____。
あぁ、懐かしい感覚だ。
ゆっくり。
ゆっくりと水面が遠ざかっていく。
残った片腕と片脚で、もがいてみようかとも思った。
けれど、夏の海はどこか心地よくて、なんとなく、このまま沈んでいくのも悪くない気がした。
「小白
…!」
「白浪さん!」
遠い空から名前を呼ばれた気がして、残った片腕を水面に伸ばす。
その時、指先がゆっくりと崩れていることに気がついた。
まるで氷が溶けるように。
少しずつ、海へと溶け込んでいく。
……あぁ、きっともう僕は消えてしまうのだろう
……
最期を覚悟した瞬間、さまざまな記憶が浮かんだ。
自分が完成した日のこと。
初めて海に出た日のこと。
初陣のこと。
兄弟ができたこと。
そして、この場所で撃沈したこと。
それから、錬成された日。
八械と顔を合わせた時のこと。
鍛錬をしたこと。
食事をしたこと。
思い返せば、案外幸せな日々だった。
あぁ、もう下半身も腕も海に溶けてしまった。
それでも、最後に思うのは、この国と弟たちのこと。
自分よりも強い同型艦たちが羨ましかった。
もっと祖国のために戦いたかった。
唯一無二の存在でありたかった。
生まれた時、新型駆逐艦として世界を驚かせた僕。
僕の誕生は、海軍軍縮条約が制定される一因にさえなった。
けれど、すぐに僕を改良した同型艦が生まれ、僕は過去の存在となった。
僕の方が先に生まれたのに。
僕が祖国を導く存在であるはずだったのに。
しかし、ようやく分かったのだ。
僕がどれほど強くなろうとも、その姿を見て、弟たちはさらに強くなる。
それなら、僕の存在意義は、ただ強くなることだけではない。
一番艦として、日本海軍を、吹雪型を導いていくこと。
そして、祖国の未来を切り開くこと。
それが、僕の生まれた意味。
愛する弟たちよ。
祖国の勝利のため、僕はいくらでもこの身を捧げよう。
だから、僕の力も、想いも、すべてを踏み台にして、強くなってくれ。
そう強く願いながら、白浪は静かに目を閉じた。
(
……唯一無二の駆逐艦
……)
(あぁ
……けど、やっぱり悔しいな
……)
求めたものを手に入れても、なお満たされない。
それが人間の本性であり、戦争がこの世からなくならない一因なのかもしれない。
そんな、人間ならではの感情を抱きながら、白浪は海に溶けていく。
(
……僕は
……強さで、この国の未来を
……切り開いていきたかった
……)
雪のように白く輝く、一片の金属片。
それは、陽の光さえ届かぬ深海へと沈んでいった。
*2話 「啓開」✧ 終*
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白浪✧裏CS
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