nuka_boshi
2025-03-19 15:12:07
31229文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その3【シリアス死ネタ】

お助けNPCポジションである滝夜叉丸の名前回。実は前回のとまとめて1話分の予定でしたが前回のが長くなったので分割しました。とはいえ本当は滝夜叉丸の真の見せ場はもっと後の方なんだけどね。

利吉さんのバックグラウンドに関しては次回で明かされる予定です。

余談ですが本当は前回の利吉さん曇らせはもうちょっと手加減する予定でした。が、利吉さんが作者の中での絶対やってはいけない行動をスリーアウトくらいかましたので仕方なく泣く泣く曇らせました。
私は主人公の発言と行動にはどんなものであれ責任を持たせると決めているので、それが主人公視点仕方ないものだろうと書き手として良い意味でも悪い意味でも報いを与えると決めているので。

ちなみに今回のネタバレ。今回もやっぱり利吉さんが曇ります。あとついでに滝夜叉丸も曇ってます。



……昨日は八つ当たりしてしまってすみません。伝子さんもお疲れでしょう。今日の朝食は私が作りますから、伝子さんは休んでいて大丈夫ですよ」
「え、……き、気にしなくていいのよ。お母さんも勝手な事しちゃったもの」
 私は伝子の肩に手を置きながら、彼女をねぎらって笑った。無論、これは表向きのものだ。滝夜叉丸が言うとおり、カケラが触れればわかると言うなら、きっと彼女に触れればカケラの気配を感じ取れる筈だからだ。
 ――もし、彼女からカケラの気配を感じ取れたなら、……私はその場で彼女を殺せるだろうか。
 答えは肯定以外ありえない。躊躇などありはしない。だが、それでも父と同じ顔をした人間を殺す事への抵抗が全くないとは言い切れなかった。彼女に悪意や敵意がないのだから、尚更のことだ。
 だから、――彼女にカケラが宿っていて欲しくはないと思っていたし、しかし同時に彼女が外れだとしたら次に何を疑えば良いかわからないという不安もあった。
 満更でもなさそうに、それでも少しくすぐったそうに笑う伝子の思惑とは裏腹に、私は目の前の人物が殺すべき人物か否かを確かめる。念入りに、――そして冷徹に。
「ありがとう、気持ちは充分伝わったから大丈夫よ。今日は二人で料理しましょうか」
 幸せそうに微笑みながら、彼女は包丁を手に取る。白米につけ合わせる味噌汁を作るらしい。
「じゃあ、大根の皮を剥きましょうか。……記憶が無いなら包丁だと危ないわよね。皮剥き器を使いなさい」
……はい」
 本当は包丁で出来る。ある程度の自炊はできる。寧ろ知らない器具を使う方が、よほど不安だし危なっかしい。……けれど、それを無理に誇示こじして無用な軋轢あつれきを生む必要もないだろう。今は何も知らない『山田利吉』として彼女の顔を立ててやるべきだ。……無知をよそおい子供らしさをわきまえておいた方が、……彼女にカケラが宿っているかどうか調べるのに都合がいい。
……こう、使うんですか?」
「ああ、それじゃ向きが逆よ。向きはこっち。野菜に当てて、こうやって剥くの」
……はい。これで大丈夫ですか?」
「ええ、上手よ。任せていいかしら? お母さんは先にお豆腐を切っちゃうから」
…………はい。……他には……?」
 子供相手に教師をしているだけあってか、伝子はわかりやすい口調で私に皮剥き器の使い方を教える。その笑みはとても穏やかで、……暖かなものだった。不意に脳裏のうりに浮かんだのは、過去の世界での両親だった。私は母に、忍術のことや火縄ひなわ銃の扱いについて数多く学んだ。母も時折こんな笑みを見せてくれた。けれど、父のことは、当たり前に越えるべき壁として認識していたから、私は父から教えを乞うたことがない。……父親を越えるのは子として当然だから。父に教えを受けたのでは父を越えられないから。そうやって私は、父親に反発し続けていた。そもそも父は不器用な人だったし、きっと教えを乞うた所で互いに反発するだけだったろうと思う。……けれど。もし私が、もっと息子らしく、父からもっと積極的に何かを学ぼうとしていたら。……父ともっと素直に会話をしていたら。父も、こんな穏やかに笑って何かを教えてくれたのだろうか。そう考えると、心が少し締め付けられるような気がした。
 ……もしかしたら。……私が父から教えを乞うことを頑なに拒絶したのは、……寂しさを和らげたかったからかもしれない。どうせ父は忍術学園の教師としての立場上、中々帰って来れない。一緒にいられない。生徒を優先し、母を寂しがらせ、……そんなだから、きっとあの人は私を一番には選んでくれない。だから、いっそ嫌いになればいい。自分を大事にしてくれる母や、弟のように扱ってくれる土井半助が私にはいる。だから寂しくない。父親なんて居なくても大丈夫。……そんないじけた考えが根底にあったのかもしれない。
 ……この世界の山田伝子は、忙しい中でも息子への愛情を忘れない。素直に伝え、理解しようと歩み寄っている。……これからもずっと、そうして側にいようとしてくれている……
 ――私は初めて、この世界の『山田利吉』を少しだけ羨ましいと思った。
 そして、この世界の『私』を、『山田利吉』に返してやりたいと強く思った。

 ……なぁ、君は何故この人を置いて逝ってしまったんだ、『山田利吉』……
 君はこれほどの深い愛情を受け取りながら、それを棄ててしまうような卑怯者ではない筈だろう? 私と違って、何も後ろ暗い所のない、普通の青年だった筈だろう? なら、……ちゃんと帰ってきてくれ。
 続く筈だったささやかな幸せを手放して、どうして私のような愚か者に後を任せたんだ。――君は一体、何を考えていたんだ――

「利吉。大根を切るから貸してちょうだい」
 考え込んでいる間に、たどたどしい手つきで仕事を終えていたらしい私に伝子が声をかける。……私は少しだけ、ほんの少しだけ躊躇し、その言葉を口に出してみる。
「あの……切るところまで、教えてもらっても構いませんか?」
 少し目を見開く伝子に、「最後までやってみたいんです」と続ける。……大丈夫、これはほんの気まぐれだ。目の前の女があまりに哀れに思えたから、少し情をほどこしてやってもいいかと思っただけ。それに、ここで距離を詰めておけば、彼女が本当にカケラを有しているか確かめやすいから、それだけだ。――父にできなかったことを、代替品の他人にしているわけではないし、彼女に情が湧いたわけでもない。断じてない。
……そう? じゃあ、お願いしてみようかしら。大根は細く切るのよ。左手はこう、丸めて猫の手にするの。怪我しないように気をつけてね」
 無骨な手で彼女は私の手を取り、大根の切り方をレクチャーする。……やはり、大正解。こうして取り入っておけば、こちらから何かせずとも接触してくると思った。利用できるものはなんでも利用するのは当たり前だ。だから――これは忍者として、効率的な事をしただけに過ぎない。
 だから、私がホッとしているのは、私が忍びとしての本分を忘れずにまっとうできているという事実に対してであり、……彼女になんの気配も感じないから、カケラを宿しているのが山田伝子ではないのだと思ったから、彼女をあやめず済むことに安堵したわけではない、…………筈だ。
 確かに人をあやめず済むことは助かるが、それは同時に一つの手がかりを失うことでもあるのだから。――だから、手がかりを失っていると言うのにこれほどに安堵しているのは、きっと私が未だに忍者としての在り方を忘れていないからなのだ。
「がんばったわね、よくできました。こういう切り方はね、短冊切りって言うのよ。油揚げは刻んであるのを買ってあるから、最後に入れましょうね。利吉が頑張って切ってくれた大根だもの、きっと美味しくなるわよぉ〜」
…………………………はい。楽しみ、ですね」
 何が嬉しいのか、上機嫌で乾燥和布ワカメを入れるか否かと笑う伝子に、私は曖昧あいまいに微笑んだ。
 ……『私』は大根を無様に切ったりなどしない。自炊だってある程度はできるし、それこそなべかまが無くたって調理できる。……けれど、『山田利吉』は恐らくまだまだ慣れてないだろうから、きっとこういうこともある。つまり、時折混ざる歪な形の大根は、『私』の動揺のせいではなく、きっと『山田利吉』によるものだ。
 火にかけられ、コトコトと完成へと近づいていく味噌汁を眺めながら、私は考える。
 ――この人は、私が元の世界へ帰った後、どれだけ哀しむだろう。『山田利吉』が居なくなって、その身体を勝手に動かしてた悪い霊わたしが消え去って、がらんどうの肉体だけが残された時。この人の心はどうなってしまうのだろう。
 ……少々神経質ナーバスになってしまっているのかもしれない。けれど、『私』は失ってしまった『山田利吉』に涙しそうになるのを必死で堪えていた。
 ……もし、もう一度交通事故に遭ってしまえたら。……そうやって私は一度気絶し、そして……次に目を覚ます頃には『私』を忘れて『山田利吉』に戻れたら。…………もしかしたら、それが一番のハッピーエンドではないだろうか。
 『私』が、異端。この世界が狂っていると思っている『私』がいなければ、そうすれば誰もが幸せなのではないか。
 ――けれど、もしそうなら、『私』が生きたあの世界は、何だというんだ?
 土井半助、小松田秀作、摂津のきり丸、それに本当の父と母、そして私の息子。沢山の大切な人達がいるあの世界が、まやかしだったとでも言うのか……
 そんな筈はない。あの世界の人々から、私はたくさんの大切なものを貰った。だから、私の世界はあの世界だ。この世界はハズレのまがい物で、……元の世界が本当に帰るべき世界。そこになんの変わりもありはしないのだから。
 嗚呼、だというのに。
――美味しいわね、利吉」
 ……どうしてこの味噌汁は、こんなにも特別なものに感じるのだろう。この贋物ニセモノの一家団欒だんらんを、こんなにも暖かく感じるのだろう。
――ええ。美味しいですね、伝子さん」
 私は今、笑えているだろうか。……ちゃんと笑顔であってほしいと心から思う。室町を生きた忍者として、あるべき振る舞いを出来ていることを、私はただ祈ることしか出来なかった。