重圧に押しつぶされ、座り込む瞬間──ハッと目を開ければ、紺と朱色に染まった景色が目の前に広がった。
徐々に鮮明になっていく視野。ゆっくりと立ち上がりながら辺りを見渡すとそこは中華街のようだ。転移を間違えたのか?と一同は辺りを見渡す。見上げれば建造物の間で透明な紐がいくつも張られ、赤い球状の装飾が等間隔に吊るされているのが見える。樊凌やアジア圏の文化に詳しいものは、それが春節などによく飾られる提灯を模したものであろうと察しが付くだろう。
「ここがアメリカ、という場所なのか!!!!シアノよりも樊凌の雰囲気に似ているんだな?」
グラディエーターの純粋な質問に樊凌が「ココ、中国ちゃうでぇ?」と言う。確かにここは故郷の雰囲気に似てこそいるが、あくまで"似ているだけ"であること。それに春節にああいった灯りを飾り付けることはあるが、今この場所の気候は一月〜二月の中国とは程遠い。加えてよく見ると看板には英語が多いことを話す。
「それならここはどこなんです?アメリカでも、中国でもないってことでしょう
……?」
樊凌の見解をそれとなく聞いていたフィリップが問いを溢す。それに対しては樊凌が口を開くよりも先に、シアノがバツが悪そうに答えた。
「
……自分が思うに
……アメリカ、カリフォルニア州サンフランシスコのチャイナタウンです
……」
「へぇ、そんなものがあるんですねぇ
……」
興味深そうに呟くルフレ。グラディエーターやラート、フィリップ、樊凌も事の重要性に気付いて無いようで興味津々で真夜中の色鮮やかなチャイナタウンを見渡している。建物や看板には発色の良い赤や黄が大胆に使われており、提灯の灯りが非日常感を演出している。
彼ら、特にグラディエーターからすれば電気というのも珍しい。現代で一年間過ごした彼らだが、自分の知っている二つの時代とも違う街並みはやはり興味深いようだ。文字通り異世界にでも来たかのような表情で辺りを見渡す様は(彼らの奇抜な服装に気を取られなければ)楽しげな観光客にさえ見えるだろう。
「それで、その核の発明を止めるにはどうすればいいんだ?」
そんな彼らをよそに、当初の目的にとっとと取り掛かって終わらせたいのであろうラートがシアノに問いかける。しかしシアノはより表情を曇らせ下を向く。
「2時間半
……」
「え?」
「核兵器の研究室があった場所まで飛行機だったとしても二時間半かかります
……この時代、自分らが選べる移動手段に限定するとなれば
……何時間かかるか
……」
核兵器の発明を止めるならニューメキシコ州やワシントン州に行くべきだろう。しかしここはカリフォルニア州だ。移動先の座標がこうも大きくズレたのは彼にとっても完全に予定外のことであった。
申し訳なさそうにするシアノに「まぁーしゃーないしゃーない」と慰める樊凌。
これからどうリカバリーしようかと話が始まるより早く、先程まで離れたところにいた白浪がズカズカと近付きシアノの胸ぐらを掴んだ。
「いい加減にしてください!!!僕への嫌がらせのつもりですか
……ッ!!??よりにもよってこの街に
……!!??」
「っ!?は、嫌がらせってなに
…」
「知らないとでも言うつもりですか!!??誰が僕を殺したと思っているんです!!!」
物凄い剣幕で詰め寄る白浪。日頃の彼は械達の中でも和を重んじ、他者を気遣いながら穏やかに交流をする側の械である。しかし今の彼は自分のことで頭がいっぱいになっており、周囲を鑑みる余裕など無いかのようだ。
彼をそこまで切羽詰まらせるだけの何かがここに、或いはこの時代にはあるのだろう。だが、シアノにはその検討がつかずにいた。困惑しながらもシアノが何かを言おうと口を開きかけたとき、突如白浪は心臓を抑えて座り込んだ。
「小白
……!?」
「白浪!?」
樊凌とグラディエーターが白浪に駆け寄りシアノから離す。先程まで二人の様子をおっおっお♪と楽しげに見守っていたグラディエーターも急な白浪の体調の変化に驚いている
「とりあえず距離を置きましょうか。シアノ、一旦こっちに」
「どちらにせよ8人で移動するのは非効率だろう。別れるべきだ」
ルフレとラートの言葉が続き、二人の距離はそのまま開いていった。
話し合いの結果シアノ、ルフレ、ラート、フィリップのチーム/白浪、樊凌、カラベラフィルム、グラディエーターのチームで一旦分かれこの辺りを探索することになった。
幸か不幸か、辿り着いた街が中華街で東洋人ばかりなのは白浪にとっては救いだった。裏路地で座り込む白浪を、その横に座りカラベラフィルムは見守る。
「
……白浪殿、体調はどうだ?」
「おかげさまでそれなりには
……あれほど取り乱した姿を見せてしまうなんて、面目ありません
……」
「あまり気を落とすな。各々が多かれ少なかれ、何かしらを抱えているというのはみな知っていることだ。それを共有できない理由も、ナーデル殿から伝えられているだろう」
「
….
…だったら良いんですが
……」
核心とは各々の強い願いの塊。故に己が願いを口に出せば自己を保たなくなるとナーデルが言っていたことを思い出す。あれから一年か、とカラベラフィルムは小さく呟いた。
白浪は表通りに視線を向け、ただ遠くの景色を眺める。夜の灯りに照らされ街行く人の顔立ちを見ながら、かつての栄光を思い出す。
(
……あのころは、無敵だったのに
……)
再び視線を落とし、ため息をつく白浪。カラベラフィルムはどう声をかけたら良いか分からず内心はワタワタと忙しなくしていたが、ただ黙って隣にいることを選んだ。
「キャー!!!」
突如甲高い叫び声が聞こえ、それを始まりに表通りがやけに騒がしくなる。けたたましい足音や叫び声も聞こえ始め、先程まで俯いていた白浪もすぐさま表通りに顔を向けた。
「まさか敵襲
……!?」
「しかし、アメリカのチャイナタウンが襲われた記憶などないが
…………」
二人が立ち上がった時、見知った顔が駆け足で路地裏にやってくる。瞬間、つんと鉄臭い匂いが鼻を刺した。
「グラ殿とリン哥哥!?」
「っははは!ついやり過ぎてしまった!」
「ほんまぁ楽しかったわぁ〜」
二人の手にはたくさんの中華菓子が抱えられている。加えて、二人の服は妙に赤い。赤いというかもう赤黒い。何なら思いっきり血の匂いがする。ここまで来れば役満である。
「
……あの騒ぎはもしや
……」
「まぁまぁまぁまぁ!!ほらー!小白!美味しいものでも食べて元気出してやぁ〜♡」
怪訝な顔のカラベラフィルムを躱し、そのまま白浪に桃饅頭を押し付ける樊凌。白浪は苦笑いをしながらそれを受け取り、少し眺めてから口に含む。喉を通る桃饅頭は温かい。鉄の味はするが、不思議とその味はいつもより美味しく感じた。
「っふ、中華菓子も美味しいですね。」
「せやろ〜美食なら日本には負けとらんで〜」
先の騒動といい問い詰めるべきことはあるが、それよりも先に自然と笑みが溢れてしまう。その様子と言葉に樊凌はご機嫌そうに胸を張る。
和やかな二人のやり取り、特に先程よりも緩んだ白浪の表情にカラベラフィルムとグラディエーターはほっと安心した。
「
……それで、この騒ぎは何事だ?」
カラベラフィルムは白浪から分けてもらった桃饅頭を口に含み、じぃっと視線を向ける。その質問に目を合わせる樊凌とグラディエーター。
「別にぃ、騒動を起こしたかった訳やないんやけで?なんかぁ軍人みたいな人間がおって僕らに銃を向けてきて
……」
「決闘の申し込みかと思ったんだがどうやら違ったようでな。」
「んでぇまぁ首チョンパってしたらあの騒動になったってわけぇ。」
白浪とカラベラフィルムはそりゃ怪しまれても仕方ないだろう、という言葉を飲み込んだ。如何せん械達の背丈と格好はよく目立つ。
また、樊凌達はその騒動に乗っかってお菓子を屋台から取ってきたのだと言う。その言葉を聞いたカラベラフィルムは口に含んだ桃饅頭を中々飲み込めなかった。
とはいえ持ってきてしまったものは仕方ない。ここに放置するのも申し訳なく、4人でそのお菓子を食べきってしまうことに。表通りの喧騒をよそに中華菓子を堪能していたとき、白浪はとあることに気付く。
「
……?リン哥哥?そのお菓子を包んでいる紙は?」
「ん?これぇ?手だけじゃ持ちきれんかったからその辺の紙に包んで来たんよ〜」
そう言って樊凌はその紙を広げる。どうやらそれはカレンダーのようだ。
「1942年
……10月10日、までバツがついているということは今日は11日なのか?」
カラベラフィルムのその言葉に白浪ははっと顔をあげる。だが先の言葉が続く前に、表通りを見ていたグラディエーターの声が響く。
「どうやら先程の闘士のお仲間のようだ」
二人の話から推測するに、大目に見積もったとしてもしても彼らが軍人を殺してから一時間も経っていない筈だ。だが目の前に立ち塞がる軍服は、彼らが勇気溢れる一般人でも警官でも無いことを雄弁に語っている。
「あまりにも援軍が来るのが早すぎる
……なら、確実に近くに基地がある
……」
白浪は立ち上がり、背中に担いでいた軍銃を手に取る。彼の瞳は既に目標を定めているようであった。
「目標は敵の拠点を聞き出すこと。援護をお願いします。」
グラディエーターは愛剣のグラディウスを、樊凌は小刀を強く握る。カラベラフィルムは二人の様子を見て、手の中に水の剣を生み出した。
「ははは!任せておけ!」
「かわいい小白のお願いなら叶えんとなぁ」
「了知した」
一方、シアノらのグループは沿岸部に居た。
「うわ〜潮風がすごいですね〜錆びそう〜」
ふざけるように笑いながら海を眺めるルフレ。
港町のそこは深夜にも関わらず賑わっており、多くの屋台が香ばしい匂いを漂わせている。
ラートは建物を背もたれに座り込み空を見上げている。太陽が出るのが今か今かと待っているようだ。フィリップは彼から少し離れた場所で座りこんで休んでいる。この時代にもなれば魔女のような服装の人間は少ない。そのため彼は興味も湧かず暇なようだ。
「錆びるって、今は人の姿ですよ」
シアノはルフレの言葉にツッコミを入れながらも、海の向こうを少し眺めては周りを何やら見渡し
……そしてまた向こうを見て、というのを繰り返している。
その様子にルフレはため息をついた。
「はぁ、一体何を見ているのやら
……同じ道を辿った僕たちですが、シアノの事は掴みきれないですよ。」
「
……それは自分のセリフです
……」
ルフレはシアノの肩を叩きその場に座る。座れ、ということだろう。慌てていても仕方ないことに気付き、彼の言う通りに一旦その場に腰を下ろす。そして少しの沈黙が流れたあと、ルフレは口を開く。
「
……この時代のアメリカと日本、一体何があったんですか?」
その言葉に後方の二人も視線を向ける。あれほど取り乱していた白浪は見た事がない。やはり理由は気になるのだろう。
「
…第二次世界大戦は
…アメリカが原爆
…なんていえばいいんでしょうか、隕石、いやそれよりもタチの悪い兵器を二発落として日本に勝利したんです
…他にも、色々としら
…白浪を怒らせる原因はあるでしょうね
…」
「戦争の勝敗ですかぁ
…けれど、それはシアノのせいではないじゃないですか?どんな戦いでも勝敗は生まれるものだし
…」
シアノのその言葉に、ルフレは分かりそうで分からないような
…そんな気持ちになっていた。それもそのはず。彼は兵器では無いのだから。
”勝つため”に作られた械と、”罰するため”に作られた械。開発理念から異なる彼らの間には、根本の価値観に少なからずの差異があるのかもしれない。
「
……けれど、分からないんです。どうしてあそこまで白浪が怒っていたのか
……」
「んーまぁ確かに敵国のアメリカに来るのが嫌だったら核の発明を止めるって言う時点で断固拒否していただろうし
……乗り気では無いとはいえアメリカに来ること自体は大丈夫だったんでしょうね」
アメリカに来ること自体は、その言葉にふとシアノは先程の白浪の言葉を思い出した。
『────僕への嫌がらせのつもりですか
……ッ!!??よりにもよってこの街に
……!!??』
「
……よりにもよってこの街に
……?」
シアノに一つの嫌な予感が頭をよぎった。シアノは突然立ち上がり、人混みに駆け寄っていく。
「えっちょっとシアノ!?」
シアノを追いかけるルフレと、二人の異変に気付き後を追うラートとフィリップ。
『What year and month is it now
…!?』
『
……But it was October 11th, 1942?』
変な身なりのシアノに警戒をしながらもその男性は返答をくれる。
「っ、もしかして
……」
双子のような関係の白浪とシアノ。彼らは時折どちらが兄なのか、兄の押しつけあいをする。械としては白浪の方が製造年月が先だが、人間としての見た目ならシアノの方が年上。
その話の延長線で、一度だけ彼が最期を迎えた年も聞いたことがあった。
「(よりにもよって被るなんて
……)」
そうシアノが思っていた時、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。
「皆さん!」
中華街の方から走ってきた白浪、それに続くグラディエーター、樊凌、カラベラフィルム。
突然駆けてきた彼らに驚いている間にも、白浪はシアノの横を通り過ぎ、そのまま勢いよく船着場にあった船に乗り込んだ。
「事情は移動しながら説明します!!ひとまずこの船に乗ってください!!!」
彼の言葉にわけも分からないまま一同は船に乗り込む。お互いに顔を見合わせたり『何があった?』『話せば長くなる』と首を振る者。
白浪は操縦席に座り、真剣な表情で手元を見つめる。
「白浪、これはなんだ
……?」
「名称は全て英語だが
……白浪殿、操縦の方法は知っているのか?」
グラディエーターとカラベラフィルムが不安げに問い、その背後で他の械たちも白浪を見守る。
「船の操縦なんて、初見でも出来てこそですよ」
彼は目線を手元から離さぬまま、当然のことのように言葉を返す。そして何のためにあるかも分からない数々のボタンやレバーを慣れたように操作していく。まるで人が手足を動かすかのように、その指先は船を動かすのに必要な操作を容易く終えていた。
『There's a boat thief!』
ふと視界の外から怒号が響く。船の持ち主らしき人物が騒ぎだし船に乗り込んでこようとするのに気が付き、ルフレは興味無さげに目を細める。
「今良いところだってのに。うるさいですよ。」
そう吐き捨てるが早いか、瞬きをする間もなくその男の首が血に落ちた。刃を振るって血を飛ばし、ついでに船と船着場を繋いだままのロープも切り落とす。
「もぉ、白浪さんったら
……大切な部分を忘れてる
……」
眉を八の字にしてやれやれといった様子でルフレは械達の元へ戻る。戒めを解かれた船は力強い波飛沫と共に、陸地を後にした。
船の操縦をしながら白浪は自分たちがしていたことと、先程の軍人から聞き出したことを伝える。
「ここから船で30分の場所に空軍基地があるそうです。そこで航空機を拝借し、燃料補給をしながら目的地に行きます。」
「目的地ってのはどこだ?核が生み出された場所か?」
ラートがそう問いかけると白浪は少しだけ表情を濁らせた。先程まで自分勝手なシアノの行動を叱責していた自分が自分の欲のためだけに全員を巻き込んでいる。
「まぁいいんじゃないですか。ナーデルさんも自分の欲のためだけに平和を壊せばいい、って言ってたし。時間はまだあるんだから。」
「我同意。やりたいことやるのが一番やからなぁ。」
白浪の表情からそれとなく察し、まぁいいよ、と口々に言う械達。とはいえ白浪が一番気になっていた械の声が聞こえず、オドオドしながらちらりと振り向くと彼は海の向こうを見ていた。が、視線に気付いたのか目が合う。咄嗟に視線を操縦席へともどした。
「
……はぁ
……もういいですよ。目的地、今通り過ぎちゃったしどうせ今日叶えるのは無理そうなんで
……やるからには絶対目的叶えてくださいよ。」
シアノは悪態をつきながらそう発した。素直なではないものの自身への許しと応援を含んだ言葉に、白浪の心が軽くなっていく。
「皆さん
……!すみません、ありがとうございます。いつかこのご恩は必ず
……!」
操縦を担当していなければ今にも直角なお辞儀が見えるかのようだ。不意に、目を凝らして正面の窓を見つめていたフィリップが口を開く。
「もしかして、向こうに見える陸地が基地ですか?」
「きっとそうです!!このまま全速で突っ込みますよ!!」
白浪がハンドルを操れば船は飛沫を上げて陸地に切迫する。上陸するや否や一行は船着場に船を乗り捨てる。
「気を引き締めて行かないとだな。」
そう言いながらもグラディエーターの顔は楽しいとでかでかと書いてある。
樊凌とルフレは剣を振るい動きの確認を、ラートは車輪を担ぎ、フィリップはガベルを握る。それぞれは己が手足の延長ともいえる得物を手に、準備万端なようだ。
「軍人は武器を持っています。母上、いやナーデル殿が言ってた通り念の為警戒を怠らないようお気をつけください。」
白浪がみなに声をかけた瞬間、灯台の光が械達に向けられ警告音が鳴り始める。
「あっちゃァ
……早速バレたわぁ
……」
「隠密行動がバレたらやることは一つ!!!派手に行こう!!」
数秒と保たなかった隠密の二文字をかなぐり捨て、基地に向かい走る械達。深夜とは言え見張りは厳重なようで、次々と武装した人間達が集まり始める。軍人達は銃を構え、異分子達に標準を定めた。
だがグラディエーターは彼らが引き金を引くよりも早く間合いに入り込み心臓を一突きにする。そして剣を引き抜く勢いで背後の軍人を切り裂き、血潮はグラジオラスのように咲き誇る。
「リンリン!そちらに二人だ!!」
樊凌はもっと痛ぶって殺したいようだがこの状況ではそうもいかず、仕方ないので首元を切り裂いて捨てていく。喧騒は静寂に、彼の通った道には首から血を垂れ流した死体が次々と増えていった。
「っあっはは!ラーちゃーん♡一人お願いするわ〜」
突然地面に貼り付けられ動けなくなった軍人は混乱し叫び声を上げている。それに一言、煩い、とだけ聞こえたかと思えば、その視界は木製の車輪に押し潰された。
「っふんっ!!ルフレ!右方向に貴殿を狙っている者が二名だ!」
ルフレは撃ち込まれた銃弾を真っ二つに斬る。向かってきた軍人に軽く剣を振るえばその人間は容易く上と下に分断された。このままくっ付ければ元に戻るのではないかと思うほど、美しい切り口で。
「全く
…ただ突っ込んでも無駄死にってことに気付けばいいのに
…フィリップさーん?なんで何もしてないんです〜?」
フィリップはというと、軍人は男ばかりで魔女の疑いがないからかただひたすら走っている。とはいえ銃の音が騒がしくて気に食わないのか、或いは単に疲れたのか、不満げな顔だ。
「魔女以外は管轄外なんで〜あ、あっちから撃たれてる。」
カラベラフィルムは走りながら遠くの軍人に手のひらを向ける。その手をぎゅっと握った途端にその軍人は一緒で水分が抜かれ干からびる。そのまま手をスライドすれば引き抜かれたばかりの水分が刃のように他の人間を切り裂いた。
「シアノ、左方向、数名固まっている。」
シアノは固まっている数名の軍人達を見つけ、彼らに向かって指を指した。そしてスワイプをするように指を上に向ける。その途端に彼らはいきなり地面から出てきた八角形の透明な部屋に閉じ込められた。慌てふためく彼らに深いため息をつくシアノ。数秒後には中の軍人はみな動かなくなった。
「しら、後方、多分一人逃してます。」
白浪は一瞬で後方を向いてしゃがみこんだ。彼が使う軍銃はほかのものに比べ重く、小回りの効く動きをするには向かない。しかし彼の射撃の腕と筋力があれば難しいことではなかった。それに弱点を撃ち抜くことはできずとも、致命傷を与えることはできる。それに当たってしまえばそこから凍っていき、いつかは死に至る。
後方を向いてコンマ一秒、一瞬で標的を確認し焦点を合わせた白浪は引き金を引いた。
しばらく走れば滑空路に繋がる格納庫に辿り着く。その扉は開いておりいつでも航空機は飛び立てそうだ。やっと着いた、と息を切らす械達。
白浪はその場にある航空機を見ていく。
「あった!!」
『第二次世界大戦の海上航空機の仕事馬』とまで呼ばれたその哨戒機に白浪は駆け寄る。その哨戒機こそカタリナ。水上機としての能力を活かし、海上での捜索や救助、遠隔地での任務を得意とする。
そしてその横にある哨戒機はカタリナの対の存在として評されるベンチュラ。高速で攻撃的な哨戒任務に特化し、機動力を活かした直接的な攻撃を得意とする。
早速乗り込んで──そう言いかける白浪をラートが停める。
「貴殿が何をするつもりかは分からないが、全員で向かう必要はあるのか?必要が無いのなら数名は本来の計画通り核の開発とやらを止めた方がいいだろう。」
「確かにラート殿の言う通りです。ならば
……」
白浪は手際良く自分、グラディエーター、樊凌、カラベラフィルムのグループとシアノ、ラート、フィリップ、ルフレに分ける。そして改めて、長らく説明の機会を失っていた自分の目的を口にする。
「僕は
……これからガダルカナル島に向かい、敵艦を沈没させ吹雪型駆逐艦が沈没する歴史を変えるつもりです」
自分勝手な願いで皆を巻き込むことに、たとえ皆の許しを得たとはいえ一切の負い目を感じていないかと言われれば嘘になるだろう。だが目の前の械達はとうに前しか見ておらず、当然責めるものは居ない。
ならば、これ以上迷うことはないだろう。
「操縦はどうするんです?船はできても航空機は
……」
シアノが白浪に問いかけるとルフレとカラベラフィルムが整備士らしき人物を二人連れてくる。片や両手をぎゅうと握りながら祈り続け、もう片方はぴかぴかと潤んだ瞳で『Please don't kill me
……』と訴えかけてくる。
「ここにいるくらいですから、きっと動かせるでしょう?」
無論、彼らの切実な祈りなどルフレには関係ない。それぞれの整備士を別々の航空機に突っ込み、自らも乗り込む。その後に続くようにラートやフィリップらも乗り込み、またカラベラフィルムや樊凌、グラディエーターの三人はもう片方の航空機に足を踏み入れた。
背後の圧迫感に整備士らの震えは止まらない。
「シノ、そちらは任せました。」
「しらこそ
……こっちは自分の目的を諦めて協力するんですから。絶対に成功させてくださいよ。」
最後に白波、シアノがそれぞれの副操縦席に乗り込み整備士に指示をする。
『 I can't fly
……』と泣きながら呟く整備士をひっぱたき、今すぐ離陸するよう命令した。
格納庫から二つの航空機が飛び立つ。鉄の翼を広げ、重い躰を空に滑らせていく。ベンチュラは内陸側へ、カタリナは海へ。それぞれの目的と意志を乗せ、彼らは大地を後にした。