ぷの
2024-10-13 14:29:13
8438文字
Public レイチュリ ※ベ限
 

レイチュリSSよせあつめ

P1 - ちょっとしたお掃除(2024/10/12)
P2 - 本日の三杯目(2024/10/12)
P3 - ありがとう金曜日!(2025/4/3)
P4 - なんだか爆発させたかった(2025/4/24)
P5 - 🍩≒?(2025/6/11)

【ちょっとしたお掃除】

 アベンチュリンは読めないメモというものを久しぶりに見た。しかも、書いたのはかのベリタス・レイシオである。共感覚ビーコンもお手上げだった理由は、それが普通の単語ではなかったからだ。
 何かの頭文字らしき意味不明な文字列、脈絡のない数字、文字だか記号だかもわからない謎の形。そんなものがタブレットのメモ帳の上に散らばっている。
 デスクに腰かけて片手をつき、タブレットを覗き込む。手元にアベンチュリンの影が差して鬱陶しかったのだろう、レイシオは書き物を中断して顔を上げた。
「なんだい、これ?」
「オンライン講義で学生たちがチャット欄に書いてきて、意味がわからなかったものだ」
「ははあ、スラング」
 生まれたと思ったら瞬きの間に廃れて消えていくスラングは、共感覚ビーコンのデータベースに反映されたりされなかったり。流行に敏感な若者の言葉は特に、反映されてもすでに時代遅れだったり意味が変遷していたりする。含みが多くて翻訳が難しい言葉もたくさんあるだろう。どう対応しているのだろうか。たぶん、好きでやってる人がいるんだろうなと思う。
「教授の記憶領域に収める価値はないと思うけどね」
「それを判断するには解読しなければ」
「嘘だろ、真面目すぎる」
「研究室の学生たちに尋ねるから時間はかからない」
「さあて、素直に教えてくれるかな?」
 ひとつだけ知っている言葉があったので、アベンチュリンはそれを指差した。
「これならわかるよ」
「教えてくれ」
 パッとこちらを見上げたレイシオの目に好奇心がキラキラと見え隠れしていたので、アベンチュリンのいたずら心がうずいた。
「説明と実践、どっちがいい?」
 む、とレイシオは迷いを見せた。嫌な予感がしただろう。ギャンブラーはこういうことにかけてはまるで信用がない。
……実践で」
 素晴らしい好奇心だね、教授。アベンチュリンはにんまりと口角を上げて、レイシオの眼鏡を上にずらした。顔を寄せて、目尻の紅にねっとりと舌を這わせる。レイシオは目を見開いて、椅子から落ちそうな勢いで体を引いた。その勢いで滑り落ちたメガネが、華奢な鎖でぶら下がって小さな音を立てる。
「おい、ふざけるな」
「『ペロペロしたい』」
「は?」
「その言葉の意味。悪い虫が潜り込んだね」
 にこーっとわざとらしく微笑むアベンチュリンを見て、レイシオは顔色を悪くした。ろくでもないことを考えてるかって? もちろんだとも。
「分別のない学生の幼稚な悪ふざけだ」
「それはどうかな、アカウントなんてどうとでもなる。この手の虫は調子づかせるとどんどん増えるから、早く駆除しよう」
 アベンチュリンはすうっとタブレット上のその言葉に線を引いて消し込み、残りの有象無象を目に焼き付けた。