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残りの夜が来た
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星矢
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愚者の黄金
デスマスク(17)がシュラやサガにモヤモヤイライラする話 無印+ギガンントマキアベース 過去設定捏造
初出・同人誌(個人)「愚者の黄金」2013年
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アフロディーテから帰還の連絡を受けた俺は、磨羯宮の入り口に立ち、二人を待っていた。あのときと似たような夜と言いたいところだが、あいにく雨はまだ止んでいない。
七年前、偽教皇となり聖域中を欺いていたサガは、無力と噛いた赤子一人の存在をれ、殺そうとした。
あれは無力な赤子だと断罪したシュラは、本当は赤子が女神であることを望んでいた。殺さずにはいられないほど畏怖する女神を無用だと言いけるサガと、『本物の』神を求めて剣を振るうシュラは、どちらも俺とは完全に性質を異とする生き物だった。二人の姿はどちらも俺の腹の底を冷やし、黒い染みを作る。
ましてや、もし女神が生きているとしたら。サガの長怖が本物だったとしたら。シュラの失望が撤回されるのだとしたら。
気配を感じた俺は階段の方を見た。ゆっくりと現れたのはシュラ一人だった。見える範囲だけでも俺のものと似た様な傷が三、四箇所あった。聖衣の中にもさらに同じ物があるのかもしれない。
「アフロディーテは」
「
……
後から来る」
精一杯の虚勢なのだろうか、雨音に掻きされぬ程の音量はあったが、ひどく掠れた声だった。彼の歩く後には点々と血が落ちている。
黒い染みを起点に腹の奥から湧き上がる何かが、俺の中で暴れていた。怒りなのか、苛立ちなのか、恐怖なのか、それは相変わらず渦を巻いていて、俺にはその本当の正体が分からない。いつでも俺には分からない。ただ、
「任務は終えたのか」
「
……
ああ」
「いいのか? 女神の仕掛け勝手に弱めちゃって」
「
………
」
シュラは答えない。肩で息をしているだけだ。
「生きてるかもれないんだろ、女神。聞いたぜ」
「
……
」
「さすがだよな。良かったな、お前の神様が見つか」
「何が言いたい」
ようやく言葉を発したシュラの顔を見る。触れたら冷たい道端の石。涙も流れぬ痩けた頬。こいつは、自分が殉ずる神を探す、哀れな狂信者だ。
「
……
女神などいないと言ったはずだ」
「嘘つけ。まだ探してる癖に」
「それがサガの勅命だからだ」
「そんな話じゃねえ」
「貴様の戯言に付き合うつもりはない」
「いいけどな、
――
一つ言っておくぞ。お前がいくら戦ったところで、お前の欲しがってる神様なんざこの世界には」
「
……
黙れ」
「いねえんだよ、残念だったな狂信者!! もしいたとしたって、お前のような罪人が救われるわけ」
「黙れ!!」
シュラが手刀を構える。俺はとっさに人差し指を掲げた。
そのまま動きが止まる。こめかみを汗が伝う。
「何が狂信者だ。だったら貴様は何だというのだ」
黒い染みが俺の身体中を侵食する。渦を巻く。
「俺は生きるために戦ってるだけだ」
「ならば俺を殺せ」
渦を巻く。
「戯言を続けるのなら俺はお前を殺す。お前は俺を殺して、全てを単なる生存競争にすり替えればいい。そうやってわかったような顔で高みの見物をしていろ。そうやって、現れた死人の顔を勲章と嘯き、偽悪に溺れていろ」
渦を巻く。
……
雨が降っている。
あのとき雨が降っていれば、俺はシュラの叫びを聞かずに済んだかもしれなかった。聞かなければ、俺とシュラは同志などではないということに気づかずに済んだかもしれなかった。
――
いや。遅かれ速かれこの染みは生まれ、広がっていったのだろう。シュラもサガも、きっとアフロディーテだって、同志などではない。俺たちはただの共犯者で、生まれも境遇も、見ているものも聞いているものも違った。頭の中が同じはずがなかった。当たり前のことだったが、俺はなぜかどうしようもなくそのことが悲しかった。
ああ。この黒い染みは悲しみなのか。
それでも、
「溺れてんのはどっちだ!!」
俺は指を降ろし、拳に代えた。殴りかかる動作は猛烈な既視感を伴った。以前と違うのは、俺がすぐに吹っ飛ばされたことだけだ。
背中をしたたかに打ち付けられ、一瞬意識が飛んだ。
傷が燃えている。
「
……
ってえー
……
」
見上げたシュラの顔には、俺と同じように汗が伝っている。それが頬を滑り、顎に落ちた。
「このクソ野郎
……
」
「それは俺の台詞だ」
血の跡を残しながらシュラは宮の奥に姿を消す。
俺は天井をぼんやりと眺めた。大理石に押し付けられた背中が徐々に冷たくなるのを感じながら考えていた。
……
それでも。
それでも、俺は捨てられない。サガからもらったサンダルも、二人が頷いたことも、言葉も、全てだ。彼らが自分とは違う人間だと分かっても、彼らから得てしまった以上、俺は何一つ捨てられないのだ。この茶番が女神のための前座であっても、もう俺はこれを守るしかないのだ。自分の身を守るのと同じように。
生存競争と嘲るなら嘲るがいい。どんなに足掻こうが、どんなに崇高な目的があろうが、どのみちこれも、『歴史に残す意義のない戦い』だ。
ざまみろと呟くと、足音が聞こえた。遅れて登ってきたアフロディーテは、俺を見ると呆れた顔でため息をついた。
「手負いの雑魚二人が何をしている」
俺は目を閉じる。
……
ごもっともだ。
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