【花攫い】人外×人間詰め合わせ【其の参】

Xでお見かけした素敵設定に多大なるインスピレーションを受けております。
ジャンル別人外×人間で統一、ノリと勢いでどうぞ。
※クロスオーバーものでは御座いません※
長月 菊→繰繰れ!コックリさん・コクこひ
神無月 彼岸花→深夜廻・深夜廻山の神×ユイ
霜月 紅葉→スマイルプリキュア!・アカやよ
師走 椿→令和のダラさん・ダラ日
???月 プルメリア→モアナと伝説の海2・マウモア前提のタマモア

前の季節→ https://privatter.me/page/67d2b3e5a2fc1

【ダラ日】どんな姿でも

12月 椿 攫われる人→三十木谷日向

意識朦朧夢うつつ。悴む手足の熱が無音の白に吸われる度、瞼の重みが増え吐いた息が小刻みに波打ち虚ろな瞳が白銀の世界に溶け込めない鮮やかな彩を宿す。上手く働かない歯車が嚙み合わない思考回路。
際立つ艶めく深い緑と息を飲む赤に引き寄せられ覚束ない足取りで一本だけ生えている椿に近付いた。しんしんと降り積もる雪の中でたった一輪咲き誇る姿のなんと健気で可憐なことか。
鈍色の空気に晒され赤くなった耳の縁や鼻先を馨しい幻が労わるように撫で擦る。熱を持たないただ触れられている感触が何処となく女性の指先だ、と日向が薄く開いた口でぼんやり呟いた。
刹那、脳内に立ち込める霧の濃さが増し周囲の気温が一気に下がった。通常であれば首を竦め自分自身を掻き抱き、じっとしていられない程の凍てつく寒さ。なのに日向は身動き一つ取らずにただ目の前の椿を食い入るように見ていた。

──さあさ 私をその胎へ

頭蓋奥で反響する妖艶な若き女性の声。五感をじわりじわり蝕み包み込む薄衣。日向の生気を奪い正常な判断を下させまいと阻害する胸焼けを催すほど夥しく生々しい“女”の臭い。悍ましい執着と自己陶酔塗れの紅潮した面相とギラついた目の三日月が日向を嘲笑う。
血の如く赤き満開の椿に触れるか触れまいか。躊躇っている少女の手を揺蕩う水面のように曖昧な輪郭を保つのがやっとの手で誘う。

──朱き花を食み 腑に収めなさい

鬱陶しい監視の目を掻い潜り仕掛けた罠に漸く掛かった獲物をみすみす逃してなるものか。
内側から魂を喰らい成り代わり自分にとって道具にしか過ぎない忌々しい存在に絶望を与え、慕い続けた想い人の血を引く子を孕む。
その一心で椿は日向を異界に閉じ込めた。憐れみも同情も無い。全ては憎き取るに足らない妹への復讐が彼女の行動理念かつ原動力であり。

「煩い」

唯一の寄る辺だった。
曖昧な椿の手を払い除け睨み上げる碌な対抗手段を持たない矮小な存在である日向に彼女が苛立ちを募らせるのは至極当然の事であった。
虚ろだった日向の瞳が怒りに燃え滾り、それを睥睨する椿の眼光は何処までも冷たい。生意気の一言で切り捨てるには足りぬ、自分の思い通りに物事が進まない椿の憤りが吹雪となって吹き荒れる。
椿の意識が乱れた弊害かはたまた僥倖か。あれだけぼやけていた思考が明瞭になるにつれ体の自由が戻ってくる感覚に日向は少しだけホッとしていた。
「(まあ、全然絶体絶命のピンチに変わんないけど)」
この状況から脱する手立てがないか頭をフル回転させる。あわよくば反撃出来れば尚良し案件だが、如何せん肌身離さず所持しているお守りが無い状況下で何処まで出来るか定かではない。
「嗚呼、嗚呼憎い憎たらしい……
直接脳内に響いていた恨みがましい椿の声音が日向の鼓膜を震わす。
激情を顕わにしている整った見目麗しい椿の美貌が歪む様に日向の眉間に渓谷が刻まれた。
「聞きたかったんだけど、なんでダラさんのねーちゃんなのにダラさんに酷いことしてきたわけ?」
声を掛けずに逃げた方が生存確率が上がったかもしれない。そんな考えが浮かぶ前に日向の口から出た疑問は、椿のスッと日本刀のように鋭く細められた目に剣吞な光を宿らせるには十分だった。
「何故? 何故とな? あの女は私の手足、私の道具、私の部品。私のために生かしてもらえるだけの存在、それ以外に意味などありやせぬ」
……でも、お姉ちゃんやろ
「ええ、ええ。だから私が有効活用するため──」

「お姉ちゃんは弟や妹を守るもんじゃろがいっ!!」

周囲の吹雪を押し退ける日向の叫ぶ声が椿の濡羽色の髪を靡かせる。
腰元まで伸びている椿の髪が落ち着くまでの間、子猫が頑張って威嚇しているに近しい日向を見詰めた椿がくつくつと喉奥で笑い仕舞いには天を仰ぎ大笑いし始めた。
白銀の世界に響き渡る嘲笑いは、徐々にしじまに溶け込み憐れみ満ちた嘆息が一つ零れ落ちた。
「なんと無知で愚かしく愛らしい咆哮で御座いましょう」
端から対話をする気なぞ毛頭ない馬鹿にした言動に日向の眦がつり上がる。
無音の世界だからこそ日向が固く拳を握りしめる音に椿の妖艶な面貌が殊更楽しげに綻ぶ。
だが、このあと為す術も無く魂と心を喰われる運命だというのに尚も諦めない屈託のない強い光を宿す疎ましい瞳に椿の表情から笑みが消え失せた。
「もう終わりにしましょう」
興が冷めたと云わんばかり椿が日向に手を伸ばしたのと赤い花が真っ白な雪の上にボトっと落ちたのはほぼ同時だった。
椿の意思に関係なく高度が下がる視界。まるで時間を置き去りにした緩慢な動きでぎょろり椿の瞳がおどろおどろしい畏怖を纏う嘗ての妹の姿が映り込む。
顎が外れても構わない勢いで椿が口を開け怨恨塗れの呪詛を吐き出す寸前、異空間を切り裂き現れた異形の祟り神は未練がましく首だけになっても爪痕を残そうとする嘗ての姉を強大なる力で消し去った。
立ち昇る焼き焦げた臭いに顔を顰めることなく、自分を助けに来てくれた喜びで満面の笑みを浮かべる日向を三対の腕でダラさんはその小さき身を抱き寄せた。
「すまんな日向。儂が傍に居ながらこのザマじゃ……
「ううん、平気。だってダラさんウチのこと助けてくれたじゃん」
陽光が差し込み凍てついた世界を溶かしていく柔い暖かさに日向は目を閉じ自分を迎えに来てくれたダラさんに身を委ね無意識に緊張で張り詰めていた意識の糸を解いた。
途端、力の抜けた少女の身体を難なく抱き上げたダラさんは腕の中で眠る日向を安堵した面持ちで見下ろし異空間を切り裂いた割れ目にずるりずるりと大蛇の下半身をくねらせ彼女と共に現世に還りついたのだった。