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沁月
Public
ウ教×ハ♀ 相思相愛 読み切り
悠久なる想いは甘く微笑む
MHRウ教×ハ♀。夫婦/相思相愛。
2025年のバレンタインネタ。
仕事を終えて軽やかに帰路につくウを迎える、甘い香り。
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鮮やかな花たちに彩られながら、娘は「あ
……
!」と小さな
驚声
きょうせい
を
溢
こぼ
しつつ、だが、何かを思い出してとても納得したように、幸せそうに両手を花束に添え持った。
「ふふふふっ
……
! キレイ
……
とってもいい匂い
……
! 今年も、ありがとうございます。バラに、アラセイトウと、ハナグルマ
……
ふふ、可愛いハナキンポウゲ
……
あ、こっちにはジャコウレンリソウ」
「ははは、凄いなあ。さすがは我が愛弟子、すっかりお花に詳しくなったね!」
「ふふ。私の旦那さまが、よく綺麗なお花を贈って下さいますから」
ふわりと花の香りに包まれながら、娘は至上の
花圃
かほ
に身を委ねるように、更に花束に顔を近付けて花を鳴らし、幸せそうに極彩の色と香りを堪能する。
「いつもありがとうございます、ウツシさん。ふふふ、今年もたくさん皆さんから頂いたようですから、それとお花を持って帰って来るのは大変だったでしょう?」
「え? ああ
……
」
娘とウツシの視線が、玄関脇の棚の上に置かれた、先ほどまで彼が抱えていた紙袋に移る。
紙袋の細長い口はくったりと首をもたげ、少しだけ中を覗くことができた。
中にはきらきらとした
金色
こんじき
のリボンに巻かれた小さな箱や、
組紐
くみひも
でくるくると装飾された袋、彩り鮮やかな筒缶などが大量に入っているようだ。
これらは全て、ウツシが今日の仕事の合間の休憩時間等に里の内外問わず、女性たちから渡されたり、彼宛に密かに置かれたりしていたものだ。
彼が結婚したことは里の中はもちろん、外にも随分広まっているはずなのだが、それでも毎年、彼に感謝や尊敬など、様々な形の想いが込められたチョコレートの贈り物は後を絶たない。
(こうして持って帰って来ると
……
前のあの子は、少しばかり
不貞腐
ふてくさ
れたりしていたものだけど
……
)
今や妻である娘は、夫の愛の深さを知り、その想いが乱れないことを信じ、確信していて、この日にチョコレートを持って帰って来ても笑顔を崩さず、すっかり余裕の様子。
彼は最愛の妻からのその信頼が嬉しくもあり、嫉妬して頬を膨らませる可愛い姿を見られないことが密かに、少しだけ残念でもあった。
現に今も、娘は夫からの花束を大切に抱えたまま笑顔を崩さず、チョコレートの贈り物で溢れた紙袋を見やっている。
「しばらく甘いものには困りませんねえ。ふふふ、まあ今、私も作っちゃってるんですけどね」
「ふふ
……
それは、もしかしなくても、俺のために?」
「もちろん!当たり前でしょう? 手作りはあなただけですよ」
呆れた様子で「んもう」と笑いながら、娘が花束を持ったまま炊事場の調理台へ戻って行く。
彼女は一旦そこを素通りし、土間の一番隅の棚から、
瑠璃紺色
るりこんいろ
に金色が一筆散りばめられている花瓶を取り出した。
炊事場に戻って洗い場に立った娘が慣れた様子でそこに花束を生けると、極彩の生気に溢れて爛漫と咲く花たちが夫の想いそのものに見えて、自然と目尻が下がって口角が上がっる。
同時に、まだ遠く感じていた春が、すぐ近くまでやって来てくれているような気がして、その温かさと心躍る感覚に「ふふふっ
……
」と満ち足りた至福の笑みが溢れる。
(ふふふ、どこに飾ろうかな
……
水が零れたら大変だけど、畳の間の棚でもいいかも。夜、寝ながらでも花が見えるし
……
)
夫婦になって数年経ったとはまるで思えないような、恋を知ったばかりの乙女のように胸を高鳴らせながら、娘はそのまま軽く手を洗って再び調理台に向かう。
木篦が突っ込まれたままの小ぶりな金属ボウルが置かれている前に戻ると、そこには既にウツシが立っていて、興味深そうにボウルの中を見つめていた。
あどけない光を宿し、満点の星空のように煌めく期待に瞳を輝かせているその様子は、出来上がるご馳走を楽しみにしつつも、つまみ食いを狙っている少年のようで。
「えへへぇ、楽しみだなあ。今年はどんなチョコを作ってくれてるのかなあ?」
「ふふふ、もう少しですよ。あとはこれをもう少し混ぜて、型に入れて焼いたら、お楽しみです」
説明しながらウツシの隣に立ち、娘がボウルの中の木篦を握り、また大きく円を描いてかき回し始める。
ボウルの中には、チョコレート色の、蜂蜜のようにとろりとした液体。
「んん
……
もう少し、かな。すみません、本当はお帰りになる時までに完成させておくつもりだったんですけど、間に合わなくて」
「いいんだよ、むしろ、本当に
……
」
「わっ」
隣に立つ娘の後ろに回ったウツシが、後ろから娘の動きを制約しない形で、両腕を彼女の肩に乗せて絡めるように抱きながら、くっつくように寄り添う。
チョコレートなどあっという間に溶けてしまいそうな彼の体温に包まれ、娘は思わず彼に気付かれない程度に、微かに「んふっ」と吐息混じりに笑った。
漂うチョコレートの香りよりも甘く微笑むウツシは、その金色の瞳には妻への感謝を輝かせつつ、申し訳なさそうに眉を下げている。
「今年も作ってくれて、本当にありがとう。昨日は朝から夜遅くまで狩猟を頑張っていたから、疲れているだろう
……
?」
「大丈夫です。今日、こうしてチョコを作るために昨日頑張ったんですから!」
「ふふ、そうなのかい
……
? それは嬉しいけど、申し訳ないなぁ
……
」
「私が選んで頑張ったことですから、あなたが申し訳なくなることはないんです。あなたにチョコを贈れないほうが嫌ですもの」
はっきりと言い切り、得意気に「ふふん」と鼻を鳴らしてみせた娘の手は、木篦でぐるぐるとボウルの中身をかき回し続けている。
その間も、ウツシは彼女に後ろから抱きついたままで、決して離れることはない。
相変わらず少年のように興味津々で、木篦を握る彼女の手の動きを、ぐるぐるとボウルの中で回り続けるチョコレート色の液体を目で追い続けていた。
「
……
えへへぇ。ねえ、それ、もうおいしそうだね?」
「ダメですよ? 小麦粉とかも入ってるんですから、お腹壊しちゃいます」
「ちょっとだけー。一口もダメ?」
「一口もダメです」
「ちぇー」
楽しげに唇を尖らせ、悪戯っぽく笑うウツシに、また娘が呆れたような笑みを浮かべながら「もう」とため息を一つ。
相変わらず後ろから抱きついてきているままのウツシには慣れた様子で、娘が木篦を混ぜる手を止めた。
金属ボウルの中、その全体のチョコレート色の液体を綺麗にこそぎ取るように動かした後、最後はボウルの
縁
ふち
で木篦を軽く叩きつつ「よし」と呟くと、ゆっくりと木篦を調理台の上に置く。
その間もずっと、ウツシは後ろから妻に抱きついたまま、木篦を持っていた手を先ほどよりもきらきらと輝く瞳で見つめていて。
「愛弟子、そっちの手。人差し指に少しチョコ生地ついてるよ?」
「え? あ、ホントですね。洗わなきゃ」
「洗っちゃうの? 勿体ないなぁ」
はっきりと告げてきたウツシに「はい?」と娘が声を上げるより早く、彼は動いた。
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