ぎんちき
2025-02-10 21:42:20
12986文字
Public ブン木手
 

過去作まとめ②

合宿所設定かつ、明るい雰囲気のものをまとめました。
1.染まった
2.不可抗力につき
3.怪奇!空飛ぶポメラニアン
4.冷たいものを
5.ある朝のこと

染まった

――強烈な寒波により明日にかけ全国的に冷え込むでしょう。続いて各地の予報です……
「へぇ~この辺でも雪が降るってよ」
「えぇ! マジっすか」
 その日の練習が終了した後の夕食前の休憩時間、丸井と切原はテレビ画面を眺めながら談笑していた。そこを静かに通りかかる影がひとつ。立ち止まり、言葉を発する。
「降るんですか? 雪」
 思いもよらぬ人物の参入に丸井、切原の両人は同時に声の主を振り向いた。本来は特に声をかけるわけでもなく通り過ぎるつもりであったろう当人も、自分が発した言葉に驚いているかのような表情を浮かべている。そのことを知ってか知らでか、投げかけられた問いには切原が答えた。
「そうらしいんスよ、木手さん」
 へぇ、と声を漏らした木手の様子を見て、丸井は少々からかうように口を挟む。
「なになに? やっぱキテレツも降ってほしいの?」
……違いますよ。ほら、雪なんて以前三番コートとの入れ替え戦の際に降ったじゃないですか。その時だけでも十分すぎるほど満喫しましたし、何より寒いだけで困りものだと思いましたよ。それに積もってでもみなさいよ。きっとこの合宿所では我々選手に雪かきなんかもやらせるでしょうし、そんなのご勘弁願いたいものですねぇ」
 即座に、表情を微塵も変えぬまま沖縄の殺し屋は言い放った。しかし普段の彼と比べればいささか饒舌が過ぎるその様子に、丸井は思わず笑みを浮かべる。そして先ほどまで見ていた天気予報の情報を彼に伝えた。
「ま、そんなキテレツには朗報。夜中の内に雨に変わるから積もりはしないんだってよ」
丸井のこの言葉に「え」、と切原と木手が声を揃えた。場を流れる一瞬の沈黙。

――そうですか。きっと残念がるでしょうね。私ではなく、甲斐クンや田仁志クンが」
 あからさまなまでに二人からは目を逸らした上で、取り繕うようにそう言った後「それでは」と告げ木手は自室へと向かった。彼の行った後をしばし見つめた後に丸井がようやく口を開く。
「なぁ赤也。俺、ギャップ萌えってやつを理解できたかもしんねー……
「は? 丸井さん何言ってるんスか」
 ま、お前には分かんねーかもな、と切原へ言いつつ丸井は席を立った。

   *

 翌朝。U-17合宿所には大きなスコップを持った中高生の姿があった。
「待ちぃやコシマエ! ワイと雪合戦で勝負や!」
「ちょっと、俺を巻き込まないでよね……ッ!」
「アッハッハー! 勝ったモン勝ちやで!」
……にゃろう」
 本日の午前の練習は中止、その代わり雪かきを行うこと――それがコーチ陣より課された彼らの使命だった、のだが。初めのうちは良かったが、次第に一部の者を除きそのほとんどは遊ぶことに全力を尽くすようになっていた。

「はぁ。やっぱりこうなるんじゃないですか……
 ため息をつくのは木手だった。昨日丸井や切原の前で言った通りのことになり辟易していると言わんばかりの様子だ。
「永四郎! わったーも雪合戦したいんやしが」
「あっちに混ざってくれば良いじゃないですか。その代わり、やるからには勝ちなさいよ。いざとなったら小石でも仕込んで」
「やさ!」
 チームメイトを見送り、もう少し真面目に作業をしておくかと再びスコップを構えなおしたところで背後から彼に声がかかる。
「お前は行かないの?」
 木手は声の元へ一瞥もくれないで、ただぶっきらぼうに返事をした。
「行きません」
 彼に声をかけた人物――丸井は、木手の正面に回ってガムを膨らませた。そのまま木手の顔をじっと眺める。
「何ですか」
「んーん、別に……ってかさ、寒くないか? あ。そうだ良いこと思いついた。ちょっとここで待っててくれよな」
 一方的に話しかけてきた挙句に一体何をするつもりだ、と木手は早急にどこかへと駆けてゆく丸井の後ろ姿を睨みつけていた。

 丸井が向かったのは自動販売機だった。木手と温かい飲み物でも飲もう、そう思いついて。自分の分と彼の分を二本購入し両手に持って、来た道を戻る。そして思い出すのは先ほど覗き込んだ木手の表情。
「口元緩んでるのバレバレだろい」
 昨晩に続いて雪のお陰で良いものが見られた、と少しだけスキップするように木手の元へと急いだ。

   *

「はい、コレ」
 そう言われ木手は「ありがとうございます」という言葉と共に丸井から差し出された缶を素直に受け取った。しかし、中々口を開けようとはせず眉間に皺を寄せて書かれた文字列を眺めている。
「丸井くん、これって」
「え? おしるこだけど」
 それは見れば分かります、との返事。木手が丸井に問いたいのは「何故自分にこれを買ってきたのか」ということだった。
「こういう寒い時ってさ、甘いものを飲むのが一番だと思うんだよなー」
「はぁ。そうですか。しかしアナタの好みを私にまで押し付けないでください」
「まあそう言わず」
 丸井から放たれる笑顔の圧に耐えかねたのか、木手がようやくプルタブに指を引っかけ、力を込める。そのまま間髪入れずに、グイとひとくち。
……あまさん」
 引き続き眉間には深々と皺を刻んだままに目線は缶の口に向け、零れたひとこと。舌の上に甘味がじわりと広がり、温かさが食道を通り胃へと落ちて行くのを感じた。ふぅ、と白んだ息を吐き木手が丸井の方を見やる。
「甘いです。ですが、確かに悪くはないかもしれません」
「な? あ、俺にもひとくちちょーだい。こっちのココアも飲んでいいからさ」
「あっ」
 木手の返答を待つでもなく丸井が互いの飲み物を入れ替える。彼のその、突飛な行動と汁粉を飲み干さんとばかりの勢いに木手は苦笑を浮かべつつ、ひと呼吸おいてから自らも渡されたココアに口をつけた。
……こっちも甘いですね」
 吐く息と、辺りの白さに木手は目を細める。積雪に日光が反射して眩しい。彼にとっては全くと言っていいほどに見慣れない風景だった。そしてその隣に立つのはいつの間にやら見慣れきった顔。

「飲み終わった? じゃあゴミ捨ててくるから」
「私が行きますよ」
 木手からの提案を丸井は手で制す。
「全く……
 小さくつぶやいた木手の頬がやけに赤らんでいるのは寒さと飲み物の温もりのためか、はたまた。

 各校混合の雪合戦が白熱していく中、それに参加していた切原の瞳が、先ほどの缶を捨てるべく再度自動販売機の方向へと向かった丸井の姿を捉えた。そして、遠くにいる彼へ向けて叫ぶように声をかけた。
「丸井さん風邪でもひいたんスかー? 顔真っ赤ですよー!」