ディア・マイ・サン

ゲストキャラとしてりんさん(@rinrin1147621)の夢主さん『ミヤビ』ちゃんをお借りしています。
りんさんの小説とこのお話は全く関係しておりませんのでご了承ください。
りんさんの小説はこちらhttps://privatter.me/user/rinrin1147621


カーテンが開かれた大きな窓から朝日が差し込むリビングで、両親はシーリングファンに縄をくくりつけて仲良く首を吊っていた。
ショックはあった。
しかし、それ以上に愚かしいと思った。

骨が折れて伸び切った首。
ズボンは濡れて尿を垂れ流している。

“スネイル、ごめんなさい。私達はもう耐えられません。サーヴァンタス、この子を頼みます”

蹴落とされたダイニングチェアの傍らに落ちていた――水たまりになった尿で滲んだメモに書いてあった言葉。
子供ながらに私は、その死骸を冷めた目で見ていたのを覚えている。

両親は辺境にある惑星の弱小企業の経営者だった。
武器開発の下請け企業で、特殊な部品の開発・少数ロットでの生産を生業としていた。
経営者とは言うものの根っからの開発者気質でビジネスには疎く、先代社長であった祖父が築いてきた人脈に支えられてなんとか経営が出来ていた、そんな会社だった。
 
このまま欲を出さず、人の縁に支えられて慎ましく生活をしていれば、質素であれ平和に生きられていただろう。
アーキバスの操る人形、サーヴァンタスという傀儡の甘言に釣られてさえいなければ。
 
『貴方々のジェネレーターの設計は革新性がある。是非我々に力を貸して頂きたい』
そう言って彼はアーキバスの本星に立派なオフィスと工場と、莫大な資金、人材を与えた。
ビジネスだけにとどまらず、住居も生活費も私の教育費も与えた。
たまの休日には本人直々に家に訪れて私に本をプレゼントしては読み聞かせて、菓子を焼いたりもしてくれた。
仕事でもプライベートでも、私達家族はサーヴァンタスに特別な愛を捧げられてきた。
  
Q.ビジネスでも、プライベートでも、金も人も敬愛も親愛も全部を無償で無尽蔵に与えられた人間はどうなるか?
A.無償の愛を永遠と誤認して、怠惰になる。

両親に開発させていたジェネレーターの設計図データをサーヴァンタスが完成直前に盗み、アーキバスの新製品として公開した。
その時には、両親はもうサーヴァンタスの庇護が無くては生きていけない肥えたガチョウに成り果てていた。
 
地位や名誉、慎ましく生きる謙虚さ、泥水を啜り逆境に抗う勇気。
餌を与え続けられたガチョウは自分で生きる事を忘れる。
 
ガチョウは肝臓を切り取られて死んだ。
でもそれならまだ良かった。
私達は所詮アーキバスという企業国家の為に利用された家畜だったと諦める事が出来たから。
しかし彼は家畜から肝を抜いた後も家族として接し続けたのだ。 
肝臓が無ければ生きていけないのを承知で。

ガチョウが死んだと聞いて、サーヴァンタスは仕事を切り上げて、ヘリまで飛ばして私の家に駆けつけた。
死んだ両親の亡骸を見て涙を流す様に項垂れ嘆いていた彼の姿は今も覚えている。
自分で殺した癖に、よくもここまで悲しめるものだと感心した覚えがある。
  
両親が死んだ後、私は彼に容姿として引き取られて、16まで育てて貰った。
両親と同じ様に、大事に。
  
『坊や、私の大事なカタツムリ』

慈しみを以て育てられたことに関しては感謝はあれど恨みは無い。
ただ、私は知っている。

『君は特別だ』

その特別の意味はアーキバスにとってまだ利用価値が無いということだ。
同時に、アーキバスにとってまだ不要でも無いということだ。
成果を奪うにも、切り捨てるにもまだ青い。
だから私は愛され続けている。
サーヴァンタスは自分の仕事をしなくて良い相手だから愛情を注いでいるに過ぎない。
屠殺前の家畜をペットとして可愛がっている様なものだ。
本人には全く自覚が無いようだが。

貴様が家畜を家畜として扱えず、家族を家族として扱えないなら、私にも考えがある。

私は今、恨みを晴らす為に空虚なルビコンの空を飛んでいる。