗談で意趣返しをしたところで、それを咎められることもないだろう。
……どうしました?」
 先を促す声に、私はなるべく何でもない顔をして問いかける。心の片隅で、力を貸してくれようとする彼への罪悪感と背徳心が少しだけ揺れ動いた。
……滝夜叉丸。君がそのカケラだと言う可能性は?」
 私はてっきり、滝夜叉丸がその目を見開き戸惑うだろうと思っていた。しかし彼は、暗がりの中その瞳を真っ直ぐにこちらに向けたまま、重い声で言った。
――そう思うなら、今ここで私を殺せば宜しい」
 凛とした声が、彼の覚悟を本物だと告げている。彼の声は明らかに、いずれこの問いが来る事をわかっていたと告げている。分かっていて、協力しているのだ。息を呑む私に、滝夜叉丸は静かに告げる。
「私は既にこの世界の住人となってしまった。貴方との縁も遠い。ですから、私を殺した所で貴方が室町の世に帰る事は絶対に叶わないと断言できます。――ですが、貴方が本気で疑うのならば、それもただの言い訳に聞こえる事も容易に想像がつく。ならば、貴方から見れば今ここで私を殺して可能性を潰しておく必要があると考えるのも自然な成り行きでしょう」
 違う、これはただ悪趣味な冗談の類だ。だというのに困惑し絶句する私を置き去りに、彼は明日の食事を提案するかのような口調で告げる。
……幸いにも、私は元々深夜に家を抜け出す事が多く、警察の捜索範囲も広くなる。親は私がどうなろうと興味などないでしょうから、騒ぐとしたら三木ヱ門達くらいのものです。捜索届が出されるのが遅れますから、当然警察の初動も遅れるでしょう。……忍者の死体には情報が詰まるから残してはおけない。逆を言えば、利吉さんならば私の死体を残さず処理する方法も知っている筈です。ならば、私を殺した所で『家庭内のトラブルに疲れた子供がひとり失踪した』だけのこととして穏便に片が付きます」
 ただし、と強い口調で彼は言葉を区切る。
――もし貴方が本当にどんな手を使ってでもあの世界に帰るというなら、あらゆる手段を使っても帰還を目指すなら。この平滝夜叉丸を殺すつもりだというならば、ひとつ忠告しておきます。――貴方がカケラを見つけられないのは、貴方が目を背けているからです。想いに触れようとするならば、そこに想いが――愛がなければ絶対に見えない」
 ――やはり、滝夜叉丸は何かを知っているのだ。その瞳に宿る研ぎ澄まされた意志が、それを物語っている。私は滝夜叉丸の肩を掴み、叫んだ。
「待ってくれ! 君は何を知ってるんだ!? 私はどうやったらあの世界に帰れる?! 室町の世に帰る為に私は一体何を燃やせば――いや、誰を殺せばいい!?」
――利吉っ!」
 突然、背後から聞き覚えのある声に名を呼ばれ、私は振り返る。サッと血の気が引く音が聞こえた気がした。――街灯の下、こちらを青ざめた顔で呆然と見ているのは、息を切らせた山田伝子だったのだ。
「な、何故ここに……
「何故って、探したからに決まってるでしょう?! 朝からなんだか様子がおかしかったから、無理しているようだったから、心配して部屋を見に行ったら居ないんだもの! それで、乱太郎やしんべヱがよく行く場所を片っ端から回って――、そんなことよりッ!」
 なりふり構わず髪を振り乱し、伝子は私の肩を掴む。
「一体何の話なの!? 何を考えているの?! 室町の世って――貴方、あれはただの夢だったって、記憶を取り戻しつつあるって言ったじゃないのッ! それも誰かを殺すだなんて――!」
――五月蝿うるさいッ!」
 私は思い切り彼女の手を振り払う。見た目だけは父にそっくりなまがい物の、不快な手だ。遠慮など必要なかった。
「無関係の人間はすっこんでいてくださいッ! これは私の問題だ!」
「無関係なわけがないでしょう!? 私は――私は貴方の母親なのよ!? 息子が悩んでいて、それも人の道を踏み外そうとしているのに、黙っていられるわけがないでしょうッ?!」
 その必死な様相に、私は思わず叫んだ。
「何が母親だッ! 所詮貴方など他人だ! 私の本当の両親は、もっと遠い所に居るんだッ! 貴方など母でも何でもないッッ!!」
 事実を告げただけだと言うのに、伝子は目の前で傷付いたように息を呑む。
「そもそも貴方が、私の母親だった事が一度でもありましたか!? ないでしょう?! 私の事など何も知らない癖に、まがい物の世界のまがい物の人間の癖に! 貴方はいつも私の邪魔ばかりで!」
 決して醜態を晒すまいと思っていたのに、気がつけば声が掠れるほどに怒鳴ってしまっていた。
「私は――っ! 私は元の世界へ帰らなければならないんだッ!」
「利吉……
 傷つき、困惑する山田伝子の姿。父と見た目だけはそっくりな、けれど父とかけ離れた姿が、今はあまりにも不快だった。ハッと気付くと、周囲の家々にポツポツと明かりが灯り始めている。どうやら私の絶叫が、近隣住民を起こしてしまったらしい。彼女を放置し滝夜叉丸に向き直ろうとするが、滝夜叉丸は私が伝子と揉めている間に既にその場を去ったらしい。
 ――クソッ、この女のせいで――
 思い切り張り飛ばしてやりたい衝動を必死に抑え、爪を指の付け根に折り込むようにして握りしめる。そうでもしなければ、この腹の底から膨れ上がる怒りに、耐えきれそうになかった。
 ……余計な話をする前に、次の密会の日時と場所を決めておけばよかった。私から滝夜叉丸への連絡手段がないというのは、大きな痛手だった。
 ……残り二日。その間で、なんとしてでも私は手がかりを見つけなくてはならない。いや、先ほど伝子の前で本心を叫んでしまった以上、本当に二日の猶予があるかどうかすら怪しい。心を病んでいると思われて、無理矢理に病院へ拘束され薬漬けでジ・エンドの可能性もあるのだ。……おのれ、忌々しい。どこまで私の邪魔をすれば気が済むのだ。
 強いていうなら手がかりはひとつだけ。先ほど滝夜叉丸が言ったあの言葉。
 ――貴方がカケラを見つけられないのは、貴方が目を背けているからです。
 つまり滝夜叉丸の推測が正しいならば、私は既にカケラとやらに触れているのだ。ならば、何を見落としている? 何に目を背けている? ――伝子を置き去りにし駆け出した夜の街は、しかし何の答えも返してはくれなかった。