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桜霞
2022-10-01 17:32:56
17250文字
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【twst夢】フライパンは無敵
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パーソナルストーリー
#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/12/26にpixivに投稿したものの再掲です。
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【スケアリー・ドレス】「SAN値! ピンチ!!」【SR】
ユウがグリムと一緒にポムフィオーレ生徒用の控え室に問答無用で連行されたのは、「マジカメモンスターを自分たちの力で追い出そう」とナイトレイブンカレッジの生徒にしては珍しく団結した直後のことだった。
悪いことをするときの生徒たちは、そりゃあもうイキイキする。何よりも他人を貶めたり騙したり罠に填めたり怖がらせたり、とにかくそういう悪事というか、策略を巡らせることに余念が無い。闘争心は強いし、躊躇いは無いし、どうでもいい赤の他人を足蹴にすることに慣れすぎているのだ。
この学園に来たばかりの頃は「なんという
……
」と胸を痛めたり、自分の身の安全が得られるか不安になったりもしたが、二ヶ月も経とうという時期にオーバーブロット事件を二つも乗り越えた後になると、悪巧みをしている皆を見ても、「うんうん、今日も皆元気だな!」という気分になってくる。
───でも、私も表舞台に立たされるとは思ってなかったと言うか
……
ピクリとも動かせない肌の上を、触り心地のよいブラシがさらさらと滑っては色を足していく。カラーカードを当てられたかと思えば様々なクリームを繰り広げられ、かと思えばコットンで拭われ、ユウは「動かない」と厳かに指示を出したヴィルのされるがままになっていた。
「
…………
」
「
…………
」
コンパクトが開閉される音、時折挟まる「顎を上げて」などのヴィルの指示、化粧筆が選ばれる瞬間のかちゃかちゃとした音、など。それら以外は、一切を沈黙が支配していた。
───気まずい
───とても、気まずい
ユウは噛み締めるようにして自身の感情を再確認した。そうすることで落ち着こうと試みる。
そもそも、自分はなんでここに連れてこられたのだろう。「来なさい!」と有無を言わさず連れて来られて、普段使っているメイク道具を聞かれ、───特に無い、サムの店の薬用アクネケアだけ、と答えた時のヴィルは文字通り鬼の形相になった───そして、かのヴィル・シェーンハイトに、手ずからメイクを施されている。
───どういう状況なんだってばよ
……
それでもヴィルの放つ圧が凄まじいので、軽々に口を開くこともできない。さしものユウも、そこまでの胆力は無かった。この数日間で疲労が溜まっているというのもあるが。
「ちょっと待ってなさい。顔には触らないで」
「はい」
ようやくひと段落したのか、ヴィルは手早く化粧道具を片付けると、素早く踵を返して部屋を後にした。足音が遠ざかっていくのを待って、ユウはようやく、肺が空になるほど息をついた。
「はァーーー
……
怖かったァ
……
」
「あいつ、ユウの顔に落書きなんかしやがって、何のつもりなんだゾ?」
「落書きじゃないよ、メイクだよ」
「めいく?」
ユウは苦笑して、「ほら、こことか、」と目元のくっきりとしたアイラインを指で示した。
「ここに線を引いたり、色を置いたりすると、目が大きく見えたり、印象が変わって見えたり
……
」
「
……
? ユウはどんな顔でもユウなんだゾ」
「
………………
」
大きな瞳が、ぱちくりと瞬く。ユウは心底からグリムを抱きしめたい衝動に駆られたが、毛が着いてヴィルに怒られるかもしれないので、代わりに全力で撫でまくることにした。突然の奇行に、グリムがふなぁと悲鳴を上げる。
間を空けず、バァンと音を立てて扉を開き、ヴィルが戻ってきた。
「さぁ、始めるわよ。遊んでる暇は無いわ」
「あ、はい! えっと、恐れながら、なにをでしょう
……
?」
おそるおそる挙手したユウに、ヴィルは器用に片眉を跳ねさせて見せた。
「なにって、言い出しっぺは貴方でしょ」
「えっ、
……
あっ、マジカメモンスターを追い出すっていう
……
?」
「それ以外に何があるの?」
「ないです、けど
…………
」
ぽく、ぽく、ぽく、とユウの頭の中で木魚が鳴った。直後、チーン!! と脳裏に閃くものがある。
「もしかして、私って今回、脇役の添え物じゃない感じなんですか!!?」
「脇役の添え物にそこまでのメイクは要らないでしょ」
まさかここまで頭の回らない子だったなんて、とヴィルがこめかみを手で押さえる。その所作に、この人は何をさせても様になるなと、ユウは埒外なことを思った。
「各エリアでマジカメモンスターを追い出しても、最終的な出口はメインストリート。人気(ひとけ)もある、明るい場所で正気に戻られたら、逆にイベント扱いされてもおかしくない。だから最後の最後に追い出し役が必要なのよ」
「SAN値チェックでファンブルさせる気満々じゃないですか
……
」
「何を言ってるのか分からないけど、理解したらしいことは分かったから話を続けるわよ。つまりあんたにはトリを任せるってわけ」
「
…………
」
ユウはごくりと生唾を飲み込んだ。
トリ。芝居に疎いユウでも分かる。舞台の最後を締めて飾る、重要な役割だ。
「大トリは、あのやたら話の通じる事務員
……
リンだったかしら」
「えっ、リンさんに頼む手伝いってそういう」
「そうよ。あの鬼の仮面はいい具合に話題になってるし、一定の効果があると聞いているわ」
ヴィルは、しなやかな指を滑らかに立てた。
「それを活かすには、あんた達を最後に持ってくるしかないのよ。こんなド素人を舞台に立たせるなんて、業腹だけどね」
「が、がんばります」
「当たり前でしょ」
ユウをにべもなく切って捨てて、ヴィルはグリムへと向き直った。
「あんたにも、最後にゴースト達とひと仕事してもらうから、そのつもりでいてちょうだい」
「なんだかよくわかんねーけど、オレ様にできねーことはねーんだゾ!」
「じゃあまずはあんたの素人具合を調べるわ」
ヴィルは無い胸を張るグリムからあっさり視線を外し、再びユウを見下ろした。
「芝居の経験は」
「お遊戯会とかですね」
「鑑賞は?」
「映画をたまに
……
舞台は全然」
「役者をしたことはないわね」
「無いです。ド素人です」
「知ってるわ」
またしても、あっさりばっさり切り捨てられる。それでもユウは心を強く持った。先の一言は、いっそ開き直って、素直にヴィルの指導を受け入れるためのものだ。
現実に対して傷付いて、いちいちへこんでいられるのは色んな余裕があるときだけだというのを、ユウはここ二ヶ月で、骨身に染みるほど学んでいた。
「芝居の仕方はいろいろあるの。才能ってヤツもあるけど、論理を理解してそれなりの時間をかけて努力すれば、それなりのものは出来上がる。でも今はとにかく時間が無いから、詳しい説明は割愛するわ」
手っ取り早いのは暗示だけど、と口の中だけで呟いて、ヴィルは何枚かのDVDを取り出した。
「あんたには、『会話は成立しているのに、話がまったく通じない無邪気なこども』を演じてもらう」
「会話は成立しているのに、話がまったく通じない
……
」
───それってなんだか、
「なんだかマジカメモンスターみてぇだな」
ユウの思考を読み取ったかのように、グリムがぼやくようにして言った。ユウは思わず顔を上げたが、ヴィルは持ち込んだDVDプレイヤーをセットする手を止めようとはしなかった。
「あんな低俗な輩どもと一緒にしないで。今回あんたにやってもらうのは『狂気で頭がイッちゃってる』芝居なんだから。そもそもこっちの常識が通じない、異次元の化け物なのよ。ちゃんと想像して」
「は、はい
……
」
結局のところそんなに変わらないのでは
……
、などと内心で独りごちている間に、これは参考動画、とヴィルが再生ボタンを押す。
ぱっと画面に映った可愛らしいこどもは、心底から幸せそうな笑みで、ドロドロと溶けて爛れた化け物の腕を掴んでいた。
───あっこれは物理的に狂気に落として芝居の質を上げようとかそういう、
ぶつ、と音が途切れる。
ユウがまともな感情を抱けていたのは、この瞬間が最後だった。
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