Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
沁月
Public
ウ教×ハ♀ 相思相愛 読み切り
ひととせの宴の後に
MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
ウ♀視点。
里と王国との交流が再開して1周年。
その祝宴と舞踏会が開かれたお話。
1
2
3
4
5
6
不意に廊下に灯った気配。
その主はそれを隠そうとしている様子なので、戦う力を持った
強者
ツワモノ
がいるに違いない。
(この感じ、懐かしいな
……
もしかして
……
?)
自身を必死に隠そうとするその気配、俺が初めて感じる気配ではなかった。
予想を確信に変えるべくカウチソファから立ち上がって、適当に緊張しながら、ドアをそっと、少しだけ引き開き、廊下の様子を確認する。
少しだけ開いたドアの、細長く開けた視界で揺れる、白銀の髪と白い衣装。
口元を普段の俺のように鎖帷子で覆う彼を、俺はとてもよく知っていた。
「──カガミ!? なあ、カガミだろう!?」
思わず声を張り上げながら俺が大きくドアを開くと、呆れたようにため息をつきながら、ゆらりと俺の前に立った、白の人影。
その人影の正体は、俺が気配で察し、呼びかけた通りの人だった。
俺や愛弟子と同じ里の出身であり、俺と修行時代を共にした旧知の友、カガミ。
里に残ってハンターとなり教官となる道を選んだ俺と違って、己の力を試すために里を離れ、王国の諜報部隊長にまで登り詰めた強者だ。
修行時代から抜群のセンスと才能を発揮していたので、王国の人事担当は人を見る目がある。
先ほどの祝宴に居たことに気付いてはいたが、こうしてちゃんと顔を合わせることはできていない。
そもそも会うこと自体、何年ぶりだろうか。
俺の笑顔に、カガミは「ふっ」と鼻を鳴らした。
この感じ、とても懐かしい。
久しぶりだけれど、久しぶりのような気は全くしない。
「
……
気付かれるとは思ったが。相変わらずだな、ウツシ」
「ははは、オマエもな! どうしたんだ? オマエからこんな風に来てくれるなんて! 時間があるなら入れよ、少し話そう」
「いや、時間はない。俺ではなく、オマエに」
「え? な、何言ってんだ、 一体どういう
……
」
どういうことだよ、と問おうとした俺だが、反射的に言葉を止める。
俺の目の前にカガミが差し出して、かさ、と音を立てて揺れた、小さな長方形に折りたたまれた紙の存在感の影響だった。
「
……
カガミ? 何だよ、これ
……
?」
「オマエに届けてほしいと預かった」
「誰から?」
「読めば分かる」
急かすように紙を突き出してくるので、俺は慌てて両手でそれを受け取る。
丁寧に折り畳まれた紙は少々厚みのある、とても質の良いもの。
(何だろう? カガミに預けるなんて、王国の方かな
……
?)
頭の中に疑問符を浮かべたまま、俺がゆっくり紙を開くと、中に並んでいたのは、あまりにも見慣れた可愛らしい文字。
『ウツシ教官。お見せしたいものと、お渡ししたいものがあります。祝宴のあった広間にて、お待ちしております』
どきん、と俺の胸が素直な喜びに、大きく震えた。
この字は間違いなく、最愛の人の字。
線の流れや、跳ね方の微かな震えから察するに、それなりに緊張して書いてくれたようだ。
(──愛弟子
……
!? もしかしたら愛弟子も、俺と同じ気持ち
……
!?)
せっかくの、王国の王城。
祝宴の開かれた大広間でもっとゆっくり語らい、そしてもしも叶うなら、共に踊ることができたらと。
ようやく前向きに整理がつきかけてはいたが、複雑に
蠢
うごめ
き渦巻いていた俺の、彼女の師として、恋人としての感情。
それはまるで温泉に浸かった後のように温かくなりながら、彼女への感謝と愛しさで溢れて晴れ渡っていった。
(愛弟子も! 改めて俺に、会いたいって! 思ってくれてるっ!)
我ながら本当に単純で、もういっそ開き直って笑ってしまいそうになる。
心がほっこりする中、そこまで考えてすぐ、俺はその簡素さもまた格別に可愛い招待状から、目の前にいるカガミに視線を移した。
その時の俺の表情は、少々の不満を素直に表に出して唇が尖っていることが自覚できた。
久しぶりの再会ではあったが、同郷であり旧知の友である彼に対してだからこそ
表
おもて
に出せる心と表情だ。
「い、いつ預かったんだよ、この手紙! ま、愛弟子に会ったのか?」
「ああ。彼女が女王陛下と謁見後にな。謁見の間に続く廊下を気配を消して警護していた俺に、気が付いたんだ。さすがはオマエの『愛弟子』になっただけはある
……
しかも俺の事を覚えてくれていた」
当時を思い出しながらか、カガミが嬉しそうに「ふっ」と鼻を鳴らす。
変化を確認するのが難しい表情の目尻が、微かに下がっていた。
俺と同じ黒の鎖帷子で覆い隠れた口元も、きっと笑っているのだろう。
「気配を消していた俺に気付くなり『カガミにい』と駆け寄って来た。少し話して
……
その時に、預かったものだ」
「カガミにい、か。ふふふ、久しぶりにそう呼ばれて嬉しかったろう?」
「!
……
チッ、からかうな」
相手が俺だからこその舌打ちの後、カガミが分かりやすく眉を
顰
ひそ
める。
俺とカガミとまだ幼い彼女、3人で共に過ごした記憶は、俺の中で鮮やかに咲く、大切な枯れない花。
カガミにとっても、きっと同じだろう。
それは彼が愛弟子が自分のことを『覚えて"くれて"いた』という言葉を使ったことからも窺い知ることができた。
何となく、それが俺にはとても嬉しくて、自然と表情に笑みが零れる。
俺の眼差しを浴びながら、カガミは「おい、そんなことより」と低く、ため息混じりに呟いて。
「さっさとその乱れただらしねえ服装を整えて、広間に行け。あの子はお前が来るのを待ってるぞ」
「ええっ!? そ、そうなのか!? さ、先にそれを教えてくれよ!」
ほっこりしていたはずの俺の心は、どきん、と大きく震え、焦りで冷えていく。
カガミが楽しげに「知るか」と呟いた声を聞きつつ、扉を閉めるのも忘れ、俺はカガミから受け取った『招待状』をコートの胸ポケットに突っ込み、慌てて部屋の中の姿見の前に立った。
愛する人を長時間待たせるなんて、絶対に嫌だ。
指がもつれそうになりながら、緩んだシャツのボタンを慌てて留め直し、「ぐえ」と声が漏れそうになるほどリボンタイを締め直し、コートを着直して、再びカガミの前に戻る。
口元を覆う黒布を忘れ、妙に顔周りが涼しくて仕方ないが、今さら部屋に戻る時間も惜しい。
そもそもこの状況で会う相手が愛弟子なら、口元を覆う必要はないだろう。
「カガミ! こ、こんな感じでいいよな!? 俺、急いで行ってくるっ!」
「声がデカい。
煩
うるさ
くするな、ここは王城だぞ」
「ははは、ごめんごめん! 大丈夫、分かってる! ありがとう!」
俺の声量に大した変化が見られなかったからか、カガミは「チッ」と分かりやすく、また舌打ちしていた。
昔もよくそんなことがあったな、と追憶が顔を出しかける。
今は急いでいるから、それに
耽
ふけ
るのは後だ。
可愛い愛弟子が、俺の最愛の人が待っている。
あからさまに怪訝な顔をしているカガミへ軽く頭を下げてから、俺は彼の横を抜ける形で廊下を駆け出した、のだが、その瞬間。
「
……
おい、ウツシ!」
「うんっ!?」
煩くするな、と言った者の声とは思えないほどの声量が、俺の背後から響く。
共に過ごした修行時代でもあまり聞いたことない声量に、珍しいなと思いながらその場で足を止め、振り返った。
すると、俺の視界に、白く丸い塊が飛んで来ているのが見えて。
「うわ
……
ッ!?」
反射的に眼前で手を
翳
かざ
して受け取ると、白い塊の正体は、白手袋。
スラックスのポケットの中に突っ込んだと思っていたが、走り出した時に落ちたらしい。
それをカガミが拾い上げて、コントロール抜群に丸めて投げてくれたようだ。昔もこんなことがあったような気がして、また、思い出への笑顔が口元に浮かぶ。
「全く、オマエは本当に変わらねえな。身だしなみは落ち着いて整えろ!」
呆れたように低く叫んだカガミの声と口調まで、とても懐かしい。
まるで俺を落ち着かせながら、鼓舞してくれるようなものに聞こえる。
俺は受け取れるように投げてくれた白手袋を身に着けてから、離れていた時の流れを感じさせない竹馬の友に向けて、大きく手を振る。
「サンキュ、カガミ! なあ、たまには里帰りしろよ、あの子も喜ぶ! 里で、また3人で過ごそう!」
「フッ、考えておいてやる! 今はさっさと行け! あの子が待っているのはオマエだ!」
「考えておけよ! 絶対だぞ! 絶対、絶対に考えておけよ! またな、カガミ!」
数年ぶりに久しぶりに会えた友。
不変の繋がりを感じられたことが素直に嬉しくて、背を向けるのが何となく名残惜しいが、愛する人を待たせるわけにはいかない。
招待状の入った胸ポケットに軽く手を添えてから、俺は彼女の待つ広間へと、人にぶつからないよう全力で廊下を走った。
先ほど通った道なのに、とても、とても長く感じる。
走っている間、俺の中で、鎮まりかけていた愛する人への想いが燃え上がる。
王国の女王陛下や騎士の方々からその功績を称えられ、開かれた祝宴では人々に憧れの眼差しを向けられ囲まれるほど、頑張ってきた、キミの手を取りたい。
キミの手を取って、キミの目を見て。
心からの言葉を、本当に頑張ったね、と、キミは俺の誇りだと、何度でも伝えたい。
この祝宴が開かれたのは、キミが里と王国を結び、全ての災厄を祓ってくれたからだと。
握った武器の、背負ったものの重みに負けず、天高く燃え上がるキミの炎の眩しさが、全ての人を強く優しく鼓舞したのだと。
そして、叶うなら、そんなキミの手を取ったまま、踊りたい。
俺はずっと昔から、幼い頃からキミの手を取り、キミを導き、そして、キミを見守ってきた。
どれほどの時が流れようと、何があろうと、俺はキミに手を取り続けたい。
広間へ続く、王国の紋章が刻まれた両開きの巨大な白い扉が見えて、俺はその前で立ち止まる。
「ふーーっ
……
!」
大きく、息を吐き出して。
片手で髪の乱れを直し、両手でコートの裾を伸ばしてから、リボンタイの傾きを直して。
姿勢を正し、緊張したようにとくとくと高鳴る胸を鎮めるため、もう1度、深く息を吐き出して。
そして最後に、片手で胸ポケットに触れた。
愛弟子からの招待状が入ったそこは、彼女の手に触れた時のように、ほんのり温かく感じられて、かさ、と微かに音を立てる。
その音は、俺の心を甘く震わせた。
(
……
愛弟子。
……
俺の愛する人、愛しい人よ)
キミを想うと、足元がうずうずして、力が湧いてくる。
今すぐキミを抱きしめたくて、走り出したくなる。
俺には、キミがこの世で1番。
誰よりも、何よりも、心の底から愛しているから。
どれほどの時が経とうとも、この想いは、決して変わらないから。
(
……
愛弟子
……
!)
胸の奥で、愛しい人にいつも通り、静かに呼びかけながら、俺は前を見据え、大きく1歩を踏み出した。
愛する人への想いと共に、俺は自分の両手を扉に添えると、迷いなくそれを強く押し込んだ。
1
2
3
4
5
6
@acadine
広告非表示プランのご案内