2024-08-30 22:31:41
9782文字
Public スミイサ
 

Colorful

イサミお誕生日おめでとう! 親戚のおばあちゃんになった気持ちで書きました。あのイサミくんがあんなに大きくなって......(ほろり)
ほとんどオールキャラ小説ですが、根底にふわっとスミイサが香っているかも 本編後平和謎時空です


「アオ三尉!」
 くちくなった腹を撫でおろしながら廊下を歩いていると、遠くから声をかけられてイサミは足を止めた。振り返れば、イサミの担当管制官──ホノカ・スズナギ二尉と、スミスの管制をしていたと言うカレン・オルドレン中尉だ。ホノカはイサミを認めると、たおやかな小走りでイサミの元までやってくる。
「こんにちは、アオ三尉。お呼び止めしてすみません。今、すこしお時間大丈夫ですか?」
「こんにちは、スズナギ二尉。ええ、時間は空いています。どうしましたか、何か問題でも?」
 イサミがやや緊張して向き直ると、ホノカははにかんで口を開いた。
「いえ、本当に私用です。どうか畏まらないでください」
「そう、ですか……?」
 ふっとイサミの肩から力が抜ける。それを認めて、ホノカは後ろ手に持っていたものをイサミに差し出した。
「今日がお誕生日だって聞きました。お誕生日おめでとうございます、アオ三尉」
 それは、小さなフラワーアレンジメントだった。小さな花弁がたくさんついた淡いピンク色の花と大輪のひまわりを中心に、周りをみずみずしい草葉が飾っている。夏らしい爽やかさと可愛らしさがあった。片手でも持てる程度の大きさのそれをしっかり両手で持って、ホノカはイサミに微笑む。
「えっ、あ、ありがとうございます」
 まさかホノカが誕生日を祝ってくれるとは思わず、イサミは狼狽した。ホノカの一歩後ろに立つカレンにも「おめでとう、アオ三尉」と声をかけられ、ぎこちない会釈で返す。
 イサミには花を扱う経験なんてほとんどない。差し出されたそれをおっかなびっくり受け取って、どれくらい力を込めていいかもわからず、微妙な位置で静止させた。
「アレンジメントなので、花瓶に移し替えたりする必要はありません。そのままお部屋に飾ってあげてください」
「はい、わかりました……スズナギ二尉が祝ってくださるとは思わなくて、その、本当にありがとうございます」
 イサミは照れくさそうに目を逸らし、また小さな声で礼を言った。今度は酒精のせいでなく、頬に熱が集まるのを感じる。普段からよく関わるヒビキやミユとはまた違った気恥ずかしさがあった。自分には似合わない可愛らしい花を持っていることも理由の一つだったかもしれない。
 ホノカは笑顔を作って朗らかに答えた。
「わたしはイ……アオ三尉の担当管制官ですから。お誕生日くらい祝わせてください」
 カレンがぽんとホノカの肩を叩く。その仕草の意味は、イサミにはよくわからなかった。
「ああ、そんな……本当に、嬉しいです。大事にしますね」
「そうしてあげて。私からはこれを。大したものじゃなくて申し訳ないけれど」
 カレンはポケットから取り出した小さな菓子のようなものを、アレンジメントで手の塞がったイサミの胸ポケットに差し込んだ。
「オルドレン……中尉、も。ありがとうございます」
 ホノカとは仕事で付き合いがあるが、カレンとはあのバーの帰り道で少し話した程度だ。あのときは酔っていたとはいえ、スミスに対して理不尽な拗ね方をしていた記憶はあるし、どうも決まりが悪い。イサミはなんとなく目を合わせにくい気持ちで、それでも改めて礼を言った。
「いいのよ。じゃあ私たちはこれで。良い一日を過ごしてね」
「またお会いしましょう、アオ三尉。素敵な日にしてくださいね!」
 カレンに背を押されるようにしてホノカは去っていった。イサミは小さく頭を下げて二人を見送る。
「素敵な、日……
 二人の背中がすっかり見えなくなってしまってから、イサミはぽそりとつぶやいた。
 誕生日を特別な日だと思うのなんて、いったいいつ以来だろうか。大人になると誕生日というものは平日の一つでしかなくて、自分の年齢さえ曖昧だ。
 小学生の時分なんかはそれなりに楽しみにしていた気もするが、夏休みが終わってしまう悲しさと表裏一体であった気もする。
 ただの平日、には似つかわしくないアレンジメントに視線を落として、イサミは少し考え込んだ。