nuka_boshi
2025-03-19 15:12:07
31229文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その3【シリアス死ネタ】

お助けNPCポジションである滝夜叉丸の名前回。実は前回のとまとめて1話分の予定でしたが前回のが長くなったので分割しました。とはいえ本当は滝夜叉丸の真の見せ場はもっと後の方なんだけどね。

利吉さんのバックグラウンドに関しては次回で明かされる予定です。

余談ですが本当は前回の利吉さん曇らせはもうちょっと手加減する予定でした。が、利吉さんが作者の中での絶対やってはいけない行動をスリーアウトくらいかましたので仕方なく泣く泣く曇らせました。
私は主人公の発言と行動にはどんなものであれ責任を持たせると決めているので、それが主人公視点仕方ないものだろうと書き手として良い意味でも悪い意味でも報いを与えると決めているので。

ちなみに今回のネタバレ。今回もやっぱり利吉さんが曇ります。あとついでに滝夜叉丸も曇ってます。



――君が教えてくれた本は一通り読んだよ。といっても、少々トラブルがあったから、全てにじっくり目を通せたわけじゃないけどね。――私たちは室町の世からこの世界に飛ばされた。そして、『神の世のカケラ』とやらが私たちの帰りを阻んでいる。だからそれを失わせれば――要は焼き払えば帰れる、と。そしてその期限は、恐らく八度目の朝日が昇るまで。……というのが私の推測なんだが」
「はい、概ね合っています。――私は神の世のカケラを壊せなかった。八という数字は末広がり。永遠の繁栄を意味するように、神の力も八日目までこの世界にとどまれば、この世界そのものを繁栄させる力として世界に広がり、溶け込んでしまう。そうなれば、最早私達に出来ることはありません」
 滝夜叉丸の答えに、私は唇を噛み締める。予想が外れ、もう少し猶予ゆうよがあることを期待していたのだが、やはりそう上手くはいかないらしい。
……君は、カケラを壊せなかったと言ったね? ――それは、カケラを探し出せなかったということかい?」
……いいえ。私は――、奇しくも私にとってのカケラを見つけ出すことだけは出来ました。しかし、この世界の仕組みも、何をすれば良いのかさえ分からぬままにその時をのがしてしまった。あの時、全てを知っていれば或いは元居た室町の世に帰る事を考えたかもしれません。……ですが――
 滝夜叉丸の言葉に私は息を呑む。
「教えてくれ! 神の世のカケラとは何だ!? 私は、何を焼き払えば元の世界に帰れる?!」
 私の問いに、滝夜叉丸は目を逸らす。……何故?
「落ち着いてください、利吉さん。貴方にとってのカケラと、私にとってのカケラは恐らく全く違うものです。……私のカケラは――
 滝夜叉丸はそこまで言って言葉を飲み込んだ。
……いえ、私のことを話した所で、今の貴方をいたずらに混乱させるだけでしょう。それより、貴方にとってのカケラの話です。――これは私の予想ですが、カケラとは神にとっても人にとっても最も尊きものを意味するのではないかと」
……どういう意味だい?」
「人の世に於ける価値は関係ないということです。神の世にとって、そして我々にとっても、世界を隔てようとも変わらない尊さを持つもの――つまりは『想い』である可能性が高い。付喪神が良い例でしょう。人が想いを込め、長年大切にしてきたものには神懸かりの力が宿る。それがどれほど無価値に思える物であれど、想いが強ければ強いほどにその尊さは増すことになる。――そうした強い想いが、何かに宿る形でカケラとなっているのでしょう」
 ……なるほど。つまりは、また誰かの想いを踏みにじることになるわけだ。私は自嘲しつつ、無理矢理に笑う。
「要するに、誰かの大切にしているものを焼き払え、というわけか」
 この身体の持ち主の『山田利吉』にはつくづく申し訳ないが、それしか手がないならば仕方がない。それが誰かにとってどれほど大事な物だろうと、私は焼くことに何の抵抗も無かった。しかし、そんな私の目の前で、滝夜叉丸が表情をかげらせる。
……利吉さん。非常に言いにくいのですが、恐らく利吉さんは重要な見落としをしています。……先ほども述べた通り、カケラは『想い』です。つまり、 貴方にとってのカケラが宿るのが、物ではなく……人の、それも利吉さんにとって近しい人物の可能性もあります」
「まあ確かに、カケラが『想い』だとすれば物にばかり宿るわけじゃないだろうね。それに私がこの身体の持ち主の『山田利吉』と入れ替わっている状態なのだとすれば、カケラも彼に関わる何かだろう……って、……
 話しながら私は気付く。――――まさか。
「まさか、仮に物ではなく者だった場合――人だった場合も、……焼き払えと?」
「いいえ。人の意味は、命の形が失われた時点でこの世から失われます。死体は最早人ではない。――焼かずともそれだけで事足ります」
 滝夜叉丸は暗い顔のまま、しかしはっきりとそう言い切った。
……嫌な話だね。…………そうでない事を祈りたいよ。私が人を殺してしまったら、この世界の『山田利吉』が帰ってきた時に困るだろうから」
 私の言葉に、滝夜叉丸は少しの間沈黙していた。それでも、何かを言いたくて、口籠る息遣いだけはしっかりと聞こえていた。
「嫌な予想は大抵当たる物だとは言うが、あまり考えたくはないね。ただでさえ、今の私はこの身体の持ち主の『山田利吉』の想いを踏みにじっているようなものだから。……忍者は手段を選ばない物ではあるけれど、これは任務じゃない。『山田利吉』には元通りの生活を返してやりたいと思っているしね。ただでさえ、私の代わりに室町の世に行ってしまって、苦労しているだろうから」
――利吉さん。それは恐らく不可能です」
 遂に耐えかねて、といった様相で、滝夜叉丸が口を開く。――不可能? 何故?
 困惑する私の前で、滝夜叉丸は私に真っ直ぐに視線を向けた。
……利吉さん。もし、この時代に居たはずの私や利吉さんが、室町の世に流れ着いたならば。……恐らく、もっと他にも記録が残っています。伝承や御伽噺おとぎばなし、地方の民話、個人の日記。私はこの時代に来てからあらゆる記録を探してきましたが――その中に、過去から未来を見て帰ってきたと証言する記録はあれど、時空をさかのぼり過去から戻ったという証言は一切ありません。あったとしても、明らかな嘘偽りの類ばかりです」
 私は滝夜叉丸の言葉に息を呑む。
「恐らく世界を渡るのは本来一方通行で、我々がこの世界に流れ着いたその時点で、この身体の主の意識は永遠に失われている可能性が高い。……私はかつて室町の世の記憶を取り戻した際、川で溺れて病院に担ぎ込まれた事になっています。利吉さんもまた、この世界では交通事故に遭っている。ならば恐らく、この身体の持ち主はその時に既に死んでいます。持ち主に身体を返したところで、心を無くした空の器が残るのみでしょう」
 私は足元がぐらりと歪んだような心持ちで壁に手をついた。――そんなまさか。
「そもそも、人格の根幹を造るのは、記憶です。生まれながらに持つ本質は確かに存在するでしょう。ですが、人格は様々な出来事や経験を通じてつちかわれるものです。――もし貴方が言う通り、彼が室町の世に居るならば、この世界とはあらゆる常識が違う世界に迷い込んだのならば。……おそらく、この世界に戻ってきたとしても、本来何事もなく生きていた場合の彼とはまた違う人生を歩むことになる筈です。――人は異質なものを受け入れることは難しい。異なる常識に触れ、異なる倫理観に触れ、それでも何事もなく元の生活に戻れるとは、私には到底思えません。表面上は同じに見えたとしても、それは全くの別人です」
 滝夜叉丸の言葉に、私は今朝出会った善法寺伊作達を思い出す。――彼らは確かに、私の知る三人とはどこか違っていた。それは……歩んできた道のりが全く違うから。彼らの人格に影響を与える経験が、全く違っていたから。同じ関係性を築くきっかけが、出来事が、違っていたから。
「だ、だが流石に別人とまでは――! そうだ、君の友人だって! 彼らだっていつも通りだったじゃないか!」
……この世界の綾部喜八郎は、落とし穴を掘った事が一度もありません」
 認めまいと声を張り上げた私は、滝夜叉丸の言葉に息を呑む。天才トラパーとまで呼ばれ、忍術学園の至る所に数々の落とし穴を日課のように仕掛けていたという、――あの彼が?
「それどころか、今の彼は授業で草花をはちに入れる為に土をいじることさえしません。服が汚れるから嫌だと。落とし穴以外の罠も同様です。――私には、それでも今の彼が私の知る喜八郎と同じだとは、到底思えません」
 私は言葉を失う。そんな馬鹿な。それでは、彼は私が山田伝子に感じている違和感や別人に対する忌避きひの思いを常に感じたまま、友人として共に過ごしているとでもいうのか。
かつて親しかった同学年の者とは全員交流がありますが、私には誰も彼も、同一人物だとは思えません。喜八郎は勿論、三木ヱ門も――……とある有名なイカのゲームを遊んでからはFPSにハマっていますので最近は多少は火器に詳しくなりましたが――それでも子供遊びの範疇はんちゅうです。過去の彼ほどの熱意はない。本気で私のライバルとして張り合おうという気概きがいもない。守一郎に至っては、完全に別人です。彼に関しては、生い立ちが何もかも違いすぎる。……表面上変化が無いのは、タカ丸先輩くらいなものでしょうか。そのタカ丸先輩すらも、時折違和感を覚えますが」
 滝夜叉丸はうっすらと微笑んだが、陰りのある笑みを真似したいと思う者は居るまい。それは私も同じで、つられて笑うようなことは決して出来なかった。
……勿論、これらは単なる私の想像です。真実はきっと誰にもわからない。蓋で覆い隠されたサイコロの目を論じるようなものです。ですが――恐らく私達はこの世界に来た時点で、本来居るべきだった罪無き者の人格を乗っ取り、存在を奪ってしまっています。その上で元の世界へ帰るというならば、それは更に他者の想いを踏みにじる行為に他ならない。そしてこれは、当然ですが任務などではありません。あくまでも我々の、私的な目的の為の行為です。大義など何処にもない、我田引水がでんいんすいだとそしられて当然の選択です。――利吉さん。それでも貴方は、室町の世を選べますか? 帰ることを望みますか?」
 何故だろう。滝夜叉丸の表情は、無表情なようにも、強い意志を持っているようにも見えた。相反する条件が同時に存在することはあり得ない。ならばきっと、彼は己の意志を可能な限り隠そうとしているのだ。――己のいだく何かしらの感情を少しでも、隠し通そうと。
……望むよ」
 私は静かな声で返す。
――私は必ず、室町の世へ帰らなければならない。それが例えこの身体の持ち主の『山田利吉』の想いを踏みにじる事になっても、だ」
 人としての道徳観が、殺人を否定する。しかしそれは、忍者として生きてきた私には不要の産物だ。既にこの手は血で汚れている。そこに新たな血が加わった所で、なんだというのだ。
「例えそれが、親や友人を殺すものであっても、ですか?」
 静かに問う滝夜叉丸の声は、どこか哀しげに聞こえた。
「当たり前だよ。――そもそも君が言ったんだろう? この世界に生きる彼らと、私の知る彼らは別人だ。きっとこの世界は、賽の河原のようなもの。延々と石を積み続ける事になろうとも、積み上げた石を崩されようとも、その果てに元の世に帰れるなら私は甘んじてその罰を受けるさ。あのかけがえのない元の世界に、私は必ず帰らなければならないのだから」
 滝夜叉丸は静かに目を見開き、何か言いかけて、そして冷静であろうとしたのか、息を吸い込んだ。
…………利吉さん。少々厳しい事を聞きますが、これだけは聞かせてください。貴方は、元の時代に帰りたいと思っているのですか? それとも、帰らなければならないと思っているのですか? ――一見同じように聞こえても、これは全く違うものの筈です。貴方の本当の想いは、何処にあるのですか?」
 滝夜叉丸は厳しい瞳で私を見つめている。私は、迷いなく答えた。
――帰りたいと思っているよ、心から」
 即座に答えた私に、尚も厳しい視線が投げかけられる。だから私は続けて言った。
「私はあの世界に帰りたい。――絶対に帰る。帰ってみせると誓うよ。その為なら親殺しだろうと友殺しだろうとなんだろうと、必ず成し遂げてみせる。……そもそもの話、私はこの世界の山田伝子に親らしいことをしてもらった覚えもない。接点らしい接点もない。ただ数日を一緒に暮らしただけの他人でしかないんだ。親しい人間の顔をしていたからと言って、躊躇する理由もないだろう? ――私達は、忍者なんだから」
……そうですか」
 決意をつらつらと語った私とは裏腹に、滝夜叉丸は一言残し俯いてしまう。……実際、敵のしのびが親しい人間に化けるだなんて、ままあることだ。友人と敵同士になることも。だから、ただの他人相手に躊躇する必要はどこにもない。
「もし君が言う通り、『神の世のカケラ』とやらがその人によって違うものを指すと言うなら、話は簡単だ。私の――いや、この身体の持ち主の『山田利吉』の想いが宿るものを探せばいい。聞くところによれば、今の彼は同年代の友人とはあまり交流がないらしい。なら、もしカケラが人に宿っていた場合、それは家族に他ならない」
………………
「幸いにも、彼は母子家庭で、他に身内は居ないらしい。なら話は簡単だ。最も可能性が高いのは、唯一の肉親である山田伝子。――彼女を殺すか、『山田利吉』の最も大切にしていた何かを見つけて焼くだけのことさ。この身体の持ち主である『山田利吉』がもう居ないというならば、何も遠慮する必要もないだろう?」
 私の言葉に滝夜叉丸が息を小さく息を呑む。
……君には悪いけど、本当の世界を別に持つ私にとっては、この世界は偽りの世界でしかない。その中での出来事など、妄想や白昼夢の類じゃないか。それに、忍者として生きてきた以上、人を殺すのは何も初めてことでもない。だから何もかえりみる必要はない」
 滝夜叉丸が、何か言いたそうに口を開きかける。しかし私は覚悟を示す為、敢えてそれを遮って強い口調で告げた。
「だからもし、本当に山田伝子にカケラが宿っているのだとしたら、――私は躊躇いなく殺す事ができるさ」
 ――そう。かつて忍者として生きた私だからこそ言える。山田伝子を抹殺する方法など、いくらでもある。目的を遂行するために必要な知識を、私はとうに持っている。それこそ無限の手段があるのだ。付加条件があるとすれば、他人に目撃されない事くらいだろう。邪魔が入り、仕損じるような事があれば、新たな機会を伺う事が難しくなる。だが、幸いにもこの身体の持ち主である『山田利吉』は山田伝子の息子だ。つまり、目撃されずに事を為すことは、あまりにも簡単な事だった。――勿論、殺してしまった後でカケラが別のものだと判明すれば、身動きが取れなくなる。だが、カケラが確実に山田伝子であると判明さえすれば、たった千秒もあれば排除可能な程度の障害でしかないのだ。
 滝夜叉丸は、気圧けおされたように、どこか哀しげに瞳を揺らす。
――元の世界に帰れないという君には悪いと思っている。けれど、私は帰らなければならない。もちろん、他に方法があるならそちらを選ぶさ。けれど、それしか方法がないと言うなら、猶予ゆうよが残されていないなら、……躊躇などしていられない。それだけだ」
…………そう、ですね。私も、……利吉さんには、心から望む選択をしていただきたいと思っています。ですから、カケラを持つものが人でないことを、……祈っています」
 苦しげに目を伏せる滝夜叉丸に、私はつとめて優しい声で返す。
「そうだね、私も祈るよ。想いがカケラとなり世界を越えるなら、二人分の祈りがあればひょっとしたら最悪の想像を避けれるかもしれないしね。――それで、カケラというのは、どうやって確かめれば良いんだい? カケラが想いだとすれば、形の無い物なんだろう?」
 冗談めかしてそう言ってみたが、実際確かめるすべがなければ困ったことになる。『山田利吉』の大切にしていそうな物を片っ端から焼いて、その上で山田伝子を殺す? ……流石に一人で全てをやり切るのは無謀すぎる。しかし、滝夜叉丸は静かに言い切った。
――そのカケラに触れれば、必ず分かります」
 強い眼差しが、それが嘘偽りや気休めの類ではない事を示している。
――神の世の力によってこの世界に飛ばされた私達ならば、神懸かりの力の一端に一度は触れた貴方なら。元いた世界のカケラに触れれば、その気配を必ず感じ取れます。熱く、神々しい、――神の世の気配を」
「それはまた、抽象的だね」
「ですが、――触れれば必ず、嫌でも分かる事です」
 要領を得ない言葉だが、滝夜叉丸の中では確信があるらしい。つまりは、その感じ取れるかどうかも分からない神の気配とやらが一縷いちるの望みだ。
 ――大丈夫だ。私は私自身にそう囁きかける。きっと帰れる。狂った世界から、抜け出せる。だから――
「申し訳ありません。恐らく、利吉さんが元いた世界に戻るための神の世のカケラを探すことは、当事者である利吉さん自身にしかできません。……既にこの世界の人間となってしまった今の私には、時折貴方の話し相手になる事くらいしか出来ないでしょう」
「それでも助かるよ。同じ世界を知る君がいなければ、……私は『元の世界』との繋がりさえあやふやになって、己の記憶を疑う事になってしまうかもしれない。今はただでさえここが自分の住む世界ではないと錯乱する心の壊れた哀れな青年扱いされていて困ってるんだ。例え与太話であっても、同じ記憶を共有できる事は本当にありがたいよ。悪夢がその間だけ醒める心地さ」
 笑顔が自嘲気味になってしまったが、これは紛れもなく本心だ。狂いそうなほどの不安と恐怖の中で、漸く見つけた元の世界の手掛かりと、助け船となってくれる存在。それは大海原で藁に縋るようなものだとしても――それでも、私の心を軽くするものだった。
――私にはあなたの士気を保つ為、疲れた時にねぎらう程度の事しか出来ませんが、それでもお力になれるというのでしたら明日も時間を作りましょう。……とはいえ、時間と場所を変える方が良いかもしれませんね。あまり同じ時間に一箇所に集まっていれば、見咎められる可能性もありますから」
 フッと微笑みを見せる滝夜叉丸に、私は眉を寄せる。――見咎められる? 伝子に? ……いや、それとも他の人物に? 問いかけるタイミングを逃したまま、私は滝夜叉丸の言葉の続きを聞く。
「時間を変えましょう。明日の待ち合わせは午前三時。場所は――っと。そういえば利吉さんはこの辺りの土地勘が無いのでしたね。どうしたものか……
 顎に手を当てそう呟いた滝夜叉丸に、私は昼間乱太郎達に連れられて行った公園の名を挙げてみる。少なくとも人があまり来ない場所だったし、街灯も少なかったと記憶していたからだ。
「あぁ、あそこなら良いかもしれません。――では、明日の夜、そちらで」
 滝夜叉丸は苦笑してみせる。ふと、気になって私は尋ねた。
……そういえば君は、いつからこの世界にいるんだい? それに、君はこの世界で目を覚ました日、川で溺れたことになっていたと言ったけど――それより前、元の世界では何があったのか、まだ聞いていない。私と同じように、落雷に遭ったのかい?」
…………そう、ですか。……利吉さんは知らなかったのですね。――私はあの日、戦場で戦っていました。忍術学園を卒業してから凡そ三年後の事です。……大規模ないくさで、嘗ての同級生や後輩も、運良く同じ陣営に雇われていました。そこで私は――戦地に迷い込んだかつての後輩を庇って、背に八方手裏剣を受けた所までははっきりと覚えています」