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しちろ
2023-05-07 19:26:46
45003文字
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LOM・宝石泥棒編
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宝石泥棒編 2
聖剣LOM宝石泥棒編。マイホーム話、精霊の光、ホワイトパール、主人公のサブクエ話。45,000字。
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ポルポタを発ってからの二人旅は、瑠璃にはひどく静かなものに感じられた。
正確には静かになったわけではない。元に戻っただけだ。熱に浮かされひとしきり騒ぎ立てた後の、祭りの後のようなもの。
もともと瑠璃は決して口数の多いほうではないし、おっとりとした真珠姫もそうだった。瑠璃が先導し、真珠姫が付き従うようについてくる。ときどき騎士が、プリンセスが迷子になっていないか確認しながら。
そんな道程は瑠璃にも
――
おそらく真珠姫にも長らく当たり前のことでこれからも続くのだろうが、一度経験した賑やかさは不本意なことになかなか心から追い出すことができなかった。新たな地を訪れるとき、海を見るとき、魔物と相対するとき。折に触れては思い出してしまう。
奇妙でお節介な人間との出会いは、瑠璃には初めて知ることの連続だった。
生活習慣、考え方、珠魅と人間の思う常識の違い。背中を預けられる誰かがいる、ということ。それから
……
。
『ありがとうございます、おねえさま』
瑠璃が知らない、真珠姫の新しい顔。二人きりで生きてきた長い時間、彼女はこんな風に笑っただろうか。
それまでの瑠璃は、他人を頼るということをしたことがなかった。この世に生まれてから彼は自分の力だけで生きてきたし、真珠姫と出会ってからは一人で彼女を守ってきた。己と真珠姫以外に信用できる者は誰もいない。彼らが珠魅である以上、そうせざるを得なかった。
「真珠、今日はこの辺りで休もう」
日没前に森の中に手頃なスペースを見つけ、荷を下ろす。
核に傷さえ負わなければ不老長寿であり、生命維持のための飲食物や防寒や、その他諸々を必要としない珠魅の旅荷は多くはない。ただし必要としないというのと感じないとはまた別で、夜風が吹けば身体は冷えるし温かい物が恋しくもなる。
火を起こしながらまた野宿になってしまってすまないと言うと、真珠姫はやんわりと首を横に振った。
「ううん、だいじょうぶ。ほしみるの、すきだから」
安住の地も定宿も持たず、当てのない旅が常の二人。少しでも不審があればおいそれと宿も取れない。彼らにとって野営は日常だった。
闇の濃い土地だった。
このまま進めば、先には夜だけの町があるという。月明かりに照らされた狭い路地に小さな建物が細々と身を寄せ合い、人々は闇を乱さぬようただ静かに、時には酒と音楽に酔いしれて日々を送る。そんな場所らしい。そんな町ならばもしかして、闇に紛れ息をひそめて生きる仲間もいるだろうか。もはや幾度目かもわからない『もしかしたら』を考えながら、瑠璃は傍らの真珠姫に目をやる。
赤い炎にほんのりと照らされた、どこかあどけない横顔。それが時折まったく別の誰かに見えて、ドキリとすることがある。
「真珠」
真珠姫は呆けたように焚火を見つめたままだった。聞こえていない。
瑠璃がもう一度呼んだが、やはり反応はなかった。
「真珠姫!」
「え?」
何度か呼びかけて、真珠姫はようやく瑠璃の声に気がついた。
まるで、たった夢から醒めたかのようにゆっくりと目を瞬かせ、そうしてやっと瑠璃を見る。瑠璃は一つ息を吐いた。目の前の少女が、いつものか弱い真珠姫であることに妙に安堵しながら。
「また考え事か?」
「あ、えっと
……
ごめんなさい」
「いい、余計なことは考えるな」
同じ言葉を何度口にしてきたかわからない。
辺りの状況を忘れ思考の海に落ちている。こんな時、真珠姫は迷子になりやすい。
「瑠璃くん、あの
……
」
何か言いかけた真珠姫はしかし俯き、膝小僧を抱えた。
「
……
仲間
……
みつかると、いいね」
「ああ」
そんな会話も、いつものこと。焚火がぱちぱちと音を立てている。これまで瑠璃と真珠姫はこんな夜を数限りなく繰り返してきた。
仲間
……
いつ見つかるのだろう。
長い旅を経てようやく珠魅が見つかったのは、人間と一緒に出掛けた港町だった。それも、すでに核だけの。瑠璃が旅に出てどれほどの月日が流れたことか。真珠姫以外で初めて感じた煌めきが死者のものであったことは、仲間を求める気持ちの強い彼を滅入らせるには十分だった。
人との交わりを避けながら仲間を探すのは難しい。
他の珠魅がどうやって生きているのか、瑠璃は知らない。
ただ、人間が珠魅を狩る以上、その生き方を変えることは難しい。
『いいのか? ってただそれだけ』
今日は新月。サフォーの事件から、ひと月が経とうとしている。
港町で言われた言葉が、妙に胸にひっかっていた。
精霊の光
月なき夜空を見上げて、瑠璃が物思いに沈んでいたころ。
異なる地で、カイもまたブルーになっていた。
今回カイ達が訪れたのは、月夜の町ロア。
闇の精霊に愛された、明けることのない夜と月の光の町。
石積みの階段に入り組んだ細い路地、それに常闇も相まって初めて来た者は一度は迷う。しかし、夜空の星々と各所に掲げられたランプの光に照らされて、町の雰囲気はむしろ温かい。
また夜の町だけあって酒も有名で、この街を訪れた旅人は、ダンディなマスターが経営する酒場『悪魔のぼったくり亭』で一杯ひっかけるのが通例となっている。
なっている、のだが。
「はあああ~」
カイは本日十何度目かの、地の底まで届くような溜息を吐いた。
いつも機嫌がいいとは言えないシオンは、今日は明らかに機嫌が悪い。
なにしろ良い香りの漂う酒場を横目に、二人の夕食と来たらカチカチの携帯食の残りと月夜の町の美味しい水ときたもんだ。すっかりさみしくなった財布の中身は小銭がいくつか。やっと着いた町だというのに野宿確定である。
「あ~、せっかくの町なのに~。あつあつのごはん~、あったかいおふとん~。おいしいケーキ~、シュークリーム~、チョコレート~」
「だから売り上げガメておけば良かったんだ。そうすりゃ宿と飯くらい余裕だったのに馬鹿正直に全額渡すから」
「そんなこと~、できるわけないじゃん~! リュミヌーのランプなのに~!」
確かにウマには腹立ったけど~!
完全にウマもといギルバートの話し方がうつっている(しかも音痴だ)が、シオンはいちいちツッコミいれるのもイヤなようで無視を決め込んでいる。
瑠璃と真珠姫、そしてまだ見ぬ珠魅を探してファ・ディール各地を駆け巡り、ロアに到着した旅人二人。
町の奥で見つけたセイレーンの営むランプ屋で、変なウマにランプを三個も押し付けられて、アナグマ相手にマッチ売りの少女よろしく売り歩く羽目になった。決め台詞は「んぐ んま ぐまー ま?(ランプはいかが?)」 あれ、これ本当にマッチも売れるんじゃね? だって一個目が売れたとき、ランプに入れる火がなくて困るアナグマにシオンが言ったのだ。
「んぐ んま ぐまー ま?(明かりはいかが?)」
彼のマッチは10ルクで売れた。
そんな話はどうでもいいが、ファジーすぎるアナグマ語にてこずりほぼ丸一日を費やした。親切な酒場のマスターが協力してくれたものの、客のアナグマたちにはぐげぐげ言われて、カイの頭とハートのほうが「ぐげ」である。
しかも人には散々迷惑かけておいて、結局は別れることになったケンタウロスとセイレーン。軽薄なギルバートなんざカイは知ったこっちゃないが、リュミヌーも彼を憎からず思ってはいたようだった。
分かり合おうとしてうまく奏でられなかった、二人のハーモニー。
決して愛がないわけではないのに、想いは重ならずすれ違う。求めるものが違うから、信じるものが違うから。そのとき人は、愛を選ばず別れを選ぶこともある。人の縁とは難しい。
味気ない夕食を終えたカイは、街灯の下に地図を広げた。人目に付きにくい常夜の町なんて、いかにも珠魅が隠れ住んでいそうなどと思ったのだが。
「ロアもハズレっぽいなぁ
……
。キルマ湖とジャングルは、今度バドを連れて行ってあげるとして
……
」
旅の途中で出会った、海を渡る亀トートと獣王ロシオッティ。マナの七賢人に会えたのはそれはそれで成果と言えたが、本来の目的ではない。石の目玉に、メダルに燭台、鏡。いくつか手に入れたアーティファクトも、現状では珠魅につながるようなものではなさそうだった。
うんうん唸るカイをしり目に、シオンはつまらなそうに、さっき売り上げたコインを指で弾いては器用に受け止めている。
「どこにいるんだろう、瑠璃と真珠ちゃん」
ポルポタで彼らと別れて、早一か月。
マイホームを拠点に各地を探したが、現時点では瑠璃たちについても他の珠魅にしても、何ら手掛かりは得られていない。
ふと、瑠璃と真珠姫との別れが思い起こされた。何も告げることなく一方的に離れていってしまった二人。彼らとカイとでは、やはり考え方や信じるものが違ったのだろう。ただ、カイの場合はさよならを言う機会さえ与えられなかった。
とりあえず冒険の基本で、情報と言えば酒場だろうと改めて『悪魔のぼったくり亭』へ足を運ぶ。
酒場の客は、ほとんどがアナグマで占められていた。アナグマ語を話す彼らから有益な情報を得るのは
……
非常に難しいことはランプの件で身に染みている。
「マスター、さっきはお世話になりました! とても助かったよ」
散々お世話になったパズル人間のマスターは、カイの姿を認めると穏やかにほほ笑んだ。
「こんばんは、どうやらランプは無事に売れたようですね」
「おかげさまで! 実はそれとは別で聞きたいことがあって
……
本当なら、お礼も兼ねてお店の売り上げにちょっとは貢献したいとこなんだけど」
言いながら、カイがきまり悪そうに頬をかく。路銀はこの上なくギリギリだ。ここでお金を使ってしまっては、本当に必要なものが一切買えなくなってしまう。
口髭のダンディなマスターはにっこり笑うと、よかったらおかけくださいと二人に着席を促した。精霊のランプが灯されたムードのあるカウンター。こういう場所は不慣れなカイは少しぎこちなく、シオンは慣れた様子で腰を下ろす。
するとマスターは実にスマートに、二人の前に念入りに磨きあげられたグラスを置いた。ランプの柔らかな光に照らされてグラスがきらりと煌いた。
「サービスです。素敵なランプにご満悦のアナグマたちが、いつもより随分と多く注文してくれましたから」
マスターの粋な計らいに、沈んでいたカイの胸がみるみるときめいた。少女の素直な反応を微笑ましそうにしながら、マスターは優雅な所作でグラスにワインを注ぎ入れてくれる。彼が二人に選んでくれたのは、淡い琥珀色をした葡萄酒だった。
「マスター、ありがとー! 地獄に仏、なんてダンディ!」
「ははは、お二人ともお若いですから、飲みやすくて軽いのですよ」
こういう時、乾杯したりするべきなのかなと隣を見れば、情緒もへったくれもないシオンはこちらを見もしない。仕方なしにマスターに礼を言い、そろそろ口をつけてみた。葡萄のふくよかな香りが鼻をくすぐる。
カイにとって初めての酒はとろけるように甘い。
「それで、聞きたいこととはなんでしょう?」
マスターはボトルの口を丁寧にふき取りながら、穏やかに問いかけた。大人の余裕と落ち着きが漂う雰囲気は、この人が怒ることってあるのかな、なんて思わせる。
カイは、これまでのことをかいつまんで話した。瑠璃たちや珠魅らしい者の情報が入っているかについて、マスターの返答は残念ながら否だった。
「そうでしたか。お二人は人探しでロアにいらしたのですね」
「うん。でもなかなか会えなくてさ。もしかしたら向こうは、あんまり会いたくないって思ってるかも」
絶対にもう一度会いたいって思うくせに、そんな風に弱気になるのは、ロアのちょっと切ない夜のせいかも。ポルポタを発ったのだって、瑠璃たちと半日くらいの時間差しかないはずなのに手掛かりひとつ見つからない。
「せめて、無事だってことだけでもわかればいいんだけどなあ」
瑠璃は腕が立つし滅多なことはないと思いたいが、なにしろ宝石泥棒の件がある。いつ瑠璃と真珠姫に予告状が届いてもおかしくはない。
「私は仕事柄、軽々しくこんなことは言わないのですが
……
」
マスターは穏やかに語る。
「あなたがおっしゃるには、ご友人はとても珍しい種族なのでしょう? この酒場にはファ・ディール各地からお客様がお見えになりますし、いろんな情報も入ってきますが、店主の私も珠魅には一度もお目にかかったことはないですしお話に聞いたこともございません。そんな種族に短期間に三人も会えたあなたは、やはりその方々とご縁があるように思いますよ」
「そう、かな? マスターが言ってくれると、ちょっと自信がつきそう」
カイがへらっと笑った。気弱になっている時の慰めは心にしみる。
「人生というのは出会いと別れの連続です。こんな商売をしておりますと、それはいろんな場面を目にいたしますが
……
人の縁とは不思議なもので、どんな別れをしたとしても、望めば思わぬところでまた巡り合ったりするもののようですから」
残り少ないグラスを揺らし、ご縁かあ、などと心の中で思う。
縁と言えば、あれだけ仲の悪かったシオンと旅しているのも不思議な縁だ。相変わらず口も態度もよろしくない彼だが、一度誘えば黙って帰ったりするような真似はしなかった。
「マスター、本当にありがとう。次来るときはお客としてくるよ」
「ぜひ、いつでもお待ちしております。いろんな銘酒をそろえて御座いますし、秋になればシュタインベルガーの新物が入ります」
「シュタ?」
「シュタインベルガー。断崖の町ガトの寺院で作られている神酒です。儀式に用いられる品でもありますが、甘美で芳醇なその味わいもまた名高い。ロアにもファンが多いのです」
ガトの名は旅の最中で何度か耳にしていた。
癒しの炎を信望する寺院の総本山でもあり、ガトを目指す信仰者や旅人は多い。
「ガトかぁ
……
。行ったことないや。行ってみたいな」
「よい町ですよ。断崖に沿う道は険しくたどり着くまでには難儀しますが、寺院のステンドグラスはため息が出るほど美しいですし、あの町の風は実に気持ちがよい。遠路はるばる運ばれる水と澄み切った空気、高地の寒暖にさらされた葡萄、何よりも修道女たちの手間暇かけた最高の仕事が極上の酒を生み出すというわけです」
酒をこよなく愛するマスターは、うっとりと美酒への想いを馳せている。
カイの胸には、初めての酒の高揚感も相まってまだ見ぬ町への夢想が広がった。珠魅探しとは別に純粋に訪れてみたい、そんな気持ちに駆られてくる。
ところでそんな高地では仕入れは大変ではないのかと聞くと、マスターは少し悪戯っぽい口調で言った。
「ふふ、プロのバーテンダーに伝わる特別な運搬方法があるのですよ。もう少し大人になられましたら、あなたにもお教えいたしましょう」
初めてのワインは、少量でも身体を温めた。
「風が気持ちいいねぇ」
身体がほかほかと火照り、ふわふわ雲を歩くような心持ちだ。
グラス一杯でこの調子とは、カイはあまり酒には強くない体質だったらしい。生まれて初めてのほろ酔い気分で、彼女はシオンと路地を歩いていた。季節はまだ秋の差し掛かりだが、夜になれば風が冷える。ほんのり赤みが差した頬に冷気が気持ちがよかった。
『悪魔のぼったくり亭』を出た二人は宿を探していた。ロアは旅行者の多い町である。空室さえあれば今の時間からでも寝るくらいはできるだろう。
先述の通り、本来の財布事情からすれば今夜は野宿のはずだった。しかし諸々いい気分で町を出ようとしたカイを、渋面のシオンが引き留めたのだった。
「今日は宿に泊まれ、酔っ払い」
「そりゃそうしたいけど、お金ないしぃ。それに今日は外でもよく寝られそう」
そもそも、それを散々愚痴っていたのはシオンのほうだ。
すると彼は一振りの短剣を出した。柄にも鞘にも何の装飾も施されていない、シンプルな品である。
「一本売る。俺も野宿は飽きた」
「え? いいの?」
「大した剣じゃない。それでも二部屋分の宿代くらいは出るだろ」
お気に入りの槍を大事に使っているカイと違い、彼はあまり持ち物にこだわりはないらしい。実用一辺倒の短剣は刃の質はそれなりで、道具屋に持っていくとリュミヌーのランプと同じくらいの値段で売れた。
酒場を離れると、とても静かな町だ。
路が入り組み迷いやすいロアでは、道しるべとして路地の一つ一つに名前が付けられている。
カイ達が歩くその路は『明月の路地』と呼ばれていた。
ファ・ディールでもひときわ美しいと名高いロアの月は、今宵は見えない。そのかわり、夜空に散りばめられた無数の星々が一段と明るく瞬いている。
草人が遊ぶほかは、人気の失せた夜の時間。
「美しい月夜もいいけれど」
ふいに暗闇にバリトンが響いた。
星夜のもとよく通る声。
……
少し甘くて、艶のある。
「こんな星だけの夜も乙なものだね」
「闇夜のカラスだよ、鳥の人」
見たまんまの感想をカイが漏らす。暗闇から現れた、奇妙な男。カラス
――
正しくは九官鳥のようだったが
――
濡れたような漆黒の羽をもつ、背の高い鳥人だった。
詩人然とした舞台衣装、目深にかぶった山高帽。少し大げさな蝶ネクタイを結んだ姿は気取っているようで、それでいてどこかおどけて見える。
不思議な声をもつ不思議な男は、こちらを見て、ふふと笑ったように見えた。
「やあ、カイ。探し人かな?」
「どうして?」
どうして名前を知っているのか。どうして目的を知っているのか。
二つの意味を持つ「どうして?」だが、なぜだか嫌な気分ではない。
男の深い声がそうさせるのか。彼の前では隠しごとなど意味がない。相対した者の心を自然と溶かし開かせる、そんな空気をこの男はその身に纏っていた。
「彼、連れているんだね。まー まー ぐまぐまま ま?(友達にはなれたかい?)」
「ぐ、ぐま
……
?」
男は自分から問いかけておきながら、カイに軽く微笑んだだけだ。
そして、謡うようにさらに問う。
「キミの求める尋ね人は光と闇を渡り歩いている。けれど二つは表裏一体、分けてはその人を否定してしまうだろう。キミはそれを見届けてやれるかい?」
「どういうこと?」
「ん~」
カイが真意を測りかねると、鳥人は打って変わって気さくな様子で顎を撫でた。
そして羽の指を立て、いたずらっぽくウインクした。
「おおかみさんには気をつけてってことかな?」
「は?」
話を逸らした風の鳥人に、シオンが何やら思い切り投げつけた。
それは狙い過たず鳥人を捉え
――
しかしそれが男に当たるより早く、男はすうっと闇夜に溶けて消えてしまう。何かは黒い残影をすり抜けて壁にぶつかり、石畳を澄んだ音を立てながら何度か跳ねて転がった。
「シオン、人に向かってなにすんのさ!」
「ナイフにすればよかった」
カイの非難など聞かず、シオンが低く呟いた。
鳥人がいた場所にはもはや何の気配もなく、一瞬の夢か幻でも見たかのように変わらぬ町の夜が広がっているだけだ。
シオンの投げた金色のコインが石畳の上で、街灯の明かりを受けてきらりと光っていた。
『精霊の光』 おわり
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