nuka_boshi
2025-03-19 15:12:07
31229文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その3【シリアス死ネタ】

お助けNPCポジションである滝夜叉丸の名前回。実は前回のとまとめて1話分の予定でしたが前回のが長くなったので分割しました。とはいえ本当は滝夜叉丸の真の見せ場はもっと後の方なんだけどね。

利吉さんのバックグラウンドに関しては次回で明かされる予定です。

余談ですが本当は前回の利吉さん曇らせはもうちょっと手加減する予定でした。が、利吉さんが作者の中での絶対やってはいけない行動をスリーアウトくらいかましたので仕方なく泣く泣く曇らせました。
私は主人公の発言と行動にはどんなものであれ責任を持たせると決めているので、それが主人公視点仕方ないものだろうと書き手として良い意味でも悪い意味でも報いを与えると決めているので。

ちなみに今回のネタバレ。今回もやっぱり利吉さんが曇ります。あとついでに滝夜叉丸も曇ってます。



 朝食を食べ終わり、私はタクシーを拾って病院へ。精神的なショックによる一時的な健忘症、ということになっている以上、経過観察の必要があったからだ。
 とはいえ、殆ど形式的なものにすぎない。何故なら私は別に心に病を抱えているわけではなく、健康そのものなのだから。
 薬はちゃんと飲んでいるか、夜眠れているか。そういった質問に私は平然と嘘をつく。
 毎日忘れずに薬を飲んでいるし、記憶は未だ回復しないものの精神的には安定しつつある。夜もきちんと眠れている。もちろん記憶がないのは不安だし少し母に八つ当たりをしてしまったが、和解して今は問題なくやれている。――時にはっきりと、時に少し躊躇うように。そうやってごく平凡な少年『山田利吉』の答えるであろう言葉を返していけば、医師は軽く笑った。
「はっははは。その調子なら、記憶が元に戻る日も近そうで安心したよ。……先日の一件では、君は本当に辛そうだったからね。心配してたんだよ。けれど、無理は禁物だよ。何かあったら、ちゃんとご家族を頼るようにね。まあ、君のような年頃だと、母親を頼るのはちょっと気恥ずかしいだろうとは思うがね。そういった時は、儂のような医者を頼れば良い。なあに、儂らは他人だし、秘密を漏らすこともない。なんなら、今後定期的にカウンセリングを設けるのも手だとは思うがね」
……そうですね。しばらく記憶が戻るか様子を見つつ、相談させていただきます」
 私は少し不安げな笑みを貼り付けて、そう答える。勿論、そのようなつもりはない。――だいたい見知らぬ他人だからなんだというのだ。この男に秘密を漏らした所で、どうせ待っているのは異常者のレッテル貼りと強制的に私を押さえつける為の薬の山だろうに。
「じゃあ経過を開けて、一週間後に様子を見ようか。その時は念の為血液検査もしよう。君の身体に薬がちゃんと合っておるかどうか、確認しておいた方が良さそうだからね」
 ……正直、何もかもがどうでも良いと思った。どうせ一週間後には、全てが終わっている。薬を捨てている事がバレた所で、痛くも痒くもないのだから。
 仕方なしに新たな薬を受け取り、伝子から受け取った紙幣しへいを手渡し、私はまたタクシーを呼んで帰宅する。……本当に、面倒だ。山田伝子が探し求めたカケラでなかった以上、私は他の可能性を探さねばならない。しかし思い付く手掛かりの殆どは、既に潰されていた。『山田利吉』の部屋にあるものは、粗方あらかた調べ尽くした後なのだ。……もっと他の場所? 探していない場所がある? 部屋の中に何かしら物を隠す絡繰からくりがある? それとも『山田利吉』が通っていた予備校や交友関係の方か? ……だとしたら面倒だ。記憶を失ったと聞いて山田伝子は予備校にしばらく欠席するむねを伝えたらしいし、私はそもそもその予備校とやらがどこにあるかも知らない。『山田利吉』の交友関係だって皆目見当がつかない。
 進展は何もない。山田家の中の(私にとっては)ガラクタの山を、ひたすらにあらためるだけだ。変化があるとしたら、留め息を隠せない私の疲労と苛立ち、そして止まる事なく進んでいく時計の針くらいだ。
「利吉さーん、今日も会いにきたよ〜」
 陽が暮れかけた時、しんべヱと乱太郎が私を訪ねてきた。
「ああ、二人ともありがとう。わざわざ来てくれたんだね」
 私は笑顔で、二人の頭をわしゃわしゃと撫でる。えへへと満面の笑みを浮かべる二人は、私が目の前の彼らを殺すべき対象が見極めようと丹念に確かめるべく触れているなどとは思いもせずに、ただ無邪気に頭を差し出してくる。……やはり何も感じない。こうなってくると、手詰まりを感じる。
「そういえば、この間の宝探しは楽しかったね」
 私はにこりと笑みを貼り付ける。楽しかった、今からまたやろう、でも時間が遅いしと口々に騒ぎ立てる二人に、私は極めて自然な口調を意識しながら問うてみる。
……今日は残念ながら宝探しの時間は無さそうだね。ところで、君たちから見て、記憶を失う前の私が一番大事にしてたものって、なんだと思う?」
 こういう時は、客観的な意見を参考にするに限る。少々強引だが、話が脱線しやすいこの二人には単刀直入に聞いた方が良いだろう。しかし、きょとんと首を傾げた二人は、顔を見合わせる。
「何って……そりゃあ当然、山田先生だよねえ?」
「うん、ボクもそう思う」
「いや、伝子さん以外で」
 私の言葉に、二人は困った様子でうーんと悩む。
「ええと……山田先生の特製オムライスじゃないかなぁ?」
 すぐに食べ物に向かうのはしんべヱの悪いクセだと思う。第一、もしカケラの正体がオムライスなら、もう食べ終わってこの世から消えている。まさかオムライスを食べたこの身体を焼けということもあるまい。仕方なしに乱太郎の意見に期待する。
「うーん……山田先生以外だったら、夢とかじゃないですか?」
「夢?」
「そう、将来の夢。利吉さん、小学校の先生になりたいんでしょ? 利吉さんって山田先生にいつも敬語で話してるけど、将来学校の先生になった時にいろんな人に自然に敬語が使えるようにお家でも練習してるからだって前に聞いたので、それだけ将来の夢が大事なのかなぁって思うんですけど」
 乱太郎の言葉が本当なら、確かにそれは『山田利吉』にとって強い思い入れがある内容だろう。しかし、『夢』と言われてもいかんせん抽象的すぎる。まさか学校そのものを焼き払うというわけにもいかないだろうし。……山田利吉の母校を当たる? 内心で様々な方法を検討する私の前で、しんべヱが「でも」と口を挟む。
「それって結局、山田先生が一番大事ってことにならない? だって利吉さん、お母さんが先生だから先生になるって決めたって言ってたし」
「あっ、それもそっかぁ。うーん、いいセン行ってたと思ったんだけどなぁ〜」
 しんべヱの言葉に乱太郎はすんなりと納得する。……聞けば聞くほど『山田利吉』という人物の事がわからなくなる。――いや、分かっているが認めたくないだけなのかもしれない。本当は好きなのに、意地を張って、寂しいと認めたくないから反発して、嫌いなフリをする。そんな行動は、私にだって身に覚えがある。ならば彼は、私と同じ行動をしていたのだろうか? ……彼はごく普通に、母親を愛していた平凡な青年だったのだろうか。
……そんなはずは、ない)
 もしそうなら、今朝山田伝子と接触した時に、カケラの気配を感じた筈だ。だからきっと、今頭を過ぎった愚かな考えは、間違いだ。
 ごく普通に母を愛してきた優しい青年の身体を奪い、さらにその優しい息子の姿をしたまま、息子を愛する母親を殺せだなんて、元の世界に帰るためにそれだけの罪を起こせだなんて、そんな地獄は起こり得ない。起こる筈がないのだ。
 ……手詰まりを感じ、嫌な妄想をしてしまう程度には心が疲弊ひへいしているのかもしれない。乱太郎としんべヱに適当な世間話をしつつ帰宅を促し、私は深く留め息を吐いた。

 ……こういう時、自分は酷く不器用なのだと思い知らされる。荒れ狂う心を鎮める為、人は大抵何かしらの息抜き手段を持っているものだ。例えば賭博とばくなんかに打ち込んだり。けれど、そういうものに関して、私はどこか冷めた目で見てしまう。苦しみを忘れたくて打ち込んだ筈の賭け事に、何をやっているのかと自分を騙しきれずに余計にむなしくなってしまう。酒に溺れるというのも、試した事があったが無理だった。醜態を晒すほどに酔うという事がそもそも出来なかったし――何より、私にとって酒というものはあまりに眩しく、清らかだった。
 成人したばかりの頃。仕事で中々時間が取れない中で、それでも祝いに駆けつけてくれた父と土井半助と、そして私達を見守る母。「これで一人前だな」と穏やかな笑みでさかずきに酒を注ぐ父の姿。今後の私の活躍への、期待に満ちた穏やかな眼差しの数々。それらはあまりにも尊く美しく、――残酷な思い出だった。
 酔って忘れるどころか、酔う前に一番見たくない美しいものを突きつけられるのだ。だからこそ――私には、こうして嫌なことが起きた時に逃げ込める場所が無い。なんでも器用にこなし、要領良く物事を解決してきたように見えて、私は肝心なところで不器用だった。
 ……『山田利吉』がオムライスを好きだというのは、もしかしたら私が家族と交わしたあのさかずきを美しく尊い想い出としていてるのと、同じなのかもしれない。――どうして、『山田利吉』にこの身体を返してやれないのだろう。どうして、私にはこの苦しみを忘れてしまえる方法がないのだろう。下唇を噛み締め、私はせめて涙だけは流すまいとこらえる。
 ……もし、この苦しみを少しでも和らげてくれる存在があるとしたら。それはきっと、室町の世の記憶を持つ彼だけだ。
 ――滝夜叉丸。この世界で生きる、かつての世の記憶を持つ彼。長い間、この世界で地獄のような日々を歩んできたであろう彼。
 きっと苦しんでいるであろう彼に縋るなど、年上としてあってはならないとは思う。けれど、いくさで疲れた足軽が喉の渇きをうるおさんと水を求めるように、疲労を和らげる為に塩を求めるように。――今の私には、彼の言葉が必要だった。それこそ、無駄話でもいい。室町の世の思い出語りだけでもいい。ただ、この苦しみを和らげる為に。
 ……そう考えれば、ある意味で私にとって彼は一般の人々が求める酒のようなものなのかもしれない。現世の苦しみから逃れる為に、すがり、溺れ、堕ちていく。――そうやって人は、苦しみから目を背けているのかもしれない――

「ただいま〜。あら、利吉。どうしたの?」
「なんでもないですよ、伝子さん。おかえりなさい」
 笑顔を貼り付けて私は彼女の問いをはぐらかす。……今朝、ああして歩み寄ったフリをしたばかりだ。今彼女と下手に距離を取れば、不審がられるかもしれない。だから私は心にもない事を言う。
……昨日、断ってしまったお詫びと言ってはなんですが。夕食も二人で作れたらと思いまして」
 一瞬、戸惑った表情を見せた伝子だったが、すぐにパッと笑顔を見せた。
「まァ、お母さん嬉しいわぁ。じゃあ今日こそカレーライスを作りましょう。カレーはね、利吉が初めてお母さんに作ってくれた料理なのよ」
 ただ同居しているだけの他人であるにも関わらず、彼女はこんなくだらない事で笑い、浮かれている。……まあ当たり前か。彼女は私を愚かにも息子だと思い込んでいるのだから。私は冷え切った内心を隠しながら、笑みを浮かべて夕食作りを手伝うのだった。