著者: 雷歌/らいと
2024-10-19 10:15:53
15174文字
Public JEシリーズ
 

【JE/八杉】八神探偵事務所は臨時休業中

★10/31に全文公開いたしました
10/27開催EXPOSE THE CRIME SP2024にて発行した同人誌の本文です。
時間軸バラバラ、付き合ってたり付き合ってなかったりする八杉のSS5本の詰め合わせ。
仕様:A6(文庫)・本文40P・オンデマンド


***



「え、どうしたの八神さんそれ」
 電話で、ちょっと猫缶買ってきて欲しいと受けた時には弱った野良猫でも見つけちゃったのかなと思っていた。しかし現場についてみれば、わりと元気そうな野良猫たちが八神にわらわらと集まっている。八神の足元に数匹と、少しだけ遠くから様子を伺っているらしい数匹。十は超えているだろう。
 ビル工事をしている横にあるような空き地であるためか、野良猫が集合していても誰にも咎められていないようだ。むしろ、通りがかる人たちが珍し気に、または面白げに見ていく。猫が人間中心に集会してる、などという内容でSNSに投稿されそうな風景だ。
「いや、ちょっとな……
 八神は苦笑しながら説明する。
 以前受けたとある依頼をこなすために野良猫らと仲良くしていたら、未だに懐いてくれているのだと。時には餌も与えているため、猫たちの中でも話題が話題を呼んでしまったのだろう。
「もう少し買ってくればよかったね」
 本日食べさせる分と、八神がその後も持っておけるようにと三缶は買っていた。だが、それでは足りないだろう。
「ま、とりあえずこっちとそっちに置いておくか」
 数の多い八神近くに二缶と遠巻きにしてる方に一缶。本当は小分けにした方がいいのだろうが、今はそういう容器もない。野良猫たちがうまいこと食べてくれることを祈る。興味が餌の方にいってから、八神はそっと猫たちから離れた。
 供えつけられている車止めに腰を預けていた杉浦の横に、同じように腰を預ける。お疲れ様、と笑う杉浦におうと答えた。
「でもすごいな、時々見かけてはいたけど、異人町にこんなに野良猫いたんだ」
「野良猫に詳しい人もここに来てたからな」
「え、なにそれ?」
 詳細を聞いてみれば、どうやら神室町の時も野良猫関係の依頼を受けていたらしい。それで知り合った人が、今や職を変えて異人町にも来ていたとのこと。杉浦は、縁があるんだねえ、と言って改めて野良猫を見渡した。
 餌を食べている猫やのんびりと過ごしている猫や様々だ。さきほどまで寝ていた猫が起きて背伸びをすると、ゆったりとした動作でこちらへ近づいてきた。杉浦の足に体をこすりつけながら、くるくると歩いている。時折、見上げてはにゃあと鳴くから、餌をねだられてるのだろうなあと苦笑した。
「ええと、ごめんね? あそこに置いてるのしかないんだ」
 猫にそう話しかけてみるが、わかっているのかわかっていないのかまだ体をこすりつけてくる。ほら何も持ってないんだよー、と両手の平を広げて見せるが状況は変わらない。
 困ったなあと眉を寄せていれば、隣の体が震えているのがわかった。
「八神さん?」
「くく、悪い。可愛いなと思って」
「か、かわ……もー馬鹿にしてるでしょ」
「してないって」
 くつくつとこらえるように笑ってはいるが、こちらにバレているのだから意味がない。杉浦が話しかけたからか、さきほどの猫は今度は八神へとすり寄る。
「悪いな、俺も杉浦と同じなんだ」
 そういって、八神は猫の頭を撫でた。気持ちよさそうに撫でられるがままにされているが、しばらくすると撫でて欲しい箇所を手に押し付けはじめる。八神はというと、その指示の通りに撫でたり、指で軽くひっかくようにしてあげている。
「八神さんの手、なんか出てるのかな」
「なんかって?」
「ずーっと気持ちよさそうだからさ」
「ふうん?」
 八神は空いてる自分の手を見て、それから杉浦の頭にぽんっと乗せた。杉浦が、えっと思っているとそれは撫でるように左右へ動く。
「なんか出てる?」
「え、いや、わ、わかんない……
 いきなり撫でられて戸惑っているようだが手を押しのけはせず撫でられるがままの杉浦に、八神はむずがゆいものを感じて。
「杉浦の方がなんか出てるかもよ?」
「え、なんかって?」
「なんかはなんかだな」
 今度は両の手で杉浦の頭をわしわしと少し強めに撫でて、満足げにうなずいた。
「わ、もう。髪の毛ぐしゃぐしゃにしないでよー」
「はは、悪い。そろそろ行くか」
「あー、たしかに依頼人との待ち合わせ時間そろそろだ」
 ポケットに突っ込んでいたスマートフォンを取り出して時間を確認する。八神さんはその前に手を洗わなきゃね、と行って近くにある公園を指さした。
 一服できる時間もある? と聞けば、それはないかなーと苦笑する杉浦。仲良さげに空き地から立ち去っていく二つの背を、たくさん撫でられて満足げな猫は一鳴きして見送った。