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著者: 雷歌/らいと
2024-10-19 10:15:53
15174文字
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JEシリーズ
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【JE/八杉】八神探偵事務所は臨時休業中
★10/31に全文公開いたしました
10/27開催EXPOSE THE CRIME SP2024にて発行した同人誌の本文です。
時間軸バラバラ、付き合ってたり付き合ってなかったりする八杉のSS5本の詰め合わせ。
仕様:A6(文庫)・本文40P・オンデマンド
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*
半年。たった半年である。
それまで遊びに来たり、八神探偵事務所の手伝いなどしてくれていた杉浦文也の訪問がぱたりとやんでしまっていた期間だ。知り合いと疎遠になった際は、何かをきっかけにそういえばあいつは何してるかな、と思い出す程度だ。
だが、あの時、あの病院で、絵美から弟のことも頼むと言われていたこともあり、どうしても日々頭に過ぎらせていた。
やりたいことが見つかったからしばらく来れないかもとは聞いていたのだが、それでも。
何度かスマートフォンの連絡先にある杉浦の項目を開いてみるが、こちらから連絡せずに終わっている。どこまで彼に深入りしてもいいものか、つい思い悩んでしまうのだ。
そうしてあれよあれよという間に月日が経ち、杉浦自身からの連絡でようやく何をしていたのかを知ったのであった。
探偵事務所を開き、その内装までも少し自分の事務所に寄せているというのは、すこしこそばゆくも嬉しいものだ。
「うちより立派だよなあ」
九十九が作業するためのパソコンやモニターなど設備のことだけでなく、事務所としても横浜九十九課の方が広いだろう。
可愛がっていた弟分が己の知らぬ間に巣立ちをしていた──そんな気持ちになり、八神は少しだけ寂しくも思っていた。
「九十九くんの要望を取り入れたり、僕の妥協できない点とかいろいろ入れてみたらね。まあちょうどいい空き物件もあったし」
八神が飲む分のコーヒーを注ぎながら、杉浦は独り言とも取れる彼の言葉にそう返した。
未だ事件は解決できなくとも、さすがに駆けずり回っていると疲労は重なるものである。手伝える分の依頼があるかどうかの確認もあるが、休憩も兼ねて八神は横浜九十九課に寄っていた。
目の前に置かれたマグカップに簡単に礼を言う。杉浦は向かいのソファに座りつつ、どういたしまして、と返した。
「ま、半年ぐらい何も連絡なかったのは寂しかったけどな」
コーヒーに口をつけていた杉浦が軽く噴き出そうとして、踏みとどまった。彼にとって予想外の言葉だったのだろう。目をぱちぱちさせながら、ええ? と戸惑いの声をあげる。
「嘘だあ。神室町のことだから忙しくてこっちのこと思い出す暇もなかったでしょ。八神さんトラブルに巻き込まれがちだし」
「あー、そうだったりそうじゃなかったりだな」
「なにそれ」
曖昧な言葉に、アハハと笑う杉浦。
八神探偵事務所が抱えるほどの依頼があることは早々ないと杉浦は知っている。しかし、何かと神室町ではトラブルが起きているのだ。事件の依頼でなくとも、たまたま通りがかったら仲裁に入ることもある。あとは、一部の界隈に有名な八神だからこそ、そういう方面から絡まれることも。海藤も一緒にいたら、なおさらだ。
「ま、こっちにとっても“かわいい杉浦君”ってことだよ」
「え、ええ? 何、桑名さんに対抗してんの」
八神と桑名が初対面時、確かにそんなことを言われたことは覚えている。もちろん、桑名にとってはそういう後輩という意味で使ったのだろう。八神の今の発言も同様なのかもしれないが、杉浦はどぎまぎしてしまう。
八神はというと、少し照れたようにも嬉しそうにも見える杉浦の表情に、少しだけ口角を持ち上げた。
「ええと、半年も連絡なくてごめんね?」
「いや。便りがないのは元気な証拠っていうしな」
「そ? じゃあ今の事件解決したらまた連絡なくなるかも?」
「今はここを知ってるしなあ」
「連絡なくなったら、ここに来るってこと?」
「かもな」
「そ、そうなんだ」
九十九くんがいるのに? という言葉を杉浦は呑み込んだ。杉浦よりも九十九と長い付き合いである八神なら、九十九経由で杉浦のことを確認することは可能なはずだ。けれど、その選択肢よりも前に事務所にわざわざ来るという選択肢が先なのだろうか。
そこまで気にしてくれるのか。杉浦はにやけそうになる口角を、コーヒーを飲むふりして誤魔化した。
「みんな元気? 源田先生とかさおりさんとか、星野くんは進展あったかな」
「相変わらずだな。あの二人は付き合いはじめたらしいんだが、事務所で見てる限りは本当なんだかどうか」
「ああ。八神さん、そういうのに疎いもんねぇ」
「え、そう?」
「そうそう。簡単に人を口説けるくせに、そういうつもりで見てない相手から向けられる好意に気付かないよね」
「ええ?」
そうだろうか、と八神は首を傾げる。弁護士でもあり探偵でもあるのだから人の機微に敏い方が良い。確かに気づかない場合もあるが、それは当事者同士がどちらも八神自身と付き合いが短いからだろう。そう、八神本人は考えている。
心当たりはないという表情をする八神に杉浦は苦笑する。
「あーあ、知らないところでたくさん泣かしてそうだよね」
「んなこと言われても」
八神はバツが悪そうな表情をして頭をかく。周りから揶揄われたり、あんなにもわかりやすい藤井真冬のことでさえも、そんなんじゃないと一刀両断するぐらいだ。
思わず同情してしまうなあと、杉浦は小さくため息をついた。
(まあ、まだ可能性があるから羨ましいけど)
どこかで何かが起きれば、口説く対象になり得るのだろう。一方の杉浦は、なかなかの因縁がある人物である。自分が関わった事件の遺族なんて、そういう気持ちは抱きにくいだろう。
八神の知らないところで泣いてしまうかもしれないのは、まさしく自分のことであった。今のところはそんなことはないが、この先、八神に大事な人ができたとき、笑顔で祝福できるだろうか。
そんなことをつい、考えてしまう。
「ま、気を付けておくわ」
「え、何に?」
「知らないところで、泣かさないように」
自分に言われたような気がして、杉浦はどきりと心臓を跳ねさせた。
「え、えー、気を付けれるもんなの?」
「意識の問題だよ、意識の」
「そんなもんかなあ」
「そんなもんさ」
コーヒーを飲み終えたようで、八神はご馳走さんと言ってマグカップをローテーブルへ置いた。
それから立ち上って、軽く背伸びをする。
「じゃ、またちょっと行ってくるわ」
「うん。高校?」
「そうだな、もう少し生徒の様子も見ておきたいし」
「気を付けてね、ガラの悪いのが増えてきたし」
「まあ、神室町に比べたらマシってところだな」
「心強いなあ」
じゃ、と手を振ってから八神は横浜九十九課の事務所を後にした。
「なかなか、手ごわそうですな」
調べものをしている体で、ずっと素知らぬふりをしていた九十九がそう杉浦に声をかける。杉浦は天を仰ぎつつ、長く息を吐いた。
「まあ、こればっかりはね」
報わせるつもりはない気持ちだ。
ただいつも通りに会話ができればいい。そして時には、探偵業で頼ってもらったり頼らせてもらったり。そんな程度でいいのだ。
「もしもの時はさ、九十九君、やけ酒に付き合ってくれる?」
「ええ、思う存分付き合いましょ」
良い友人を持ったものだと、杉浦は笑みを浮かべる。その友人でさえも八神繋がりであるのだから、今の自分は八神あってこそ、なのだ。
(あーあ、ここまでどっぷりはまらせておいてさ)
「厄介な人、好きになっちゃったなあ」
独り言のような言葉に、九十九はあえて聞こえていない振りをする。彼はただ、どちらの友人にも幸せな未来があるようにと祈るばかりであった。
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