桜霞
2022-10-01 17:32:56
17250文字
Public 【twst夢】フライパンは無敵
 

パーソナルストーリー

#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/12/26にpixivに投稿したものの再掲です。







【おめかしバースデー】「なにやっても許される日だって聞きました!」【SSR】

 





 NRCでは、生徒の誕生日が近付くと、誕生日の祝いにかこつけて騒ぎ倒すという風習のようなものがある。皆でお金を出しあってパーティフードを用意し、ケーキにロウソクを立てて、白を基調としたバースデーボーイ用の衣装を主役に着せ、授業の終わった放課後から騒ぎ倒すのだ。
 娯楽の少ない閉鎖的な環境では、ここでしか騒げないとばかりに、生徒たちは盛り上がる。ケーキを顔面に投げあったり、欲しいものに無理無茶無謀を嘯いたり、様々だ。友人同士の誕生日プレゼントも、一ヶ月前からさり気なくリサーチされる。
 ユウは、「なんかほしいもんねーの、」と立て続けに聞かれ、まず第一に、はて皆なにか私の琴線に触れそうなところでなんかやらかしたんだろうかと皆のことを勘繰ってしまった。日頃の行いのせいだが、流石に一週間も方々から聞かれ続けると流石になんのことか思い至った。

 ───誕生日である。

 いやもうすっかり忘れていた。自分の誕生日のことなど遥か忘却の彼方だった。なにせもう誕生日だからあれがほしいこれがほしいと数ヶ月前からいろいろ考えを巡らせる年頃でもなくなって来た、とユウ自身は思っているからだ。欲しい物、と言われても、そこまで物欲が強い方でも無いし、今は生きることに精一杯なので、急には思いつかない。
 それからのユウは、いつかのトレイを参考に無理無茶無謀をほとんど冗談で吹っかけることにした。皆一様にぎょっとしたり真面目に叱ってきたり、ユウは素直に「めんどくさないなぁ」と思ってしまった。人の好意と言えば好意だが、普段から迷惑かけられまくってる奴等(一部を除く)から欲しいものを聞かれても「たまには気を利かせてサービスしてくれ」と口をへの字に曲げてしまうひねくれた自分が顔を出す。
 それもなんだか嫌で、ユウは何度か欲しいものを絞り出そうとしたが、結局はなんにも浮かばなかった。
 元来、取り繕うということが苦手なので、ユウはありのまま、何度目かプレゼントのリクエストを聞きに来てくれたエースとデュースに、「なーんも浮かばん」素直に言った。
「お前ねえ」
 エースは呆れたように嘆息し、デュースは困ったように顔を強ばらせてしまった。
「そりゃ、オレたちだって気の利いたプレゼントとかしてやりたいけどさあ」
「えっ」
「えっ、てなんだよ、シバくぞコラ」
 エースが不機嫌そうに半眼になる。ユウは大仰に両手で顔を覆った。
「えーん、エースがいじめるー!」
「はァ!?」
 すかさず、わー監督生かわいそー、と近くもないが遠くもないところから野次が飛んでくる。聞き覚えのある、クラスメイトの声だ。
「エースくん好きな子いじめるタイプだったの?」
「血も涙もねえやつだな」
「この間いつメンマウント取ってきたくせに」
「うるせえよ!! 誰がいつマウント取ったよ!!」
 次々降り注ぐ野次に、どもったエースがひとまずがなる。くふくふ肩を震わせて笑うユウを見て、エースは嘆息すると「行こーぜ」とぶっきらぼうに足を早めた。
 歩調を変えなかったユウは、自然、デュースと並んで歩くことになる。デュースは相変わらずユウのプレゼントについてうんうん唸っていた。
「なんか……ごめんね、気を遣わせちゃって……
「え? いや、その……
 デュースは意外そうに瞠目したが、すぐに視線をさ迷わせた。
「ユウも、僕達がスマートにプレゼントを選べたら、そんなこと、言わせずに済んだのに……僕の方こそ、すまない」
「えっ、いやいや、気にしないでよ」
 なんかもう、お菓子とかでいいよ全然、と言おうとして、ユウはすんでのところでその言葉を飲み込んだ。なんだかそれを言ってしまえば、ただでさえしょんぼりしているデュースをさらにしょんぼりさせてしまうことになると思ったからだ。そして、それはあながち間違っていなかった。
 母の嘆き一つでそれまでの生活をがらりと一変させてしまうくらい、突っ走れる奴で、気遣いのできる男なのだ。どんな言葉尻で落ち込んでしまうか分からない。
「なんか……この世界にあるものとか、よく知らないしさ、何が欲しいのか、全然分かんなくて。でも、カタログギフト? とかいうやつなんか学生にしては大仰すぎるし」
「エースのやつ、僕には学生らしくない値段のシューズ吹っかけてきたぞ」
「私は分別のある学生なので……
 確かにそうだな、とデュースは真面目に頷いた。自分で言っておいて、ユウは「いやそれでいいんかい」と思わず内心でつっこんでしまった。ふなぁ、とユウの肩に寝そべったグリムが眠そうに欠伸する。
「グリムだったらツナ缶なんだろうけど、……そう言えば、僕達……僕は、ユウの好きな物とか、何も知らないな」
「え、そう?」
 そんなに自分のこと話してなかったっけ、とユウは小さく目を見開いた。何を思いついたのか、デュースはふと小さく微笑んだ。
「リンさんのことを慕ってるのはよく知ってるんだが……、あ」
 ふと、デュースが立ち止まる。数歩先に進んでしまったユウも立ち止まった。
「デュース? どしたの?」
…………ハグ」
「ん?」
「誕生日プレゼントは、ハグ、とか……
…………

 ハグ。抱擁。

 親愛などを込めて行われる、それ。

 数瞬の沈黙が場を支配した。ハッと息を飲んだデュースの顔が、瞬く間に赤くなる。
「なななななな無いよな!! 物とかの方がいいに決まってるよな!! 形も残るし!! うん!! すまんな監督生!! お前よくリンさんに抱き着いてるしその、エースの誕生日とかにリンさんが、その、」
 わたわたするデュースを、ユウはどこか静かな気持ちで見つめていた。
 ユウは日本人だ。ハグの習慣はほとんど無い。海外経験もほとんどないし、出会い頭にハグするなんて仲のいい海外の人同士でやるもんなんだろうなぁとぼんやり思っている程度だった。
 NRCでも、誰もが初対面なクラスで挨拶代わりにハグするなんてことはほとんどなかった。時が過ぎればたまにじゃれあいの延長戦や親友同士でほとんど体をぶつけ合うようにしてハグのようなものをしている顔見知りはいくらかいたが、ユウが抱き締めたり抱き締められたりしているのはもっぱらリンだけだ。
…………いや、でも、いいかもしれない」
「えっ」
「───誕生日プレゼントはハグ、……いいかもしれない……!!」
 閃いた、という表情のユウに、これは一大事、とデュースはごくり、唾を飲んだ。





「というわけで、はい!」
「いや、はい! じゃねーんだわ!!!」
 馬鹿なんじゃねーの!? と結構本気で心底から叫んだエースはいつになく真面目な圧を発するおふざけモードのユウに「早く早く!」と急かされて、結局、根負けした。はいはい、とてきとうにハグしてやると、「もっとちゃんとやって!」と胸の辺りでもごもご言われる。うっかり反射的に抱き締める腕に力が入り、制服で隠れてしまっている柔らかな体と密着することになって、エースは首筋から這い上がる熱に、思考回路が焼き切れたような気がした。ひとしきり抱き着いて満足したらしいユウは、固まってしまったエースからもぞもぞ抜け出すと、傍にいたデュースに突貫した。デュースは「ふぐう!!」だとかなんとか、情けない声を上げて、されるがままになっていた。

 話を聞いたジャックはびしりと顔を強ばらせたが、にこにこ顔のユウに、あくまでも自然にハグをして応えた。誕生日おめでとう、とも言ってやった。ユウは心底から綻ぶような笑顔を見せて、「ありがとう!」と弾けるような声音で礼を言った。

 エペルは終始どぎまぎしてはにかんでいたが、ユウが嬉しそうにえへえへ笑っているとそれにつられてくしゃりと可愛らしい笑顔を見せた。なんだかんだ、友人が嬉しそうにしていたら、エペルも嬉しかったのだ。

 なんのことはない、ただのハグだろうと終始平常だったセベクは、ユウを腕の中に抱いた瞬間に、びきりと音を立てて固まり、エースは無情にもそれをスマホでばっちり録画していた。





 ユウのハグ行脚は、なんだかんだ受け入れられた。ユウは顔見知りと、エースなどにやんわり止められた生徒相手には軽いもので済ませ、無意識に信頼している相手にはちょっぴり強めに抱き着いた。ユウの本当の性別のことを知っている相手には遠慮も何もしなかったが。
 その様子に、背中に飛びつかれたレオナは言わずもがな呆れたし、ラギーは「食っちまいますよォ」なんてからかいながらもなんだかんだスラムのこどもにするように抱き締めてやった。
 普段からぎゅーっとしているフロイドなどは、「誕生日だから、スペシャルなやつやったげるね〜」などと言って、ユウを抱き締めたまま派手にぐるぐるその場で回転した。ユウはこどものようにきゃあきゃあ言って喜んだ。
 ケイトとは「ハピバ〜!」と肩を組んだまま写真撮影を楽しんで、トレイは「ほどほどにしとけよ」と言いつつもしっかり抱き締めてくれた。リドルは真正面から「誕生日おめでとう」と言ってくれて、ユウは少しだけどぎまぎした。

「アタシとのハグなんて、そりゃあ誕生日でもなければ得られないわね」
 ヴィルはどこか意地悪に微笑んで慣れた仕草でハグをくれた。ルークは「ただのハグには飽きたんじゃないのかい?」なんて悪戯っぽく言って、ユウを横抱きに、いわゆるお姫様抱っこをしてくれた。わーい! とユウは無邪気に喜んだ。
 その様子を見ていたらしいオルトが「僕もできるよ!」と意気込んだが、ユウは結局、オルトを抱き込むようにしてハグをもらった。オルトはケイトのように写真を撮って、兄さんに見せてくる! と寮の方へ戻って行った。

「誕生日なら、宴をしないとなー!」
 ハグから自然に肩を組み、そのままカリムにスカラビアへ連れて行かれそうになるのを止めてくれたのは、やはりジャミルだった。
「俺がまだ誕生日プレゼントをしてないだろ」
「あっそっか! じゃあ俺、先に行って、手伝ってくれるやつ探してくるな!」
「是非そうしてくれ」
 ジャミルはさっさとカリムを寮へ追っ払うと、「君には本当に警戒心が足りないな」と言いながら軽くユウを抱き寄せて、「おめでとう」とあっさり離れて行った。

「誕生日プレゼントに対価など野暮なことは言いませんよ、」と呆れた風情のアズールも、ユウに「じゃあハグしてください」と言われた時はぎょっと目を剥いてあんぐり口を開けて文字通り固まった。うっかり吹き出したジェイドがその隙に細長い背中を丸めてユウを抱きしめながら「誕生日おめでとうございます」といつもの調子で祝福してくれる。
 ありがとうございます! と満面の笑顔で言ったユウは、そのままぐるっとアズールに向き直り。
 ハッ、とアズールが息を呑んだ瞬間には遅かった。ユウは勝手にアズールに抱き着いて、そっと触れるか触れないかの狭間でアズールが抱擁を返してくれたかと思うと、「ありがとうございました!」と勢いよく、上機嫌でその場を後にした。


 一部始終を見ていたグリムは、なんだかだんだん、男どもが哀れになってきていた。グリムもね、とユウは上機嫌でモンスターを腕に抱えて寮への道を進んでいるが、オスメスのことを気にしていたのではなかったのかと、少々呆れるどころか心配になってくるほどだった。


 寮の前ではもちろん騒ぎを聞き付けたツノ太郎が待ち構えていて、「お前に祝福を」と小さな花を散らすオプション付きで、ユウに抱擁を与えていた。


 普段、性差を感じさせない同級生の、あるいは後輩の、やっぱり細くて小さな体に、胸中様々な感情を抱いている男どもの事など露知らず。
 いっそ残酷な程に無邪気なユウは、心底から嬉しそうな可愛らしい、どんな願いでも叶えたくなってしまうような、一日限定の柔らかな笑顔で、「来年もこれにしよ!」とひとり、軽やかにオンボロ寮へと戻って行った。