2024-09-15 22:07:04
142566文字
Public 小説(pixiv公開済)
 

マーブリング・マーブル

シャチョコン in ケーキバース。モモ=ケーキ(先天性)、ユキ=フォーク(後天性)。

ピリカラことRe:vale記念日2022リリックビデオの世界観+ケーキバースです。
社長(折笠千斗27歳)&コンビニくん(春原百瀬20歳)のほか、脇役として万理さんが登場します。
捏造過多。なんでも許せる人向け。特殊設定につき注意事項を最後まで必読でお願いします。

◆必読・注意事項◆
・ケーキバースという特殊設定に、多くの独自解釈と追加の設定を付与しています。
・流血・負傷・暴力的な表現があります(いずれも軽傷程度です)。
・モブキャラクター(名無し)による加害・犯罪行為があります(未遂・微量のモブモモ)。
・主要登場人物間のカニバリズム・欠損・殺人等はありませんが、世界観には含んでおり、言及があります。
・医学用語その他の各種用語はフレーバーとして用いており、解釈・知識とも曖昧で浅薄なものです。ご寛恕くださる方のみ、閲覧していただけますようお願いいたします。
・現実における特定のカテゴリ・疾病の方を貶めたり、傷つける意図はございません。また、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

◆あまり内容のないあとがき◆
https://privatter.me/page/66e6da94a683b
※読了後の方向けのためパスワード有です。質問自体がエピローグのネタバレになっていますのでご注意ください。

 

epilogue.


 午後七時を回り、ターミナル駅の周辺は通勤ラッシュがひと息ついてなお、多くの人でごった返していた。
 その人の波を泳ぐように、万理は、急ぎ足で待ち合わせの店へと向かっている。
 公務員の定時はとっくに過ぎていた。今日は残業なしで、と職場にはあらかじめ伝えていたが、受け持ちのクライエントからの相談とあっては、帰り際であってもやはり自分で対応したいと思ってしまう。幸いにして重大なものではなく、約束はキャンセルせずに済んだ。気を遣う相手でもないが、三人分の予定のすり合わせにはなかなか手間がかかったため、仕切り直しにならずに済んでなによりだ。

 駅から少し歩き、大きな五差路交差点を折れた場所にある居酒屋が、今夜の待ち合わせ場所だ。
 楽しげな宵のざわめきに満たされつつある店に入り、予約の名を告げると、カウンターと小上がりのエリアを抜けた奥の個室へと案内された。道すがらに毎度ご来店ありがとうございますと頭を下げられ、軽い会釈で返す。
 透かし彫りの板戸の向こう側、ゆったりとした掘り炬燵のテーブルには、待ち合わせ相手のふたりがすでに揃っていた。並んで座る距離の近さに、少しだけ口角が上がる。
「大神さん、こんばんは!」
「万、お疲れ様。まずは座って」
 予想したとおりの明るく元気な声と、予想とは少し違った労いの声が出迎える。
 万理が担当するケーキ、春原百瀬。再会した古い友人のフォーク、折笠千斗。
 初めての、三人での顔合わせだ。


 それぞれに飲み物を注文し、冷たいおしぼりを広げながら息をひとつついたところで、千斗が聞いた。
「仕事の方は大丈夫だったのか」
「ああ。ちょっとした事務手続きの確認だったから、電話だけで済んだ。深刻な話ではなかったよ」
「なら良かった。まあとにかくお疲れ様」
 初手の話題がそれか、と意表を突かれたが、千斗とてケーキとフォークを支援する企業の長だ。何処かのケーキが不測のトラブルに巻き込まれたのでは、と案じていたのだろう。
 こういった会話の端々で、互いのあいだに流れた時間を実感する。あの頃の千斗ではないし、あの頃の万理でもないのだ。
「そっちこそ、ここしばらく大変だったんじゃないか」
 布のおしぼりを畳みながら言うと、千斗は片頬だけでちらと笑った。
「ほぼこちらが狙ったとおりの段取りで進行できたし、成果も上々で、社内では祝杯が上がっているよ。また無駄に顔が売れてしまったことだけは少し面倒だけれど」
「顔出しは、そりゃなあ」
 一週間ほど前のことだ。とあるストリーミングテレビのニュースチャンネルで、C&Fエンパワメントの社長である折笠千斗氏がフォークとして発症したことが報じられた。
 当人の出演と独占インタビューつきで、狙いすました感は否めなかったが、ニュースキャスターと対峙した千斗は、落ち着いた振る舞いと誠実な言葉でもって、自社の活動実績をさりげなく織り込みつつ、発症を前向きに受けとめていることを丁寧に伝え、大きな反響を呼んだ。
 フォークへの嫌悪や過去の嗜食事件の掘り返し、忌避感を語る向きも根深くあるが、見たところでは賛否のうち賛が圧倒的多数を占めている。風貌、声柄ともに動画映えする本人の特性も大いに手伝ったのだろう。
「オレもライブで見てましたけど、番組コメント欄やSNSでの実況とか、すごく好意的で嬉しかったです」
 隣の百瀬が嬉しそうに、どこか誇らしげにそう語るのを、千斗がじっとりと横目で眺める。
「百瀬の配信のチャット欄もすごく好意的だったよね」
 少なからず棘を含ませた声音に、しかし百瀬は笑顔で応えた。
「千斗さんのおかげです! 先にあのニュースがあったから、オレの言ったこともすんなりと受け入れて貰えたんだと思います」
 素直すぎる返答に、千斗が苦笑いをする。万理もまた、苦笑するしかなかった。

 千斗のカミングアウトの数日後。今度は百瀬が、ゲームの実況配信中に己がケーキであることを告げた。万理も千斗も寝耳に水の行動だった。
 ニュースチャンネルの配信に呼応するかのように、このところ、著名人のカミングアウトが増えていた。ことに、とある人気アイドルデュオが、自分たちはフォークとケーキであると発表したことは、世間を大きく揺るがせた。
 そういった、世の中がフォークとケーキの話題に席巻されていたなかで、百瀬の発言はさらりと流れていったが、それでもケーキにはフォークとは違った危険がある。ことに百瀬については、特定形質の発現過多による要観察対象者――ネクタルであることで、よりいっそう注意深くあらねばならない。
 百瀬にはネクタルやアンブロシアという言葉は伝えていないが、精密検査の結果をともに見ながら、制御の難しいホルモンの過剰分泌が起こっているらしいので気をつけて生活するように、と注意喚起したばかりだった。
「百くんが決めたことだから、とやかく言うつもりはないけれど……担当としては、事前に相談はして欲しかったかな」
 できるだけ優しく言ったつもりだったが、百瀬はしゅんとして、すみませんでした、と頭を下げた。
「万。それはもう、とやかく言ってるんじゃないの」
 横から千斗が口を挟むのに、にやりと笑ってみせる。
「なんていうか、百くんより先に千から相談されるとは思わなかったんだよね。『どうしよう万、モモが動画配信でカミングアウトしてる』っておろおろしながら夜中に電話でさ」
「っな、ちょ、万……!」
 慌てふためく千斗とびっくり顔の百瀬が、並んでひとしく顔を赤くしていく様子を楽しく眺めているところに、飲み物が運ばれてきた。
 千斗はスパークリングワインのロゼ。フォークになって以来、炭酸を好んでいるらしい。百瀬はアルコール度数が低く飲みやすい緑茶サワーを選んでいる。そして万理は、この店が売りにしている蔵元から直仕入れの米焼酎を手にした。
「一杯目から焼酎ってどうなんだ。しかもボトルだし」
「お前だって最初からスパークリングワインとか……まあ、とりあえずの乾杯よりも、みんなで好きなものを好きに飲むってことで良いじゃないか」
 グラスに氷を入れながらいささか強引にまとめると、千斗は呆れたように笑いつつも焼酎のボトルを取り、注いでくれた。
「じゃあ、万の言うところの“とりあえずじゃない乾杯”をしようか」
 居酒屋の個室で、提灯型のペンダントライトにかざし、三者三様の色とかたちのグラスを掲げる。万理が目で合図をし、頷いた千斗が笑みとともに口を開いた。
――僕らの出逢いと、再会に。乾杯」
「乾杯」
「乾杯!」


 フォークである千斗が口にするのに向いた食べ物は、多くは無い。どんな料理でも同じようなものだからと言われて、万理は行きつけの店に予約を入れた。
 個室の居心地の良さと、百瀬が好みそうな肉や魚のメニューと、万理が気に入っているさまざまな銘柄の焼酎と。
 近況報告から懐かしい思い出話、時にはゲームの話題など、会話は弾み、料理も酒も存分に、三人で楽しいひとときを過ごした、のだが。
……焼酎のアルコール度数って、どれくらいだっけ?」
「たいていは二十度か二十五度かな。ソーダで割っているぶん、そこまででもないはずなんだが……あ、この米焼酎、三十五度だった……
「ちょっと、万」
 木目のテーブルに突っ伏した百瀬の背中をさすりながら、千斗が咎めるような声を出した。
「ごめんごめん。百くん、ごめんね」
 百瀬からの返事はない。耳まで真っ赤に染めて、すやすやと眠っている。
 焼酎とソーダを好みの配合で混ぜあわせてかぼすを絞る、生絞りかぼす酎ハイ。百瀬が注文したそれに、思いついて提案したのは万理だった。自分が頼んだボトルを指し、この焼酎がなかなかフルーティな味わいだから、ベースに使ってみては? と。
 結果がこれだ。かぼすの爽やかさ、ソーダ割りの飲みやすさに、度数の強さを意識せぬまま飲み過ごしてしまったのだろう。
「百くん、おーい、大丈夫? ……具合が悪いわけではなさそうかな。単純に寝落ちしちゃったのか」
 軽く揺さぶってみるが、起きる気配は無い。寝息も寝顔も穏やかに、あどけない顔で熟睡していた。年長者として、潰してしまった責任と申し訳なさを感じつつも、少しだけほっとする。
 リラックスして、はしゃいで、無防備に眠ってしまう。いつもどこかしら内罰的だった彼が、そんな時間を持てるようになったことが、じんわりと嬉しかった。
「これは、今日は僕の部屋か。二日酔いの薬、あったかな……
「千の部屋?」
「ああ。事件以来、殆ど一緒に暮らしているようなものだから。どっちの部屋に帰るかはその日次第だけれど、今夜は広いベッドに寝かせてやりたいなと思って」
 当たり前のように言われて、万理は、グラスに残ったオンザロックの焼酎をぐいと飲み干してから、口を開いた。
「あのさ。千。お前、もう、その、百くんとは……
 何と言って聞けば良いものか、しばし逡巡する。そもそも、聞くようなことだっただろうか? 古い友人の恋愛事情。あるいは、クライエントの恋愛事情。
 きちんと告白をして、正式に付き合い始めたことは、双方から聞かされている。しかし、互いに寝泊まり、というかベッドをともにする仲になっているのかと思うと、そこはかとなくショックだった。
 クライエントとは言うものの、万理にとって百瀬は、友人のような、かわいい弟のような存在でもあった。仕事に私情は挟まぬようにと己に課してはいるが、時おりどうしても、保護者めいた――兄めいた心持ちになってしまう。
……まだだよ」
 少しの沈黙の後。わかりやすくむすっとした顔で、千斗が応えた。百瀬を抱き起こして、自分の身体へと寄せ掛け、背中から腰に腕をまわして抱える。どことなく、大事なぬいぐるみを抱きしめる子どものようだった。
「へえ。お前にしちゃ珍しく手が遅いじゃないか」
 ほっとした反動で軽口を叩くと、千斗はゆっくりと目を上げて万理を見た。
「あんな目に遭ったあとだ。どれだけでも待つつもりでいる」
――千」
 急に、部屋がしんとした。店内の離れた場所でがやがやと話す人の声が、遠い海鳴りのように響く。
 百瀬の穏やかな寝息が聞こえる。それに耳を澄ますように小さくうなだれて、千斗は話し始めた。
 検査入院から退院した日の夜、千斗の部屋へと彼を連れていった時のことを。

 ×     ×     ×

 千斗のマンションに到着し、部屋へと招き入れると、百瀬は靴を脱ぐのもそこそこに風呂を借りたいと言った。身体診察の際に清拭は施されていたが、やはり自分で身体を洗いたいのだ、と。
 風呂という単語に一瞬だけどきりとしたが、なんとか平静を保った。熱い湯を張りながら、操作パネルの使いかたを教える。タオルとスウェットを渡すと、百瀬はほっと嬉しそうな顔をしてバスルームへと入っていった。
 その笑顔はとても自然だったから、もう一歩踏み込んで聞くことが、気づくことができなかった。

 やけに長い入浴時間に少し不安になり、声をかけてみようかと立ち上がりかけたところで、ようやく百瀬はバスルームから出てきた。ソファに座るよう促し、水分補給にと用意していた飲み物を手渡す。
 百瀬が礼を言い、グラスマグを受け取ったはずみに、スウェットのゆったりとした襟ぐりがわずかにずれて、赤くなった肌が見えた。入浴で上気しているのかと思ったが、首もとから肩口にかけて、皮膚がささくれ立ち、ところどころ赤剥けになっている様子が目に入り、愕然とする。ボディブラシで力いっぱいに擦り続けたとしか思えない有り様だった。
 首を竦めて隠そうとするのを押しとどめ、どうしてこんなにも強く擦ったのかと問うと、彼は言葉少なに「汚れたところを、綺麗にしたかったから」とだけ答えた。が、納得の行くはずもない。
 隣り同士でソファに座り、手に手を重ね合わせて、根気強く訪ねた。何を綺麗にしたかったのか。何が汚れたと思ったのか。
 そうして、重く震える口をなんとか開かせ、聞き出した話は。

 あのフォークたちに、千斗がつけた唇の痕を暴かれたのだと。
 嘲られ、貶められ、執拗に舐られたのだと。

 目が眩むほどの怒りが全身を駆け巡った。拘束され自由を封じられた百瀬を見つけた時と同じか、それ以上の強い怒りだった。同時に、深い悲しみにも襲われてしまう。どれだけ傷ついたのだろう。傷つけられたのだろう。百瀬という、たったひとりの大事なひとが。
 ともすれば迸りそうになる感情を表には出さぬように。百瀬には見せぬように。己の内側だけでどうにかねじ伏せ、千斗はゆっくりと、穏やかに、言って聞かせた。
 大丈夫。汚れてなんかいない。百瀬は、何も損なわれてはいない。大丈夫。
 そう言って、ささくれてしまった柔らかな皮膚、そこにあったはずの千斗の痕をいまいちどなぞるように、優しく口をつけた。
 顔を離し、微笑みながら見下ろすと、また涙の海に沈みかけていた百瀬の瞳がゆっくりと上を向いて、千斗の瞳と出逢い、見つめあって、それから――

 ×     ×     ×

――ログボ! って言ったんだ」
「は?」
「ログインボーナス。ゲームの。Momoの連続ログイン日数は四桁を越えていて、ちょっとした記録になりつつあるんだよ。実況配信の時には、ログインボーナス連続何千何百何十何日目、ってログイン画面を見せるところから毎回始めているらしくて」
「いや、あの」
「慌てて僕のPCからログインしたと思ったら、フレンドのログイン履歴を見てさ。Yukiさんもログインしてないじゃないですか、ほら早くしないと日付が変わっちゃいますよ、って言われて、サブマシンで僕もログインして。結局そのまま、ふたりで朝までゲームをした」
…………
「そんな感じで、なかなか進まないんだよね。ひょっとしたら、はぐらかされているのかもしれない……ねえ、万、どう思う?」
 腕の中で眠る百瀬の髪を撫でつけながら、拗ねたように千斗が言う。よくよく見れば、頬には微かに赤みがさしていた。酔いか、照れか。
 思わず、笑みが零れた。やがてそれは口もとを震わせ、憮然とする千斗の顔と、いとけなく眠る百瀬の顔を交互に眺めながら、声に出しての笑いとなっていく。
 笑いながら、ほんの少しだけ、同情した。千斗にも、百瀬にも。どちらにより同情したかは定かではないが。
 あるいは、憧憬であるのかもしれなかった。運命のように出逢い、運命のように番い、これから長い道を一緒に生きていくであろうふたりへの。

 千斗がフォークであると告げた配信を、百瀬がケーキであると告げた配信を、思い出していた。
 カミングアウトは結末ではない。始まりだ。彼らはこの先、さまざまな波に揉まれ、時に足を取られながら、走っていくのだろう。
 そんな彼らの伴走者として、万理もまた、走っていく。

 古い友人と、新しい友人とともに在る、皆の世界へと。




 ■   〇   ■   〇   ■

――そうですね。正直なところ、戸惑いがまったくなかった、と言ったら嘘になります。自分が味覚を失ったというよりも、味覚の無い世界に来てしまった、という感じでした。僕にとってここは、フォークとして生きる新しい世界です。ようこそ、と迎えてくれたら嬉しいし、僕も、ようこそ、と迎えようと思います。

 そして、新しく始めていきます。この世界を、」

 ■   〇   ■   〇   ■

――というわけで、今回の解説は、リスポーン位置からの立て直しについてでした。そういえばさ、どこかのイケメン社長さんが、自分はフォークだってカミングアウトしたらしいけれど。実はオレも、ケーキだったりします。オレの場合、かなり遅くに診断されたから、人生をリスポーンしたようなものなんだよね。

 また、新しく始めていくよ。この世界で、」

 ■   〇   ■   〇   ■


 ――Period Color.




〈Fin〉