ディア・マイ・サン

ゲストキャラとしてりんさん(@rinrin1147621)の夢主さん『ミヤビ』ちゃんをお借りしています。
りんさんの小説とこのお話は全く関係しておりませんのでご了承ください。
りんさんの小説はこちらhttps://privatter.me/user/rinrin1147621



テーブルの上に大量にあった食事も、あっという間に無くなってしまった。
 主に食べて居たのはフロイトだったが、それでも十分に満足できる食事だった。
「美味かったぞヴァンタス爺さん」
「わたしも、おなかいっぱい」
「特にポトフは美味かった。野菜に肉の旨みがついてて美味い」
「喜んで貰えて何より。実はベーコンじゃなくて代わりにパンチェッタを使ったんだ。肉の脂がベーコンよりも多く残って脂の甘味がスープに出るんだよ。ポトフに入れる前に肉の表面を焼いてるから余計に美味い」
「そうかつ、レシピ、おしえてほしいです。わたしもつくりたい」
「いいとも、後で君のところにデータを送ろう」
「ありがとうございます。うれしい」
二人が口々に料理を褒め称える。
確かに美味しいとは思うが、そんなに特別なのか?
速くこの場から立ち去りたい思いがスネイルを苛立たせる。

「さあ、もうお開きで良いでしょう?用事は終わりましたよね?」
「いや、用はまだある。首席隊長殿、ミヤビ嬢、すまないが二人で帰ってくれないか。スネイルと二人きりで話があるんだ」
「別に俺は二人で話していても気にならないぞ?」
話を聞いていないフロイトが空気を読まない発言をする。
「フロイト、くうき、よんで」
「ミヤビ、空気は読めないぞ」
ミヤビが気を使うよう促しても、やはりフロイトには理解が難しい。
いつもであれば、空気を読めないことに怒るスネイルだが、今回ばかりはありがたい。
「用があるならここで言っていただけませんかね。私は貴方と二人きりで過ごすつもりなどありません」
 スネイルが言い切ると、サーヴァンタスは何とも言いにくそうに唇を噛む。
……君と縁を切ってから、仕事で会っても共に過ごそうとは言わなかった。君が私を嫌いなのは重々理解している。それを承知で君と会ったのは、全部この事を話す為だ。頼む、二人で話をさせてくれ」
サーヴァンタスが膝に手をついて、深々と頭を下げ懇願する。
この男が懇願したのは、私がアーキバスの士官学校に入学すると言った時以来か。
“私は貴方と同じ道を進むことに決めました”そう言った時、貴方は土下座してやめてくれと懇願していましたね。
その時の血が凍ったかのような青ざめた顔をスネイルは思い出していた。
「話の内容は何ですか?」
スネイルは尋ねる。
「君にとっていい話だ」
 
私に話したい、いい事。
それは十中八九、碌でもないことだろう。
この男は、人の心を見誤る。
……良いでしょう、この際だ。
私の長年抱いてきた恨みを伝えるのも悪くない。
 
「良いでしょう。手短にお願いします」
「感謝するよ、スネイル」
スネイルの返事を聞いた彼が顔を綻ばせる。
自分の掌で物事を掌握するこの男が、安堵をしている。
この顔を見るのも久しぶりだった。
「で、話ってなんだ?」
ダイニングチェアに座るフロイトが尋ねる。
冷えた料理を貪り食いながら。
貴方、話を聞いてなかったんですか!?
しかも、まだ料理なんかを食っている。
このまま居座る気か!?
睨んで念を送る。
スネイルの殺気を察したミヤビが彼に耳打ちをする。

フロイトの目が満月の様に丸く開いた。
驚愕といった顔だ
ヒソヒソ話をし始めた二人はなぜか互いに頷き合っている。
 
「おじゃま、しちゃダメ」
「そうだな、邪魔するのは悪い」

 聞こえたのはその言葉だけだ。
 妙にニヤつきながら立ち上がって、テキパキと身支度を整えていく。
 ミヤビはまあ良い。
 フロイトが嫌に手際が良いのが恐ろしい。
「さそってくれて、ありがとうございました」
ものの5分で二人は支度を整えて、気付いた時には彼らは玄関の前に立っていた。
ミヤビはサーヴァンタスが用意したアーキ坊やのぬいぐるみを抱きしめている。
 
女というものはいつでもこういうモノが好きなのだろうか。
君と違って喜んでくれるから嬉しいね、とサーヴァンタスに小言を言われた。
女性を引き合いに出さないでほしい、とスネイルは思う。
  
「サーヴァンタス、スネイルにあまり乱暴をするなよ」
ブーツの靴紐を結びながら、フロイトが言う。 
「乱暴?そんなことはするつもりは無いですが」
 サーヴァンタスはなんの事を言われているか分からないようだ。
 当のスネイルも見当が全く付かない。
「かっか、おやこどうしでも、おうえんする。こしにきをつけて」 
フロイトの隣でアーキ坊やぬいぐるみを抱いた少女は真剣な眼差しで心配をしていた。
……
 腰に気をつけろとは……、しばらく考えて、ある行為に思考が辿り着く
「ご、誤解です!誰がこの耄碌ジジイとそんなことしますか!」
「スネイル、大きな声を出さないでくれ。近所迷惑になるじゃないか」
 サーヴァンタスがスネイルの腕を優しく掴む。
「サーヴァンタス、貴方も気づきなさい!今我々は大変な誤解を受けてるんですよ!」
「スネイル」
サーヴァンタスの大きな手で彼の口が塞がれる。
「それではしつれいします」
「ヴァンタスの爺さん、パーツの約束忘れるなよ」
「ええ、勿論です」
玄関の扉を開けて、イルミネーションの灯る街路へ二人は歩きだす。
重大な誤解が発生したまま、事態が収束していく。
スネイルは口を塞ぐ手を乱暴に振りほどく。
「待ちなさいフロイト、ミヤビ!」
そう叫んだが時既に遅く、玄関の扉は閉じてしまった。
「何故口を塞いだんですサーヴァンタス!」
「君が近所迷惑を考えずに叫ぶからだろう。夜中に騒ぐのは常識に反している」
「何事にも例外というものがある!貴様のせいで私と貴様が恋仲だと誤解されてしまったではないか!」
……そうなのか?」
「そうですよ!全く……貴方は何故ピンポイントで鈍感なのです!」
「ハハハ、いやはや全く盲点だったな。いやはや、こんなに可愛らしい息子と付き合ってると思われるとは私もまだ若い」
事の重大さに反してサーヴァンタスが呑気にほざいている。
「貴方はカップルと聞いて、幼稚園児がやってるお付き合いゴッコを想像しているようですが、あの二人はこの後私たちがまぐわうと思っているのですよ!」
「まぐわ……スネイル、どこでそんな如何わしい言葉を覚えたんだ」
呑気だったサーヴァンタスが真顔になる。
違う、そっちじゃない。
「良いですかサーヴァンタス、私はもう三十路過ぎた大人なんです。それぐらい解って当然なんです!」
血管が浮き出る程に眉間を皺寄せて訴えるスネイル。
その姿を見て、サーヴァンタスがクククと笑いを堪えながら喉を鳴らす。
「笑うな!」
「いや、すまん。これほどお前がテンションをあげて話すのが、面白すぎて……!」
声を抑え切れなくなった元養父が腹を抱えて笑う。
「これ以上笑うようなら、帰りますよ!」
「それは、困る!わかった……!ハハハ、これ以上は笑わん。あの二人にはちゃんと誤解だと話をしておく……しかし、今時の若い者は想像力が豊かだな」
「想像力とは表現が甘すぎる……あれはただの妄想と言うのです!」
「想像力が豊かなのも、問題だな。はあ面白かった。さあ坊や、愚痴が済んだなら、中に入ってくれないか?」
 彼がスネイルの背中に掌を添える。
「玄関に居続けるのは寒い。暖かい場所で話をしよう」
老人は静かに囁いた。 
「仕方ありませんね…………。良いでしょう、老人は労わるものです」
「ありがとう、スネイル」
掌に押されながらスネイルは廊下を戻る。
その手は十数年前の、嘗て感じた掌よりも小さかった。