nuka_boshi
2025-03-19 15:12:07
31229文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その3【シリアス死ネタ】

お助けNPCポジションである滝夜叉丸の名前回。実は前回のとまとめて1話分の予定でしたが前回のが長くなったので分割しました。とはいえ本当は滝夜叉丸の真の見せ場はもっと後の方なんだけどね。

利吉さんのバックグラウンドに関しては次回で明かされる予定です。

余談ですが本当は前回の利吉さん曇らせはもうちょっと手加減する予定でした。が、利吉さんが作者の中での絶対やってはいけない行動をスリーアウトくらいかましたので仕方なく泣く泣く曇らせました。
私は主人公の発言と行動にはどんなものであれ責任を持たせると決めているので、それが主人公視点仕方ないものだろうと書き手として良い意味でも悪い意味でも報いを与えると決めているので。

ちなみに今回のネタバレ。今回もやっぱり利吉さんが曇ります。あとついでに滝夜叉丸も曇ってます。



 私は小さく息を呑む。八方手裏剣と言えば、毒を塗っての暗殺に使われる代物だ。――それが意味する所は、つまり。
「薄れゆく意識の中で、みっともなく泣き叫ぶ三木ヱ門と、私の代わりに敵を倒した守一郎、後輩に私の姿を見せぬように庇いながら泣くタカ丸さん、そしてただ何も言わずに私を見つめる喜八郎を見た、……と思いますが、そのあたりの記憶は今となっては殆ど曖昧あいまいです。――早く治療をと叫ぶ声を聞いた気もしますから、もしかしたら即死ではなかったのかもしれません。ですが――恐らく私は帰る方法を失くした時点で、その命を落としました」
 言葉を失う私の前で、滝夜叉丸は静かに瞳を閉じた。在りし日の己の姿をなぞるかのように。
 ――知らなかった。滝夜叉丸が卒業してから三年後という事は、私が脚を負傷した頃と近い時期だろうか。あの頃の私はただがむしゃらで、必死に危険な任務を引き受けていた。周りを見る余裕などなかった。……私が自分の不幸に酔って嘆いている間に、彼が命を落としていただなんて、知るはずもなかった。
……次に、いつからこの世界にいるかですが――十年前からになります。つまり、私が丁度四歳の頃、ということになりますね」
「十年前!? 待ってくれ、君の話を聞く限り、私の知る世界とは二年しか違わない筈だろう!?」
「それは今更でしょう。そもそも時代を越えているというのに、時の流れが同じな筈もない」
 思わず声を荒げた私に、滝夜叉丸は冷静に答えた。
 ――つまり彼は、十年もの間、たった一人で、この記憶を抱えて生きていたというのか。それも、自分のよく知る、けれども決定的に違う人々に囲まれたまま。二度と帰れないと突きつけられたままで。
 ――それはどれほど恐ろしいことだろう。誰にも理解されず、異常者と思われながら、或いは己を異常者ではないかと疑いながら、彼はずっと孤独と戦い続けてきたのだ。
 絶句する私に、滝夜叉丸は自嘲を隠すように唇をギュッと引き締めた。
――未成熟な幼児の身体と、この世界の両親の監視を掻い潜りながらの情報収集です。当然、思うようにいくはずもありません。帰るすべを知らぬまま神の世のカケラを見つけましたが――私は何も知らなかった。何もできなかった。だから私は、この記憶と共に生きるか、それとも全てを夢として忘れ去るかのどちらかしか、選べませんでした」
……忘れ去る?」
 思わず復唱した私に、滝夜叉丸は苦笑する。
――人は、忘れる事ができる生き物です。思い込み、自分を騙せば……多少インパクトのある夢を見た、と。そうやって過去の記憶を手放す事もできるんです。……或いは、そうやって生きた方が遥かに楽に生きられるでしょう。この世界にいる限り、いくさに巻き込まれることはない。食事に困る事もない。この世界の常識を受け入れ、要領よく立ち回れば――『夢の記憶』としての兵法や忍術を応用し、常人よりよほど不自由のない暮らしを送る事も可能でしょう」
 滝夜叉丸の瞳が、かげる。「――忘れて、しまえるんですよ」と滝夜叉丸は尚も繰り返した。
……誰にも話さず、ただそのまま令和の常識の中で生きていれば、……過去の記憶などそのうち埋没していきます。この時代で覚えるべき事は、山ほどありますから。事実、私とて、この十年で忘れてしまった事柄も多い。――私が死ぬ間際に庇った後輩があの時どんな表情を浮かべていたかすら、今ではもう覚えていない」
 絶句する私の前で、滝夜叉丸はこぶしを握り締め、キッと顔を上げた。
――ですが私は、忍術学園の期待の星。在りし日に先輩方から頂いたものを、先生方から学んだ教えを、学舎まなびやを共にした同級生達との思い出を、後輩たちの眼差しを受けて築き上げた、煌々こうこうと輝く星として生きた記憶を棄てる事など、――出来はしない」
 苦しさを隠すように目を細めて、滝夜叉丸は真っ直ぐな眼差しを私に向ける。苛烈なほどの決意の眼差しを。
「例え元の世に帰れなくとも、その所為で苦しむことになろうとも。私はこのかけがえのない記憶と共に生きると決めたのです。――例え誰も覚えて居なくとも、例え誰もが忘れてしまっても、私だけは覚えている。私は私の生き方に誇りを持っている。私を期待の星としてくれた、かつての世の人々の想いや願いを、輝かしき日々を覚えている。――だから私はスーパースター忍者であり続ける。それで狂人と蔑まれようと、私の信じる星の輝きを決して失くすまいと、そう決めたのです」
 鮮烈なほどの決意の前に、私は少しだけたじろぐ。――私は、これほどまでの決意を持てるだろうか。地獄を歩む覚悟が、本当にあるのだろうか。
 ――いいや、落ち着け、山田利吉。元プロ忍として、どれだけの仕事をこなしてきたと思っている。お前は必ず室町の世に帰らなければならないんだぞ。そうさ、そうとも。この偽りの世界から抜け出す方法が私にはあるんだ。例え彼を置き去りにしてでも、為すべきことを為すんだ。
……幸いにも、忘れてなるものかとあの世界の記憶を毎日のように口にし続ける私を、今の友人達は個性として尊重し、受け入れてくれています。辟易へきえきされる事も多々ありますが、それでもかつての世界に近い関係を築く事が出来ました。――そう思えば、私は充分に恵まれています。そして利吉さん。貴方がもし元の世に帰るなら、少なくとも私の選択を知る人が一人だけは居てくれる。平滝夜叉丸が、死して新たな生を歩んでも尚、己の信念に懸けて期待の星として生き抜くと決めたことを、貴方だけはきっと覚えていてくださる。これほど幸せな事もないでしょう。ならば――私は貴方が無事に帰れるように、助力は惜しみません」
 滝夜叉丸は微かな笑みを浮かべてそう言った。
 ――何か、何か言わなければ。そう言葉を探し始めたその時だった。急に眩い光が私達二人を照らし出した。
「あ〜っ、良かった居た居たーっ! も〜っ、滝夜叉丸くん、こんなところにいるんだから〜」
 向けられた光の眩しさと、間延びした声に思わず目を細める。逆光の向こうに微かに見えた人影は、温厚で人懐っこい愛玩あいがん動物を思わせるおっとりとした笑みを浮かべていた。
「タ、タカ丸先輩!? 何故ここに!?」
 ――斉藤タカ丸。嘗てカリスマ髪結いの息子として育ち、紆余曲折の末に忍者を目指した少年。確か歳は違えど、滝夜叉丸と同学年の学生として編入してきたという。――記憶が正しければ、滝夜叉丸からはさん付けで呼ばれていたと思うのだが、これも恐らく世界の違いやこれまでの人間関係の構築の結果で変わってしまった事象なのだろうか。彼は手持ちの電灯の向きを僅かに下げると、私達の元へ駆け寄ってくる。
「三木ヱ門くんから電話があったんだよ。滝夜叉丸くん、メール来てるのに、全然返事しなかったでしょ? 電話掛けても出ないから、もしかしてまた夜中に家を抜け出してるんじゃないかって」
 ほんわかとした笑みは、恐らく滝夜叉丸の緊張をほぐす為のものだろう。
……家に居るのが辛いのはわかるから、出歩くなとは言いたくないけど、でもあんまり夜中に出歩いて心配かけちゃだめだよ。また補導されちゃうのも嫌でしょ? まだ未成年なんだし。――ねっ?」
 滝夜叉丸はその言葉に一瞬だけ痛みをこらえらような表情を見せた。しかし次の瞬間、大袈裟に胸を張る。
「全く三木ヱ門は仕方のないやつですね。室町の世を忍者として生きた私にとって、陽が沈み闇が迫る夜こそが最も輝ける時間だというのにそれを全く分かっていない。スーパースター忍者にとって、夜はまさに最高のステージ! そう、あの爛々らんらんと輝く星のように、この私が最も強く輝ける時間帯なのだァッ!」
「はいはい、今は令和だからお家に帰ろうね〜」
「だああぁぁあっ、サラッと流さないでくださいタカ丸先輩! それに今日は一人ではないので安心してください。何を隠そう、利吉さんにご一緒させていただいていますから! 利吉さんは十九歳、つまり成人と共にいるという事! 補導される心配も無いので問題ありません!」
 ……突然こちらに話を振られても、なんのことやら分からず困るのだが。とはいえ、今は話を合わせるしかないだろう。
「ええと……そういう事だから………
……ふーん?」
 ジッとこちらを伺うタカ丸の瞳には、好奇心だけでなく微かな警戒の色が見てとれた。
「利吉さんは私の同志であり、室町の世を覚えてらっしゃる大変貴重な方なのです! ……それよりタカ丸先輩こそ、この様な時間に出歩いては危ないでしょうに」
 大袈裟に振る舞う滝夜叉丸に、タカ丸はへにゃりと笑う。
「大丈夫大丈夫。僕の家、ここの近くだから近所だけ確認したら最初から帰るつもりだったんだよ〜。それに、もし警察に見つかって職質受けても、僕の場合は滝夜叉丸くんのことをこの人を探すためだったって言って突き出せばいいんだし」
「ちゃっかり私を盾にしようとしないでください!」
 思わずツッコミを入れる滝夜叉丸に、タカ丸はあははと朗らかに笑う。
「じゃあ、えっと……利吉さん、だっけ? 滝夜叉丸くんは僕が責任持って家に帰しますねー。滝夜叉丸くんのこと見ててくれてありがとう〜」
「あ、……いや、私も送り届けるよ。流石にこんな夜中に二人だけで帰すのも」
「だいじょーぶで〜す。さ、行こっか滝夜叉丸くん」
 ……斉藤タカ丸は誰が見たって人好きのする優しい笑みを浮かべていた。しかしその自然な笑みの中に、こちらの動向を慎重に監視しようとする意志が、確かに見え隠れしていた。……いい加減な事を言って、無理についていかない方が良い。嘘も、隠し事も、何もかもを暴かれかねない。何故だかそんな予感がした。
……そうか、それじゃあ君に任せるよ。気をつけて帰るんだよ」
 笑みを張り付けて私がそう告げると、タカ丸は「はーい」と明るく返事をし、背を向けて歩き出す。……と、そこで一歩立ち止まると振り返り、改めて告げた。
…………滝夜叉丸くんのこと、あんまり振り回しちゃ、ダメですよ?」
 ダメ、という言葉に微かな、それでも確かなトゲを感じた。恐らく私たちの会話を聞いたわけではないだろう。しかし、明日以降もこうして夜の密談をするつもりでいることは察している、と言ったところか。
……ああ。彼の気分転換になればと思ったんだけど、悪い事をしてしまったかな。君の友達にも、代わりに謝っておいてくれないかい?」
 私の言葉に少しだけ目を見開いたタカ丸は、「いえいえ〜」と笑みを浮かべる。
「事情が事情だし、滝夜叉丸くんのこと心配する気持ちはよ〜く分かりますから」
 ……言葉の真意はわからないが、どうやらこの世界では滝夜叉丸はかなり周囲から心配されている様だ。――先程、見咎められるかもしれないと口にしたのは、どうやら伝子というよりは滝夜叉丸の友人たちのことを指していたらしい。
 タカ丸に引きずられていく滝夜叉丸が、口だけを動かして私に告げる。――また明日、と。
 ……つまりは、彼らの心配を踏みにじってでもこちらに協力しようということらしい。――滝夜叉丸とその友人には申し訳ないが、その申し出は私にとって非常にありがたい事だった。この狂った世界で、己の目的を果たす為に。今は彼の協力を手放すわけにはいかない。
 私は小さく頷き、「気をつけて帰るんだよ」と好青年をよそおって白々しく言葉を投げかけた。

 ……この世界での滝夜叉丸がどんな事情を抱えているのかはわからない。だが、深夜に少し連絡が取れなかったというだけで周囲が心配する環境にいることは、確かだ。――それはかつての世とは全く違う生を歩んでいるが故のものなのかもしれない。環境が違う。つちかった経験が違う。人格形成が違う。本質が同じでも全くの別人、全くの別の関係性の、よく知る顔をした人々に囲まれて生きる。……私には、到底耐えれそうに無かった。
……必ず、帰るよ……
 私は闇に向かって静かに呟く。
 もし、滝夜叉丸が言う通り、このままこの世界で過ごす事になったら。元の世界で私が死んでしまったら。――私はきっと後悔する。
 合わせる顔がないからと散々逃げて、逃げた末に愚か者が不注意で事故死しただけだ。それはきっと、ありふれたことで、気に留める必要のないことだ。けれど、きっと元の世界の私をよく知る人々は、悲痛な涙を流しているに違いない。
 見える筈もない、聴こえる筈もない。けれど、脳裏のうりにありありと浮かぶのだ。あの時私を止めれなかったと、自分の力が及んでいればと、見るも無惨な私の死体に駆け寄ったきり丸が涙を流す。……それから、後に話を聞いた乱太郎としんべヱが、きり丸の肩を抱き、必死にきり丸のせいじゃないと慰める。私を弟のように可愛がってくれた土井半助は、きっとこれが夢なら覚めてくれと懇願こんがんし、……泣き叫ぶ。父と母は、どれだけ絶望するだろう。ロクな会話も交わさぬまま荒れて行方を眩ませた馬鹿な息子を、見限ってくれていれば良い。けれどきっと――きっと彼らは、胸が張り裂けそうなほどに、悲痛な悲しみを負うのだろう。元とはいえ忍者である以上、遺体を遺すわけにはいかない。それがわかっているから、心を殺してしのびとしてただ黙して後始末をする父と母。しかしその哀しみはあまりにも痛々しくて、張り裂けそうで……。そしてそんな彼らを、幼すぎて何も理解できていない我が子が不思議そうに見つめているのだ。
 夏の夜特有のじっとりと水気を含んだ空気の匂いと僅かな排気しかしない筈の暗い夜空の下で、……私は何故か、焼香の臭いを嗅いだような気さえした。
 ――冗談ではない。私の人生だけが不注意で台無しになるなら分かる。自業自得だ。だが、私の自業自得のせいで――私の罪のせいで私の大切な人たちの幸せを打ち砕くような事は、決してあってはならないのだ。
 ……絶対に、絶対に元の世界に帰らなくてはならない。それがどれほどか細い道でも、無関係な人々の想いをどれほど踏みにじる事になったとしても。私には、……なんとしてでも私の罪に巻き込まぬ為に護らねばならない人々がいるのだ。――普通の人間なら来世でやり直すべき所を、私は罪を償う最後のチャンスを与えられているのだから。
 だから、私は涙など流さない。あの暖かく素晴らしい室町の世に帰る為に、心を殺して為すべき事をするのだ――