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『素寒貧』
「吉四六(きっちょむ).だったか粗忽惣兵衛だったか、」
ジニュアール家の異国の物語にあった名前は
「なぜ」
「『左手に庄屋に借りた釣竿を、右手に捕えたドジョウをつかんで、釣竿をリリースしてドジョウで肩をトントンと叩こうとしたが、ドジョウは背中に入ってしまったからヒャッと間抜けな声を挙げた』奴の名前だから」
「魔剣戦士ヒュンケルの名でも入れておけ」
「むぅ、」
返す言葉もない、と銀色の青年は肩を落とす。
一山越える前の麓の村で、薬草その他を買おうと取り出した二人分の財布。しかし折しも秋祭りで引き出されていた神像に、勧められるまま願い事をして左手に財布、右手に賽銭、そして目を閉じ背を向け放り投げたのは
―――
「かくて、素寒貧となった吉四六は
―――」
あ、吉四六の方だったな、と薄らとした縺れがほどけた嬉しさか、明るい声を挙げる相棒に、半魔は未だ開いたこともないその物語連作の、毎度巻き込まれるという庄屋に謎のシンパシーを覚える。
もう一度村の外に出てモンスターを狩ろうかと思えば、勇者様のお陰でこの辺はベススライムくらいしか出なくなったと言われ
雪になる前に山を越えるがいいよ、たんとご寄進戴いたから、芋掘りでも手伝ってくれたら必要な食料薬草は準備してあげよう。
一部始終を見守りぽかんとし、やがて大笑いした村人達はそう言って、旅人二人の肩を叩いたのだった。
馬鈴薯を掘るなんて初めてだと言う青年はどこのお坊っちゃんだいと呆れられ、母亡き後の放浪期は馬小屋に忍び込んで餌の芋の皮を齧っては盗人と追われたものだと半魔に愛想無げに聞かされた娘達は怯むでもなく痛ましげな目を向けた。
ここでしっかり身体を休めたら、気を付けてお行きなさい、天に見放されたと思っても互いを離さないで、あの山ではいわれなき謗りを受けた民こそが人々を救ったと言うから
ああそれから万一低体温症になったら錯乱して服を脱ぎ出してしまうから、そんな狂気の沙汰はお互い決してさせないようにね、
などいわれ、半魔は茶を吹き出しかけ、今秋初めての焚き火の前で頬を林檎のように赤く焙られていた青年は、狂気の沙汰、と呟き目を泳がせた
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