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残りの夜が来た
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星矢
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愚者の黄金
デスマスク(17)がシュラやサガにモヤモヤイライラする話 無印+ギガンントマキアベース 過去設定捏造
初出・同人誌(個人)「愚者の黄金」2013年
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あのクソガキ今日こそ許さねえ俺のことをコケにしやがって、孤児だかなんだか知らねえが俺は毎日毎日真面目に働いて税金だってちゃんと納めてんだ、それをあのコソ泥、今日こそ許さねえ、クソ、息が切れる。ガキの足が速すぎるのだ。その上空気が悪すぎる。
スラムの空気は黴と埃と小便と酒、他、全てが混ざり合った上に結局諦めて腐ってしまったような臭いがする。男はスラムの人間ではないのでこんな臭いには耐えられない。クソガキを追いかけてここに入り込むのはこれで七度目だったが、七度目でもやはり悪臭は悪臭だったし、臭いに留まらず視界すら濁っているように思われた。追いかけるクソガキの背がゆらゆらと蓋くのはそのせいかもしれなかった。
少年は夜の街を裸足で走っている。足裏は土埃で真っ黒に汚れており、濁った空気もあいまって彼の本来の肌の色はわからない。といっても、少年が何者かなど気にするに値しないことだ。男にとって少年は、真面目な仕事の成果をなんの労もなく繰り返し横取りするコソ泥に過ぎない。少年がコソ泥でなかったとしても、男は、土埃の下の少年の肌や髪が何色なのかなど考えたりしない。それどころか少年が生きていようが死んでいようがどうでもいい。俺はただ勤勉に働いているだけなのだ。
「待てコラ!」
狙うなら観光客を狙えばいいのに、俺なんかこの国を出たこともないのに。
……
そうだ、それでも真面目にコツコツと、旧市街の飲食店で、やりたくもねえ仕事を、うまくもねぇ料理を、馬鹿な観光客にそれを、神様、俺が何か悪いことをしましたか? こんなスラムを走り回って、あんな得体の知れねえガキをこんなに必死こいて追っかけてんのは、オラ、てめえが俺の金を盗んだせいだ、「待てって言ってんだろうが!」
少年はちらりと振り向いた。聞こえてはいるらしい。
「待て! 食い物をやるから!」
足が緩んだような気がした。クソガキが。嘘だ。
もともとはアラブ人だかユダヤ人だかの街だった路地は複雑に入り組んでいて、不慣れな男は毎日巻かれていたのだが、少年がしくじったのか、それとも単に今までが男の不運に過ぎなかったのか、とにかく今日は、その路地が男に味方した。ああ、そうだ。神はやっぱり俺を見てくださっている。
袋小路に入り込んだ少年は徐々に速度を落とし、最後には立ち止まった。
痩せた背中に背骨がくっきりと浮き出ている。
「可哀想に」
「
……
」
「食べてないのか」
だが金は返してもらおう。
男は拳を振り上げた。もし怪我で死んだらそれは、働きもせずコソ泥を繰り返すお前に、神様が与えた罰だ。
「この野郎!」
少年は身体ごと振り向いた。骨ばった腕が肩より高く上がる。その先の手がピストルの形をしている。ピストルは男を指す。ガキが。何の真似
男は鼻で笑おうとしたが、その笑みは完成することなく、彼自身と共に消え去った。
死体も残らない路地裏で少年は唾を吐き捨てた。いい金蔓を失ったことにほんの少しだけ落胆していたが、あちらが見逃してくれなかったのだから、仕方のないことだった。スラムで誰かが姿を消すのは珍しいことではなかったので、このことはいつもの様に事件にもならなかった。
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