さもゆ
2024-11-16 22:42:30
20885文字
Public BBB
 

【血界】小話あつめ。

cpとして書いてないぞこりゃあ、と思ったものまとめ。以下各ページメインキャラ。
1.先輩と番頭。
2.少年と副官。
3,警部補と少年とモブ。
4.少年とボス。
5.人狼と半魚人。
6.副官とボス。
7.人狼と副官。

2020.4.12 たまごのお粥pixiv投稿作品


(モブ警官あり。警部補にはちきんらーめんをそのまま食ってほしいし少年と食に大雑把同盟に加盟してほしい話)



 ちょっとそいつ頼みますよという余裕ない声に顔を上げて数秒、ダニエルの方はというと余裕というより経験からくる反射によって、隣にいたポリススーツを自分の前に蹴り立てていた。突然上司に足蹴にされた部下はエッちょっとと狼狽えながらも、できる部下だ、ダニエルの思惑を即座に悟り両腕を構える。
 そこへ、ガンッ、と硬い装甲にどこかしらをぶつけた音を鳴らして少年が飛び込んできた。
 ……飛び込まされた、と言った方が正しいか。
 人間一人を唐突に受け止めさせられた部下が、腕の中のずり落ちそうな短躯をわっわっわっと抱え直すのを尻目に、ダニエルは前方へと叫び返す。
「スカーフェイス!」
 HLPDが規制線を張っている内側、飛ばされた少年がたった今までいたらしいそこでは、今回やむを得ず協力を仰いだ秘密結社の一員たちが奮闘している。人外とほぼ人外の戦いの場だ、一般より頑丈な武装をしているくらいの警察は外側に気を配ることが精々だった。そこへ飛ばされた少年がうぐうぐと痛そうに呻いている。どう聞いても見ても厄介物だ。
 彼の上司であろうスカーフェイスはこちらに目も向けず声を荒げた。その様相から、どうやら戦況は好転していないらしいことを知る。
「ケーサツは子どもを守るのが仕事だろ!? ……預けましたからね!」子ども、という丁寧な言い方はいっそ清々しいほどまでに似合っていなかった。クソガキ、と砕けて表現した方がいかにもな感じがする激情だ。
 そういうわけで頼んだから、と皺ついたスーツの背中は霧と爆煙の向こう側に消え、ダニエルは部署の女どもが噂しているあの男の評価に鼻を鳴らしたくなってくる。クールでスカーのポーカーフェイス。どこがだ、と思う。とりあえず最近お互いの腹をさぐり合い共同戦線を組むあの男は、わりに感情的であつくるしい人間だと感じる。
 ダニエルはその感情的な男に強制的に避難させられた子ども──クソガキ──少年──を振り向いた。同情と面倒くささを隠しもせずに肩を竦め、だとよ、と言った。
「一時的に保護してやる。なんだ、厄介払いか?」
 こういう時に慰めやフォローをしないのが駄目なんですよと装甲服の部下が少年を地面に下ろしながら言う。この若者は最近配属され、未だ他者に優しさを向けられる珍しくいいやつだった。だから余計に顔を顰めてしまう。うるせーよと返す。この街だけでなくとも、いいやつというのは大体早死する。
 上司にシンプルにいなされ寿命の予想までされている部下は、装甲の頭部を脱ぎ、地べたに蹲る少年の背を支えてやっている。大丈夫かい、との呼びかけに、腹を押さえた少年が呻き混じりに大丈夫ですと返した。
……すんません、一時的に厄介になります……
 殊勝な物言いにほほうと感心する。時折共闘のための作戦で見かけ、少なからず言葉を交わしたことのあるこの少年は、非戦闘員でありライブラの一員だ。つまり、戦う術以外の何かを買われこんな戦場に立っていることになる。戦線から離脱された理由を自分がよく知っているということだろう。痛みに顔を歪めながらも大人しく、よろしくお願いします、とダニエルを見上げた。
 あの野郎は少年などと呼んではいるが。
 どころか、ダニエルにとってもガキと相違ない見た目をしてはいるが。
 糸のように細い両目は妙に世の理不尽を見てきたかのようにまつ毛を震わせ、なぜか薄い皮膚を火傷で爛れさせていた。
 それに気づいた部下が痛そうだねと声をかける。次には少年は唇を尖らし目より腹がいてーですと身を捩った。普段年上に囲まれている部下は、歳が近そうなのが気安いのか、やけに子どもっぽく首を傾げている。
「腹? ……まさか刺されて」
「あっやっや違います、違うんですけど」はあーとため息を吐いて、部下に言い淀むようにして口開く。「いやー……あの……スティー……スカーフェイスの人に蹴り飛ばされまして……」これにはダニエルもぎょっとして少年を見下ろした。
 たははと笑ってなどいた。
「すごいっすよねー……蹴りひとつで俺をここまで飛ばしたんすから……星になったかと思いました……
 足技使いってどうしてこうも何でもかんでも足で押し通そうとするんすかね、とやや遠い目で言っているのを分析するに、おそらく今回が初めてじゃないのだろう。何やかやを足で押し通されたことがないとできない諦念が垣間見えている。「な、仲間だろ? ひどいね」と普通のことを普通に言った部下はちょっとするとこちらを見上げてきた。「なんだその目は」「イエ」足技使いじゃなくとも足が出るやつだっているわ。ダニエルはガンと装甲服の背中を爪先で叩いた。ほらそーいうとこ! 部下が喚く。うるせえ。一蹴する。「……で、有無を言わさずオメーを託児されたわけだが」
「児童じゃねーです」
「なんだ、こりゃ病院に連れてった方がいいやつか? めんど……、」少し考える。頷く。「……貸しが上乗せできるな。いいぜ。連れてってやるし費用もこっちが持ってやるよ。スカーフェイスと坊ちゃんに吠え面かかせてやろーぜ」
「欲望が明け透けだなあこのお巡りさん!」さっすがHLのPDだ! 叫んだガキはでもクラウスさんは普通に感謝しちゃうやつだと思いますよそれ! と続けて叫んだ。キレがいい。そしておそらくその通りだ。あの大柄のお坊ちゃんにバカ真面目に感謝される想像を容易にできて辟易する。と同時にその隣で顔を引き攣らせているスターフェイズの姿も。これは大変に面白い。
 仏頂面のまま面白がっていると不安げな顔で部下が言う。
「でもほんと、病院連れてくよ? 大丈夫?」
 その言葉にいたく感激したらしい糸目は、涙をぶわりと滲ませありがとうございますうと伸ばした部下の手を掴んだ。ぶんぶん振り回し、この街の警察ってこんな人もいるんだと仮にも(仮にもなにもないが)その警察の警部補の前で泣き始めた。
「なんかモーこの感覚忘れるとこでした、そうっすよね、確かにそりゃあ自己責任はどこでもそうっすけど限度があるじゃないですか、その限度を思い出した……あー俺……アカン優しさに触れて泣く……
「もう泣いてんだろ」
「泣いてばべん」鼻水が垂れていた。
 ひとしきりずびずび泣き終えるとまたありがとうございますと言い、でも大丈夫ですと自分の腹を叩いた。
「火傷はまあ軽いですし、腹の方も昼飯まだだったんで平気ですよ。終わったら、たぶん事務所で皆して手当てが始まるんで。重かったら病院ですけど」
「何が平気だって? おい今何時か分かってんのか」
「ええと、」端末を取り出す。画面はバキバキにひび割れていた。「16時……33分。飯食ってたら蹴り上げられた時にリバースするとこでした。だから、」平気です。
 と言われたダニエルはほんの少し頭の中で考える時間を設けたが、傍らの部下がこいつ何言ってんだというふうに顔を顰めているのを見てまさしくそれだなと思って考えるのをやめた。代わりにトレンチコートの懐からガサガサと自分が昼前から持ってきていたものの存在を思い出し取り出す。投げやる。
「それやるよ。食いかけだけど。あとたぶん湿気てる。それと粉砕されてる」
 言っているうちになんて食う気の起こらない言い方だろうと思ったが、事実だった。
 放り投げられたそれをなんとか受け取った少年はあ、と声を上げ、部下はアンタまたですかと悲惨な目を向けてきた。ダニエルはなんだと睨み見下ろす。「……うるせえよ。いーだろ。生で食うの便利なんだよ」「……まだ何も言ってません警部補」「目がうるせえ」閉じてりゃいいんですか、オウ、でもマーカスさんがあんたの食生活心配してましたよ、口も閉じてろ、応酬の合間にクリップで止められている袋をガサガサ開く音が流れていく。
「ちきんらーめんだ……
 少年がやけに嬉しそうに言って、袋の中から、昼前はまだ多数の塊になっていたのだが現場に駆り出されてから粉々になった麺の欠片を、ひょいと摘んで口に入れた。萎びた咀嚼音。
 このジャパニーズ即席麺は生のまま食べられるし塩分を取れるし(塩分過多だ、なんて言われたりするがこの街で生きていれば全部汗んなって出てくわとダニエルは決まってそう返す)水分と一緒にとれば腹が膨れるしで常用していた。湯を沸かせば三分。だがその三分さえ惜しいわけだこっちは。
 霧烟る街では開封したら湿気るのが早いという難点はあるけれど。塩気と食いやすさには代えられない、と、ダニエルは思っている。
「僕もよく食うんすよこれ……便利っすよね。あー空腹に萎びた食感と塩気がきく……あっ貰っちゃって良かったんすか?」
「もう食ってんだろうが。やるよ」
「ありがとうございます……
 もそもそ食べながら、これそのまま食べられるし塩分取れるし水と一緒に食べれば腹ん中膨れるしで便利なんすよね、と言った少年に、なぜか部下が駄目だこの人たちと漏らした。何が駄目だ何が。ガンッ、足裏で背中を蹴る。それに気づいていない少年が感嘆を零す。
「僕ちょっと勘違いしてたみたいです……お巡りさんて優しいんすね……
 駄目だよ騙されちゃあ!? 部下が叫んだ。それはダニエルも思った。蹴りも続けた。