桜霞
2022-10-01 16:49:59
55100文字
Public 【twst夢】フライパンは無敵
 

監督生はおれが守りたい(手にしたフライパンを見つめながら)

#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/06/03にpixivに投稿したものの再掲です。


 
 
 
 
 
 今日、仕掛けるという話は、聞いてはいた。
 
 昨日の朝一番でスカラビアに乗り込んだオクタヴィネルの三人は、凄まじい連携プレーでさりげなくユウがひとりになる時間を作り出し、接触を図った。ユウから詳しい経緯を聞きだしたのはジェイドだ。
「カリムさんが、圧政を?」
 ジェイドがひどく驚いているのを見て、ユウの方が驚いた。
 
 ───ジェイド先輩にも驚くことってあるんだな……
 
 ユウの瞠目をどう受け取ったのか、ジェイドは黙然と話の続きを促した。
「恐慌的に豹変するんです。でも、その瞬間を、私達は見てないんですよ」
「と、仰いますと?」
「彼が豹変するのは、カリム先輩とジャミル先輩が、揃って私達の前からいなくなった直後であることが多いんです」
……なるほど」
 確定ではないが攻める箇所はある、ということを言外に伝えると、ジェイドはいつものように微笑んで、すぐさまアズール達と合流し、情報を共有した。
 その日の内にジェイドはカリムと「お話」をして、アズールはジャミルがただの平凡な魔法士ではないことを看破し、
 
「明日、早速仕掛けましょう」
 
 ───綺麗に整った笑顔で、開戦を宣言したのである。
 具体的な方法を、ユウは知らなかった。三時の休憩を利用してちょっとだけ眠ろうかなとさえ思っていたほどだ。しかし、徐にジェイドが始めたアズールのマジカメアカウントライブ配信を宣伝しだし、その内容が内容なだけに、眠気はあっさり吹き飛んだ。
 そうして慌てて、フライパンを引っ掴んで、アズール達と合流した。

 
 ───また、オーバーブロット……
 

 そう、まただ。そしてユウ達は、その途轍もないエネルギーによって、空の彼方にまで吹き飛ばされていた。特有の浮遊感が肌を粟立たせ、本能的な恐怖が四肢から自由を奪っていく。胃の腑がせりあがるような感覚が気持ち悪い。吐き気がする。握りしめたフライパンの柄の感覚だけが鮮々しい。
 
 ───大事なのは、心持ち、
 
 使い手の心が強く在れば、その盾は永劫、堅牢なのだと、知っている。
 ユウは、無我夢中で叫んだ。落下が避けられないとは分かっていても、ただ、死にたくはなかったのだ。
 
「これはすべての疵、すべての怨恨を癒す、我らが故郷……っ、顕現せよ!!」
 
 びゅうびゅうと風が吹く。どんどん地面が近くなっていく。誰かがユウの名を叫んだ。ほわほわとした小さな星の光が、鉄を覆っていく。
 ユウは、がむしゃらに腕を振り上げた。
 
いまは遥か理想の城 ロード・キャメロット───!!」
 
 叫びながら、振り下ろす。
 眩い光が、ユウの視界をを貫いた。
「ッ、」
 息を呑む。瞬間、ユウの体は音を立てて跳ね飛んだ。
 衝撃も、痛みも無い。ユウは咄嗟に体を捻り、どうにか受け身を取って地面を転がった。
 フライパンが地面を跳ねて、連続して乾いた音を立てる。ユウはたっぷり数秒、地面に横たわっていた。重力をしっかりと感じ、自分が生きていることを確かめて、手足の震えを、ようやく押し殺す。
「なんか最近こんなのばっかなんだゾ……
 なんとか生きてる、とユウは肺が空になるほど息を吐きながら起き上がった。がちがちに強張った手は、フライパンを握りしめたまま、なかなか動かせなかった。
 向こうの方で、ジェイドがカリムを起こそうとしている。ユウの方に様子を見に来たのはアズールだった。
「あれだけ飛ばされて全員が大きな怪我もせず無事、とは……ユウさん、一体何をなさったんです? それは……フライパン……?」
「はい。リンさんの、お守りです」
「、……リンさんの」
 虚を突かれた風情のアズールは、はっと正気になり、すぐにいやいやと首を横に振った。
「フライパンがお守りって、何を言ってるんです。とうとうトチ狂いましたか」
「たとえすべてが異なっていても、力のある名前を付ければ、本来その名を持つモノと同じ力を持つようになるんです。民俗学的にも正しいらしいです」
「みん、……いえ、今はそんなことを言っている場合ではありませんね」
 肌を刺すような冷たさを持つ風が通り抜ける。ユウはアズールの手を借りて、ようやっと立ち上がった。寒いだろ、とグリムは自分から、ユウの制服のジャケットに潜り込んだ。
「ここは……
「どうやら、スカラビア寮のある時空の果てのようですね」
「寮のある……時空?」
 ユウは眉を潜めた。
 アズールの言い方だと、寮が存在するのはナイトレイブンカレッジがある場所と地続きの世界などではなく。まるで、普段、ユウたちが生活しているとは別次元にある、というようにも受け取れる。
……寮ごとに、別世界が存在する……?」
「正確には、次元の位相が違うんですよ。概念の話になってくるので、それもまた今度」
 言いながら、アズールは己の肩にかけていたコートを脱いだ。そしてそれを、そのままユウの肩に移す。
「へ、」
 手早く前の方をボタンで留められて、ユウは目をぱちくりと瞬かせた。
 ひゅう、とフロイドが口笛を吹いて冷やかした。
「アズール、やるぅ。かっくいーじゃん」
「お黙りなさい。紳士として当然のことをしたまでです。それにしてもお前の声、違和感がすごいですね。元に戻しましょう」
「えぇー」
 踵を返してフロイドに向き直ったアズールが、躊躇い無く契約書を破り捨てる。その向こうで、カリムが起き上がったようだった。ジェイドが傍らに膝を着いている。
……アズールの奴が優しいなんてもがががが」
 ユウは全力でグリムの口を塞いだ。ひとの優しさになんてことを。
 
 ───そう言えば、バイトの契約書、ふっつーに正直に自分の性別書いてたな。
 
 今にして思えば英断である。暖かなコートを、ユウはそっと胸元で引き合わせた。彼のコートは少しだけ重く、やっぱり少しだけ大きかった。