さもゆ
2024-11-16 22:42:30
20885文字
Public BBB
 

【血界】小話あつめ。

cpとして書いてないぞこりゃあ、と思ったものまとめ。以下各ページメインキャラ。
1.先輩と番頭。
2.少年と副官。
3,警部補と少年とモブ。
4.少年とボス。
5.人狼と半魚人。
6.副官とボス。
7.人狼と副官。

2020.4.12 たまごのお粥pixiv投稿作品


(これは一体なんの話だ?ボスと少年の話であることは確か。な話)



 正直に言うと、と前置きされたということは、今から言われることは今まで隠していた言葉であり、大体そういうのは往々にしてあまりよくない言葉が続くものであるから、レオナルドは何を言われてもメンタルを保てるようにまず体に力を入れた。有り体に言えば、身を強張らせ、体を支えていた腕に体重をかけた。
 地べたに這いつくばる一介の部下の前で、レオナルドの上司、ライブラのボス、クラウス・V・ラインヘルツが、膝を折って、見上げるこちらの顔を覗き込んだ。
「私はきみの対応の仕方を決めかねている」
 それはつまりクビの話か、と思った。
 思ったまま体重をかけていた腕を伸ばし、上体だけを起こす。なんとか上司の前に正しい姿勢であれるよう、座り直す。ぼたぼたと地面に液体が落ち、瓦礫の隙間に伝い落ちていく。その色は高貴ではない方の、しかし尊くはある赤色だ。
 もしかしたら、尊くもないのかもしれない。
 全ての人間に通っている血が尊いなんて、ただの妄信かも。
 だって、特に自分は、卑怯者であるし。
 レオナルドは口を開いた。
「僕はクラウスさんになら殺されても構わねっす」
 しまった口が急いた、と思った。
 案の定、クラウスが眼鏡の向こうの悪い目つきをぱちくりとさせる。
……なんの話だろうか」
「あー、」一から説明せねば分からないやつだ。「対応の仕方って、つまりクビにするか否かって話かと思いまして。でもライブラを……秘密結社をそんなに穏便にやめれるわけがないなと。だったら、まあ、最終的に、誰かに殺られるんなら、僕はクラウスさんじゃないとたぶん納得できません」
「納得」
「ハイ。あ、殺されても仕方ないなって……そーいう感じの、納得っす」
「きみは私に殺されたいと?」
「殺されても構わないと思ってるだけで、殺されたくはありません」
 彼は瞬きをした。長い前髪のせいで眉の動きが分からないので、想像だが、おそらく困っている。そして不思議がっている。一方のレオナルドといえば彼の前髪が長いのは目つきの悪さを隠すためだったりするのだろうかとか眼鏡をかけるほど視力が悪いのかとか、そもそも世界の均衡を保つため尽力していて胃を痛めるのだからきっと寝不足も併発していたりするんじゃなかろうかとか、だったらその目つきの悪さは寝不足も理由だったりしないかなとか、取り留めのないことを……つまりは現実逃避していた。
 レオナルドはクラウスになら殺されても構わない、と思っていたりする。
 だってそれって、純然たる正義のためだ。
 彼は意味もなく誰かを殺さない。意味をつけても殺しは殺し、有罪だが、彼はきちんとそれを受け入れ受け止め、罪とともに生きている。そんな人になら、と思う。
 神に裁かれるのは真っ平ごめんだが、クラウスになら裁かれてもいい。
……きみは、」
 赤髪の紳士が迷うように言った。
「たまに、スティーブンのようなことを言う」
「スティーブンさん」
「ああ。彼も昔、似たようなことを」
「じゃあ、」スティーブンさんにも抱える罪があるんですね、と言いそうになってやめる。「スティーブンさん、クラウスさんのこと、信じてますから」
「彼を殺さない私を信じてもらいたいものだがね」
 ちょっと不服そうだった。
 そりゃー……そうですよね、と卑怯で曖昧な返事をする。ぼたりぼたり。レオナルドの額から閉じた瞼、頬と顎の輪郭を伝って血が滴り落ちる。
 それを見やったクラウスは幾分落ち着きがないようにまた口を開ける。
「すまない、話しの腰を折った」
「イエ、たぶん僕が飛躍したんす。なんでしたっけ、僕の対応の仕方?」
「うん。……私はきみが強い人間だと思っている」
「勿体ないです」
「事実だ。きみは強い。それで、レオナルド。故に私はきみに対しての扱いが雑だ」
「ん?」
「その目以外は一般人であるきみの安全を守るためには、尽力を惜しまない心積もりではいる。だが……」 
 大きな手がレオナルドのぱっくり裂けた額の傷に伸び、触れる前に下ろして拳をつくった。
「たまにそれを忘れて、きみの強さに甘えてこうして怪我をさせる。……もう少し、」過保護になった方がいいのだろうか。大真面目にそう言った。
 あっなるほど。合点がいく。
 レオナルドのこの怪我はどちらかというとこの目の前のボスが原因だった。しかし決してボスのせいではない。全てはレオナルドが普通の人間なのが悪かった。悪い、という表現をすると「いやきみは普通なのがいい」とどこかの方面から言われそうだが、では別の表現を探そうとすると途端にこの街に順応しなくなるので、そういう言い方しかできない。
 一番危険な現場から一刻も早く離脱できるよう投げ飛ばされて、瓦礫に額を擦ったレオナルドの体があんまり普通すぎるのが悪いのである。これはヘマをした。何がって、こんなことでクラウスを思い悩ませるのが相当のヘマだ。
 別に自分のことを強いなどとは思っちゃいないが。
 だからといって、必要以上に守られるのは普通に嫌だ。
 普通に。
 だって自分は普通なので。
「クラウスさんのせいじゃないっすよ。こんなもん」
 袖で額を拭った。
「唾つけときゃ治ります」
 だからこれからもこーやって守ってください、つい図々しく言ってしまった。
 言われたクラウスはきょとんとして、拳を解くと、レオナルドの腕を取って支え立ち上がらせてくれる。
「いや、病院には行こう」
 返された言葉が存外に普通だったので、レオナルドはふへっと笑って大人しくハイと頷いた。
 血が落ちている。
 瓦礫に流れて滲んで消えた。日常だ。