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わからん
2025-03-10 23:09:23
74988文字
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くさひぐ
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【篤寛】Nobody's Son
本編後IFなギスギスくさひぐシリーズ第三弾(長編)です
例によって捏造祭り・日下部が日車のみならず行く先々で色んな人とギスりまくってます
・日下部が日車を迎えに行く話(
https://privatter.me/page/678cf22a6e58f
)
・とそのおまけ(
https://privatter.me/page/6795bb0def0b2
)
とお話が繋がっているため、先にこちら2つを読むこと推奨です
※死亡表現ではないもののそれに近しい表現・暴力・流血・ゴア描写あり。ゴア表現においてはショッキングな描写が続く(特に4p目)ため、苦手な方は充分にご注意ください。
1
2
3
4
5
6
7
2.
「説明しろ」
学長室に入るなりそう切り出した日車を見上げ、日下部は書類に目を戻した。目の前の体は動かない。黙り込んだまま立ち続けており、日下部も無視せざるを得なくなった。
「何の話だ」
「とぼけるな。不合格だと」見上げた日車の眉間には皺が寄り、彼自身の不満を如実に表していた。「昇級試験は合格だと昨日言っていただろう。一級への推薦も取りやめるとは、どういうことだ」
溜息をつきながら眼鏡を外す。わざと音を立てて書類をデスクに叩きつけ、仕事の邪魔をしやがってとぼやきながら睨むも、日車は眉ひとつ動かさない。
「わざわざ説明しないとわからねえか」
「俺はそう言ったつもりだ」
「
——
昨日、俺が同行した二級呪術師への昇級試験は不合格。帰りの電車で伝えた一級推薦の件も取り消しだ。どっちもお前の実力不足が理由。簡単だろ。以上だ」
「説明になっていない」
食い下がる声がわずかに震えていた。「昨日は約束すると、」
「んなもん破棄だ。お前にはまだ単独任務を任せられない」
「日下部
——
」
「本当にわからねえのか。日車」
追及の声が止む。
日車は唇を噛み締め、激情をこらえるように肩を震わせていた。やがて唇を開くと深く息を吸い、掠れた声で答える。
「
……
電車で遭遇した式神か」
「どうしてそう思った?」
「とどめを刺したのは君だ」
「そこじゃねえよ。俺が式神をぶっ潰したとき、お前は何してた」
日車は再び沈黙した
——
彼なら答えはわかっているはずだ。黙り込んでいるのは問いに対する解を探しているからではなく、答えを口にした瞬間に、自分の非を認めることになるからだ。そして、彼はだんまりを決め込んで有耶無耶にするような性格ではないと、日下部も知っている。
「
……
動けなかった。君に追いついた後も、まともに」
はっきりとした声色で日車が答えを告げた。
正解だった。わかってんじゃねえかと呟き、日下部は椅子の背もたれに体を深く沈み込ませる。
「お前をこっちに連れ帰ってきたとき、呪詛師の対処を任せたいと俺は言ったはずだ。
……
電撃で追い詰めたのは見事だったが、その後すぐに反転術式のせいで動けなくなったよな。たかが式神相手にあんな有様じゃあ、呪詛師退治なんぞ任せられねえよ」
反論は無かった。日下部は書類と眼鏡を手に取り、話は以上だと言い放つ。
「お前はまず反転術式に頼らない戦い方を覚えろ。あとは体力な。
……
わかったらとっとと出てけ、日車三級術師」
長い沈黙があった。日下部が顔の前に掲げた書類越しに、目の前に立っていた体が動く。心なしか普段よりも荒々しい足音を残し、日車は部屋を去っていった
——
「あれっ、日車じゃん。久しぶり」
第三者の声が廊下から聞こえ、日下部はドアの外に視線を向けた。
生徒や外部の呪術師が入りやすいように
——
あるいは日下部が仕事を放り出していないか補助監督が監視するために
——
学長室への扉は常時開放している。虎杖の声だと日下部が気付いた瞬間、廊下から腕が伸びて扉のドアノブを掴み、ばたんと勢いよく閉めた。一瞬の出来事だったが、おそらくは日車の仕業だろう。ふんと鼻を鳴らし、書類に目を戻す。
それから数分の間は扉越しに二人の話し声が漏れ聞こえていた。やがて一人分の足音が遠ざかり、学長室の扉がノックされる。
「失礼しまーす。お疲れさまです」
「おう。お疲れさん」
「ここ開けとく?」
扉を前後に揺らしながら虎杖が言う。
日下部は頷きかけたが、首を横に振った。「閉めてくれ。話がある」
うす、と答えて扉を閉めた虎杖は左脇に紙の束を抱えていた。それを日下部のデスクの脇に置くと、彼は応接用のソファーに腰掛ける。目の前のテーブルに置かれた菓子入りのバスケットを指差し、日下部先生、と陽気な声で言う。虎杖が置いていった書類を一枚ずつめくって確認しながら、なんだと返事をした。
「腹へったから一個もらっていいすか」
「見てわかるだろ食いしん坊。そいつは来客用だ」
「先生もこっそりつまんでるのに?」
虎杖の指摘に、デスクの上に散らかっていた菓子の包装を引っ掴んで足元のごみ箱へ叩き込む。その間に虎杖はビスケットの袋を開け、口の中に放り込んでいた。
「夜蛾学長ってすごかったんだなー
……
」
虎杖の独り言から懐かしい名前を聞き、顔を上げる。
「
——
夜蛾さん? すごかったって、何が」
「目の前にこれだけのお菓子があっても、絶対に手を出さなそうだから」一つだけと言っていたはずの虎杖は一口チョコレートの包装を剥がし始めている。「もし俺が学長だったら、この量のお菓子は二日でひとつ残らず消えると思う」
中身の無い話題に思わず溜息をついた。「幼稚だな、お前」
「一日で食い切るのはさすがに申し訳ないから、せめてもの罪滅ぼしで二日っす」
日下部は書類の角を整えてデスクの上に置き、眼鏡を外しながら椅子から立ち上がった。虎杖と向かい合うように反対側のソファーへ移動して腰掛ける。チョコレートを奥歯で噛み砕きながら、焦茶色の丸い目が日下部を見上げてきた。
「さっき日車に会ったんすけど」
「知ってる。外で話してただろ」
えっ、と虎杖の目が丸く見開かれる。「もしかして丸聞こえだった?」
「いいや。声が聞こえただけで、中身までは何も」
バスケットには様々な種類の菓子が入れられている
——
ビスケット、バウムクーヘン、チョコレート、おかき、まんじゅう、等々。最後に目についたまんじゅうを摘み上げ、包装を剥がして口の中に放り込む。犯行現場を目撃してしまった、と虎杖が日下部を上目遣いに見上げながら呟いた。
「なに他人ヅラしてんだ、お前も共犯だろ。食った分は適当なのを買ってきて、こっそり補充すればいいんだよ。で、あいつとは何を話してたんだ」
「話してたっつーか、日車のやつ、めちゃくちゃブチギレてましたけど」
喧嘩でもしたんですか。虎杖の問いを鼻で笑い飛ばす。
「ミスを注意しただけだよ。お前相手に大人気ねえな、あいつも」
「あー、それで。怒ってたけど同時に落ち込んでたっていうか、自分のせいだからどこにもぶつけられないって感じだったから」虎杖の指先がバウムクーヘンを摘み上げる。「
……
昇級試験に落ちたって聞いたけど」
「ああ、落とした。それで納得できねえって、さっきまで殴り込みに来てたんだ」
「なんでですか」
びりびりと音を立てて袋が破かれ、静寂が下りた。
虎杖は菓子に指先を押し当てたまま、日下部を正面から見つめ返している。
「一級への推薦はともかく、単独任務が許される二級までの昇級はいいんじゃないすか。
……
三級から上げもしないのは、本人の実力にも合ってないと思う」
「日車にでも頼まれたか」
「えっ?」
きょとんと日下部を見た瞳がきっと吊り上がり、ひでえと大声を上げて虎杖が身を乗り出してきた。「先生、性格悪すぎ! 確かにめちゃくちゃ不満そうにしてたけど、日車はそこまで腹黒じゃない
——
」
「悪い悪い。疑いすぎた」
両手を挙げて降参の意を示す。もう、と頬を膨らませた虎杖がソファーに座り直し、バウムクーヘンを口の中へ放り込んだ。
「マジでひどい。先生から見た日車ってそんなにヤバいヤツ?」
「そこまで思ってねえよ。ただ、あそこまで怒ってるのは初めて見たから」
「俺もっすよ。だって、今の日車の立場は理不尽すぎる」
虎杖の瞳を見つめ返し、日下部は胸の前で腕を組んだ。虎杖の眉間には皺が寄っていたし、口元は歪み、大きな丸い瞳は日下部への非難に染まっていた。
「お前、怒ってんのか」
日下部の言葉に瞬き、目蓋の奥に隠れた瞳からは、一瞬にして怒りの感情がかき消えていた。眉間の皺も歪んだ唇からもふっと力が抜け、身に纏っていた怒気が霧散する。
「別に、どっちでも」淡々と告げた虎杖が斜め下に目線を逸らした。「先生の判断なら正しいんだろうなーとは思ってるし、先生が決めたんなら俺がどうこう言える立場じゃないし」
「不満だらけじゃねえか」
「素直なのが俺の取り柄らしいし?」
膝の上で頬杖をついた虎杖がまんじゅうを掴むのを黙って見送る。虎杖は先ほどの日下部と同じように一口で咀嚼し、小声でうまいと呟いた。
「
……
お前さ、五条に似てきたんじゃねえの」
え、と虎杖が再び目を瞬かせた。「どこが」
「その食えねえ態度とか
——
」
「無理無理。俺は五条先生ほどマイペースになれないもん」日下部の話をあっさり両断した彼は、そう答えて唇の端に笑みを浮かべた。「急にどうしたんすか。五条先生の名前を出して」
「そういうとこなんだけどな
……
」
「
——
で、先生からの話って?」
頬杖をついた腕を下ろし、膝の間で緩く指を組んだ虎杖が、日下部の顔を見上げる。
世間話はこれで終わりらしい。体を乗り出した姿勢の虎杖とは対照的に、日下部はソファーへ体重を預ける。革張りの古いソファーがぎしりと音を立てた。
「最近、日車と手合わせしてるって聞いたが」
「うん。日車から頼まれた。対人の戦い方に不安があるから、暇なときに付き合ってほしいって」
「頻度は」
「週に一回
……
多くても二、三回が限度かな。俺も日車も忙しいし
——
」
「ならいい。お前、あいつを怒れるか」
「
……
おこ
……
?」
案の定の反応だった。再び目を丸くした虎杖から視線を逸らし、やはり時期尚早だったかと後悔の念が早くも込み上げてくる。
「えーっと
……
怒るって、何で?」
「反転術式に頼りすぎてるんだよ、あいつの戦い方が」
「あー
……
」
同意の相槌らしかった。指先で頬をかいた虎杖の口元には苦笑が浮かんでいる。
「俺も昔、先生にめちゃくちゃ怒られたなあ。けど、それなら先生から日車に、直接言えばいいじゃないすか」
「俺が言うと余計に臍を曲げる」
「こっちから伝えても同じ反応だと思う。やっぱ先生から言ったほうがいいっすよ。先生が本気で怒るとマジで怖いし」
「そういう問題じゃねえ。日車はお前のことを特段気にかけてるようだし、これ以上の適役はいないだろ」
「うーん。それなら言ってみるけど」
随分と煮え切らない返事だった。思えば、ここまで食い下がったのも虎杖らしくない態度である。
「心配してることでもあるのか」
「日車って、たまに勘が鋭いときがあるじゃないすか。俺から伝えたところで『今のは日下部のお節介だな』とか言ってきそうで」
「
……
あー
……
」
今度は日下部が唸る番だった。虎杖がはっとしたように右手を振る。
「もちろん、俺も日車の戦い方は心配っすよ。手合わせ中も自分の体を大事にしてないっていうか、攻撃を食らって動きが鈍ることを恐れてない。反転ですぐに治せるからどうでもいいって感じで
……
。俺がそういう風に教えちゃったところもあるし、だから俺がいきなり言ったところで、とは思われそう」
「お前が唆した犯人か」
「えっ、いやいやいや」がっくりと肩を落とした虎杖が、首を左右に振って否定する。「違う違う違う
……
たぶん。等級が上のほうの呪霊や呪詛師に対しては、俺もそういう戦い方をすることがあるって、日車にポロッと言っただけで
——
」
「お前、特級だろ。お前と日車は違う。自分の立場で教えんじゃねえよ」
言い放った声が予想以上に険を帯びており、苛立ちが含まれていることに、日下部は遅れて気付いた。虎杖も同様だったらしい。怪訝そうに日下部を見上げ、やがて目を伏せて頷いた。
「
——
すみません」
「
……
。いや、悪い」
日下部は深く息を吐きながら足を組み、努めて平坦な声で悪い、ともう一度呟いた。
「反転頼りの戦略も場合によっては最良の判断になり得る。あいつはその区別がついてないだけだ」
「俺がちゃんと教えてれば」
「お前も昔よりましになっただけで、ほとんど区別ついてねえだろ。そんなので他人に教えられるわけないだろうが」
「
……
うす
……
」
「自覚あったのかよ
……
」
虎杖が膝の上に両肘をつき、顔の前で両手の指先を合わせて溜息をついた。「やっぱり、先生から日車に言うべきっすよ。俺じゃあ説得力ゼロだもん」
「俺はお前らみたいに反転を使えねえぞ」
「だからこそっす。反転術式は便利だけど
……
そのぶん、自分の体とか命を、雑に扱ってしまうから」
ねえ、先生。腕を下ろし、背筋を伸ばした虎杖が日下部を見つめて言った。
「俺の等級が特級に引き上げられたとき、先生が何て言ってきたか、覚えてますか」
問いの意図がわからずに首を捻る。そもそも、虎杖が総監部によって特級呪術師に指定されたのは何年も前の話で、当時の出来事はほとんど忘れかけている。
「先生、見たこともないくらい機嫌が悪かったんすよ。何で嫌そうなんだって俺が聞いたら『絶対におかしい、お前が特級になるには早すぎる』って」
「
……
俺が?」
「そうっすよ。あのときはショックだったなあ。強い呪術師だって総監部から太鼓判を押してもらえたーって俺はすごく喜んだのに、一番喜んでほしかった先生が、全く嬉しそうじゃなかったから」
眉を下げて寂しげな顔をしたが、虎杖はすぐに微笑を浮かべて話を続ける。
「
——
先生は、俺をシンボルだって」
虎杖の両手が、膝の間で固く握り直される。
「両面宿儺の元器でとどめを刺した呪術師が東京で活動してて、呪霊と呪詛師を狩りまくってる
——
そういう話を流すだけで呪詛師に対しては抑止力になるし、総監部も体面が守られる。俺の存在を呪術界に知らしめるためだけに等級を引き上げたんだって、先生は怒ってた」
虎杖の話を聞いているうち、徐々に記憶が呼び起こされてきた。確かに、そんなことを彼に言った気がする。
当時
——
両面宿儺との決戦を終えた直後
——
は総監部と呪術高専の体制が崩壊しかけた瞬間を狙って、呪詛師による襲撃が頻繁に発生していた。
一級呪術師だった虎杖を、特級呪術師に任命する通知が総監部から届いたのはそのさなか、彼が呪術高専を卒業する直前だった。理由を探るなと言われるほうが無理な話だ。とはいえ、虎杖の気持ちを尊重してやれなかった後悔を思い出し、日下部は首を振る。
「
……
今のお前は充分、特級をやれてるよ」
「そうすか? それなら嬉しい」
照れるなあと虎杖は束の間笑った。
「でも、当時の俺は幼かったから
……
。けっこう本気で落ち込んで、なんで喜んでくれないんだよって、先生にもきつく当たったと思う。
……
えーっと、何の話だったっけ」
「お前が日車の説得を引き受けたくないって話」
「そうそう。つまり
——
先生の言葉はいつも本気で、丁寧だから。実力に合ってないとか、お前死ぬぞとか、全部本気だって伝わってくるんすよ。ああ、先生は俺のことが心配で、大切に思ってくれてるから、絶対に死なせたくないんだって」
自身の眉間に皺が寄るのを日下部は感じた。反射的に虎杖の話を遮りたくなったが、それは適切な反応ではない。
……
第一、照れ隠しだとすぐに見抜かれる。
「だから、先生の頼み事でも今回のは聞けない。日車のことが心配なら、先生から直接言ってやってください」
虎杖が言い切ると同時に、授業の終了を告げるチャイムがスピーカーから鳴り出した。壁の時計に目をやった虎杖はバスケットに手を突っ込み、ビスケットの袋を開けて口の中へ放り込む。リスのように膨らんだ彼の右頬を眺めながら、日下部は深い溜息をつきながら天井を仰ぐしかなかった。
「お前に正論で論破される日が来るとは
……
」
「先生、もしかして日車と話すのが恥ずいの?」虎杖がくぐもった声で言う。「めちゃくちゃ嫌そうじゃん」
「んなわけねえだろ。少し苦手なだけだ」
「なんで?」
じっと黙り込み、口を開く。
「何を考えてるかわかりにくい」
「そうかな。けっこうわかりやすいよ、落ち込んでるときなんかは特に」
「俺の前では隠しやがる」
「へえー。大人って大変すね、本音で話せなくて」
「馬鹿言え、お前ももう大人だろうが」
「へへっ」と笑いながら虎杖が立ち上がった。テーブルの上に散らかっていた菓子の包装を集め、日下部のデスクにあるごみ箱へ押し込む。彼の動きを目で追いながら、日下部も立ち上がった。
「授業か」
「そ。本当は猪野さんが担当してるんだけど、任務で出られないから俺が代わりに」
「そうか。悪いな、よろしく頼むわ。
——
虎杖」
両手を叩いた虎杖が扉へ向かっていく。その背中を見送り、ふと呼び止めた。ドアノブを掴んだ手が離れ、くるりとこちらを振り返る。
「なんすか、先生」
——
眉間と口の端の傷は、彼が学生の頃に負った傷だった。
それ以外
——
頬や額、服の隙間から覗く首筋の傷はその後に負い、治しきれずに残ってしまったものだ。いずれも呪詛師による攻撃だったと記憶している。
虎杖のみならず他の呪術師、無論日下部自身も、両面宿儺との戦いの決着が、呪術師としての活動の終わりではなかった。消えない傷はこれからも増えていくだろう。呪霊と呪詛師の脅威は未だ続き、先の激戦で戦力を削られた今のほうが、より過酷だと言えるのかもしれない。
それでも、彼らはよく、笑う。
若い世代の呪術師は上の世代とは違い、人同士の繋がりを尊重している。虎杖が猪野の代理で授業へ向かうように、互いの負担を分配して仕事や任務を回しているのもその一例だろう。
日下部が若い頃の呪術界は実力主義、個人主義が大前提だった。現在の上層部もその頃のまま、従来の凝り固まったステレオタイプで物事を思考する老人たちばかりだ。対して、今の若い世代はその逆を行く。ひとつのゴールへともに向かい、ときには助け合う
——
それは今の呪術界を支配する閉塞的な環境を、打破するきっかけになるのではないだろうか。
それを皆に教えたのは、もうこの世にはいない人物だ。しかし、彼が蒔いた種は教え子たちの中で着実に育ち、そしてさらに下の世代へと受け継がれていく。
それを見守り、ときには助けに入って導いていくことが、彼らより上の世代である自分たちの役割だと、日下部は信じている。
「
……
飲みに行くか。今度」
日下部の言葉を聞いた虎杖の顔に満面の笑みが広がっていった。
「伏黒と釘崎も一緒にいい?」
「おう。後でこっちの予定を送るから、お前らでうまく調整してくれ」
「よっしゃ。了解!」
敬礼し、勢いよく扉の外へ飛び出していく。と思えば足音が戻ってきて、扉の隙間から虎杖が顔だけ覗かせた。
「せっかくだし、伏黒の特級認定祝いも一緒にしたいんすけど」
「ああ
……
そういやそうだったか。いいぞ」
「ありがと。
——
行ってきます、先生」
——
堪えるのに失敗した。苦笑がこぼれ、咳払いをして誤魔化しながら片手を振る。
「早く行け。遅刻すんなよ、虎杖先生」
彼が歯を見せてにっと笑った。「当然!」
足音がばたばたと遠ざかっていく。
静寂が戻ってきた部屋の中央で、日下部はしばしの間立ち尽くしていた。
虎杖との会話、日車との会話。これからすべきこと。
深呼吸をひとつ。それからデスクに戻り、仕事を再開した。
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