【ありがとう金曜日!】
『カンパニーの圧力には屈しない
美人すぎる高級幹部を直撃!
穏やかな態度でインタビューを受けていた男は、D大教授との熱愛報道の真相を尋ねると態度が豹変。思わせぶりにダイスを見せて脅した。「怖くない? ならどうして震えてるのさ」』
「なんだこれは
……」
体を曲げて腹を抱え、デスクに手を突いて息も絶え絶えになって笑うアベンチュリンは、レイシオの呟きに答えられる状態ではない。
「それはね
……ダメ、無理
……」
「落ち着いてからで構わないから説明を」
レイシオはわざわざ印刷されたゴシップ誌のゲラをデスクに放った。本文を斜め読みしたが、手に持つのも嫌になる低俗な記事だ。
「相手にするのか?」
俯いてくつくつと震える金髪がふるふると横に振られる。カンパニーはこのようなゴシップなど歯牙にもかけないし、アベンチュリンはどんな噂が立とうと鉄壁のポーカーフェイスで弾き返す。駆け出しのジャーナリストなら、目線と微笑だけで戦意を失わせるのに十分だ。
こんな記事はいつもなら届くなり即ゴミ箱行きだが、今回はレイシオにも関係するので、念のため情報共有されたらしい。
元はと言えば、これの前に出た別のゴシップ誌の記事が発端だ。
『D大の八冠教授がカンパニーの美人高級幹部を”お持ち帰り”』
アベンチュリンと食事をした帰り、たいして飲んでもいないのに今にも寝そうな彼の酔いざましを兼ねて、車まで手を引いて歩いていた。その姿を写真に撮られ、妄想を逞しく膨らませて記事にされたのだ。手を引いていたのは目を瞑ってフラフラ歩く酔っぱらいのハーネスのようなもので、その後も断じて家に連れ帰ってなどいない。完全にデマである。
事実ではないし、こんなくだらない記事を面白がる輩もいないだろう。そう考えていたレイシオは、記事を放置した。なんなら、すっかり忘れていた。
ところが、世の中には枯れ沢を金脈だと信じて掘る馬鹿がいたらしい。アベンチュリンから変な記者が面会を求めてきたとは聞いていたが、こんな記事にまでされるとは。やっと笑いが収まったアベンチュリンの説明によれば、「こんな記事を出しますよ、差し止めるなら今ですよ」と迫り、代わりの情報を引き出そうとしているらしい。
「はー、筋トレになった! 笑えるだろ、さすがにこんなのと引き換えにあげる情報なんてないよ。使い古されたネタで、圧力をかけるまでもない。悪いけど記事は出る」
アベンチュリンから記事のデータが送られてきたので、そのままレイシオのマネジメントをしているスタッフに転送した。引っ掛かるところがあれば、法務と相談してしかるべき措置を取るだろう。
「そこで提案なんだけど」
笑いすぎて乱れた服と髪を整え、アベンチュリンはレイシオの腕に自分の腕を絡めてぴたりと寄り添った。
「再発防止策として、これ本当にしちゃおうよ。今日あたり、僕を"お持ち帰り"して"熱愛"してみない?」
パパラッチにせいぜい見せつけてさ、と唇を引き上げてにんまり笑う顔には、全く熱も愛もない。
「僕の家で何をしたいんだ? 家でする仕事は形になるにはほど遠いものばかりで、盗んでも価値はないぞ」
「君の価値は仕事ばかりじゃない」
「僕たちの間には仕事しかないと思うが」
「二人で食事しただろ。もう一歩進もう」
「どこへ?」
レイシオにしてみれば、最初の一歩も踏み出したつもりはなかった。仕事のパートナーだ、食事くらいする。接待でよく使われる店で、妥当な金額のコース料理を食べ、打ち合わせのような会話をしただけ。アベンチュリンは軽く飲んでいたが、レイシオは運転のために一滴も飲まなかった。
「君の内側へ」
アベンチュリンはレイシオの腕を支えに背伸びをして、お互いの顔を近づけた。唇を薄く開き、呼気のような囁き声で誘う。
「入れて?」
レイシオは眉間に皺を寄せ、アベンチュリンから顔を背けて深く溜め息をついた。
「ちぇ、振られた」
あっさり離れようとするアベンチュリンの体をデスクの上に押し倒す。丸く開いた目を見据え、警告した。
「僕は、食べる予定のない料理は持ち帰らない」
「奇遇だね。僕もゴミにするくらいなら持って帰らなきゃいいのにと思うよ」
本当にわかっているのか思うほどけろりと言う。が、人差し指を唇に当てて続けたので、懸念はなくなった。その瞳は、さきほどまで隠れていた熱にあぶられて、艶と色を増していた。
「ほら、試食をどうぞ」
レイシオは遠慮なく唇を合わせ、お望み通り来客を迎えに行った。
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