nuka_boshi
2025-03-19 15:12:07
31229文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その3【シリアス死ネタ】

お助けNPCポジションである滝夜叉丸の名前回。実は前回のとまとめて1話分の予定でしたが前回のが長くなったので分割しました。とはいえ本当は滝夜叉丸の真の見せ場はもっと後の方なんだけどね。

利吉さんのバックグラウンドに関しては次回で明かされる予定です。

余談ですが本当は前回の利吉さん曇らせはもうちょっと手加減する予定でした。が、利吉さんが作者の中での絶対やってはいけない行動をスリーアウトくらいかましたので仕方なく泣く泣く曇らせました。
私は主人公の発言と行動にはどんなものであれ責任を持たせると決めているので、それが主人公視点仕方ないものだろうと書き手として良い意味でも悪い意味でも報いを与えると決めているので。

ちなみに今回のネタバレ。今回もやっぱり利吉さんが曇ります。あとついでに滝夜叉丸も曇ってます。

第三章 滝夜叉丸


 伝子の目を盗み、かわやに行くふりをして水道水で顔を洗う。泣きらした目と共に頭を少しでも冷やすためだ。
 ……この狂った世界の事など、どうでもいい。ただ、一刻も早く元の世界に帰らなければ。
 伝子が持ち込んだ書物の中から、目当ての書を引っ張り出す。――ある程度崩し字を翻訳してもらった、というのは本当だったようで、所々に誤読はあるものの、比較的読みやすい字で内容が書かれていた。
 曰く、人々にとって世界に見えるものは、より高い次元の世界ではカケラと呼ばれているらしい。私が書を読んでいるように、私が居る世界を観測する存在がいる。
 曰く、普通の人間はカケラを観測する事はできない。だが、ごく稀に高次の世界でカケラがパズルのように組み合わさった時――本当にごくごく僅かにしか起こらない奇跡が起きた時――カケラは別のカケラと混ざり合い、そこに生きる人間に、別のカケラの記憶が引き継がれる事がある。そして、神の世にあるべきカケラが人の世に零れ落ちた時――そのカケラは欠陥を引き起こし、その世界の記憶と引き換えにあり得ざる記憶を引き継ぐ事となる。
 また、神の世のカケラは、人の世に落ちた場合、その姿を変える。そして、時が満ちればその力は人の世に溶け込み、永遠に取り出せなくなる。そうしてカケラは新たなカケラとなり繁栄していくのだ、という。
 ……壮大すぎて理解しがたい話だ。カケラだのなんだのと言われても余計にこんがらがるだけではないかとすら思う。しかし、要点だけを拾うのであれば私は室町という世界から、この令和という未来の世界へ迷い込んでしまった、という事だろう。そして、戻るためには、どんな形をしているのかも分からない『神の世のカケラ』とやらを探し、それを焼き払い灰にしなければならない。恐らく期限は、八日目の夜明けまで。――そういう認識で良さそうだ。
 ……滝夜叉丸は、そのカケラが何か知っているのだろうか。いや、この世界にとどまっているということは知らない可能性の方が高いだろう。
 私は溜め息をひとつ吐き出すと、壁に掛かった時計を見た。……そろそろ、日付が変わる頃合いだろうか。それにしてもこの世界に来てから、溜め息ばかりを吐いている気がする。あぁ、でもそんなことも無いのか。そもそも元の世界にいた時だって、ここ数年は――…………考えるのはやめよう。むなしくなるだけだ。
 私は顔をあげ、そっと扉に手をかけた。
 私が既に眠っていると思っているのか、廊下は既に灯りが消えており、人の気配はない。伝子の部屋の壁に耳を当ててみれば、微かに寝息が聞こえた。――好都合だ。
 私は自室の窓を、音を立てないよう慎重に開くと、窓枠に足を掛ける。昼間の内に予め、この世界の足袋たびを二枚用意し、間に綿を詰めて綿足袋ワタタビを作っておいた。――綿が伝子の裁縫用具類を入れた引き出しにあったのは確認済みだったし、最近使用した形跡もなかったから恐らくバレる心配もないだろう。季節が夏であるため、足元が蒸れてじっとりと汗をかくことになるが、仕方ない。そのまま私は二階の窓の側に生えていた木にサッと飛び移り、木を伝って庭へと降りる。――月明かりの代わりにこの世界には眩しすぎる街灯りがあり、夜でも人に見られる恐れがある。それに、この身体の持ち主である『山田利吉』がどの程度の運動神経を有しているかも分からない。少なくとも本来の私の身体よりは遥かに軟弱だろう。そもそも本来の私とて、二年前に負った怪我の影響で本気で動くことは叶わなかった。あまりにも大きな空白期間ブランクと、そしてそもそも能力値スペックの違う肉体。だから見つからないように上手く抜け出せるかは半ば賭けのようなものだった。だが、私は賭けに勝てたのだ。
 昼間の内に庭の植え込みにこっそり隠しておいた、靴箱の奥の適当な履き物を急いで履く。――本音を言えば履き物など無くても構わないから一刻も早く待ち合わせ場所へと向かいたい所ではあったが、街明かりに照らされ、履き物を履いていない事を他人に気付かれては不審に思われる可能性もある。時間が有限だというのなら、少しでもリスクは避けなければならなかった。
 白い灯りがそこかしこに灯る夜の街を走り、私は目的地へと急いだ。

 私が息を切らせて目的地に着いた頃には、滝夜叉丸はとっくに到着していたらしい。シャッターが降りた店は、昨日の夕方に訪れた時とは随分と様相が変わって見える。眩く光る街灯から身を隠すようにして、彼はただ静かに星を見上げていた。気のせいか、その顔はどこか寂しげな、今にも遠くへ行ってしまいそうなものにも思えた。
…………遅くなってしまったかな」
 私が声をかけると、滝夜叉丸はフッと微笑んだ。
「いえ、利吉さんは時間通りですよ。ただ、私が早く来ていただけです」
 その笑みがどこか取りつくろったものに見えるのは、気のせいだろうか。私が何か言葉を探そうとすると、滝夜叉丸はそれを制するように続けた。
――それより、利吉さんにおかれましては聞きたい事が多々あるご様子。この滝夜叉丸に答えられる範囲でしたら、何なりとお答えしましょう」
 私が知る、やかましいほどに自惚うぬぼれた口調とは全く違う、静かで穏やかな、それでいて気取った口調。それが私が会わない間にしのびとしてつちかった経験によって築かれたものなのか、それともこの世界を生きた故のものなのかは分からない。だが、少なくとも彼もまた、私の知る昔のままの彼ではないという事だろう。私は慎重に言葉を選ぶ。
――君は、過去を……、あの世界のことを覚えているのかい?」
「はい。――疑いようなく」
 滝夜叉丸の返答に迷いはなかった。
「利吉さん、貴方が聞きたいのはそこではないでしょう。私より先んじてプロ忍のしての世界で活躍していた貴方にこのような言い方は失礼でしょうが――、今夜は見栄の張り合いは無しです。互いに腹を割って話をしようではありませんか」
 穏やかな声音とは裏腹に、その瞳に強固な意志を宿して滝夜叉丸はそう言った。