願い事(twstジャクラギ)

pixiv再掲
ジャクラギの馴れ初めです。
サバナクロー寮には獣人だから昼寝制度があったり、昼寝のためのクッションとかがあったり、レオナさんの実家の様子とか捏造も甚だしいです。あとチェカくんの口調も年齢もよくわからんかったので、こんな感じかな?という具合で書きました。時系列的には二章終了後すぐあたり。
作中、某牧師の引用があります。



2

 案内された客室は、沢山のタペストリーとラグ、巨大なベッドが二つ。毛繕い用にブラシの置かれた金ピカのドレッサーもある。クローゼットにはこの休暇で着られるような室内着と寝間着がそれぞれ置いてあった。ダシキ柄のゆったりした着心地の衣装は肌触りが気持ちいい。それに、寮のサロンにもあるような大きめのクッションが何個かあって、オレはちょっと居心地が悪くなる。
 こういうクッションは、獣人の家には割とあることが多い。ちょっと昼寝をするのにベッドだと寝過ぎてしまうから、ソファやカウチ、クッションを置くのはよくあることだ。ただ獣の習性で丸まって寝ることが多いから、脚のついた家具よりも圧倒的に床で寝る方が楽だ。ベッドもそのせいでやや大きくないと寝心地が良くない。
(まあ……ここまでデカいのがあるのは、レオナさん家だからだと思うけど……
 要は昼寝をしてもいいんだと考えると肌が粟立って、あの日の気まずさが復活する。当のジャックくんがどう思っているのかうかがおうとしたけど、部屋の中をキョロキョロ珍しそうに眺めているばかりで、さして普段と変わらない。
 案内した肝心のレオナさんは、一言二言用を足す最低限の場所を教えてくれて、「あとは適当にやってろ」とどこかへ行ってしまった。
 この広い屋敷の中、構う相手のはずのチェカくんの所在もわからないのにどうすれば……と悩んでいたら、ジャックくんが鼻を鳴らした。スンと何かを察知して嗅ぐような仕草をする。その何秒か後に、オレも匂いを察知した。これはレオナさんとは少し違う、まだ幼いライオンの匂いだ。
「チェカくん、かな?」
「そんな匂いっスね」
 オレがドアのそばに立つと、背面にまだ外の匂いを嗅ぐのを止めないジャックくんが立った。レオナさんやチェカくんとはまるで違う、狼の匂いが背後から香る。
……ッ!」
 ゾクゾクしてきた背筋を悟られないように、オレはドアノブをわざとガチャンと音を鳴らして盛大にドアを開ける。びっくりしたジャックくんがわめいたけど、視線の先に遠くから走ってくるチェカくんが見えて、気が逸らされた。
「あー! ラギーくん! ジャックくん!」
 おじたんは⁈ って真っ先に聞かれると思ったのだけれど、チェカくんはオレたちのことをちゃんとわかってて、嬉しそうな目で走ってくるものだからオレは破顔する。地元の子供らもこんな感じだし、チェカくんもかわいいもんだと手を広げて待った。
「嬉しいー! 来てくれてたんだね!」
 腕の中に収まるほどの子供の力と侮っていたら、案外強くて後ろに倒れそうになる。ライオンのさすがの腕力を感心しつつ衝撃に備えて目をつぶったら、オレは何かに支えられて危うく背中を打ち付けることを回避した。
「チェカくん、大丈夫っスか?」
 チェカくんに怪我がないか確認していると、ニコニコ顔のかわいい子ライオンはオレじゃなくて上の方に視線をずらした。
「ありがとう! ジャックくん」
「うす」
 気を付けろよ。あとに続く優しい声と、ポンッとチェカくんの頭に大きな手。オレは二人の会話が何のことかわからず目を瞬かせていたけれど、逡巡してだんだんと理解してくる。
 今、オレの背中を支えているのは誰だ?
「ご、ごめん! ジャックくん!」
「二人とも軽いし、大丈夫っす。ラギー先輩に怪我がなくて良かった」
 よろけて危うい体勢だったからとは言え、ジャックくんの匂いを再び濃く嗅ぐことになって、オレはどんどん顔を赤らめる。嗅ぐのを避けていたはずなのに。この香りはあの昼寝を思い出させてたまらなくて。
 そんなオレたちを遮って、何も知らないチェカくんが運良く言葉を発してくれた。
「あっちにおやつ用意してあるから、一緒に食べに行こー!」
「あ、ああ、うん、行こっか」
 ぽわっと間延びした口調しかできずに、手を引かれてオレは食堂の方へ連れていかれる。ジャックくんも! と言われてついてくる狼の、匂いはまだオレに移っている。
 ……早く、帰りたい。
 このサバンナの中にある屋敷に来てわずか一時間。すでに、オレは寮が恋しくなっていた。

 その気持ちは、ますます濃くなる。
 チェカくんとおやつを食べに食堂へ行った。食堂の配膳係はおやつの用意がまだだった。遅れて出てきた頃にはチェカくんの休憩時間は終わってしまい、次の稽古事に行かなければいけない時間になった。満足に食べられないままチェカくんは拗ねた。ジャックくんがなだめようとするけど何とオレの体にひしっとしがみついて、呼びにきた教育係の人のところへ行こうとしない。弱ったオレ、困るジャックくん、不貞腐れるチェカくん。
「おいチェカ、何サボってやがる」
 ……今ほど、レオナさんが輝いて見えたことはない。
「おじたん!」
「おら、とっとと授業受けてこい」
「やだ! おやつ食べてから!」
「あン? 食いながらやりゃいいだろ」
 レオナさんの提案に、オレにしがみついていた、もとい、離すまいとホールドしていた力を少しずつ緩めたチェカくんは、隙をつかれて教育係とレオナさんに引き剥がされてしまった。
 小さいライオンの切ない遠吠えが響いて、チェカくんがこちらへ手を伸ばしながら懇願するが、虚しく遠くへ運ばれてしまった。
「は、はは……いってらっしゃい〜
 抵抗も虚しく連れ去られたチェカくんに手を振る。一気に力が抜けたオレの腹は、情けなく音を立てた。
「あーあ、腹減っちゃった」
「ドーナツ、ありますよ?」
「食べる」
 カゴに盛られた数種類のドーナツは、砂糖をまぶしたもの、チョコレートがけ、プレーン、どれも美味しそうで悩ましい。ジャックくんはもうすでに頬に溜め込むように食べていた。オレはぷっと吹き出す。
「ジャックくん、チョコついてるッスよ」
「え?」
 ポケットからハンカチを取り出して、端の方でこする。されるがままに拭かれていたけど、ジャックくんはハッとしてうろたえた。
「す、すんません、先輩にこんなことさせて……っ」
「いいッスよ、お守りが一つ増えたくらい」
「お守りって……! せ、せめて、それ洗わせてください、オレの気が済まねぇ」
……んー、じゃあ、お願いするッス」
 丁重に預かったハンカチを、大事に畳んでしまい込むジャックくんの手は、大きくて節があって誰が見てもかっこいいと思う。きちんとした所作も見える時があるから、やっぱり育ちがいいんだろう。
……オンナノコ、どうやって抱くんだろ)
「ラギー先輩?」
 我に帰ってジャックくんを見たら、心配そうにして耳が少し垂れていた。いつもと逆に、オレがジャックくんのことをじっと見つめちゃったりしているものだから、
……調子狂う」
「え? 大丈夫ですか?」
 なおも気遣ってくれる後輩の優しさが少し痛い。オレってば、どうしちゃったんだろう。
 机に突っ伏すオレは、結局あんなに好きなドーナツを一個しか食べられなかった。それはジャックくんが食べたのと同じ、チョコレート味だった。