ひととせの宴の後に

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
ウ♀視点。

里と王国との交流が再開して1周年。
その祝宴と舞踏会が開かれたお話。

誰もが半信半疑であったが、実在していた王国の深淵の悪魔、そして原初の騎士。

2つの大いなる災厄が、勇敢なる王国騎士たちと、我が愛弟子であり想いを通じ合わせた愛する人、カムラの里の英雄『猛き炎』によって討ち果たされ、早1年が経とうとしている。

それは、百竜夜行の影響で一時途絶えかけていた、里と王国の友好関係が改めて築かれ始めてから1年という、記念すべき日が訪れるということも意味していた。

──そして、今日。

里と王国の友好1周年記念の祝宴が王都、それも王城にて開催されることとなり、宴には王国に大いに貢献した我が愛弟子『猛き炎』のみならず、里の人間のほとんどが招待された。

しかも、全員分に王城に宿泊用の部屋を、そしてその部屋に王国式の衣装まで用意されていると言う徹底ぶり。

王城には俺の部屋もあった。英雄の師であるからと誰かが気を利かせてくれたのか、愛弟子に用意された部屋と同じ階だ。

広々とした部屋に用意された、オパールグリーンを基調とした絢爛けんらんなフルドレスの衣装。

大きな姿見の前で白シャツとフルドレスのコート袖を通し、普段のような鎖帷子くさりかたびらではないダークグレーの布で口元を覆い、慣れない白手袋などはめて、衣装のリボンが緩んでいないかを確かめた。

(いつか……愛弟子と、夫婦めおとになるなら、こんな服も着るのかな……?)

少しだけくすぐったくて「ふふ」と笑みが零れた。

俺と愛弟子は、将来を誓い合った仲。

いずれ祝言しゅうげんを挙げるが、もちろんそれは里で行うとして。

せめて、せっかく王国との友好関係も築けたのだから、2人で一緒に王国の衣装を着て写真くらい撮れないものかと考えてしまう。

美しいであろう王国の花嫁衣裳に身を包んだ彼女の隣に立つのは、こんな格好をした自分なのだろうかと。
 
……あーっ、もう……!気が早いんだよ、俺はっ……
 
姿見の前で口角がほころびそうになって、俺は思わず何度も首を横に振った。

今は、そんなことを考えている場合じゃない。

頭では分かっているのに、油断するとつい愛する人のことを、愛弟子のことを考えてしまう。

彼女もきっと、王国から用意された衣装を纏っていることだろう。
その姿がどんなに美しく輝いているのか、考えるだけで心は楽しくときめいた。

少々浮足立ちながら、俺は、軽やかに部屋を出て。

床に敷かれた深紅の絨毯が足裏に心地良い、ジンオウガも余裕で通れるであろう広い廊下を通り抜け、祝宴と舞踏会が開かれている王城の大広間にやって来た。

──までは、良かった。
 
「ま、愛弟子ー……? ど、どこだいー……?」

到着してからすぐ、まるで迷子になったような心地で、無限に広がっているのかと錯覚しかけた圧巻の大広間の中、ひしめき合う人と人の間を縫うように歩く。

探しているのはもちろん我が愛弟子、俺の最愛の人だが、返事はないし見つからない。
 
軽く周囲を見回せば、広間の各所には豪華な料理や飲み物のグラスが並んだ丸テーブル。

その周りにもたくさんの人が居て、ご馳走に舌鼓したつづみを打っているようだ。

優雅に奏でられる宮廷音楽の狭間で、ゆったりと響くバンドネオンの音色は王国の研究員、バハリさんの演奏のようで、器用な人だと感心してしまう。

そんな広間の中央では、音楽に合わせて王国騎士フィオレーネさんと、エルガドでは受付嬢のチッチェ姫が楽しそうに手を取り合い、まるで清流のような優美な踊りを披露していた。
 
(凄いな……ステップは速めなのにゆったりしてて、無駄な動きはないし、慣れてるなぁ。とてもあんな風には踊れないよ……
 
教官という職業病とも言うべきかもしれないが、俺はつい、踊っている2人の動きを分析するように、じっと眺めてしまう。

その報いと言うべきだろうか、普段なら気付けるような広間内の段差につまずきそうになって「わっ」と、間抜けな声を出してしまった。

だが、広間にいるほとんどの人が、広間の中央で踊る騎士と姫の方を向いて見惚みとれているので、ほっと息を吐く。

日頃の行いの影響か、俺が多少不審な動きをしたり賑やかだったりしたところで、気に留める人はあまり居ないらしい。
嬉しいような、やや複雑な気持ちだが、今は幸運であると思おう。

俺は改めて、周囲を見回した。

外の夜闇を感じさせない舞踏会場。

里、王国問わず見慣れた顔が多いものの、とにかく人が多い。

しかも、その全員の衣装が里の見慣れたものとは全く異なる、西洋の衣装。
ふんわりと煌めくドレスに、華やかな髪飾り。光沢感のあるコートやジャケット。

里の皆が着る衣装の制作は、恐らく愛弟子が密かに協力していたのだろうとしか思えないほど、色合いや雰囲気が着る人間のことを熟知しているように感じる。

それでも、見慣れない衣装を着た人々のひしめき合う景色そのものは、俺の目にとても眩しく映った。

この中から愛弟子の気配を見つけることは、森の中から1本だけ木を見つけようとしているようなもので非常に難しい。

不可能ではないので普段の俺ならできる、はずだが、俺は今『普段』通りではないようで。

(うぅん……! 着慣れないもの着てるからか、この景色のせいか。俺もまだまだだぁ……

以前から俺は何度か、里長より任を受け、里長に代わる里の使者として王都に、しかもこの王城にも来たことがあった。

初めて来る場所ではないのに、何故か、心境としては使者として訪れた時よりもよほど緊張している自覚がある。

この衣装と、平和そのもののような穏やかな祝意に満ちた、高貴な空間の力だろうか。

不自然に全身に力が入っていて、自分が乱れているような気がする。

落ち着こうとして「ふーっ……」と息を吐いた、その刹那。
 
「やあ、ウツシ教官! 衣装がとてもよく似合っているな!」
「あ、ああ、これはロンディーネ殿」

突然声をかけられて、少々驚きつつ。
姿勢を正しながら「ありがとうございます」と笑顔で応えるも、俺は少し驚いていた。

里で見慣れているはずのロンディーネ殿も、普段の凛と勇壮な騎士正装ではない。
祝宴に合わせた衣装で、ビリジアンカラーのドレスに、ふわりと透けているブラックのシースルーショールを合わせ、ブローチを使って胸元で留めている。

彼女の姉のフィオレーネさんが色合いこそ違ったが、今俺が着ているものとよく似たコートに、かっちりとしたスラックスを履いていたので、てっきりロンディーネ殿もそうかと思っていた。

その予想は、見事に大はずれだ。 

「ロンディーネ殿、とても素敵ですね! 美しいドレスもとてもよくお似合いで!」
「はっはっは、ありがとう! 貴殿のそういう言葉は私ではなく、『猛き炎』が受け取るべきと思うが……あの様子では、なかなか難しいな」
「えっ」

愛弟子が何処にいるのか、知っている様子のロンディーネ殿の視線に注目する。

彼女の視線は広間の外、バルコニーの方に向いたので俺も目で後を追ってみると。

@acadine