しちろ
2023-05-07 19:26:46
45003文字
Public LOM・宝石泥棒編
 

宝石泥棒編 2

聖剣LOM宝石泥棒編。マイホーム話、精霊の光、ホワイトパール、主人公のサブクエ話。45,000字。

おまけ 主人公、ロアまでの一か月の軌跡

 

石の魚


「ぎぃやああ! 石になるぅ~!」
 石化光線の絨毯爆撃を辛くもよけ、カイが悲鳴を上げる。
 光線がかすめて石化した短剣。シオンは軽く眉を寄せてそれを投げ捨てた。
「あのカメ……賢人だよね?」
「ただの岩じゃないか?」
 二人の後方には、彼らを崖の下へ突き落し……ではなく、いざなった海を渡るトート。賢人とはいえのろまなカメの宿命からは逃れることはできず、あえなく石化している。
「でえい! パワーアターック!」
 すでに石化したペンギンを盾に、カイが攻撃を仕掛ける。
 戦え、若き旅人たち! 探せ、瑠璃と真珠姫!
 だが、しかし!
「旅立ったばかりだけど、無事に帰れるかわからない!」
 
 退屈な日常とは程遠い地獄の世界!
 繰り広げられるノーフューチャーワールド!
 てなわけで、実はけっこう命がけの一か月だった。




おみくじ

 

カイ「……」大凶
シオン「……」大凶




危険なアフタヌーンティー

 
 息を切らせ、地下迷宮をひた走る。逃げる、ただ逃げる。
 彼女は今、一人だった。
 額から流れる血が目に入る。走る視界を遮られてうっとおしげに手の甲で拭った。
(えーと、ここはどこだろう)
 めちゃくちゃに走ってきたせいで道がわからなくなってきた。一緒に遺跡に入った少年も途中ではぐれてしまい安否がわからない。やつのことだし、滅多なことはないと思うけど。
 しつこい追っ手から逃れ続け、いくつか折れた曲がり角でカイははぐれた同行者にぶつかった。
「うわ」
「あ、シオン! 無事だったんだね」
「無事だった、じゃない。カイ、お前……
 シオンの周囲の温度が瞬く間に氷点下まで下がった。「……よくも人をおとりにしてくれたな」
「いや、ごめんつい」
 てへ♡ と誤魔化しの笑みを浮かべるが、それで済んだら警察はいらない。

 珠魅探しの旅で立ち寄った、ここはミンダス遺跡。
 カイとシオンの二人はここでドゥエルに偶然会い、成り行きで行方不明のティーポを探すことになったのだが――。仕掛けを解いて潜入した遺跡の地下は、こともあろうに吸血鬼の巣と化していた。
 迷宮のような遺跡で、カーミラ(女吸血鬼)の大群に襲われたカイ。
 吸血鬼は一般的に美しい獲物――そして異性を好む。
 冒険家の基礎としてそんな知識を一応持っていたカイは、後方を指さしてとっさに言っちゃったのだ。

『ホラ、あっちに赤い帽子のカーミラ好みが♡』

 実際にカーミラ好みかどうかは想像にお任せするが、少なくとも『女の獲物<男の獲物』の習性で、カーミラたちは一斉にシオンに群がった。お前絶対ぶっ殺す。怒りと殺意を駄々洩れに速攻回れ右して逃げ出した彼を、無数の吸血コウモリがバッサバッサ追いかけていく図は完全にホラーだったと思う。
 女吸血鬼の大集団を押し付け逃げたはいいものの、遺跡の最深部で鳩血鬼に襲撃されてしこたま血を吸われたカイだった。悪いことはできない。
「あーくそ、こんなときに瑠璃 スケープゴートがいれば……
「キミなんつーこというんだよ」
「何の罪もない俺を身代わりにして逃げたお前にだけは言われたくない」
 カーミラ獲物方程式=『女の獲物<男の獲物<美男子の獲物』
 この場に美形代表の瑠璃がいればさぞかしモテたことだろう。餌としてだけど。
「みぃつけた」
「ぎゃあああああ!」
 背後からのっそり顔を出した鳩血鬼にカイが悲鳴を上げる。そもそもなんで逃げたって吸血鬼は不死身なんだもん! 倒しても倒しても復活されてきりがねえ。
「あんた主食は鳩でしょ! 鳩吸ってよ鳩!」
「おやおや、君はこんな遺跡の奥に鳩がいると思うのかね?」
「だったらなんでここに住んでんだ! ドミナの噴水公園に引っ越しなよ!」
 鳩多いからね、あそこ。
「鳩の住む地は太陽照らす町、しかし私は日の光で灰と散る宿命……我が喉を潤す平和の鳩とは私にとって、激しく恋焦がれながらも決して触れることの叶わない、云わば鏡の向こうの住人なのだよ……
「ごちゃごちゃ言ってるけど、要するにここから出られないんだな」
「そうとも言うね」

 ちなみに、鳩血鬼獲物方程式=鳩>>>>>美女の獲物>女の獲物>男の獲物

 もし真珠姫がいれば彼女が危険だっただろう。
 またもや逃げようとしたカイだったがとうとう力尽き、臨終を迎えたGのごとくひっくり返った。まさに自業自得。因果応報であった。
「ダメだぁ……目が回る~……
 ……貧血で動けん。
 シオンはこの時、薄情な棒の人なんかほったらかして帰ろうかとわりと本気で思った。そんな彼の後方から迫る黒い塊。
「おにいさーん……みいつけた~」
 カーミラしつけえ。
 バッサバッサとか表現するのも生ぬるい、轟音のような大量の羽音が迫ってくる。前門のコウモリ後門もコウモリ。ここは丁字路だから逃げるなら道は一つしかない。
 シオンはちょっと逡巡した後、ひっくり返っているカイの足をひっつかんで逃げ出した。せめて抱き上げてやれって誰も突っ込む人がいないからしょうがない。裏切り者の棒の人を置き去りにしなかっただけ褒めてほしい。
「いだいいだいいだいいだ!」
 転がったまま引きずられてカイの後頭部が容赦なく床にガンガンぶつかる。頭がすりおろされる!
「連れて逃げてやってるだけでも感謝しろ!」
 カイのHPゲージがものすごい勢いで減っているが、これだと血を吸われたほうがまだマシかもしれない。
 シオンは遺跡の地下を一気に駆け上がり石扉を閉じた。さすがにここまでは追ってこない。
……」逃げ切った……
……」HP0
 それぞれの思いを胸にへたり込んでいると、ドゥエルがてくてくと近づいてきた。
「キミたち、ティーポには会えたかい? まだ地下から出てこないさ~」
……あ」
「忘れてた……

 今度はドゥエルと三人で吸血鬼たちがウキウキで待ち構えてる地下迷宮に潜入する羽目になった。地下遺跡では三人分の爆走音と二人の絶叫が轟いたという。



  

砂浜のメモリー


「ほら、そっちに行ったぞう」
「ちょっと、やだ~、やめてよう」
 人気のない砂浜の波打ち際、きゃっきゃと戯れる若い二人……。青春だねえ。
 ……と言いたいところだが、一人は鬼の形相で無慈悲にカニを踏みまくっている。ぱっきんぱっきんぱっきんぱっきん……傍若無人な棒の人の所業を、ヤシの木の下、赤ずきんの少年が半ば諦めの境地でぼんやり眺めていた。持ってきた本? 読んだよもう飽きるほど。

 マドラ海岸名物のマリンアクティビティ、カニバッシング。

『シオン、最高記録何匹』
『32』 ※32=カニバッシングMAX
『超越者?』

「あたしは! ぜったい! 負けない!」
 ネバーギブアップ。カニバッシング完全制覇を目指し、カイは何度目かわからないリトライを繰り返す。
 シオンは心底思った。言わなきゃよかった。
 夕日が水平線の彼方へ沈み、夜はさざ波を子守歌に、東の空から太陽が昇っても響くぱっきん音。そして一面に散らばる大量のカニの甲羅。
「キィエエエエエエ!」
 奇声を上げながら悪鬼羅刹のごとく疾走する棒、暇すぎてカニを焼き始めた赤ずきん。踏み踏みぴちぴちカニ料理~♪(無駄に美声) デスクラブっておいしいんですかに? 遠浅の海岸に激しい砂煙と香ばしいカニ煙が同時に立ち上る。
 あまりに異様な光景に、ロマンチックな砂浜で愛のメモリーを刻もうと訪れたカップルたちが何組も逃げ出した。
「さんじゅうにぃぃぃぃ!」
 カニの鬼神――もといカイは天井高く飛び上がって槍を頭上で旋回させ、甲羅の継ぎ目を狙って槍を突き立てる。避けた割れ目からほとばしる閃光。
 マドラ最後のカニ……フルメタルハガーはついにバッシングされた。
 そして――カイは伝説になった。ちなみにその日の夕食は32杯の焼きガニだった。

「カイ」
「はい」
「マドラ海岸にはサラマンダー曜日に来た。今日は何曜だ」
「ドリアード曜日です」
「瑠璃と真珠姫は」
「ここにはいないと思います」
 夕食のカニを食べながら、珍しく、シオンに普通に怒られた。





獣王


 知恵ある獣が治める森! 原始の息吹を残すジャングル!
 今、まさにここでカイとシオンは!

……どこだ、ここ」
 また迷子になっていた。

「お前の地図が逆なんだろうが!」
「キミの磁石が壊れてるからダメなんでしょ!」
 カイが逆さに見ていた地図! 激しく回転するシオンのコンパス!
 密林で繰り広げられる醜い争い! いつ、彼らは脱出できるのか……

「ダークプリーストの頭が、だんだんトマトに見えてきた……
「しっかりしてシオン、それはトマトだよ!」
 かけにかけられた妖精の呪いでもはや精神も限界! 
 宙に浮く赤い物体はトマトか! ダークプリーストか!

「グルルルル……ミツ、ケタ……
 そんな二人に忍び寄る魔手!

「食える……! 食えない……! 食べられるかも、知れない……!」 
 食糧尽き、ますます荒ぶる腐れ料理!
 ついに禁断の食材、モルボルボールに手を出してしまいそうになるが……

「アイラヴユー、マイ☆ダーリン」「シオンー!」
 選ばれし密林の花婿!
 突如現れたドゥ・カテにさらわれたシオンを、カイは救えるか!

「ところで、ティラノスならおいしそうな気がするよね……!」
 空腹を襲う、肉の誘惑……
 カイの仲間愛は食欲には勝てないのか……
 彼らの運命や、いかに……




あの星を思う


 ある旅の夜のことだった。
 なんとなく寝付くことができず、カイは宿を出て一人、夜風に吹かれていた。
「まだ起きてたのか」
「シオン」
 時はすっかり真夜中だ。
 そろそろ寝なければ明日に差し支えることはわかっているが、いろいろ考えてしまう。ポルポタの件からそろそろ一か月が経とうとしている。
「瑠璃と真珠ちゃん、どうしてるかなって」
「あの二人のことだからきっと……
 シオンが静かな声でつぶやいた。「真珠姫がまた迷子になっているな」
 カイが言葉を継いだ。
「うん……そして、きっと……
 星を、見上げながら。
「瑠璃が罪のない街の人たちを脅して回ってるよね」
……そうだな」
「早く、見つけなきゃね」
 流れ星が落ちてゆき。
 二人のロマンチックじゃない夜は更けていく……


 そして、物語は月夜の町へ……