【読切ドラロナ】花満ちる棺

2023年3月発行読切ドラロナ本「花満ちる棺」
花吐き病になる読ロ様の読ドロWeb再録。

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 そうして、ロナルドが次に目を覚ました時、周囲は赤に染まっていた。視界の次に訪れたのは、むせかえるような芳香が鼻腔に捩じ込まれるような感覚。
 それですっかり目を見開いて、見上げた天井との距離感がはっきり掴めることに違和感を抱いた。長らく片目の視力だけで生活していたせいで、急な遠近感に眩暈を覚えたのを覚えている。体に力は入らずとも気怠さがかなり消えていた。意識も平衡感覚もはっきりと掴んだところで、ようやくドラルクがそばに居ることが分かった。何をしたと聞こうとしたところで、続け様に口から吐き出されたものを見た時の、あの絶望感だけは一生忘れることなど出来そうもない。
 ――次はいつ来るか、だと。その言葉を思い出しながらロナルドは振り返る。黎明の光を浴びる吸血鬼の城はやけにメルヘンチックに見えて、思わず舌打ちをしていた。
「誰が……誰が恋人だ、あいつ……あのクソ雑魚、調子に乗りやがって……
 それぞれ頭と肩に乗っかっているカボヤツとツチノコには聞こえていただろうが、それでもぶつぶつと悪態を吐き散らすことを止められず、ロナルドはもう一度踵を返してマントを翻し、城を背にして道を進んだ。
 そもそもこんなド田舎に来るのがどれほど大変か。アイツはどうやら調子がよければ蝙蝠などに変じて飛ぶことが出来るらしいが、こっちは車も入れないような山道をえっちらおっちらと歩いて来ているのだ。体力が失われた今の体で道程の半分ほど来ただけで僅かに息が上がってしまい、それも腹立たしい。
 何より、死に損ねたせいで久しぶりに確認したメールボックスはパンパンになっていた。更には着信履歴が、それこそ目も当てられないほどの数に上っており、画面をスクロールし、果たしてどれから手をつけたものかと躊躇していると、兄の名が連なって見えてしまい、心底から何もかも放り投げたくなってしまった。それでも説教覚悟で出版社やギルドなどへ連絡をいれたあと最後の最後、兄へ連絡を入れる時、ドラルクに見つからないようにするのにも酷く苦労したものだった。
 そう、この一ヶ月ときたら。知らずとも良いことを知ったらしいドラルクは前にも増してロナルドを構いたがった。片時も離れたがらず犬みたいに着いてきて、もう大丈夫だと言っているのに風呂にまで着いてきた時は本当に参ってしまった。
 それから、やたらと熱っぽく見つめてきたり、隙があれば手を握ってくるのでそれもロナルドにとってはたまらなかった。本当は二週間前には城を去ろうとしていたのにずるずると今日まで伸ばしてしまった自分の失態でもある。
……くそっ、絶対いつか……
 恋人などと、とんでもない。馬鹿げている。「ロナルド」は退治人で、「ドラルク」は吸血鬼なのだから。出掛けにそう告げた言葉はロナルドにとっては心底の本心から出た言葉だ。例え白銀の百合を吐き出そうとも、そんな関係になれるわけがない。それは死の間際であろうと、今であろうと変わらなかった。
……あー! クソ!」
 それでも、目覚める直前に聞こえたドラルクの声がやたらと耳について離れず今も聞こえてくるようで、苛立つロナルドは何もない宙空を払った。大きく手を振った拍子に頭の上のカボヤツを落としそうになってしまい、慌てて両手で受け止める。
「わ、悪いカボヤツ」
 大丈夫か、と聞こうとしたところで一ヶ月ぶりに喉が詰まった。
 ぱちぱちと大きな目を瞬かせるカボヤツの頭の上に赤い花弁が乗っかっていたからだ。
 目を覚ました時に自分の周りを彩っていたそれをロナルドはつまみ上げて、じっとりとした視線を向ける。憎らしさと一緒に湧いてくるようになったもう一方の感情。まるで土産物のようなそれをロナルドは、いっそ捨ててやろうと思った。
……くそ」
 しかしロナルドは悪態だけ吐いて、結局花弁を強く手の中に握り込むことしか出来なかった。花弁が形を崩したことで、華やかな香りがロナルドの鼻先まで漂ってくる。
 それは、あの咽せ返るような、甘く華やかな香りだった。


               Fin




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