澄ひろえ
2020-07-26 21:56:16
10195文字
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騎士の意味は

ククゼシ2人旅ツイート小説「呪われしゼシカ編」を加筆、修正した物です。
ログ見逃した人どうぞ。最終ページは後書きです。


 ドルマゲスを討伐した次の日の朝。
 ゼシカがいなくなった。
 宿の部屋には鍵が掛かっておらず、慌てて扉を開けるともぬけの殻。
 リーザス村に帰ったのか?と思ったが、トロデーン城秘宝の杖も見当たらない。流石にそれを持って帰らないだろう。
 宿屋の女将に尋ねてみると、北へ行くと言って朝早く旅立ったらしい。
 北って言えば、以前追い返された関所がある方か?
 一体何の為に?
 ・・・ああもう、考えたってしょうがねぇ。
 トロデ王に経緯を説明し、ゼシカの行方を追う事を伝えた。
 「やれやれ、もう少し勝利の美酒に酔いしれていたかったんだがな」
 消えてしまったゼシカと杖。呪いの解けない王様と姫様。問題は山積みだ。
 俺はキラーパンサーを呼び出し、その背に乗って駆けだした。

 北の関所にたどり着いた。
「・・・なんだよこれ」
 強い力で破壊された関所の惨状に俺は愕然とした。微かに焦げた臭いが鼻を突く。
 ここにいた二人組はどうなっちまったんだ?俺は何か痕跡が残っていないか見回してみる。
「ん?これは・・・?」
 俺は壁に貼り付けられ、ヒラヒラと頼りなげに風に揺れるメモを手に取った。
「こいつは・・・」
 メモを読む限り二人組は無事逃げられたらしい。
 いや、そんな事どうでもいい。それより気になる単語が。
「杖を持った・・・女」
 該当する人物は・・・いや、違うよな。
 脳裏に浮かんだ顔を打ち消すように俺は頭を振った。・・・あいつがこんな強引なやり方でここを通るとは思えない。
 真相を確かめるべく、さらに北へ向かった。

 リブルアーチという街に到着した。
 ピリピリとした緊張感が街中を漂っている。
 そして街の人々から聞こえてくる「杖使い女」の単語がますます俺を焦らせる。
 どうやら「杖使い女」は、この街の大呪術師の屋敷へ向かったらしい。
 俺は屋敷の門扉を通り抜けた。屋敷を警護していたであろう衛兵達が倒れている。
 どうやら、息はあるようだが・・・。治療よりこの状況を確認する方が先だ。
 俺は屋敷の中へ入り、思わず足を止めた。
「この、気は・・・」
 あの時と同じだ。オディロ院長が殺された日に感じた、あの禍々しい気。
 その気は2階のある一室から強く発せられている。
 俺は息を飲み、一段ずつ階段を上っていく。
 扉を開こうとして一瞬躊躇った。
 ・・・人違いであって欲しい。一縷の望みに賭けて俺は扉を開いた。
 しかし、望みは一瞬で打ち砕かれた。
 そこに立っていたのは、昨日まで共に戦っていたはずの「仲間」
 青白い肌、浮き出た血管、そして、その手に握られているのは幾多の命を奪ったトロデーンの秘宝の杖。
「・・・あら?うふふ。もう来たの?思ったよりも早かったわね」
 血走った瞳がこちらを見た。
 彼女のノイズの混じった声が頭に響く。
 声が出なかった。
 頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなる。
 よろめかないように、両足に力を込めてかろうじて踏ん張った。
 やがて、不利を悟ったのか「彼女」は姿を消した。
 俺は大きく息を吐いた。それでも、「彼女」の声と顔は頭からこびりついて離れなかった。

 あの、おっさん・・・ハワードが今回のターゲット・・・か。
 いけ好かない態度で、俺の嫌いな人種だったが、だからといって見捨てるわけにもいかない。
 あのおっさんが俺と「彼女」を繋ぐ唯一の接点なのだから。
 俺は、ハワードから依頼され、強力な結界を発動させる為に必要な触媒であるクラン・スピネルを求めて、クランバートル家を尋ねた。
 結論を言うと、求める品はそこには無く、カギを渡すから詳しい話は街を出て、遙か東で塔を造っているライドンと言う男を訪ねてくれという事だった。
「トロデ王と姫様にどう説明するかな・・・」
 平静さを取り戻しつつあった俺は、街から見える海に目をやった。
 黄昏時の空と海は恐ろしいくらい美しく赤く染まっていた。