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さもゆ
2024-11-16 22:42:30
20885文字
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BBB
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【血界】小話あつめ。
cpとして書いてないぞこりゃあ、と思ったものまとめ。以下各ページメインキャラ。
1.先輩と番頭。
2.少年と副官。
3,警部補と少年とモブ。
4.少年とボス。
5.人狼と半魚人。
6.副官とボス。
7.人狼と副官。
2020.4.12 たまごのお粥pixiv投稿作品
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(レくん加入前のステ←チェ。雷が怖いチェインさんの話)
霧を裂く雷鳴が轟き始めている。
派遣先の副官に書類を手渡す際、チェインは明確に「しまった」という顔を浮かべたことに更に「しまった」と思ってもっと顔を歪めてしまった。
それを間近に見ていたスティーブンは当然、彼女の寄った眉の間に皺が深く刻まれた瞬間に気づき、それより前、結社に窓から飛び込んできた時の常ならぬ様相と合わせて考え、たったいま手渡された書類を持つ指の震えで、ほぼ確信したことだろう。慎重に口を開いた。
「チェイン、きみ
……
雷が、怖いのか」
ぴかっ、男の頬に走る傷痕より恐ろしい稲妻が、窓の外でひた走るのを、チェインの怯えた紫紺の瞳が捉え、心臓がどくどくと胸を叩き出す。チェインは頷きともとれる仕草で深く俯き、目を瞑った。もう少しだ。さっきの稲妻が、きっと遅れて鳴り響く。骨の髄まで砕いてバラバラにしそうなほど、大きな雷が
――
。
きゃああ!
街中にそれが轟いたのと同時、まるで体中の気力が悲鳴となって喉から飛び出し、足から力が抜け無様に蹲っていた。
チェインは雷が嫌いだ。
むかし一度、打たれたことがある。
子どものころとは言え、希釈していたから怪我はなかった。嵐の夜、横殴りに降る雨風に攫われて、龍のように空を翔ける雷に体中を貫かれた。希釈していたって意識はあるのに、それをないものとしていたぶってくる圧倒的な自然災害が、怖くて怖くて仕方がなかった。
――
まるでお前なんか存在しないというように!
そんなの分かってる! チェインは心の中で叫び尽くす。
……
私は人狼だ、人狼は誰かに縋っていないと存在できないんだ。自分一人だけでは“無い”のと同じ。そんなのは分かってるんだ! 分かってる
……
。
耳の奥ではごうごうと雷雨が暴れていて、ほかの音なんて聞こえない。自分で自分を確かめていないとチェインは駄目だった。体の外側からも内側からも雷の音が打ちつけてくる。このまま消えてしまったらどうなるのだろう? 希釈を解いて、人間という存在に戻っても、雷雨の中を漂っていたら落下か落雷で死んでしまう。そうしたら、誰が「人狼」のチェインだと気づいてくれるのだ。
また、大きく雷鳴が轟いた。チェインは寄る辺ない小さな少女のように身を竦めて、嵐のなかをひとりぼっちの気分で、ただ怯えるしかなかった。閉じた瞼の裏側で、闇を脅かす稲光が走り抜けていく。これも嫌いだった。光を飲み込む暗闇ほど、自分にとって安心できるものはないのに。だから光はイヤなんだ、私の存在が本当は「無い」ことを知らしめてくる
――
。
「チェイン」
と、その時、両耳を塞ぐ手に冷たいものが重ねられた。
雷鳴と、浅くなった呼吸の間、ひどく落ち着いた声が夜のとばりのように下りていく。
「チェイン。よく聞きなさい。雷はもう鳴っていない。だから、そう、泣くな
……
」
これが副官の声だとは認識しておらず、瞼の裏側の闇が囁きかけてきたと思ったチェインは、小さく「うそ」と呟き返した。「うそ、まだ聞こえる。まだ光ってる。あたしのこと、引き裂こうとしてるの。まだ
……
」
「いいや、本当だ。目を開けてご覧。ちっとも光ってやしないよ」
「ほんとう
……
?」
「ああ、ご覧」
導く声音は、瞼を開けたってどうせ閉じている時と変わらないんだ、ならこの声に従って開けてみたっていいかもしれない、と思わせてくる。まつ毛を震わせながら、恐る恐る瞼を上げていく。
するとそこは少しの光量もなく、まさに夜に満たされていた。
静かだ。
雷の音も聞こえない。
チェインは深く呼吸し、酸素が足先にまで及ぶと、体の内側で響いていた雷鳴もあっという間に消えたことを感じた。
そして自分が夜の下ではなく、ライブラの執務室の床にみっともなく座り込み、この暗闇が誰の手によって作りだされたのかよく理解することになった。全ての窓は非常時用のシャッターが下り、室内の電気は消され、外の気配を一切遮断している。チェインが怯えている間に手早くそうしたスティーブンが、傍らで、チェインの耳にある両手を握って彼女と目線を合わせている。
左頬の、恐ろしい稲妻の形をした傷痕が、笑みに沿って歪んだ。
「な? もう大丈夫だろ。
……
さすがに、外はまだ鳴ってるだろうから、きみが帰れるようになるまでしばらくこうしとこうか」
不思議と暗闇の中でも彼のことはよく分かった。黒髪と、濃紺の瞳に、青白い肌からちらりと見える暗色の刺青。
夜の王さまみたいだ。
夜は、好きだ。私は黒髪だから、夜の間は希釈しなくたって溶けていられるような気がして、好きなことができる。希釈したらしたで、完全に夜と一体化したみたいで安心する。チェイン・皇。夜は、人狼である彼女の、味方だった。
そしてスティーブンは、世界のことごとくを照らし出す真昼のような男の味方だった。チェインが派遣されているこの超人秘密結社ライブラは、均衡を保つための組織だ。ボスの白日晴天の雷より眩しい光と、副官の暗黒鎮静とした星の煌めきすら宿さない闇。ここに来てしばらく経つが、どちらか一方が欠けてはこの組織は存在し得ないのではないかとすら思う。まさに均衡だ。
チェインの好きな夜の人が、全てを白日の下に曝す真昼の人と一緒にいる。自分の存在の無さを明るみに出す光というものをチェインは嫌っていたが、ここは違うのだ。共存できる。それに、K・K。彼女のわざを初めて見た時、あんなに苛烈に優しい雷が駆け抜けて行くのを美しいと思った。彼女の雷は決して仲間を、私を傷つけたりしない。
何を怖がっていたんだ? あたしは。
「
……
す、いま、せん」
裏返りすぎて発音できたかも怪しい。
それどころか、自分の声すら聞こえづらいのは、未だスティーブンの手が自分の手ごと耳を塞いでいるからだと気づく。途端に爆発的に羞恥が駆け上る。せっかく涙が引っ込んだ瞳にみるみるうちに膜が張っていくのを、スティーブンはぎょっとして制止した。「待て、泣くな。どうした? まだ怖いか? どうしたらいいかな。早く人狼局に戻りたい? そうだよな、きみの仕事もう終わったし、ええと待ってろ、今すぐ雷
……
は止めらんないんだよな~! ごめんなぁチェイン駄目な上司で
……
」
存外、慌てて、わたわたとしているスティーブン以上に叫んで慌てたいチェインは、それでも、と心の中だけで言った。全然、駄目なんかじゃないです。あなたじゃないと、私は、存在できないんです。
ああ、でも、今だけ。
今だけどうか、この顔の赤みが照らされる前に
……
消えてしまいたい!
やっぱりチェインは、光が苦手なままらしい。
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