場面は変わって大広間。
一年前と同じように錬成順で座っている械達。
どこか緊張してるようにも見える械もいれば、楽しみで仕方がない、といった様子の械もいる。
「さぁ、今日は待ちに待った作戦開始の日です。まずは作戦のおさらいから始めましょうか
……」
【作戦内容】
第一作戦:第一次世界大戦を止める
大きな戦争の始まり。
戦争の規模が従来のような国対国であれば世界に大きな被害が出ることも、平和の大切さが浸透することも無い。これを止めることで、大戦以前のように人類が戦いと共に生きていくことを狙っている。
第二作戦:核を無くす
兵器として強力・強大すぎる。
上記同様、攻撃力が高すぎるもの──即ち甚大すぎる被害は人間達を冷静にさせてしまう。人間達が冷静になっては平和に進んでしまうだろう。核を無くすことで、人間の争いに対するハードルを下げることが狙いである。
第三作戦:第三次世界大戦を止める、もしくは被害を抑える
この大戦が起きたために、後に平和を求める運動が促進された。
運動の要因となる戦争そのものを無くすことで、人間達が平叶の時代へと至る切っ掛けの一つを無くすことが狙いである。
第四作戦:第三次世界大戦を忘れさせない運動の手助け
武器などの歴史を忘れないための運動。
第三次世界大戦を阻止できなかった場合、この運動への支援を行う。
第五作戦:現代社会の改革
人類を減らし、自分たちが支配する
作戦会議にて協議を重ね決定した内容。上記作戦を経てなお人類が平和に向かう場合、管理に適した個体数まで人口を削減し、械である自分達が直接的に支配を行う。
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今までの作戦を読み上げたナーデルは顔を上げる。
「それでは、この作戦通り行き先は第一次世界大戦中。そうですね
……ヨーロッパの火薬庫と呼ばれたトルコに──」
「
……第二次世界大戦
……1940年代に行くのはどうですか」
ナーデルの声を遮るシアノ。今までの作戦会議では寝てばかりで、起きていても誰かの発言を復唱したり自分の考えを呟く事しかしない彼がナーデルの声を遮って自分の意見を明確に発したことは、その場にいた全員を驚かせた。それも中々な無茶を言っている。
「シアノ、いきなりどうしたんだ
……?」
正面に座っていたグラディエーターが心配そうに声をかける。
すると、シアノの隣に座っていた白浪がシアノの肩を掴んだ。軍人として、彼のような行為は見逃せなかったのだ。
「シノ!なぜ今になって輪を乱すような事を
……!一年間かけて決めた作戦ですよ!?」
シアノは射抜くような視線で自分を見つめる白浪と一瞬目が合うも、すぐに目を逸らす。
「
……」
何も言わず目を逸らすだけのシアノに、白浪は眉間に皺を寄せる。今までは他人に迷惑をかけていないから注意をする程度だったが、今回ばかりは自分勝手にも度が過ぎている、と糾弾の意思が喉元に満ちる。
「何か言ったらどうなんですか
……貴殿だけが我慢してる訳じゃない。そんなわがままが通用するのなら僕だって
……」
「
……なら、しらもしたいことすればいいじゃないですか。自分の中での決め事を他人に押し付けないでください。」
「なっ!僕が言いたいのはそういうことではなく!!どうして分からないんですか!!!」
周囲はすぐに落ち着くだろうと見守っていたものの、二人の口喧嘩は段々とヒートアップしていく。ついには互いの胸元を掴み今にも殴ろうとする勢いにまで発展してしまった。
やれやれ、という顔をしながらルフレはシアノを、樊凌は白浪を羽交い締めにする。それでも口喧嘩をやめない二人にグラディエーターが声をあげた。
「こら!!今から力を合わせて目標を果たすという時にいつまでも喧嘩をしている場合では無いだろう!!」
彼のよく通る声は両者を一挙に黙らせる。二人はまだ不満げだったが大人しく席に座った。とはいえまた喧嘩が勃発しては面倒だと、ルフレと白浪が席を交換し、二人の間にルフレが入る形で座ることになった。
「
……はぁ。落ち着きましたか?白浪様、シアノ様。」
流石のナーデルも普段の笑みを失っている。白浪はついカッとなってしまったことを反省しているようでバツが悪そうな顔をしている。反対にシアノは絶対に譲らない、と言うように腕を組んで椅子に座っていた。
「
……仕方ないですね。どちらにせよ第二次世界大戦中には行く予定でしたし
……順番は前後しますが先にこちらに向かいましょう。そうでもしなければまともに働かなさそうな方がいますので
……」
ナーデルの言葉に白浪は納得がいかない様子。
「それではシアノ様に時辰儀の使い方をご説明しましょうか。説明、と言っても行きたい場所と時代を強く念じるとしか言えないのですが
……」
そう言って席を立つナーデル。
「早速行きましょうか。」
彼女に続いて立ち上がるシアノ。いつもナーデルが立ち上がったあとは真っ先に立ち上がるグラディエーターは目を丸くした。
「(いつもは一番最後なのに。やけに気合いが入っているな?)」
とはいえ、先程の喧嘩を目にした後で特段それを指摘する械もおらず。彼らは普段のように立ち上がり、彼女について行く械達。
「白浪殿?」
そんな中、一向に立ち上がろうとしない白浪にカラベラフィルムは声をかける。
「
……すみません、すぐに行きます。」
そう答えると白浪はすぐに立ち上がりルフレの後について行く。明らかに様子がおかしい彼を心配しながらも、カラベラフィルムは彼の後ろを歩いた。
ナーデルは大広間を出ると階段を上り、立ち入り禁止にされていたコンクリートの部屋の前に立つ。
械達がこの部屋に入るのは錬成されて以来──つまり、最後に入ってから一年以上は経っていることになる。
「皆様、武器など目的地に持っていくものはありませんか?24時間が経たなければ帰って来れませんからね。」
武器を使用する械達はそれぞれ武器を取り出し、ナーデルに問題ないと伝える。
それを見たナーデルは頷き、扉の鍵を開けた。
ギィ、と重い音が響く。懐かしい音と匂い。
やっと部屋の全貌が明らかになる、その場にいる械の誰しもが思った。しかし光が差し込んで明るくなるどころかその部屋は真っ暗闇のままだ。まるで扉が閉められたままであるかのように、一寸先では変わらずぽっかりと漆黒が口を開けている。
「
……?外はこんなに晴れてるのに
……どうして中が見えないんですかね
……?」
ルフレは角度によっては光の反射で何か見えるかもしれないと試行錯誤しているが、どの方向から見ても真っ暗闇なのに変わりはない。太陽の光ひとつ入らないその空間に、ラートはいつも以上に顔をしかめた。
「この中で時辰儀をお使いください。そうすればこの部屋の中にいる方はみな転移するはずです。」
ナーデルのその言葉にシアノは頷き、彼女から時辰儀を受け取る。力いっぱい握ってしまえば壊れてしまいそうなそれを見つめるシアノ。その顔を白浪は見つめていた。
「
……なんですか
………?」
シアノは白浪の視線に気付いていたらしく、彼の方を向かずに問いかける。しかし白浪は「別に」と吐き捨てるだけだった。
グラディエーターやルフレはため息をつき、カラベラフィルムはどうしたものかと頭をひねらせていた。ナーデルはほんの一瞬だけ彼らに視線を向けるものの、特段言及することもなく普段通りの声で言葉を紡いだ。
「注意点もおさらいしておきましょう。まず24時間が経てばこの部屋に皆様は帰ってきます。時間制限は0時から24時です。
そして二つ目。皆様には核心という弱点があります。これが壊れてしまえば実体を保てなくなる
……簡単に言えば死んでしまうということです。壊れる可能性は無いに等しいかもしれませんが、念の為お気をつけください。」
各々自身の核心を確かめる。
「
……皆様、覚悟は出来たようですね。」
「っはは!覚悟なんて初めから出来ている!」
「自分もいつでも行けます。」
「それでは、ご武運を。」
そう告げるとナーデルは深く頭を下げる。彼女を横目にシアノは躊躇いなくその暗闇へと足を踏み込んだ。それを追うように、次々と足を踏み込む械達。乗り気でない白浪もその中へと入っていき、最後に残ったのはフィリップだった。
「
……」
彼の潜在的なものがその部屋を拒んでいる。
「フィリップ様。」
「
……なんですか」
顔を上げたナーデルは彼に声をかけた。
「ただ足を踏み込むだけですよ。」
にこやかな彼女の表情はどこか冷ややかだ。フィリップは険しい顔をしながらもその闇に踏み込む。
全員が中に入るとまたギィ、と重い音と共に扉が閉まった。
「これで準備おーけーやんなぁ?」
「そうだな。ナーデル殿の話ではあとはシアノ殿が念じれば移動ができるはずだ。」
部屋の中は相変わらず真っ暗で互いを視認するのは難しいが、音を頼りにカラベラフィルムは樊凌の方を向く。
「念の為の確認ですが、1940年代のアメリカに行くんですよね?」
「はい。マンハッタン計画
……それを止めることが出来れば核は生まれなかったはずです。」
ルフレの問いに、いつになくはっきりとシアノが答える。会議中でも構わず微睡んでいた彼にしてはやはり珍しい意気込みようだと改めてルフレは感じたが、それ以上は追求しなかった。
「それじゃあ、始めます。」
シアノの言葉が部屋に響き、消える。暗闇で彼がもう既に念じているのか、どんな表情でいるのかは分からない。けれど械達は少しずつ体が軽くなるような感覚になった。
自重を完全に感じなくなった直後、その反動か一気に体が重くなる。多くの重圧、空間を満たす空気全てがのしかかってくるかのようだ。上背に恵まれている者が多い械達だが、一人としてそれに耐えられず、或いは抗うことすら諦めて皆座り込んでしまった。
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