【花攫い】人外×人間詰め合わせ【其の参】

Xでお見かけした素敵設定に多大なるインスピレーションを受けております。
ジャンル別人外×人間で統一、ノリと勢いでどうぞ。
※クロスオーバーものでは御座いません※
長月 菊→繰繰れ!コックリさん・コクこひ
神無月 彼岸花→深夜廻・深夜廻山の神×ユイ
霜月 紅葉→スマイルプリキュア!・アカやよ
師走 椿→令和のダラさん・ダラ日
???月 プルメリア→モアナと伝説の海2・マウモア前提のタマモア

前の季節→ https://privatter.me/page/67d2b3e5a2fc1

【タマモア】大海嘯

???月 プルメリア 攫われる人→モアナ・ワイアリキ

不意に鼻を掠める小さい頃から身近に咲いていた花の香りがモアナの海底に沈んでいた意識を引き上げる。
硬く閉じて開くのを拒んでいる二枚貝の如き瞼に力を籠め続け何度目かで漸く目を開けた。
「ここは?」
横たわっていた体を起こし、ぼやけた頭で周囲を見渡す。
視覚から得た情報をもとに回り始めた頭が今自分がいる場所はプルメリアの群生地のど真ん中にいるらしいと結論付けた。やっと本調子が戻ってきた思考を巡らせつつ、腰を上げたモアナがその場で首を捻り更なる情報収集に勤しむ。
少なくとも記憶にない見覚えのない場所、ということが新たに追加された、が。もしや単純に忘れているかもしれない疑念がモアナの目を微かに泳がせるもすぐに収まった。何故か収まってしまったのだ。
海?」
視界を埋め尽くす萌える緑に映えるプルメリアの淡い色彩に紛れ遠くから聞こえる潮騒。
心惹かれてならない海の呼び声がモアナの足を突き動かす。プルメリアの茂みをかき分ける彼女の左腕に刻まれた金糸の刺繍が葉や花びらに触れる度、指先から弾け飛んだ煌めく光が葉と花びらに移り金色に染まった。
モアナが歩いた後に伸びる朝焼けを追う深海から這い上がるような笑い声が彼女の背中を舐めあげる。
だが、モアナの耳には姿の見えない友の声しか届いておらず、緑の地面が抉れプルメリアの枝が折れる悲鳴が彼女の鼓膜を震わすことは無かった。
殆ど目と鼻の先まで近付いた波打ち際の気配にモアナの顔が期待から綻び、最後の茂みをかき分けた瞬間困惑気味に眉尻を下げた。
どうして……
本来あるべき潤いが無い水平線の先まで広がっている干上がった海。乾ききった砂の底を晒す光景にモアナの曇っていた瞳が光を取り戻す。
無理矢理抑え込まれていた違和感の数々にたじろぐモアナの脳裏に過る──、闇に飲み込まれる故郷モトゥヌイと愛する両親。そして、可愛らしい妹が恐ろしい事を口走り蝙蝠の姿になっていく悪夢のような光景。
「そうよ。きっとこれも私が見てる夢、」
「って思いたいところ悪いが、嬉しいことにコイツは夢じゃない」
弱気になっていた心を鼓舞するのも含め自分に言い聞かせていたモアナに被せてくる明るい口ぶりにモアナは身を強張らせ振り返った。
今まで気付かなかったのが嘘のように間近まで距離を詰めていた伝説の蟹──、タマトアが上から覗き込み出来た影でモアナの左腕に彫られたタトゥーの輝きが一層際立つ。不揃いなタマトアの瞳孔が彼女が放つ金色を映し込み、うっとりとした生臭い溜息を零した。
「噂以上のシャイニーだ。まさに俺の甲羅を飾るに相応しいおあつらえ向きのな」
湿ったタマトアの視線から隠すようにモアナが左腕を背中に回す寸前、タマトアの巨大な鋏が彼女の細い腰を絶妙な力加減で挟み自身の目の前まで持ち上げた。それでも必死に隠す素振りが大変面白いらしく顔を顰めているモアナと対照的にタマトアは終始嘲笑する、

「アッツ!?」

筈だった。
突如モアナの金色に彩られたタトゥーの先端から青白い火花が飛び散り、瞬く間にタマトアの鋏の一部分を焦がした。焼き焦げた熱の痛みで鋏が緩むのを逃す事無く、するりと抜け出したモアナの左腕が白い砂浜に触れるなり金色に交じり合っていた空色が彼女を中心に広がるや否や干上がっていた海が轟音を響かせその巨体を満たした。
そして、タマトアの巨体すら飲み込むほどの津波を突き抜ける甲高い鷹の鳴き声と共に釣り針で波を割ったマウイが怒りの形相で現れた。
「これはこれはご執心で過保護な友がド派手に登場してくるとは恐れ入る」
「マウ、イィィイッ!?」
頼もしい筋肉ムキムキデミゴッドの登場に喜色満面の笑顔を浮かべていたモアナの細い腰に今度は釣り針が引っ掛かり勢いよく引っ張られ彼女の上擦った声の尾が伸びていく。
まさに一本釣りされたモアナが逞しいマウイの腕に抱き留められたと思えば、鋭い鉤爪に鷲掴みされた状態で急上昇する疾風に彼女は目を反射的に閉じる他無かった。
歪に切り裂かれた空の隙間目掛け飛び続けているマウイの鋭い目がタマトアを一瞥した視線が鷹揚に物語る。
「次はない、ねえ。もっとも次は嬢ちゃん離れ出来ない輩に見つからないよう上手く攫うだけだぜ?」
とっくに逃げ果せた二人の消えた紛い物の空に向かって語り掛けるタマトアは暗がりに飲まれ始める世界で怪しくその身を発光させ、薄気味悪い笑い声だけを残して自らもまた闇に溶け込み消えていった。