さもゆ
2024-11-16 22:42:30
20885文字
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【血界】小話あつめ。

cpとして書いてないぞこりゃあ、と思ったものまとめ。以下各ページメインキャラ。
1.先輩と番頭。
2.少年と副官。
3,警部補と少年とモブ。
4.少年とボス。
5.人狼と半魚人。
6.副官とボス。
7.人狼と副官。

2020.4.12 たまごのお粥pixiv投稿作品


(ステ←チェ表現あり。チェインとツェッドが駄弁っている話)



 あの人は私という存在の全てなんだよ、と言ったチェインの横で、それは僕が聞いていい話なのかなあとツェッドは水の入ったグラスを手に取った。
 それを何気なく隣の彼女――怖いが優しい方の先輩だ――に差し出すと、ありがとうと言って受け取ってくれたものの飲まずにもう片方の手にある酒瓶を煽って、ぷはーと幸せそうに唇を緩める。お酒を飲んでいる時が一番幸せそうだなこの人は、とツェッドは薄っすら思っている。
 周りを見渡せば宴もたけなわ、ソファで静かに飲んでいる珍しいこちらの組み合わせに気を留める者はいないようだった。向こうでザップとパトリックが何やら爆笑し、レオナルドが憤慨している。近くのカウンターでは苦笑いするスティーブンと彼に人差し指を突きつけているK・K、そして汗を飛ばしているクラウスがいた。ほかの多くの構成員も各々、賑々しくしている。
「あの人はさー……
 彼女がどれだけ酒を飲んでも正体をなくすことがないことを知っているツェッドは、つまり、この話は自分が聞いても問題ないものだろうと見当つけて、はいと続きを促した。
「あの人は、どちらかというと、影なんだよ」
「影ですか」
「そう。眩しくて強くて、あたしなんかは直視するとその眩しさに腹が立つこともある……そんな光のそばで、同じくらい強くある影なんだ」
 ちゃぷちゃぷ、酒瓶を揺らす。
 はあ、ツェッドはもそりとつまみのチーズを食べた。おいしい。これどうぞと隣に渡す。またありがとうと言って彼女もチーズを口にぽいと投げた。もぐりもぐり。
 飲み込んでから、だからと続ける。
「すごく……憧れてるのよ。私は、自分のこと、影だと思ってるから」
「チェインさんがですか」
「諜報潜入暗殺、薄暗いことはなんでもござれなんだこっちは。そうでなくとも、生まれた時から……人狼だし」
 ツェッドには人狼だから光ではなく影、という理屈がいまいち理解できなかったが、それはおそらく彼女が生まれながらに体験してきたものと過程による事実で、そこを突っ込んで訊くほど無粋ではなかった。なので、黙って耳を傾ける。彼女は水晶のような大きな黒目を瞬かせ、どこを見ているのか、ふと笑った。
「カッコいいよね。あのさ、影っていうと、まー悪役を想像するじゃん。たとえ主人公側の人間でも、薄暗いことして最終的に裏切るんじゃないかって」
「はい」そういう話はたくさん読んできたので、素直に頷く。
「でもあの人は、」語るチェインの顔は、この街でたまに見かける人間の子ども、少女のようでも少年のようでもあった。「違うんだよ、決して悪にはならない。たとえやっていることが後ろ暗くったって、それは全て光のためなんだ。強大な人を影で支えて、飲まれたりなんかしない、素知らぬ顔で暗がりに立ってる。私……」そこでツェッドを振り向いた。「……だから、できるだけ同じ場所に、誰にも見つからないよう、いたんだけど。私はあの人に存在の全てを……勝手にも……預けていたわけだし」 
 目を合わせたまま、はあ、と、ともすれば気のないと思われる返事をしてしまい、でも仕方ないんじゃないかと思って口を閉ざす。話が見えない。たぶん、それで構わないのだろう。理解を求めていない彼女はなのに、と更に続ける。
「レオの登場であたしの足場が崩れかけてる」
……どうしてレオくんが、」出てくるんですか、と言いかけるが、チェインが首を振る。まだ喋ってはいけないらしい。
「存在をなくすことにかけては、自信あったのよ。あの人にも勘づかせない。だってあの人はあたしがあの人の足元に広がる影の、隅にいる存在だって気づいてなかった。私はそれで良かったし、それ以上望んでなかったの。大体ね、あの人の足元が暗いってことも、きっと、気づいてる人は少なかった。何せ隣の光が巨躯だったから……
 ツェッドはなんとなく、本当になんとなく誰の話をしているのか想像がついて、ついカウンターに視線を向けそうになってしまう。「ところがどっこい、よ」悔し気に言った彼女の言葉に、慌てて視線を戻す。チェインはぐびりと酒を煽った。
「レオ、レオ、レオナルド・ウォッチ。あいつ私のことを見つけやがった」
 柄悪く言った。
「こんなことは初めてだ。暗視鏡もサーモグラフィも可視化システムも屁の河童なのに、あいつの目は私を見つける。見つけれるくせに、意図的にそうしない。そーいうとこもむかつく。私の存在はあの人が全てなのよ、なのに、あの人でさえ見つけられない私を見つけられるって、なんだそれ……くそチート野郎……
「チェインさん……」ツェッドはチェインに新たに水の入ったグラスを押しやる。「実は結構酔ってますよね?」なんだか自分が聞いていていい範囲を超えた気がする。
 黒目はしっかりしているし頬も赤くない通常通りのチェインが、「まだ酔ってないよ」とあっけらかんと答えて持っていた水を飲む。それを飲み干してから、ツェッドから新しい水を受け取り、また酒を飲んだ。酔っているかいないかは判断し兼ねたが、やけくそのようには見えた。
「たぶんさ、あの人もそれなりに、足元が崩れる感覚したと思う」
 スティーブンさんがですか、出かかった相槌をすんでで飲み込む。
「レオも光じゃん。ちっこいけど、でもミスタクラウスが認めるほどの……あっ名前出しちゃった……まあいっか、」いいのか。「とりあえず、ボスの光を助ける側の光なんだよ」分かる? というふうに首を傾げる。「もうさ、めっちゃ眩しいわけ。別にレオがボスに似てるとは思わないよ。まー変なとこで頑固だったり独自の正義を持ってるとこなんかは似てるけど。……あんなんが二人も揃っちゃってさ、暗がりに立つ脚が、疲れたりしちゃったりなんか、したと思う。たぶん」
 影が一瞬、揺らいだと思う。
 抽象的で曖昧な表現をしている彼女は、表情だけは確信に満ちてすっきりしている。足元の影、暗がりの隅で存在を希釈していたというのだから、彼女の言い分は正しいのだろう。そこは彼女にしか分からない領分なのだ。
「レオのこと、一体どー思ってんだろーなーって様子見てたんだ、最初は。最初から疑うことが仕事だもん、あの人もそれは同じだから、なんでも見通すレオのこと、すごく疑ってたと思うんだ。あたしはそれを観察してた」
「レオくんは疑われるような人じゃないです」
「きみレオのこと大好きだもんなー」仕方なさそうに肩を竦める。「分かってるよ。もう何も疑ってない。でもそれほど、あのお目々は影に生きる者にとって脅威なのよ。光の下に曝されるのは、それ即ち存在を脅かされるのと同意」びしりと指を突きつけ、しかしその指はテーブルのチーズをひょいとつまんで口へ。「そーいうわけだから、あたしはスティーブンさん、スティーブンさんは我らがボス、そういう絶対的な存在の全てを信じてたあたしたちは、突然転がり込んできたちっさい輝きに足元揺らしてるんだ。まさか蹴り飛ばすわけにも、避けるわけにもいかないでしょ」
 もぐもぐもぐり。チーズの咀嚼音。
 最早名前を隠していない。ツェッドは慎重に頷いた。
……はあ。あの、それは、今もですか」
「いーや」
 彼女はにしと歯を見せて笑った。
「それがすごいことに、レオはスティーブンさんの立つ暗がりに気づいても、……たぶん気づいてるとして……たとえ見てしまっても、暴くことなんてしないで、影を影として放っといてくれる。無関心とも違うな……そのままを受け入れてくれる感じじゃん」
「分かります」
 ツェッドはそれを身を以て知っている。
 人間でも異界人でもない、世界で異質なひとりぼっちの種である自分を、そのままの存在として接してくれている。ツェッドをツェッドとして見てくれているということだ。
 これほどの安らぎはない、と思う。
「だから、ま」
 チェインはまた悔しそうに言った。
「今までスティーブンさんを全てとしてたのに、それ全部ただ見守ってくれるだけのレオも、なんかそーいう別種の特別枠になりそうで怖いんだな、わたし」 
 はああ、酒くさい溜め息を深々吐き出して、普通にいいやつなのがむかつくんだよなあ、と諦め悪くぶつくさ漏らしているチェインに、ツェッドはいやと首を傾げた。
「なんでそれを僕に言ったんですか」
 心の底からの疑問だった。
 チェインはなんでもないことのように言う。
「きみの信じてるレオのことを、こんなふうに思ってるやつもいるんだぜ、って知らしめたくて」
………………、レオくん談議をしようっていう話ですか?」
 そーいう話になっちゃう? なっちゃいません? 二人は顔を見合わせた。
 なっちゃってもいいかあ、暇だし、とチェインが新しい酒瓶を引っ張り出してくる。ツェッドもテーブルの上から適当に酒を掴んだ。
  
 それを見ていたレオナルドは、珍しい組み合わせだなあと思いつつ、あとで水持っていかなきゃな、と優しい先輩と後輩を思ってカウンターへと声をかけた。