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ぎんちき
2025-02-10 21:42:20
12986文字
Public
ブン木手
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過去作まとめ②
合宿所設定かつ、明るい雰囲気のものをまとめました。
1.染まった
2.不可抗力につき
3.怪奇!空飛ぶポメラニアン
4.冷たいものを
5.ある朝のこと
1
2
3
4
5
冷たいものを
冬の夜。今夜は月明りも細いので点々とした小さな星の輝きがより際立っていた。
故郷での星空が何よりも一番だが、
合宿所
ここ
で見るそれもなかなかどうして悪くはない。きっとそれは山奥で余計な明かりが少ないからだろう。そんな風に電灯の下に佇みながら木手はひとり思っていた。
なぜ彼がそんなところにいるかと言えば、丸井を待っているからである。午後の練習メニューを終えた後、丸井と木手のふたりは自主練習に励んでいた。「ではそろそろ終わりにしよう」となった時に丸井から「いいもん持ってくるからここでちょっと待ってろい!」と言われてその通りにしているのだ。
(それにしても遅いですね
……
)
まだ十分ほども待ってはいなかったが、冬の空気は着実に木手の身体を冷やしていた。丸井に連絡を入れて寮へ戻ってしまおうかとすら思い始めた頃。
「キテレツ~、お待たせ!」
「
……
本当に」
「悪ぃ!」
小走りで駆け寄ってきた丸井のことを、木手が横目で軽く睨む。すると丸井はすぐさま両手のひらを合わせて決まりの悪そうな笑顔を浮かべた。その手には白いビニール袋が握られている。
「赤也に話しかけられてさ! ちょっと盛り上がっちゃって
……
って、言い訳はナシだな。ごめん!」
「別に。いいですよ。次同じようなことがあった時はどうかわかりませんけどね」
「はい。気をつけまーす!」
わざとらしく背筋を伸ばし敬礼をしてみせる丸井に、木手はほんの少しだけ頬を緩ませた。
「で、何なんですか? それ
……
」
丸井の持つビニール袋を指さしながら木手が尋ねる。その言葉を受けた丸井は「待ってました」と言わんばかりに満面の笑みを浮かべた後、これ見よがしに袋の中身を取り出した。
その手には赤と白を基調とした箱がふたつ。全国的に売られている、チョコレートでコーティングされた一口サイズのバニラアイスであった。
木手の動きが制止する。しかしそれを気にも留めない丸井によって抵抗することもできないまま箱を握らされた。冷え切ったはずの指先に、一層の冷たさが与えられる。
「やっぱ運動した後は甘くて冷たいもんだよな~」
「この寒い中で
……
?」
「何言ってんだよ。寒いからこそいいんじゃねぇか!」
「
……
そういうものですかね」
「あ。ゴミちょーだい。袋にいれっから」
早々に手を差し出してくる丸井の姿に、どうやら食べないという選択肢は与えられていないようだと木手は悟る。まぁ、好意からわざわざ取って来たであろうものだから今日くらいはいいだろう
……
などと、半ば強引に自分を納得させて箱を包むビニール包装を取る。そして言われた通りに丸井へとゴミを手渡してから紙製の箱を開封する。
プラスチックでできたトレーの上に、小さなアイスが六つ並んでいる。
(
……
あ、)
「んー。うっめ~! やっぱ冬はこういうアイスだよな~」
ひとりで感想を漏らす丸井のことは置いておき、木手も同梱されたピックを持ちアイスをひとつ刺した。そのまま持ち上げて口元まで持ってくるが、まだ躊躇う感情がある。しかし意を決して口に放り込む。
「
……
おいしい」
「だろ?」
なるほどこれはこれで
……
と木手は思う。確かに寒さで身体は冷えている。とはいえ運動をした熱はまだ残っているし、それに何より口内というのは存外温度が高いものである。だからそこに冷たくて甘いアイスを摂取するのというのは、夏場に食べるそれとはまた違った趣があるのか、と理解をする。
「このアイスでさぁ、早食いのタイムを競う人もいるんだって」
「へぇ」
ひとつひとつをゆっくりと味わいながら目線を交わすことなく会話をする。
「今度俺たちもやってみようぜ! 勝負だ!」
「嫌ですよ」
「んだよ~
……
。ま、いいけど。勝負は抜きでなら一緒に食ってくれるだろ?」
一足先に全てを食べ終えた丸井が箱をビニール袋へと入れながら木手の方を見る。木手はその目線に応えることなく、前を見たまま「室内でなら、考えておきましょうかね」とつぶやいた。
「つまり『イエス』ってことだよな。
……
隙あり」
「あ! 何するんです
――
」
「へへっ。妙技
……
――
あ、考えてなかった! 次までに考えとくわ」
それは一瞬の出来事だった。
木手が最後のひとつへピックを刺そうとした瞬間。彼の右方から伸びた手に持たれた、別のピック
――
つまりは丸井によってそのひとつが奪われた。そしてそれは丸井の胃へと収まる
……
かと思われたのだが、丸井はアイスを「何をするんですか」と言いかけた木手の開いた口へ入れたのであった。
状況を呑み込めないままに、木手は溶けて交じり合うチョコレートとアイスクリームの味わいを噛みしめた。
「しっかしキテレツも結構かわいいところあんだな。星形のレアなやつを最後まで取っておくとかさ!」
「べ
――
別にいいでしょう!」
ぶっきらぼうにそう返し、丸井に空き箱を突き付ける。そして木手は「さぁもう行きますよ!」と、背を向けて寮の方へと早々に歩いて行った。
「
……
ちょっとやりすぎたか?」
苦笑する丸井もすぐにその背を追う。
どうやら、気恥ずかしさやら何やらが入り混じった木手を冷ますということは、小さなアイスひとつにとって荷が重すぎたようだった。
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