桜霞
2022-10-01 16:49:59
55100文字
Public 【twst夢】フライパンは無敵
 

監督生はおれが守りたい(手にしたフライパンを見つめながら)

#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/06/03にpixivに投稿したものの再掲です。


 
 
 
 
 
 インターネットというものは、よく海に例えられるが、その実四次元ポケットの中に広がっているプールと同義である。つまりは、とある情報が必要になれば、たとえどんなに探り当てるのが難しくても、それは見つかってしまうのだ。一度削除したくらいで、ネットの海に放出した情報は決して消えてなくならない。
 某有名魔法士養成学校の闇実況なるライブ配信映像の情報は、リンのスマートフォンにも届いていた。ご丁寧にも、ケイトやエースなどからリンクやメッセージが送られ、通話が飛んできている。
 ケイトと連絡先を交換した覚えは無かったが、エースやデュースのフォローアカウントからリンを見つけたのだろう。「チョー面白いことになってんね! ヤバくね!?」というメッセージが送られてきたので、リンは「ヤバみざわすぎてぴえんどころかマジ卍」と返しておいた。
 そのスマホ画面を見せながら、「ご存じでしょうけど───」リンは、重々しく告げた。

「───データは、消えないのよ」
……

 スカラビア寮は談話室にて。リンの前で、アズールが正座していた。その横にはジェイドも正座をさせられている。
 リンが文字通りすっ飛んできたのは、オーバーブロットしたジャミルをどうにか正気に戻した直後だった。最早誰のものかも分からない攻撃を受けてジャミルが倒れる瞬間に居合わせたリンは、開口一番「クォらあーーーーーーッ!!!! こンッのアホバカクソタコーーーーーーッ!!!!!!」とアズールの頭を容赦無くスパコーーーン!!! とひっぱたいた。形のいいハットはどこぞへ飛んで行った。
「ぬぁーーーにが闇実況じゃこの馬鹿たれクソアホンダラ!! 自分が何をやったか分かってんのか!!!」
「は、はぁ!?」
「これまでお前が奪ってきたモノやコトとは訳が違う───ひと一人の人生をぶっ壊したんだぞ!!」
「っ、」
 凄まじいリンの剣幕に、アズールはうっかり言葉を失った。
 そして「正座!!」と言われるがままに、説教を受けることになったのである。
 リンは、自分の画像フォルダにあるムービーをアズールに見せつけながら、淡々と言葉を並べ続けた。
「動かぬ証拠を押さえるついでに晒し上げれば弱みを握ることになるとでも思ったか。いいか、お前が背負ったのは自分以外もジャミルの弱みを握ることになるリスクじゃない。お前が背負うことになるのは罪だ。いずれ罰はやってくるぞ」
……
 アズールは憮然とした表情でリンの言葉を聞いていた。ジェイドなどは上っ面こそ神妙だが、先程からリンの方を見向きもしない。
「分かりやすく言ってやろうか? ここで自由を求めていたジャミルに、お前は一生外れない枷をかけたんだ。ジャミルはすべてを手に入れようと主人を裏切り、騙すような男だという烙印 をな」
「、……
 アズールがぴくりと身じろいだ。
 データは残る。世界中の誰もが手に入れられる場所に、どう足掻いてもジャミルの信用を揺るがす証拠 データが残ってしまうのだ。
 若気の至りと、言い切ってしまうのは簡単だ。だが、そうやってジャミルを抱えることのできる器を持った人間が、果たしてこの世界にどれだけいるのか、果たしてジャミルと出会うことはできるのか───
 人生は学園を出たところから始まる。しかし、あの瞬間、ジャミルはゼロどころか、マイナスと言っていいかもわからないような地点から、彼の人生を始めることになったのだ。
「お前のせいだぞ、アズール。お前の蒔いた種だ。せいぜい鎮火に勤しめ」
……はい」
…………
 お前ならもう少しうまくやると思っていた、と言いかけて、しかしリンは口を噤んだ。これ以上は無為に過ぎる。勝手に期待されて、勝手に幻滅されるほど、煩わしいことも無い。
 リンはジャミルの様子をてきぱきと看ていてくれたユウの傍に膝を着いた。ユウやカリムが真っ先にジャミルにすっ飛んで行ったので、リンは先にアズールを叱り飛ばしたのだ。
 カリムはぐずぐずと鼻を鳴らしていた。その目からは、ぼろぼろと涙がこぼれている。
「ジャミルの様子は?」
 リンは努めて静かに聞いた。「心臓の音と、呼吸は安定しています」ユウも同じようにそっと答えた。
「怪我も、そこまでは……リンさんが持ってきてくれた救急箱でどうにかなりそうです」
「そうか。他の生徒は?」
「催眠術系統の魔法をかけられた後は、とにかく安静にして休むことが一番らしくて。皆、自分の部屋に戻ってます」
 元々、そこまで無体なことはされていなかったらしい。アズール達と戦うときも、自ら矢面に立ったと聞いて、リンはどう言葉を選んだものか分からなくなった。
「とにかく、これで四件目か。私は一応、学園長に報告し」
「ッ待ってくれ!!」
 それまでジャミルから目を離さなかったカリムが、弾丸のようにリンに飛びついた。おわ、と驚いたリンの肩が跳ねる。
「頼む、ジャミルは、悪く、い、いや悪いけど、悪くないんだ、頼む!!」
「は、はぁ、」
「ジャミルは、ジャミル、はぁあ゛……っ! ずっと、がまんしてた、だけで……!!」
……
 ぼろぼろと、次から次へと涙が頬を伝う。カリムの顔は、もうぐちゃぐちゃだった。
「それでも、主人を裏切ったことには違いない。私が言わずとも、お前達の親御はこの事を聞きつける。たとえ主従関係がお前達だけのものであったとしても、私がお前の親なら、二度とお前に近付くなとジャミルに言うよ」
「ッ───!!」
 カリムの瞳が音を立てて凍った。びしりと固まってしまった指をひとつずつ丁寧に剥がし、リンはカリムの手を握った。
「もう四件目だ。珍しいとされる現象が、四件目。しかも立て続けに。傍目にも異常だと分かる。異常事態は、隠してていいことなんか一つもないんだ。私は、ジャミルがオーバーブロットするまでに至った経緯を、学園長に話す───が、」
 聞いてるかい、とリンはカリムを揺さぶった。
「原因のひとつに、学園にまで主従関係を持ち込まざるを得ないようにしたご家庭の教育方針もあると思います、とも、ちゃんと言うからね」
……へ、」
 カリムが間抜けな声を出す。リンはぐしゃぐしゃとターバンごとカリムの頭を掻き回した。
「誰しも生まれは選べないし、自分で生きて行く場所すら時には選べなくなるときもあるけれど」
「、」
「どう生きて行くかは、自由よ、みんな」
 そのための学び舎だ。自由のために必要な学びを得る場所こそが、教育の場。
「この世界は、……少なくとも、この学園は。平等じゃなくて、平等だ。……そうでなくては、意義が無い」
 後は頼むね、とユウに言い置いて、リンはスカラビアを後にした。