悠久なる想いは甘く微笑む

MHRウ教×ハ♀。夫婦/相思相愛。
2025年のバレンタインネタ。

仕事を終えて軽やかに帰路につくウを迎える、甘い香り。



調理台にて、ウツシと同じ棚の場所にオトモたちからのチョコレートを大切そうに置いてから、引き続きチョコレートを相手に頑張る、娘の後ろ姿。

毎年恒例の大好きな光景を、ウツシは卓袱台の側で足を崩して座り、オトモたちに囲まれながら穏やかに見守り続ける。

(結婚前から、毎年……本当にありがとう、愛弟子……)

ちらりと、彼の視線が調理台近くにある洗い場の方へ滑った。

視線の先には、花瓶に生けられ優しく咲き誇りながら、自分と同じように娘を見守る、想いの花束。


──キミを、愛してる……

──これからもずっと、誰よりも……


春より温かなウツシの、馥郁ふくいくたる想いの香りが、格子窓からひやりと流れてきた風に乗る。

それと調和し、やがて上書きするように屋内にふわりと立ち込めた、甘い、甘い、穏やかな今日を象徴するチョコレートの香り。
火が通ってふっくらと焼き上がり、食欲をそそる、甘美な匂い。

丸い大皿に焼き上がったそれ・・を乗せた娘は、調理台で何やらこまごまと手を動かした直後「むむぅ」と低く、悩ましげに、菓子職人さながら喉を鳴らした。

「ちょっと……うーん、読めるかな……まあ、いっか! えへへっ、できたー!」

大皿を両手で持ち、ようやく娘も畳の間、卓袱台の前で足を崩して座って待っていたウツシと、オトモたちの元へ駆け寄って行く。
夢中になって足がもつれたり、躓かないよう、ハンターらしく気を付けながら。

「お待たせしましたー! ウツシさん! オトモのみんな! いつもありがとうございます! 今年も、これからも、ずーっと大好きですよ!」

ことん、と卓袱台に大皿が乗せられた瞬間「わああぁっ!」とウツシが、「ニャアアッ!」とアイルーが、「ワウッ?」とつられたようにガルクが、それぞれの歓喜と驚きを声に込める。

大皿にどっしりと鎮座する香ばしいチョコレートケーキには、桜色のチョコレートで細く、カタカナが綴られていた。

ハッ ピー
バレ ン タイ ン!

「──読めます、か……?」

不安げに呟いた娘に顔を向けたウツシが「もちろん!!」と高らかに断言する。

その表情は、喜びと幸せがきらきらと射し込む春の陽射しのような、爛漫と咲いた笑顔。

「ハッピーバレンタイン、愛弟子!こちらこそ、いつも本当にありがとう!! これからもずっと! ずぅーっと愛してるよ!!」

想いが弾けて心音が高鳴るウツシの体は、不思議と勝手に動いた。

「わ、あっ」

娘の驚声にやはり愛おしさを感じながら、彼はオトモたちの視線がある中でも、最愛の彼女を優しく正面から抱きしめた。

そのまま流れるように「だぁいすき」と重ねて囁きながら、ウツシが娘の頬にそっと、触れるだけの口付けを贈る。

逞しい夫の腕の中、柔らかく、厚く、熱い彼の唇の感覚に、二人きりの時のように、娘の体はまた縦に跳ね上がった。

「あ……も、もう! ウツシさんっ、みんな見て……!」
「えへへ、ごめんね、我慢できなくて! 本当にありがとう、愛弟子! 来年もまた、こうして素敵なバレンタインが過ごせたら嬉しいなぁ!」
「ふふふっ、はい、もちろん! 来年は何のチョコレートのお菓子にしましょう? 考えておいて下さいね?」
「うん、うんっ! 楽しい悩み事、嬉しいなぁ!」

夫婦となって数年経っても、ウツシと娘はまるで恋を始めたばかりの、相手を愛する日常にあふれた恋人たちのようで。

チョコレートより甘い甘い眼差しと言葉を交わし合う、そんな夫婦を横目に、二人のオトモアイルーは「気が早いニャア」と呆れたように笑い、オトモガルクたちは「くううん」と鼻を鳴らして尻尾を振る。

やや存在感のあるオトモたちの視線。その影響もあり、少々名残惜しそうにしつつも、ウツシは腕の中から娘を解放した。
そのままの動きで、ぱんっ、と手を叩くと、嬉しそうに卓袱台の上のチョコレートケーキを見つめて微笑む。

「よーしっ! 我が妻がせっかく作ってくれたんだ! 焼きたてで冷めないうちに、みんなで美味しく食べようっ!」
「私、お皿を持ってきますね! あと、ウツシさんのくれたお花も、オトモのみんなのくれたさっきのチョコも!」
「ふふふっ……ありがとう。今度こそ手伝うよ、俺の愛しい奥さん。持って来るものが多いだろう?」
「ん、んんー……! す、みません、では、お言葉に甘えて……

仲良く寄り添い合い、息まで合わせて土間に向かう、夫婦の背中。

背中から感じる二人の様子を察したオトモたちは、邪魔をすまいと、あえてその場から動かなかった。

愛と感謝を伝えるバレンタインデーの夜、夫婦の家には甘いチョコレートの香りと、賑やかな幸せの声が木霊する。

卓袱台に置かれた花瓶の中で咲き誇る、極彩の花に春の足音を感じながら、ウツシも娘も二人のオトモたちも、ぱくん、と一口、切り分けられたチョコレートケーキを頬張った。

甘い、甘い、心蕩けるチョコレートケーキの隠し味は、愛する人への深い想い。

「んんんんッ! 美味しいいーーッ!! 俺の奥さんのチョコレートケーキ、最高おぉーーッ!!」

高らかに響く、妻への想いがたっぷりの笑顔のウツシの雄叫びは、格子窓から里中に響いた。今やすっかり、バレンタインの里の恒例。

きっと来年も、また聞こえることだろう。

娘とオトモたちはその声量に慣れた様子で、顔を見合わせて、可笑しそうに微笑む。

笑顔と笑顔が蕩け合って、鮮やかに彩られる安息の時間。

まだ冬であることを忘れそうになるほどの温かな時の中で、オトモたちと共に、ウツシと娘の笑顔はますます元気に、活力に溢れて凛と、爛漫に咲き誇る。

娘の作ったチョコレートケーキを食べ進める手は、その場にいる全員、しばらく止まらなかった。

甘く弾けて、不変の想いに満ちた幸せの笑顔。

今のウツシと娘のその笑顔は、卓袱台の上、金色のリボンで飾られた透明の袋の中。

想いが綴られたチョコレートに描かれた笑顔と、まさにそっくり、瓜二つであった。


@acadine