ひととせの宴の後に

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
ウ♀視点。

里と王国との交流が再開して1周年。
その祝宴と舞踏会が開かれたお話。



里と王国の友好1周年を記念して開かれた祝宴、そして舞踏会は、和やかに幕を下ろした。

例え夜が更け闇が深まろうと、そこに忍び寄る不穏は一切なく、平和そのものの穏やかな時間。

その時間、結局、俺は愛弟子と踊ることは叶わなかった。
ロンディーネ殿から踊りのスパルタ指導を受けただけに終わってしまった。

愛弟子は英雄『猛き炎』として、常に人に囲まれていて、彼女も常に笑顔で人に応え、英雄として振舞っていて。
恋人としてはおろか、師としても、一緒に踊るどころか、俺が入れるような余地はどこにもなかった。

これは素直に言えば物凄く、物凄く寂しい。

……はあ……。まあ、仕方ない、のか……

王城に用意してもらった広い部屋の中、ロイヤルブルーのカウチソファに深く腰掛け、背を預け。

高い天井を見上げてから、また「はあ……」と息を吐き、俺は気怠けだるく口元を覆っていた黒布を外して、適当にカウチソファの隅に置いてから、両手に着けていた白手袋を少々お行儀悪く口を使って外し、スラックスのポケットに突っ込んだ。

(……愛弟子。せっかくの王国での宴だったし、もう少しゆっくり一緒に過ごしたかったけど……)

愛弟子は祝宴の後、フィオレーネさんとバハリさん、チッチェ姫に連れられて広間を後にしてしまった。

救国の英雄として多忙なのだろう。

師匠として鼻は高いが、やはり抑えきれない寂寥感せきりょうかんに、とうとう次第に胸が締め付けられてくる。

……はあ。……苦しい、肩こりそう」

不思議と、ダンスの指導を受けていた時よりも苦しくて、衣装が窮屈なように感じた。

座ったまま、俺は首元のリボンタイとシャツのボタンを片手で力任せに緩める。

気道が広くなった気がして「ふーっ」と、またカウチソファに背を預けて天井を見上げた。

……愛弟子。……さっきの、見られちゃったかもなぁ……

着慣れない衣装を纏い、ドレス姿のロンディーネさんに引っ張られながら、ぎこちない動きで踊る俺の姿は、傍から見ればさぞ情けなく、滑稽だったことだろう。

踊っていた場所から愛弟子の立っていたバルコニーは見えたので、彼女が俺の姿を目撃した可能性は非常に高い。

「うううっ……! やだなぁ、かっこ悪いぃ……!」

我ながら高めに上擦った、女々しい声が零れ出てしまった。

カウチソファに背を預け、高い天井を見上げたまま、思わず片手で顔を覆う。

世間に情けない踊りの醜態を晒すことよりも、最愛の人にあれを見られたかもしれないという恥じらいと絶望感は凄まじく重く、熱く、心にどんよりと影を落とした。

希望にも似た予定としては、里と異なる王国の衣装を纏った愛する人と、王城の広間で一時、手を取り合って踊りながら、極上の時間を過ごせたらと思っていた。

だが、やはり思い通りにはいかない。

(……そういえば……どうして愛弟子は、ドレスじゃなかったのかな……?)

ふと、何となく灯った疑問。

幼い頃の彼女は、大きな花びらが舞うような、ひらひらの衣装に憧れていた。

そしてよく「いつか、おひめさまみたいな、きらきらのおようふくがきたいな!」なんて言っていた。
本当に可愛い、全ての疲れが霧散していくような思い出。

だが、舞踏会が開催されている広間のバルコニーで見かけた愛する人は、英雄と呼ばれし我が愛弟子はあまりにも凛々しく、美しくて。

ドレスの女性に囲まれて歓声を浴びるその姿はお姫様と言うより、王子様のように見えた。

(……おひめさま、か。ふふ……懐かしいなあ)

高い高い天井を見つめていると、意識が当時に吸い寄せられそうになる。

あの時は、思ってもみなかった。

瞳をきらきらさせながら「おひめさまのおようふく」なんて無垢な願いを、少女の永遠の夢を語っていたキミ。

そんなキミに、俺はハンターとしての狩猟技術の全てを伝え、キミと師弟関係となり、やがてキミは英雄となった。

そして、将来を誓い、愛し合う恋人同士になれるなんて。

……本当に……成長したんだね、愛弟子……

天井に向けて零すように呟いた俺の口角は、無意識の内に上がっていた。

凛と美しく成長し、人々に囲まれ微笑む『王子様』のような英雄である愛弟子の姿を見ることができたのだ。

これはこれで、良かった。

ただ、恋人同士として少々物足りない結果であっただけで、そこまで落胆する必要もない。

またいつか、きっと、愛する彼女と踊れる時は来るだろう。

その時は、色がおそろいの衣装でも選ぼうか。

思考がそんな不確定の未来に向けて走り始めた頃だ。

「──!」

ふと、俺は部屋の扉の外、廊下に人の気配を感じた。

@acadine