清春
2025-01-27 09:43:06
51501文字
Public 百合
 

リーヴ モルゲンタウ

いずれ破滅へと向かう、反乱者


唾を生む

 アンスズは簡易的な転移の魔法を使って実家に戻り、今日も今日とてカノ=スルトに変わった点はないということ、そしてオシラという神の使いであろう個体を懐柔していたことの報告を終えた。
 肩の凝る仰々しい報告会ではいつもの軽口を叩ける雰囲気は皆無。畏まった口調で一族総統を称え、総統近縁の者たちを敬う。長いものに巻かれていくだけの単調なもの。
(ああ、つまらない)
 アンスズは報告会の間、内心不貞腐れながらも顔は胡散臭い笑みを浮かべてよく回る口を披露していた。
 報告会が終われば、今回の内容を簡潔にまとめた伝達鳥(ムニン)を上司に飛ばす。返事はこないものだとわかっているためさっさと寮に戻らなければいけない。特例で転移の魔法を使うことを許されている彼女は自室に直接移動できる転移陣のもとに向かうべく、無駄に長い回廊を早足で通り抜けた。その際、前を通りかかった客室でふと会話が気になり、歩む速さは抑えられる。
「人造人間(ホムンクルス)の寿命は精々二年がいいところだというのに、あの……
「ああ、〝キャラ〟から造られた子? 三年目でしょ、生命力が逞しいことで」
「今回の偵察でもまた生き残っていたようだし。周りの人造人間を犠牲にしてでも生存しているのか、たまたまなのか」
「どっちにしろ、こちらの駒として機能している内はいいんじゃない」
「それもそうか」
……あの子の話か)
 アンスズが脳裏に浮かべられたのは小柄で茶髪の少女。製造年数三年目に入った人造人間。自身と似た特徴を持つ哀れな兵器。だからか見かければ気にかけてしまう――今のように、目の前を通りかかれば。
……君か」
「どうも、ユル」
 回廊ですれ違う瞬間に立ち止まって、へらりと笑ってみせる。気に障ったのだろう、眉間にシワを寄せられた。どうやらアンスズの軽薄な態度を嫌悪しているようだ。
しかし、そのような反応は慣れてしまったアンスズは今更気にしない。そして、ユルの抱く嫌悪は通常のそれとは違う。具体的に言うなら「なぜ君はそのように笑える?」みたいな意味合いがこめられた、嫌悪。
「ユル、嫌なら戦う必要なんてないぞ」
 アンスズはあえてユルの嫌う言葉をわざと投げた。そうすれば、オシラのように琥珀じみた黄色の交じる青い目――緑になり損なった色は不快に満ちて、反撃が効いたのだとすぐにわかる。小さな背丈からは想像できない圧を出していた。しかしアンスズはびくりとも反応せず、口元に笑みだけを浮かべた。
「アンスズ=ヴァルハラ、それは同情?」
……さてね」
 それ以上のことは口にせず、にこりと微笑んだアンスズは人造人間(ユル)から離れた。ほどなくして到着した自室にて転移の魔法を組み、中央に立つ。
(ユル=キャラ。君の寿命は残りいくつだろうか)
転移の魔法で寮に移動する中、アンスズはそのことをふと思い浮かべた。