万感の筆が描くもの

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
ハ♀視点。最後のページのみウ視点。

狩猟の他にやりたいことを見つけようと、絵を描くことを始めたハ♀のお話。



次の日、狩猟を終えた私は偶然、ゴコク様とミノトさんが絵の話をして、お互いの絵を見せ合っている姿を見た。

ハナモリさんやアヤメさん、オテマエさんやドンさんドコさんも集まって、感嘆の声を上げている。

私も見せてもらった時、衝撃が走った。

お二人とも、私が絵を練習している姿を見て、自分も描きたくなったから描いてみたとのことで。

偶然だと思うけれど、同じ景色を描いていた。

ゴコク様の描いた景色は、私の描いたものなど足元にも及ばない、圧倒的な個性と色彩に満ちて、とても美しかった。

ミノトさんの描いた景色は、とても温かさに満ちていて、独創的な色彩と曲線の中には、ミノトさんしか描けない優しさがあった。

…………!」

あまりにも凄いものを見て、私は、思わず言葉を失ってしまった。

何と言ったか覚えてないけれど、でも、凄い、ということは伝えられたと思う。

帰宅して、私は自分の絵を見た。

……なに、これ……!!」

猛烈に、心が痛んだ。


──恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!


胸を、思考をおおい尽くすのは、どろりと濁ったそんな感情ばかりで、苦しくて。気付いたら私は、強くこぶしを握っていた。

昨日までは、それなりに満足できていたのに。

私の大切な景色への想いを込めて、つたないなりに頑張れたと思ったのに。

(時間をかけて……こんな……ごみみたいな……!)

かけてきた練習時間が違う。
実力が違う。
才能が違う。

そんなことは分かってるつもりだった。

私は、所詮、趣味。

自分のために描いて、たまに好きな人に見てもらって、いつか好きな人のために気持ちを込めて描いて、楽しめれば良いと思っていたはずだった。


なのに、どうして。


どうして今、こんなに苦しいのでしょう。

学んで、練習して、中途半端に知識がついてしまったからでしょうか。
学べば学ぶほど、壁の高さを思い知ってしまったからでしょうか。

こんな不格好で稚拙ちせつな絵で満足していた自分が、恥ずかしくて仕方なかった。

まるで、自分が自分じゃないようで。

心がきりきりと痛んで、引きちぎれそうで、その痛みから逃れるように私の体は動いていた。

まるで何かに操られているように、頭がぼんやりして、でも、胸の痛みだけは強烈に自覚できていて。

私のこの里への想いは、こんな絵で満足できるようなものだったのでしょうか。

脳裏にちらつく、圧倒的な技術の色彩と、独創的な技法。
あんな風に表現ができるのが羨ましかった。

ないものねだりをしているのは分かっているのに止まらない。

私が目指していたのは?

私が描きたかったものは?

ふと、懐かしくなった。
ハンターになるための修行を続けていた時も、こんな気持ちになったことがあった。

負けずに少しずつ継続していれば、必ず、目標に近付ける。

分かっているのに、どうして、今は。
あの時よりも喉がつかえて、胸が苦しい気がする。

私は、こんなものを大好きなあなたに見せて、褒め言葉の乞食こじきをしようとしていたのですね。

情けなくて、情けなくて、仕方がなくて。

(こんな、こんなごみなんかを!!)

私は、気付いたら、昨日できたばかりの絵を破り捨てていた。

一度、大きく縦に引き裂いて。

何度も何度も、細かく、ちぎって。

何が描いてあるのか分からなくなるほど、本当の紙くずになるように、執念のように千切った。

今まで練習で描いてきたものも、全部、全部、一枚残らず破って、千切って。

気が付けば、私は泣いていた。

なくなってしまえば、とても呆気あっけなくて。

誰に惜しまれることもないのに、どうして大事にあんなごみを取っておいたのか、私は泣きながら笑いが止まらない。

その日は『ごみ』を片付ける気力もなく、紙くずの中で、私は眠りについた。

@acadine