2話✧啓械






____。

あぁ、懐かしい感覚だ。

ゆっくり。

ゆっくりと水面が遠ざかっていく。

残った片腕と片脚で、もがいてみようかとも思った。

けれど、夏の海はどこか心地よくて、なんとなく、このまま沈んでいくのも悪くない気がした。



「小白!」

「白浪さん!」

遠い空から名前を呼ばれた気がして、残った片腕を水面に伸ばす。

その時、指先がゆっくりと崩れていることに気がついた。

まるで氷が溶けるように。

少しずつ、海へと溶け込んでいく。

……あぁ、きっともう僕は消えてしまうのだろう……



最期を覚悟した瞬間、さまざまな記憶が浮かんだ。

自分が完成した日のこと。
初めて海に出た日のこと。
初陣のこと。
兄弟ができたこと。
そして、この場所で撃沈したこと。

それから、錬成された日。
八械と顔を合わせた時のこと。
鍛錬をしたこと。
食事をしたこと。

思い返せば、案外幸せな日々だった。

あぁ、もう下半身も腕も海に溶けてしまった。

それでも、最後に思うのは、この国と弟たちのこと。

自分よりも強い同型艦たちが羨ましかった。
もっと祖国のために戦いたかった。
唯一無二の存在でありたかった。

生まれた時、新型駆逐艦として世界を驚かせた僕。
僕の誕生は、海軍軍縮条約が制定される一因にさえなった。

けれど、すぐに僕を改良した同型艦が生まれ、僕は過去の存在となった。

僕の方が先に生まれたのに。
僕が祖国を導く存在であるはずだったのに。



しかし、ようやく分かったのだ。

僕がどれほど強くなろうとも、その姿を見て、弟たちはさらに強くなる。

それなら、僕の存在意義は、ただ強くなることだけではない。

一番艦として、日本海軍を、吹雪型を導いていくこと。
そして、祖国の未来を切り開くこと。

それが、僕の生まれた意味。

愛する弟たちよ。

祖国の勝利のため、僕はいくらでもこの身を捧げよう。

だから、僕の力も、想いも、すべてを踏み台にして、強くなってくれ。

そう強く願いながら、白浪は静かに目を閉じた。



……唯一無二の駆逐艦……

(あぁ……けど、やっぱり悔しいな……

求めたものを手に入れても、なお満たされない。

それが人間の本性であり、戦争がこの世からなくならない一因なのかもしれない。

そんな、人間ならではの感情を抱きながら、白浪は海に溶けていく。

……僕は……強さで、この国の未来を……切り開いていきたかった……

雪のように白く輝く、一片の金属片。

それは、陽の光さえ届かぬ深海へと沈んでいった。

*2話 「啓開」✧ 終*

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白浪✧裏CS