◆あの桜が散る幻夢/サンプル

▷全年齢
▷アルエル/現代
・夢の中でエルの最期を追体験するアルの話。
星空が巡っている。いいや違う。あれは星の輝きではなく、白く薄い桃色の花びらだ。無数のそれらが舞い散って、夜空を少しでも隠そうとしている。何をそんなに焦っているのか、薄桃色は淀んだ黒の上を駆ける。それは無様な舞踏にも見えたし、落描きを隠す子供にも見えた。
そうして目を覚まして、ため息を吐く。ベッドに横たわり意識を微睡ませ、気が付けば知らない視界。おかしな事象に巻き込まれすぎて、もはやアルは夢であり夢でないこの状況に動揺しなかった。
周囲を確認すれば、ここはどうやら病院のようだ。清潔に整えられた空間は、しかし規模の大きい場所でないことも察せられる。小さな病院なのだろう。
カラカラと、点滴を引く音と足音。ようやく誰かに話を聞けると振り返れば、そこにはエルが立っていた。驚きに目を見開くも、彼はアルに何の視線も寄越さず通り過ぎる。そうしてようやく、アルは自分の身体が透けていることを自覚した。理屈は良く分からないが、他に干渉することは不可能だと認識する。
「(また奇妙な夢だな
…)」
頭を掻いて、一先ずエルの背中を追いかける。少しサイズの大きな患者服に身を包み、彼は利き手と逆に繋がれた点滴を引き摺る。近くで改めて観察してみれば、随分と痩せ細っている様に見えた。既視感はない。しばらく歩けば、名前の振られていない病室に辿り着いた。
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