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ぎんちき
2025-02-10 21:42:20
12986文字
Public
ブン木手
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過去作まとめ②
合宿所設定かつ、明るい雰囲気のものをまとめました。
1.染まった
2.不可抗力につき
3.怪奇!空飛ぶポメラニアン
4.冷たいものを
5.ある朝のこと
1
2
3
4
5
不可抗力につき
丸井ブン太と木手永四郎は、恋仲ではない。周囲からそうと勘違いされていることも少なくはないが、決してそうではないのだ。
そもそもといえば、一度だけ組んだダブルスをきっかけに、いつの間にやら急接近を遂げたふたり。精神面よりも、何より。物理的な距離が近づいていた。だからこそ先述した通りのような状況となっているのであるが。
……
そんな彼らを見た、誰かが不意に言った。
──あのふたりはパーソナルスペースに異常をきたしているのではないか。
それを聞いた他の者は、誰も否定しない。それどころか。ああ、なるほど。と納得した。そしてすぐに話題から去り、日常が戻った。
これは、そんな日々の中で発生した、とある小さな事件。
*
「丸井くん。今のサーブですが
……
」
「ん? なになに?」
コートにいる丸井をベンチから木手が呼び寄せる。他者に聞こえない程度に声を潜め、会話を交わす。
その背後で、木手を除いた比嘉の面々がそろそろ昼食の時間であるとということで、盛り上がっていた。今日は何が出るのか、ゴーヤーだけは勘弁、アイスも食べようねぇ、等々を話しているうちにいてもたってもいられなくなった田仁志が、木手の背を叩いた。
彼は力が強い上に食事の話題で気持ちが高揚していた。加えて、木手は気を緩めていた。結果。木手が誇るバランス感覚が十二分に発揮されず。
「あ」と、平古場が声を漏らす。甲斐と田仁志の顔が青ざめる。知念の表情は崩れなかった。
「
……
」
「
……
」
「
………………
オホン!」
沈黙を破ったのは、木手の大きな咳払い。指の関節で眼鏡を上げれば、カチャリと音が鳴る。
「田仁志クンは、後で私と反省会ですね」
「あ、
……
ハイ
……
」
「
……
失礼しました、丸井くん。話は先ほどの内容で終わりですから。また、後で。さぁ皆さん、行きますよ」
「お、おー。キテレツ。また、な〜
……
」
去りゆく木手の背を、丸井は手を振って見送った。その目は泳ぎ、頬が全体的に髪色と負けず劣らず紅潮し、妙に発汗もしていた。
「な、ハハハ! こんな。事故、事故! 気にすることねぇよな。うん。だって、これじゃあ俺がアイツのこと、意識してるみたいじゃん!」
誰に聞かせるでもなく笑い飛ばすために発言した声は、ひどく震えている。
*
「えー、永四郎?」
「何ですか」
いやなんでもない、と声をかけた田仁志が首を横に振った。木手は至って平然としており、逆に周りにいる甲斐たちの方が動揺している始末である。
「
……
少し、席を外しましょうね」
そう言って木手が席を立ったのを皮切りに、四人が目を合わせる。のぼる議題は、当然起こったばかりの事件についてであった。
小声ながらに白熱し、導かれた結論は──。
一方、自分のことで好き勝手言われていることを知らない木手は、手洗い場で鏡の前に立ち、ひとり頭を抱えていた。ひっそりと思い出していたのは、不意に知った、柔らかな感触。震える指先で自身の唇に触れた。
「
……
あんなの。昔にふざけて甲斐クンとしたことがあったじゃないですか。それと同じですよ。いや、それ以上に、単なる事故に過ぎません。だから、俺は、これっぽっちも気にしてなんかいない。ましてや、丸井くんとしたところで何だって言うんですか」
こめかみに血管を浮かばせる。心中を乱されているのが気に入らない様子だ。一向に落ち着く気配はなく。しかし、いつまでもここにはいられないので、深呼吸をしてから四人の元へと戻っていった。
「あったー、デキてるんばぁよ!」
「だーるなー!」
「あ、永四郎」
「?!」
「へぇ
……
皆さん随分と楽しそうですねぇ、私も混ぜてもらいましょうか」
再度繰り返そう。現状において丸井ブン太と木手永四郎は、恋仲ではない。
ただ、恐らく。抱いている感情が、そういったものであると思わぬようにしているのは当人の自尊心の為に過ぎず。それだけのこと。陥落するのは、どちらが早いか。
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