願い事(twstジャクラギ)

pixiv再掲
ジャクラギの馴れ初めです。
サバナクロー寮には獣人だから昼寝制度があったり、昼寝のためのクッションとかがあったり、レオナさんの実家の様子とか捏造も甚だしいです。あとチェカくんの口調も年齢もよくわからんかったので、こんな感じかな?という具合で書きました。時系列的には二章終了後すぐあたり。
作中、某牧師の引用があります。

1

 ジャックくんの尻尾と夏のお日様は、相性がいい。そんなのはおそらく誰もがわかることだと思うんだけど、さすがにこの匂いまでは嗅げないだろう。ジャックくんは絶対に見ず知らずの他人に尾を向けないし、こんな風にふわふわしたのを触らせてくれない。
 お日様の光をたくさん浴びて、良く手入れされてるその尻尾。無意識にふさふさとオレの頬を撫でてくる。だからオレは思わずニヤけちゃって、ぽすんと顔を埋める。ジャックくんが寝ぼけながら、ちょっとびっくりした顔してこっちを見た。
「ラギー先輩、くすぐったい」
昼寝用のマットレスから大きい体を持ち上げて、ジャックくんはちょっと笑った。
 時折見せる彼の大人びた笑顔。本当に十六歳なのかな、って思う時がある。サバナクローの優等生、寮生の良心。色んな二つ名のあるジャックくんが、オレとレオナさんの前での「人懐こくて真面目なしっかり者」をやめる瞬間。それが寝起きのこの時だ。
 オレが密かに好む時間。
 ──昼寝はいつも、休日の部活と昼飯終わりにする。獣の血はもれなくオレたち獣人に、睡眠を長く持たせてこようとする。何もレオナさんだけが特別寝汚いわけじゃない。オレたちも皆、ある程度は長く眠らないと体が参ってしまう。
 ジャックくんも手伝ってくれて一通りの寮でやることを終えたら、寮生の集まるサロンで一眠りするのが習慣。他の生徒も例外じゃない。だからサロンには大きなくつろげるクッションや広く寝転がれるマットレスが広がっていて、その日も昼寝に勤しむ寮生が数人見えた。
 大きなマットレスの上に二人で寝そべり、浅い眠りだけどゆっくり三十分は横になれた。良い子のジャックくんは規則正しい寝息をたてて、この時ばかりはオレより先に起きることはほぼ無い。だからいつも、オレが起きた後にからかうように体をくすぐったり、ちょっかいをかけて起こしてやる。寝ぐずる子供みたいにムームー言いながら寝返りで応戦される時もあれば、今日みたいに笑いながら起きたり寝たりを繰り返したりする時も。
 まるで子供だ。いつも子供だけど、もっと、こう……心の中の本能をくすぐられるような、子供。
 もう一度言おう、オレはこの時間が好きだ。ジャックくんにつきまとわれてるオレが、つきまとう側になる時間。
「わ、ちょっと……ラギー先輩……!」
 ししし、といつもより柔らかく笑うと興味本位でジャックくんの尾を撫でる。ゆっくり先端から付け根に沿って指を下ろすと細長い繊維が爪の間を通って、固い毛質のお目見えだ。オレ自身もここが好きだから、と思って尾の付け根をぐりっと押す。ここは固くて毛も短い。
「ジャックくん、凝ってるッスねえ」
「あ、ちょっ……だめ、ですって」
「んー、何で? 付け根、気持ち良くないッスか? オレは好きだけど……
 犬科は尾をよく振るために、凝りが溜まりやすい。だからオレも付け根は気持ちが良いので、たまにマッサージみたいに自分で押すことがある。疲れている時なんかは特に。
 ジャックくんは体も丈夫だし、早寝早起きのじーさんみたいな生活してるし? そんなに疲れてないのかも?
 いつもなら鬱陶しくわんわん吠えてついてくる後輩が、赤い顔して耳を垂らして切ない顔をしているのを見て、仕返しに成功したからドキドキする。
 あれ? そんなに良かったのかな。じゃあもっと。
 そう思って本格的に膝を立てて起き上がり、うつ伏せのジャックくんの上に跨って腰を押そうとしたら。
 凛々しい顔も台無しで、牙を見せて歯を食いしばってる。犬歯に絡む、涎が光った。
 あ、もしかして、やっちゃったかも。
 慌ててバッと手を離して、それまでのお日様の匂いも尻尾の心地よさも全部吹っ飛んで、オレは身を引いた。
(そうだ、忘れてた)
 ジャックくんがベッドで横向きに体勢を変えて、片膝を体に寄せていく。
 そうだよね、ほんと、何やってんだオレ。
 二人して、どんどん真っ赤になる。
 ──そうなんだ、尾の付け根は、ともすれば性感帯だから。
 多分今、ジャックくんは。男性ならば誰もが起こす生理現象になってしまっていて。
……し、ばらく、したら、おさまる、と思うんで……
……調子、乗ったッス……ごめん……
「い、いえ……
 尻尾がパタン、パタンと大きく揺れては床を打って、ジャックくんはゆっくりゆらゆらする尾を隠すことはしなかった。オレもいたたまれなくて、耳を曲げてしまう。
 そんなささやかなハプニングは、二人の中で言い出せずにいる、何となく気まずい思い出になってる。
 それから昼寝の時、ちょっとだけ互いに距離ができた。

 ◇

「おい、準備できてんのか?」
 レオナさんが声をかけて、ジャックくんは「っス」と返事した。オレはメッセンジャーバッグと軽めのボストンバッグを持って、レオナさんの後ろをついていく。ジャックくんはその後ろ。三人いつもの歩き方だ。
 この短い休暇、急遽レオナさんの親戚の体調が悪くなったというので、帰郷に付き添うことになった。別にオレらが行かなくても、と思ったら、
「オレがいない間、チェカの相手してほしいんだよ」
 どうやらレオナさんはこの休み中、チェカくんとはあまり一緒にいられないらしい。サボりぐせのあるレオナさんがそんな親身に親戚付き合いをすると思えないけど……と胡散臭い顔をしたら、その視線を察して頭を掻きながら「昔世話になった人だから、頭上がんねえんだよ」と忌々しそうに舌打ちした。
「ラギー先輩が行くなら俺も行きます」ってジャックくんが言うから、修行しにいくようなもんだって脅したけど、キラキラして「ッス!」と声高らかに言うその目が真剣だったから、思わずふいっと顔を逸らしてしまった。
 まだオレは、あの昼寝の時に見たジャックくんの顔が頭にこびりついてる。こんな無邪気なジャックくんが、あんな風になったのは、一度きり。それ以来ジャックくんは、一人で起きるようになった。表向きは「またああやって起こされたらたまんねぇから」って言ってた。
 でもその時狼は、耳も鼻も赤かった。
 ……そんな風にされたら、これまでの関係が変わっちまう。いや、変えそうになったのはオレのせいだけど。

 ぼんやり考えている内に旅路は流れ、ようやく三人でレオナさんの家近くにまでやってきた。
「チェカくん、早く会いたがってんじゃないですかあ?」
「うるせえ……あいつの相手はお前やれよ」
「まあ子供好きだからいいですけどぉ……ジャックくんは? 子供好きッスか?」
 頷いたジャックくんは、ちょっと尻尾を振っていた。これは多分、相当子供好きだ。多くの人が思うように、オレもジャックくんなら、良いお父さんになりそうだなっていつも考えてる。しっかり鍛えてるから子供と遊ぶ体力もありそう。朝は早く起きて夜はしっかり寝て、規則正しいサイクルで動くからきっと子供だって安心できる。パパになったジャックくんなんていうのは、今は男子校だから想像つかないけど、その内女の子というかメスの狼に会うのかな。
 ──狼の、生態。
 ついスマホをかざして調べてみてしまう。ハイエナだって群れで動くし似たようなものなのかなって思うけど、狼は全然違った。
『一夫一妻制』
『繁殖は群れの最上位のペアのみ』
『交尾期は冬季』
『子育ては父親も手伝う』
 なんてこった。歩きながらそんなことを調べていて、オレは絶句した。
 狼のサバナクロー寮生は、実はとても少ない。オレも今年の一年の数までは把握してないが、知ってる限りはジャックくんくらいだ。誠実な人柄、力強い言葉の端々、お人好しすぎるところがあるけど、間違いなく男子校じゃなかったら、ジャックくんの奪い合いは必須だろう。だから親御さんが男子校に入れたのも頷ける。下手に変な女の子に捕まって、最悪妊娠させでもしたら。いや、ジャックくんに限って絶対それはないと思うけど。でも人生はどうなるかわからない。だから子孫繁栄、ファミリーの永続、それに見合うわきまえたメスじゃないとだめなんだろう。
 だとしたら、ジャックくんて、もしかして実はすごい大変なんじゃないかな。
「歩きスマホはだめだろ」
 背後からにゅっ、と太い腕が出てくる。「ぎゃっ⁈」と耳も尻尾も天を向いて毛が総立ちした。
「脅かしてすんません」
……もう! びっくりしたじゃないッスか!」
「うす。でも歩きながらは危ないと思って」
「ああ〜……ハイハイ、すみませんでした……
 振り返れば、半目で人を見る王族様が一人ふんぞりかえってる。
「ラギー、ずいぶん飼い慣らされてんなァ」
 頭に疑問符つけたままのジャックくんと、ニヤけるレオナさんに顔が赤くなる。どうせレオナさんだって、これからチェカくんに、今回はオレたちがいるから少なくなるとはいえ嫌ってほど構い倒されるくせに。それまでの暇つぶしにからかいがいのある玩具見つけたみたいに笑っている。
 先を歩く二人の背中を見た。レオナさんはデカいししっかりした体格してる。ジャックくんはさらに大きい。何やら話してる二人はやっぱり寮を代表するカッコよさがある。悔しいけど。
 オレは置いていかれないようにパッと顔を上げて走り出したら、ふと自分の荷物が無いことに気づいた。目の前のジャックくんの腕に、彼のカバンと、彼にしては小さめのボストンバッグ一つ。それに気づいてしまい、顔の中心が熱い。
「何だよ……
 ここら一帯の気候にしては珍しく曇り空の天気に、レオナさんが空を見上げて「スコールがあるかもな」と呟いた。