万感の筆が描くもの

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
ハ♀視点。最後のページのみウ視点。

狩猟の他にやりたいことを見つけようと、絵を描くことを始めたハ♀のお話。



狩猟の合間に筆を取る愛弟子は、とても楽しげで、目を輝かせて。
良い気晴らしなんです、なんて言うようになってくれた。

愛する人の心の中、ひどい大雨が過ぎ去ったことに、心の底から安堵した。

「邪魔するぞ、ウツシ!」

俺の家の土間に響く、おごそかな貫禄ある低声。

俺は慌てて框に立って出迎え、深く一礼する。

「これは里長! ご足労、痛み入ります!」
「構わん、そもそも家で会うことを指定したのはオレで……ムッ?」

言葉を止めた里長の視線が、畳の間の壁に飾られていた、里の夜景を描いた絵に留まる。

「ほう! これは良き絵だ! ウツシ、オマエが描いたのか?」
「いえ! これは我が愛弟子の絵です!」
「何と、そうであったか! 近くに寄って見ても構わんか?」
「もちろんです! どうぞ!」

律儀に「邪魔するぞ!」と告げてから、里長は框を上がって畳の間に向かい、真正面から絵を見つめられた。

……実に優しい絵だ。この里を愛する心を感じる。だが、優しいだけではない力強さもあるな。『猛き炎』の描いた絵と聞き納得だ! ガッハッハ!」

里長の目にも留まった、俺の最愛の愛弟子の絵。
苦悩を知り、悲しみを知り、痛みを知り、それを乗り越え、慈愛と感謝の想いに満ちた、優しい絵。
そして、それを守り続けようとする決意を感じる、師であり恋人である俺から見ても、素晴らしい絵だ。

彼女は『もう少しうまくなったら、もう一度描きたいです』なんて言っていたので、狩猟だけでなく、芸術面でも、これからもますます楽しみでならない。

……里長。実はちょうど、この絵を描いた彼女とのことで、お話があるのです」
「ウム、申してみよ」

悩み苦しみ涙する彼女を見て、俺は改めて想った。

ずっと、ずっと、傍にいたいと。
つらい時も苦しい時も、傍にいて、抱きしめて。
落ち着くまで、ずっと頭を撫でて、大丈夫だよ、と伝えたい。

喜び微笑む彼女の傍で、共に喜び、共に笑って、やったね、良かったね、と伝えたい。

俺は表情を引き締め、姿勢を正し、里長に向き直る。
この心を、この想いを、ありったけ伝えるために。

「里長。──俺は生涯を賭け、身命をして、あの子を守ります。俺は、あの子を、心から愛しています。どうか……

──どうか

あの子を妻に迎えることを、お許しください。

あの子の描いた絵の前で、絵に見守られながら、俺は、はっきりとそう告げる。

少しして、里長の朗らかな笑い声が高らかに響き渡った。

その声は、きっと、キミの描いた絵の中。
静かで、優しく美しい夜の里の中にも木霊こだましたことだろう。

そんな時だった。

キミの「ウツシ教官ー! モデルになってくれませんかー!」なんて。

俺にとっての福音ふくいんのような、そんな声がしたのは。


@acadine