enoki181
2024-12-11 18:39:43
12362文字
Public リプレイ
 

【ストリテラ】すみおよぐ 春の巻

俳優:黝さん、エノキ
シナリオ https://talto.cc/projects/dagCgVBVKt-iDzdJLF96Z



◆メインチャプター:静寂と桜


 桜吹雪が鈍足に映る。耳を圧迫する静けさがある。青空の底が、深淵へと続くように思える。
 ここは穴場どころか、現世ではない。そう直感があった。だが本当だろうか? それはあなたが作家だから。金魚だから。幻想と共にあるあなただからそう感じているだけではないか?……まだあなたたちは、楽観的だ。進めるだけ進んでみよう。……戻ることは不思議と考えなかった。
 それにしたって美しい場所だ。気を抜けばぼんやりと見つめてしまいそうだ。


三田 小一郎:「紅璃と桜を見たのは何度目だっけ?」

歩きながら呟く。
話しかけているのか、いないのか。自分でもはっきりしなかった。

いつの間にか鳥の声が聞こえてきていた。
誰もいないから静かだと思っていたのに、邪魔しないでくれよ……邪魔はされていないのか?

「空には気をつけて。紅璃が鳥に襲われてしまったら、し――

……『し』?
凍り付いたように、それ以上口が動かない。

……僕のように、無事ではすまないのだから」

ほ、とやっと息を吐く。
あの緊張はなんだったんだろう。ただ桜並木が続いてて、誰もいなくて、それだけの場所なのに。

[ 三田 小一郎 ] コレクト:0 → 2

紅璃:辺りに聞こえるのはわたしとこいちろーの足音だけ。どこまでも今この世界に2人しかいないみたいな、そんな不思議な感覚。

そんな事をぼんやりと思いながらも進む足は止まらない。こいちろーと二人でこの世のものとは思えない空間を歩く。
ここはわたし達が知っている場所じゃないことだけはわかった。そう、きっと深く沈んでしまってからぷかぷかと浮かんでしまったわたしだからわかるんだと思う。

そしてこいちろーの言葉がちょっとわからなくて、わたしは首を傾げつつも返事をする。

「?」
「うん、気を付けるね。もしわたしが危なくなったら、こいちろーが助けてくれる?」

こいちろーは何かを感じて言ったのだろう。わたしはわたしの足(ヒレ)の音で上手く音が聞こえなかったから気付けなかったのかもしれないわ。

「わたしはこいちろーがいれば大丈夫だから……

こいちろーがいれば大丈夫。
それは本当なのに、どうしてだろう?こいちろーとお別れしなきゃって思うのは。

[ 紅璃 ] コレクト:0 → 2

三田 小一郎:「僕も……紅璃がいれば大丈夫……

頭がふわふわとする。足取りが覚束無い。
なんだろう。道が整備されてなくて歩きにくいってわけでもないのに。

「それに、助けるに決まってる。僕が紅璃を助けないことなんてあった?」

ないよ、ないけど、

――助けられなかったことは?

「え」

脳裏に響いた声に、足が止まる。
紅璃と繋いだ手が重たい気がした。おかしいな。紅璃ってば、こんなに軽いのに。すぐ飛んでいってしまいそうなほどに。

「あか――

ザァ、と風邪が吹いた。
咄嗟に紅璃を抱き締める。花嵐で飛ばされてしまわないように。離れ離れにならないように。
永遠にこのままでいられるように――

「でも、ずっとずっと歩きっぱなしだと、紅璃は疲れるよね?」

そう言って顔を上げると、坂の上に家が見えた。
ここは私有地だったんだろうか?こんな家が建ってたら、もっと早く気付くと思うのに。

「疲れてない?休ませてもらう?」

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紅璃:こいちろーの言葉で坂の上に家があるのがわかった。
周りを見渡しながら歩いていたけれどこんな所あったかしら?家に2人して近づいてみると名前が書いてあるはずの看板には何も書いていないみたい。わたしが金魚だからわからないだけなのかしら?

「休ませてもらえるなら、少しだけ……

そうこいちろーに言うとわたしは彼の顔をチラリと見る。
こいちろーの顔色もなんだか浮かなような、顔色が良くないようなそんな気がしたからわたしはちょっとだけ甘えて休むことにした。

それにしても、ここは穴場というより秘密の場所みたいで、なんだか特別な気分になるのはわたしだけなのかしら?
こうしてこいちろーと2人ずっとずっと一緒に居られればいいのに。

でも、ここはこいちろーのいるべき場所じゃない。

そう思うと私は胸がきゅうっと押しつぶされそうになって、息ができない時みたいに苦しかった。無意識にパクパクと口を開け閉めしてしまう。

「こいちろー」

泣きそうになりながら、わたしは縋るように彼の名前を呼んだ。

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◆メインチャプター:小家と庭園


 坂になる桜の道を進んでいくと、小さな家があった。外観は質素でこぢんまりとしているが、丁寧に手入れがされているようだ。池と庭園が綺麗に作られている。部屋には文机があり、原稿用紙と墨と筆。いくつかの本と、丸い金魚鉢。金魚も快適に過ごせる気候と澄んだ池。それに生活に必要なものが揃っている。

 この家にいたものも、作家であり、金魚を飼っていたのかもしれない。

 だのにもう、ここにその人間はいない。そう感じてる。自分たちはここで暮らすのだとも感じている。それが当然だと。


紅璃:少し休ませてもらおうと、わたしとこいちろーは小屋に一歩足を踏み入れる。

中は手入れが行き届いていてどこもかしこも綺麗なものだ。以前は誰かがいただろうことがうかがえる。
だというのに、ここは金魚と人間のふたりきりの空間になってしまっている。

なんだか、時が止まったようなこの空間で、わたしは少し落ち着かない気分になってヒラヒラと尾ひれを揺らすように袖を揺らした。

「誰も、いないの……?」

[ 紅璃 ] コレクト:0 → 2

三田 小一郎:紅璃への返事は、カラカラと回る水車の音だけだった。
別荘として使っているから、今はいないだけ?それにしては生活できるだけの準備が整っているようだけど。

「紅璃、こっちに引っ越さなきゃだね。狭くなっちゃうけど」

金魚鉢を指差して、ふふ、と笑った。
うちにある水槽、部屋いっぱいのだもんな。奮発してしまった。
でも、紅璃がいなくなってしまうのなら意味はなくて。紅璃がいるのなら、どんな水槽だっていいんだ。

――ここに住むことが当たり前のように話しているなんて、まったく気付かなかった。

[ 三田 小一郎 ] FP:1 → 1

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紅璃:「引っ越す……?」
「でも、こいちろー、お仕事はいいの?急にお引越ししてへんしゅうの人、大丈夫?」

御伽噺や昔話に出てきそうな、人もあまり来なそうで質素な、なんだか修行をしている人や仙人みたいな人が住んでいそうな家。

確かにそこには金魚鉢もあるし、池もある。
それにこいちろーが執筆できる空間だって揃っているのは見ればわかる。いつも使っている彼の仕事道具がそこにはあった。

でも、わたしはあの二人の家も大好きだ。

初めてのわたしだけの棲家。
2人で何気ない事を語り合った思い出。
あそこから見上げるいつもの天井。

ここがわたしたちの桃源郷だとしても、ここはわたしの知らない、わたしの望む場所じゃない気がして。
でも、ここでこいちろーとずっと居られるのならどんなに嬉しいだろう。

それなのに、わたしの心は未だ沈んだまま。

[ 紅璃 ] コレクト:2 → 6

三田 小一郎:「大丈夫、困らないよ……

薄ら笑って言う。
こんな厭世的な作家の相手なんてさ、編集者だってしたくないだろう。

作家というのはそういう奴ばかりかもしれないけど……否、先生は違ったかな。
紅璃をくれたあの人。成功者だった。
女はああいう男が好きで、僕みたいな奴は嫌なのだろう。

ここには二人しかいない。紅璃は僕以外を見もしない。

「紅璃は困るの?僕と離れてしまうのは困らないの?」

おかしなことを言っている。ここから出たとして、帰る家は二人一緒のはずなのに。
ここを出たら紅璃と離れてしまう気配がしている。

「僕は紅璃だけがいればいいよ」
「ねえ、ずっとずっと、ここで休んでいようよ」

紅璃を畳の上に押し倒した。

外から風が吹き込んで、春の匂いがする。
構いやするものか。ここには僕と紅璃しかいないんだから。

「紅璃、好き、好きだよ。愛しているんだ」

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紅璃:「こいちろー……

こいちろーに押し倒され、わたしは彼にされるまま唇を奪われる。

わたしも大好き、こいちろーのことが大好きなの。だからこいちろーの言いたいこともわかる、わかるけど、このまま一緒に溶け合って何も考えないでいることがこいちろーにとって幸せなのか、それとも不幸せなのか。
それがわたしの心配しているところだ。

それでも、やっぱりわたしは彼に求められたら断れない。

「うん」
「わたしも、こいちろーがいれば寂しくないわ」

「ずっと一緒に居たいの」

そうしてわたしの肌はこいちろーによって露わにされてゆく。春の風が私の肌を撫でるように、こいちろーの手がわたしの体に触れた。

[ 紅璃 ] FP:0 → 1